町田は躍進の可能性も!? 柏や湘南は意地を見せたい キャンプ密着の識者3人によるJ1展望座談会【後編】

 Jリーグを日々追いかけ、このオフも精力的にキャンプ取材を行った3人の識者、河治良幸氏、飯尾篤史氏、舩木渉氏による、2024年シーズンのJ1リーグ展望座談会。AクラスとBクラスについて評価してもらった前編に続き、後編では残りのBクラスとCクラスについて、各チームの戦力を分析していただく。(文中敬称略/座談会は2月19日に実施)
FC東京は今季こそ“万年中位”の雰囲気を払拭したい
●Aクラス予想(※並び順は北から)
河治:鹿島、浦和、川崎F、横浜FM、神戸、広島
飯尾:浦和、川崎F、名古屋、C大阪、神戸、広島
舩木:浦和、川崎F、横浜FM、G大阪、神戸、広島

●Bクラス予想(※並び順は北から)
河治:札幌、FC東京、町田、新潟、名古屋、C大阪、福岡、鳥栖
飯尾:鹿島、FC東京、町田、横浜FM、磐田、G大阪、福岡、鳥栖
舩木、鹿島、FC東京、町田、新潟、名古屋、C大阪、福岡、鳥栖

※詳しくは前編をご確認ください。

──続いて皆さんがBクラスに選んだチームを北から順に見ていきましょう。まずはFC東京です。

河治 面白い補強をしているけど、ポイントは中盤がどういう構成になるのかですね。ピーター・クラモフスキー監督の思考と選手のバランスがどうなっていくのか。例えば、松木玖生が本当に最初からシーズン戦うつもりでいたのか、移籍先を探りながらも残留したのか、夏の海外移籍を見越しているのか。高宇洋(←アルビレックス新潟)を獲得した経緯と思惑は見えないですけど、中盤は選手がそろっているので、そこをどう整理して戦力化していくのか気になっています。最終ラインとか前線のディエゴ・オリヴェイラや右の仲川輝人は安定しているので、そこにどんなプラスを加えていくか。何か新しいものをプラスしていかないと、Aクラス=6位以内には入れない。まずは昨年と同じような評価をしておいて、どんな驚きがあるかを楽しみにしたい感じですね。

飯尾 僕も補強で言えば、FC東京はAクラスだと思います。遠藤渓太(←ブラウンシュヴァイク)、荒木遼太郎(←鹿島アントラーズ)、小柏剛(北海道コンサドーレ札幌)、高宇洋と、中盤から前線にかけてのタレントをピンポイントでしっかり補強している。その一方で、波多野豪(←V・ファーレン長崎)や品田愛斗(←ヴァンフォーレ甲府)、安田虎士朗(←栃木SC)といったアカデミー出身で、武者修行に出していた選手たちも復帰した。「満を持して」なのかどうかは分からないですけど、シーズンオフの動きはすごく理想的だったと思います。ただ、FC東京はこれまでも補強や戦力と順位が見合わないことが少なくないので。

──そこをもう少し言語化してもらえますか?

飯尾 “万年中位”の雰囲気みたいなものを払拭できるのか。クラモフスキー監督は清水エスパルス時代も、モンテディオ山形時代も結果を出せていないし、FC東京の監督には昨シーズン途中に就任しましたけど、そこまでの色を出せたわけでもない。それに経営体制が変わって、昔ながらのFC東京らしさが薄れてきている気もします。エンブレム変更においてもファン・サポーターからの支持を得られなかった印象ですし。優勝するチームが醸し出すピッチ外での一体感のようなものがちょっと感じられない。長友佑都とか、松木とか、素晴らしいメンタリティの選手たちがいるのに、もったいないなと感じます。

河治 確かにそれはあるよね(苦笑)。言葉にしにくいけど、どこかうまくいかない空気が流れている。

舩木 この流れで僕がしゃべるんですか?(苦笑) 僕はピーターさんをマリノスのコーチ時代に見ていますけど、正直、勝たせる監督ではない印象ですね。勝負どころで大きな決断をするとか、未来を信じてブレずに貫き続けるとか、そういうタイプじゃない。ちょっとうまくいかないと日和って何かを変えて、それで悪循環になったりする傾向がある。今年に関しては選手層の拡充で選択肢が増えたぶん、できることも増えると思うんです。ただ重要なポジション……例えば、ディエゴ・オリヴェイラは依然として代えがきかなくて、もしケガなどで不在になったとき、どう対応するのか読めない。

本気でタイトルを狙おうとするとき、その味を知っている仲川輝人はチームに厳しく発破を掛けられるタイプですが、これまで“なあなあ”にしてきた部分をチームとしてしっかり改善して、高みを目指すために団結できるかというと、ちょっと疑問符が付くんですよね。クラブとしてもチームとしても優勝争いをした経験は19年シーズンくらいと少ないですし、一方で経験豊富な選手が多くいるがゆえの難しさもある。タイトルを掴み取るために今まで大事にしてきたものを変える決断ができるかという部分が分からなかったので、中位に置いています。

町田はサプライズを起こす可能性あり!?

──同じく全員が中位にピックアップしたのが、J1昇格初年度のFC町田ゼルビアです。

飯尾 町田は今シーズンの“台風の目”というか、サプライズを起こすかもしれないと思っています。黒田剛監督のサッカーって、とにかく徹底しているじゃないですか。インテンシティも、戦うところも、ちょっといやらしいところも含めて(笑)。そこにプラスして、昌子源(←鹿島)、イブラヒム・ドレシェヴィッチ(←ファティ・カラギュムリュク)、ナ・サンホ(←FCソウル)、オ・セフン(←清水)、谷晃生(←FCVデンデルEH)とセンターラインにJリーグで実績のある選手を獲得している。GKに関しては水戸ホーリーホックからJ2屈指のGKだった山口瑠伊を獲ったと思ったら、ベルギーから谷まで呼んだ。本当に抜け目ないなと。

そういうどん欲さは、まさにサイバーエージェントのグループ会社化している町田の強み。強化費もJ1の平均である20億円強あるそうですし、Bクラスでも上のほうをイメージしていて、サプライズを起こし得るチームとして期待しています。

河治 僕は昨シーズン、J2で町田とジュビロ磐田や清水との戦いを見てきたんですけど、町田が試合内容で圧倒して勝った試合って、ほぼないんですよ。でも、気づけば勝っていて、最終的には順位で突き抜けていた。そういう勝負強さがありますね。際の部分で絶対に負けない。だから、J1でもまったく戦えないなんてことはないと思うし、変なプライドもないから勝点を拾っていけるはず。それが町田の“ストロングスタイル”ですよね。

勝つことから逆算するので、ボールを握るほうが効率的だったら握るし、そうじゃなければ守ってカウンターを狙う。金明輝コーチがいるから、いい立ち位置を取るサッカーもできるだろうけど、そういうスタイルにしていないのは、今のメンバーで勝利の確率を高めようとすると、違うサッカーになるっていうことなんでしょうね。形がないことが形というか。J2と違って“狙われる側”ではないから、仁義なき戦いを徹底して、気がつけばひとケタ順位でフィニッシュしていてもおかしくないと思っています。

舩木 昨シーズンのJ2での戦いを見て思ったのは、FCポルトにすごく似ているなと。やっているサッカーは奇をてらうようなことをせず、ゴールに真っ直ぐに向かっていって、めちゃくちゃ球際で戦って、どん欲に何をしてでも勝つというサッカーを全員が徹底してやる。それで最後に勝っているのがポルトなんですよね。ポルトガルリーグを経験した日本人選手はもれなく「ポルトの強さは、うまく言葉に表せないけど他とは決定的に違う」と口をそろえるんですが、町田も似たような印象だなと思っていました。なので、J1に上がったときに、クオリティは別にして、これまでやってきたことはある程度表現できるだろうと思って、中位に挙げました。

あと、全体のスカッドのバランスがすごくいいんですよね。昌子源のようなベテラン選手もいれば、平河悠や荒木駿太、藤尾翔太、バスケス・バイロン、宇野禅斗のような若くて伸びしろと野心のある選手たちがたくさんいる。外国籍選手はJリーグ全体を見渡しても質の高い選手がそろっていますしね。特に前線はナ・サンホ、ミッチェル・デューク、ケガから戻ってきたらエリキも脅威になるでしょうし、オ・セフンの高さも戦い方の幅を広げてくれそう。チームのまとまりも含めて、ある程度は戦えるのではないかと思うんですけど、まだ上位争いをするところまではいけないかなという印象です。

──同じく皆さんがBクラスに置いたのが、アビスパ福岡とサガン鳥栖です。

舩木 福岡はやっているサッカーの安定感が大きいですよね。山岸祐也(→名古屋グランパス)と井手口陽介(→ヴィッセル神戸)は引き抜かれてしまいましたけど、長谷部茂利監督は就任5年目ですし、継続してきたスタイルを考えたら大崩れはしないかなと。ひとつ懸念点を挙げるとしたら、山岸が抜けた前線の得点力でしょうか。ナッシム・ベン・カリファ(←サンフレッチェ広島)は点を取るタイプのセンターフォワードではないので、彼を最前線に据えたらボールは収まるかもしれないけど、明らかに点が取れないときにどう対応するのかなとは思います。

井手口が抜けたボランチにはパリ五輪世代の松岡大起(←グレミオ・ノヴォリゾンチーノ)を獲得しましたし、アタッカーとして岩崎悠人(←サガン鳥栖)も加わった。最終ラインも三國ケネディエブス(→名古屋)が移籍したとはいえ、ドウグラス・グローリ、奈良竜樹、宮大樹は残っていますからね。全体的に考えると、爆発的に何かが伸びたわけではないけれど、ものすごく落ちたかというとそうでもない。昨シーズンから大きく順位が変わるようなイメージがなかったので、Bクラスのままにしています。

飯尾 大崩れをしなさそうというところは同意見なんだけど、戦力についてはかなり落ちたんじゃないなと思うんですよね。井手口の穴はそんな簡単には埋まらない。前線も山岸とルキアンの穴埋めとしてベン・カリファを獲得しましたけど、昨シーズンは広島で2点しか取れなかった。あと、岩崎を2シャドーで起用するようですけど、過去、インサイドで起用されたときはあまり輝けなかった印象があって。やっぱり岩崎は外に張らせてスピード勝負させたい。

もちろん、長谷部監督のことだから堅いチームをしっかり作ってきて、ひと桁順位でのフィニッシュは可能だと思うんですけど、昨シーズンの7位を上回って、ACL出場圏内を争うイメージは浮かびませんでした。個人的には従来の3-4-2-1のフォーメーションから新しいチャレンジをしてもいいんじゃないかなって思います。

河治 長谷部監督のポリシーとして、守備のバランスは絶対に崩さない。そこにどれだけ攻撃をプラスアルファできるかなんですよね。1点を失うリスクを負って2点を狙うくらいなら、1-0や0-0を目指すような監督なので。そこでどう戦うかを考えたときに、10得点を計算できる選手がひとりもいないという問題に直面するわけです。失点もそこまで増えないと思うけど、得点数を伸ばせない可能性が高いんですよね。だから、攻撃面であっと驚くようなサプライズが起きないと上位進出は難しい。

鶴野怜樹や北島祐二(←東京ヴェルディ)もそうですけど、僕たちがここで名前を出すような選手ではなく、驚きのカードが出てくることに期待したいです。中盤はボランチの重見柾斗(←福岡大)がブレイクするんじゃないかと期待しています。福岡のサポーターには認知度が高いかもしれないですけど、他クラブのサポーターに知られていないような選手が活躍するところも福岡らしさですよね。

新潟は得点力不足をどう解消するのか?

──では、鳥栖についてはどうでしょう?

舩木 鳥栖はスカッドを見た印象ですけど、小野裕二(→新潟)と岩崎のふたりの退団が痛いですね。岩崎が務めた右サイドに中原輝(←東京V)が入ってきたのは楽しみですけど、小野が務めた1トップは、マルセロ・ヒアン(←横浜FC)やヴィニシウス・アラウージョ(←FC今治)が加入しましたが、おそらく1番手は富樫敬真になる。得点力の低下は気になったポイントです。順位予想の観点ではBクラスの下のほうで考えていたんですけど、守備陣の補強はまずまずなので、そこはややアップかなと。ただ、どれだけいいサッカーをしても、昨シーズンのチーム得点王だった小野裕二の9ゴールを超える選手が出てこなそう。マルセロ・ヒアンは昨シーズン、横浜FCで3得点だし、ヴィニシウス・アラウージョはJ1初挑戦で昨年はJ3でプレーしていた選手なので、ちょっと躍進は難しそうな雰囲気かなと思っています。

河治 鳥栖に関しては期待値ベースの選手が多すぎるかなと。ポテンシャルや伸びしろはすごく感じるんですよ、本田風智を筆頭に。ケガなくひとり立ちするところを見守る保護者みたいな感覚ですね。横山歩夢や樺山諒乃介もそう。彼らが秘めたる力を発揮したら、相乗効果も生まれてすべてにおいてプラスに転がるかもしれないですけど、川井健太監督は選手の自立を待つような対応だと思う。

小野裕二というチームリーダーとして周りを引っ張っていた選手がいなくなったことで、経験豊富な選手から若手に波及するポジティブな効果が薄くなるかもしれないですね。チームとして突き上げるエンジンになれるような選手が出てこなければ厳しそうです。その前提で、すべてがうまくいったら躍進もあるかもしれないです。そういう意味でも、期待値ベースが大きなチームですね。

飯尾 僕は沖縄キャンプでガンバ大阪、浦和レッズとの練習試合を取材したんですけど、全体の印象としては、やっぱり“小粒”なんですよね。小林祐三さんが強化責任者になって、川井さんが監督になって以降、主力選手が残留するようになってきた。以前は活躍した選手がどんどん移籍してしまうことが多かったんですけど、チームとしての魅力が生まれてきたのかなと。ただ、そう感じる一方で、大駒がいないのも事実です。

今季は4-3-3システムを採用したり、戦術面でいろいろとチャレンジするようで、「いいサッカーをしている」とか「面白いよね」っていう評判が立つとは思います。でも、そこから3大タイトルを獲れるチームになるためには、まだ駒が足りない印象です。監督をはじめ、コーチングスタッフの手腕でチームを戦術的に機能させているけれど、それ以上ではない。あと、キャンプで気になったのが、センターバックが軒並み負傷離脱していたこと。守備の構築が遅れている感じがあったのも、苦戦しそうな要因として付け加えておきます。

──アルビレックス新潟は河治さんと舩木くんがBクラス、飯尾さんはCクラスという予想です。まずBクラスに置いたおふたりからお話しいただけますか?

●Cクラス予想(※並び順は北から)
河治:柏、東京V、湘南、磐田、京都、G大阪
飯尾:札幌、柏、東京V、湘南、新潟、京都
舩木:札幌、柏、東京V、湘南、磐田、京都

河治 後ろからつないでいくベースはできています。それも、相手をハーフコートに押し込むのではなく、GKを含めて深みを取りながら回していくスタイルで、相手のプレスを回避しやすくする戦い方はできている印象です。松橋力蔵監督は理想だけを追い求めることはなく、例えば、横浜F・マリノスのように実力が明らかに上のチームに対しては、割り切ったサッカーを選択できる。理論派で兄貴分の監督がチームコンセプトをしっかり落とし込んで選手の信頼を得ているから、相手対策のサッカーを選択したとしても、選手たちがしっかり付いていっている。本当に“力蔵さんのチーム”になっていると思うんですね。

じゃあ、そこにどれだけ戦力がプラスされているかというと、小野裕二(←鳥栖)は前線で先発起用されるかもしれないですけど、基本的には新しいメンバーがいきなりスタメンに入ることってほとんどないでしょうね。だから、新潟の補強は、選手層を厚くする形になっている印象です。爆発するような選手が少なそうなのが気になるところで、新メンバーの加入によって競争が生まれ、チーム力の底上げがなされるのかどうかというところで、上積みの感じがしないのが、上位予想にし切れなかった理由です。

舩木 新潟は昨シーズンの得点数がリーグで下から3番目なんですよね。36ゴールしか挙げられなかった。しかも、チームのトップスコアラーは、夏に移籍した伊藤涼太郎なので、大きな爆発力がないチームという印象は強いですね。それでも昨シーズンは10位に入ったし、最後は9試合負けなしでした。安定感のあるチームなのは間違いないし、大枠としてのチームの形が残っているので、そこは大きく変わらないだろうなと。

ただ、河治さんもおっしゃったように、戦力アップの幅が小さい。小野裕二や長谷川元希(←甲府)はプラスになるでしょうけど、チームとして得点力を上げながら、どうやってポゼッションサッカーを結果につなげていくか。そこが大きな課題でしょうね。そこを克服できなければ、大跳ねすることはないし、点が取れないチームのままで、相手に対策されて苦しむ試合が増えると、簡単に転げ落ちてしまう危険性もある。Aクラスには予想できないし、かといってCクラスに落とすほどでもない。ただ、Bクラスの中でのポジションがどう転ぶかは分からないです。

飯尾 皆さんが話したのと同じ理由で、だから僕はCクラスになってしまうかな、というところですね。この世界の常ですけど、地方クラブが素晴らしいサッカーを展開して躍進すると、選手たちはどうしても上位クラブのターゲットになってしまう。三戸舜介(→スパルタ・ロッテルダム)は海外挑戦ですけど、高宇洋(→FC東京)、渡邊泰基(→横浜FM)とセンターラインの選手が引き抜かれてしまった。昨夏には伊藤涼太郎も欧州に旅立っています。マリノスのパートで話したのと同じで、戦力の削がれ方が著しいんですよね。それにセンターバックとボランチの穴埋めもできていない。舩木くんが話したように、もともと得点力の高いチームではないから、どうやり繰りしていくかは、松橋監督の慧眼がポイントになるんじゃないかと。伊藤涼太郎や三戸の能力を引き出したように、力蔵さんが今シーズン、松田詠太郎や小見洋太、長谷川といった若いタレントをどう伸ばしていくかは楽しみです。

ただ、相手に研究されやすいチームだし、全体的な戦力は高くないので、しばらく白星から見放されてしまう時期も来るかもしれない。次のジュビロ磐田の話にもつながるんですけど、僕は新潟をCクラスにして、磐田をBクラスにしていますが、河治さんはその逆で新潟をBクラスに、磐田をCクラスに予想しているんですよね。僕は、磐田は外国籍選手を入れ替えて戦力アップを図って、競争力が高まった印象があるんです。逆に、新潟はこぢんまりしてきてしまった印象があって。だからこそ、松田や小見、長谷川のブレイクには期待しています。

舩木 かつてのレオ・シルバやラファエル・シルバのようなレベルのブラジル人選手がひとりでもいたら、状況も変わってきそうですけどね。

飯尾 そう。マルシオ・リシャルディスやエジミウソンもそうだけど、かつてのスカウト力は素晴らしいものがあったから。今のチームは若く、ポテンシャルのある選手が少なくないので、軸となる外国籍選手がいれば、上位に進出してもおかしくないんだけれど。

ペトロヴィッチ監督の札幌は積み上げか、マンネリか?

──では、先ほど飯尾さんから話が出たので、ジュビロ磐田について見ていきましょうか。

飯尾 1年間の補強禁止という極めて重い処分からようやく解放され、ここぞとばかりにブラジル人選手を4人も獲得した。マテウス・ペイショット(←アトレチコ・ゴイアニエンセ)とレオ・ゴメス(←ヴィトーリア)はスタメンに入ってきそうだけど、4人とも主力になるかどうかは分からない。それでも外国籍選手を刷新したり、争奪戦を制してロアッソ熊本の平川怜を射止めたり、ストーブリーグで積極的な動きを見せましたよね。そして、“ラストピース”と言えそうなGK川島永嗣(←無所属)も獲得した。

たしかに近年、試合出場に恵まれていたわけではないけれど、人間性に優れていて、ピッチ内外で大きな影響力のあるベテランを迎え入れたのは大きいと思います。主力で移籍してしまったのは鈴木雄斗(→湘南ベルマーレ)とドゥドゥ(→ジェフユナイテッド千葉)くらい。ここから再び這い上がるんだ、という藤田俊哉SDの気概が感じられます。だから、Bクラスに予想しました。

舩木 僕も飯尾さんと考え方は似ていて、新潟と磐田のどちらをBクラスにするかで迷いました。Cクラスにはしていますが、やっぱり総合力は高い気がします。とにかくGKが川島に定まりそうなのが守備面で大きいだろうなと。川島が入って最後尾が安定すれば、ディフェンスラインも相当良くなると思います。リカルド・グラッサのように個人能力の高い選手もいますし。ただ、チームの軸となるべき外国籍選手を一気に4人も連れてきて、それがハマらなかったら、また1年で降格の道をたどりかねない。4人が4人とも当たるとは限らないですしね。チームとしての可能性は感じつつ、未知数な部分も大きいということで、Cクラスにさせてもらいました。

──外国籍選手に詳しい舩木くんは磐田の補強選手をどう見ていますか?

舩木 磐田に合いそうだなと思うのが、FWのペイショットですね。今までのセンターフォワードとは少しタイプが違いますけど、前線で起点になってくれて、劣勢の展開が増えそうななかでもターゲットマンとしてしっかり時間を作ってくれそうです。日本人選手では平川もすごく楽しみです。補強人数が多くて総合力を一気に上げた感じはするので、J2にすぐ落ちるようなことはない……いや、落ちてほしくないという思いも込めて、Bクラスに食い込んでくるかもしれないという、Cクラスの上位だと考えてもらえたら助かります(笑)。

──では、最後にジュビロ磐田ウォッチャーの河治さん。愛を込めてCクラスの理由をお願いします(笑)。

河治 まず磐田が持つポテンシャルの高さに加えて、横内昭展監督への期待感はすごくあると思うんですよね。昨シーズンのチーム立ち上げ当初は、お世辞にも昇格なんて言えるチームではなかった。それなのに、シーズンが終わる頃には目標を達成していたわけです。その伸びしろや成長は間違いなく評価していいと思う。今シーズンを迎えるにあたって15人も選手が入れ替わりましたけど、鈴木雄斗とドゥドゥ以外は根幹になる選手が残っているし、新しい軸となり得る新戦力も加わっていて、期待感はすごくあります。

Cクラスの6チームに入れたんですけど、ポイントはいかに早く残留を決めるか。横内さんは残留争いのボーダーラインとして勝点40と言っていますけど、まずは残留できそうな位置につけて、そこから上積みする時間をどれだけ取っていけるかに注目したい。カップ戦のタイトルは積極的に狙っていくんじゃないかと思うので、そのためにも残留争いに巻き込まれないようにしてもらいたいですね。

飯尾 とてもCクラスに予想したチームへのコメントとは思えないくらい褒めていますよね(笑)。

舩木 優勝しそうな雰囲気すらある(笑)。

河治 ずっと取材してきたから、一人ひとりへの思い入れもあるし、平川だってブレイクして日本代表になれると思っています。ただ、ひいき目に見すぎていないかが心配なので、あえて突き放したような感じです(苦笑)。だから本当のところは、舩木くんと同じで、限りなくBクラスに近いCクラスというイメージですね。

──そんな河治さんがBクラスに挙げたのが、北海道コンサドーレ札幌です。

河治 逆に札幌がCになる理由を聞きたいくらい底力はあると思っています。分かりやすいところで言えば、小柏剛(→FC東京)、田中駿汰(→セレッソ大阪)、福森晃斗(→横浜FC)の移籍ですよね。福森は昨シーズンこそ確固たるスタメンではなかったですけど、それでもやっぱり痛い。ただ、キャンプを見ていると、横浜FCから移籍してきたパリ五輪世代の近藤友喜とか、大卒ルーキーの田中克幸(←明治大)あたりは高い確率で活躍できそうだなと見ています。あと、シャドーに入る長谷川竜也(←東京V)はなかなかやりそうですね。

唯一の不安点は、田中駿汰が任されていた3バックの右ストッパー。ガンバで右サイドバックに入っていた高尾瑠は高い能力を持ってはいるんですけど、札幌のマンツーマンを前提にした守備が彼のスタイルとあまりにも違うので、アジャストするまでに時間が掛かりそう。そこには馬場晴也が入ったりしていますけど、田中駿汰がもたらしていた安定と比べたら、ちょっと厳しいとは感じます。ただ、全体のバランスはすごく取れていると思うし、世間一般の評価より高いのは、実際に見たうえでの客観的な評価。忖度抜きに見て、そんなに低くないでしょうと。あとは鈴木武蔵(←G大阪)が馴染んだ環境に戻って活躍できるかでしょうね。

飯尾 ミハイロ・ペトロヴィッチ監督就任7年目で、1年目は4位に入りましたけど、あとは中位から下位に落ちそうなところを行ったり来たりしています。オールコートマンツーマンも頭打ちになって、マンネリ化してきた感もあると思うんですよね。どのチームもそこまで苦しまなくなってきているので。それに、小柏、田中駿汰、ルーカス・フェルナンデス(→C大阪)、福森と近年の中心選手がごそっと抜けたのも気になります。

右サイドの近藤については、僕は大岩ジャパンでも取材していて、スピードと突破力を備えた素晴らしい選手。そこを射止めたのはさすがだなと。僕も河治さんが言っていたように、鈴木武蔵が得点源として活躍できるかがポイントだと思います。鈴木武蔵はかつて札幌に在籍時に13ゴールを決めたシーズンがあったんだけど、そのときは1トップにジェイ、シャドーにチャナティップと鈴木武蔵だったんですね。前でジェイが体を張って、チャナティップが仕掛けて、フリーになりやすい状況だった。最前線に入った昨シーズンのガンバでは1ゴールでしたし、鈴木武蔵が前線の核になれるかどうかの不安はあると思います。もちろん、最終的には昨シーズンのように駒井善成がゼロトップ気味の役割をこなす可能性は十分あると思います。ミシャさんにさらなるアイデアがあって、それにチャレンジするなら楽しみですが、昨シーズンと変わらないなら、ちょっと苦しいかなと。

舩木 僕も似たような感想で、ミシャさんが素晴らしい監督であるのは間違いないし、積み上げてきたものはあるけれど、オールコートマンツーマンをやり始めてから、それしかできなくなってしまっている印象があります。うまくいかないときに崩れていってしまうから、うまくハマればすごくいいゲームをするけれど、ハマらなかったときはボロボロにやられる傾向がある。そうした状況で中心を担ってきた選手たちが抜けて、新しく入ってきた選手が果たしてどこまでチームを引き上げられるか。そこはちょっと疑問です。

ただ、近藤友喜が加入したことで、昨シーズン12点を決めた浅野雄也をもう1列前で使える可能性が出てきた。彼が得点源として昨年以上に点を取ってくれれば、仮に鈴木武蔵が得点源になれなかったとしても、得点はある程度担保できるかなと。とはいえ、全体的にはやっぱり頭打ち感があって、これ以上大きく伸びるようなチームには見えませんでした。

東京Vは若さと野心による伸びしろに期待

──ここからは皆さんがCクラスに予想した4クラブについて。北から順に見ていきましょう。まずは柏レイソルです。

飯尾 やっぱり昨シーズン、下位に低迷して、17位でギリギリ残留したわけですけど、それなのにストーブリーグの動きが芳しくなかった。中心選手の椎橋慧也(→名古屋)が移籍して、後半戦の活躍で残留の立役者となった山田康太(→G大阪)もチームを去って、代わりに獲得したのが、J1経験の浅い選手たちばかり。白井永地(←徳島ヴォルティス)は柏のアカデミー出身で、J2で実績を積んで古巣に帰還するストーリーはすごくアツいんですけど、J1でどれだけやれるかは未知数なところがある。17位に沈んだ名門が今オフにすべきは大幅な戦力アップだと思うので、大丈夫なのかなと思ってしまって。

柏って僕からすると、日立台のスタジアムはすごく見やすいし、柏熱地帯のサポーターの作り出す雰囲気とか、そもそもの予算規模とか、魅力がたくさんあるクラブだと思うんですよ。でも、毎年のように主力選手やアカデミー出身者が出ていってしまうし、こうして移籍マーケットで苦戦している現状を見ると、選手にとっては魅力やビジョンが感じられなくなっているのかな、選んでもらえなくなっているのかなって。すごくもったいないなと。

河治 ちばぎんカップを見ていて思ったのは、オーバースペックなサッカーをやろうとしてしまっているなと。自陣からしっかりビルドアップしていこうとしていたんですけど、千葉にハメられていた。お互いに非公開練習が多くて、ほぼ初見な状況なのに、それでも千葉に上回られて、なかなかボールを前に運べない。そこで引っ掛けられてカウンターを食らうシーンが見られた。昨年の天皇杯のときのように、割り切って守りを固めて、研ぎ澄ませながら狙っていくしか道はないのかなと。つなぐスタイルをやりたいなら、もっと下地を作らなければいけないし、そういう選手を集めないと難しい。現状では、少ないチャンスを細谷真大が決めるような形を徹底するしかないのかなと。

新加入の木下康介(←京都サンガF.C.)はボールを収められるタイプではないし、ちばぎんカップでも実際に基準点にはなれていなかった。千葉にやられたことを受けて(千葉が2-1で勝利)、開幕戦に向けてどれだけチューニングできるかですよね。柏が生き残るためには、今は背伸びをしないほうがいいと思います。背伸びをするなら覚悟を持ってやるしかないですけど、それにはチーム設計が足りていない。その事実をちばぎんカップで千葉に突きつけられた。ちばぎんカップの結果は当てにならないと言われますけど、内容でここまでやられることってなかなかない。Cクラスを抜け出すためには、自分たちの現状を知って戦うことが大事かなと。あとは夏の移籍期間でブーストをかけられるかどうかですね。

舩木 僕も印象としては河治さんと一緒ですね。昨シーズンのチーム総得点が33で、そのうちの14点が細谷。でも、そのエースは夏に海外移籍してしまうかもしれないわけですよね。

飯尾 4月にはパリ五輪アジア最終予選で約1か月近く、チームを離れる可能性があるわけだしね。

舩木 そうなんですよ。細谷をどれだけ起用できるか分からない。新たに獲得したセンターフォワードの木下はJ1での実績に乏しい。残留したフロートは昨シーズン1点しか取れていない。課題だった攻撃力をどうにかしないといけないのに、大丈夫なのかなと。結局、攻め手がなくなって、マテウス・サヴィオ頼みになることが予想されるんですけど、すでに彼に掛かる負担はすごく大きくなっていて、千葉も当然のように彼を潰しにきた。激しく削ってイライラさせられた結果、マテウス・サヴィオが徐々に良さを出せなくなっていく可能性もありますよね。だから、今シーズンの柏は方向性が心配です。

──では、16年ぶりのJ1に臨む東京ヴェルディはいかがでしょう?

河治 現時点での戦力値を考えたんですけど、バランスの悪さでは柏が一番下だと思う一方、“サカつく”みたいに足し算的にチーム総合力を考えると、ヴェルディが一番低いと思っています。ただ、城福浩監督の引き上げる力って、磐田の横内さんにも通じるものがあるんですけど、やっぱり監督力はすごくある。例えば、新戦力は大半が成長枠なんですよね。見木友哉(←千葉)は計算できる戦力ですけど、山田楓喜(←京都)や山見大登(←G大阪)とか、そうした選手たちに新しい気づきを与え、成長を促していく可能性がある。もともと育成畑の指導者だったこともあるけれど、昨年はシーズンを通してチームが成長していた。現状ではCクラスですけど、そのなかで残留以上の成績を残すことができたら、ヴェルディの歴史が先につながっていくと思います。

舩木 全体の印象は若いチームだなと。J1で100試合以上の経験を持っているのは宮原和也だけ。50試合を超えているのも袴田裕太郎(←大宮アルディージャ)しかいない。個の力で勝負するのは難しいと思うので、チームの総合力で勝負するしかないんですけど、その総合力はおそらくJ1の中で下から5番目までに入ってくると思います。現状ではかなり厳しい戦いになるのは否めないですけど、若い選手は多いし、野心もあってすごくアグレッシブなチームなので、J1の舞台に慣れていく過程で、チーム全体が大きく底上げされる可能性はあるかなと思います。

飯尾 僕は河治さんが言うほど戦力的に厳しいとは思っていないんですけど、それはキャンプで城福さんと強化部長の江尻篤彦さんにじっくり話を聞かせてもらって、なるほどと思ったことが多かったから、すでにひいき目で見ているのかも(笑)。宮原もそうだし、新加入の翁長聖(←町田)もかなりいいサイドバックだと思いますね。昨シーズンは町田で主戦の左サイドバックでしたし。あと、未知数の不安があるなかで、森田晃樹、見木友哉、齋藤功佑で組む中盤のちょっとしたワクワク感がある(笑)。

舩木 夢がありますよね。

河治 分かる、分かる(笑)。

飯尾 とにかく若いチームで、ようやくJ1でやれるという喜びを強く感じながらのシーズンになると思います。後ろからつなぐサッカーにトライしながら、チーム全体でハードワークできる。開幕からマリノス、浦和、セレッソの順で対戦するんですよ。これは正直、苦しい。ただそのあとは、新潟、京都、湘南、柏と続いていく。最初の3連戦で9ポイント中、3ポイントくらい拾って、J1でやれる手応えと自信を掴めたら、その先の4試合につながっていくのではないかと。平均年齢はJ1で一番若いし、舩木くんが言ったようにJ1経験者も少ないけど、J1に慣れてきたときの伸びしろは大きいと思いますね。

舩木 GKのマテウスはひょっとしたらJ1でも上位に入るような実力者ですしね。後ろに信頼できる守護神がいるのは、若いチームにとって本当に心強いと思います。

河治 そうそう。外国籍選手はマテウスだけだけど、彼のセーブはSNSで「残念そこはマテウス」っていうハッシュタグが相当はやりましたからね。

山口監督、曺監督による継続性の強みを出せるか

──残るは、湘南ベルマーレと京都サンガF.Cです。

飯尾 湘南に関しては、昨シーズンの新体制発表会見を取材したんですね。そのとき、山口智監督と坂本紘司GMが目標順位を5位だと宣言したんですね。それもいわゆる目標といった感じではなく、話を聞いた限り、継続性と補強に相当の自信を持っていて、本気も本気という感じで。でも、結局は残留争いに巻き込まれてしまった。これはかなりの見誤りだと思うんです。もちろん、勝負の世界なので、思い描いた通りにいかないことは多々あるんですけど、なぜ、見誤ってしまったのか。それをどう修正して今シーズンに活かすのか、補強と編成を見る限りではあまり感じませんでした。

チーム得点王の大橋祐紀(→広島)と、以前キャプテンを務めた生え抜き中の生え抜きの石原広教(→浦和)が移籍してしまった。戦力としては間違いなくダウンで、柏ほどではないものの戦力アップはできていない印象です。あと、近年の成績も踏まえてCクラス予想にしましたけど、平岡大陽、田中聡、鈴木章斗、石井久継といったポテンシャルの高い若いタレントもいますし、より魅力的なチームになる可能性を十分秘めていると思います。そういう意味でも、就任4年目の山口智監督の真価が問われると思います。22年の鳥栖や去年の新潟のように躍進できるかどうかは、智さんの手腕に依るところが大きいかなと。

舩木 前線に福岡からルキアンを取りましたけど、セレッソのレオ・セアラのようにJ1で毎年コンスタントに二桁得点をマークするような選手ではないんですよね。補強ではないですけど、レンタル加入だったキム・ミンテと奥野耕平が残留したのは大きいですが、そもそも近年ずっと残留争いをしてきたチームなので、昨シーズンよりもジャンプアップするイメージが持てませんでした。

河治 湘南は坂本さんが強い胆力で、監督と一蓮托生の覚悟を感じます。智さんは理想が高く、ハードワークという軸は変わらずにあるんだけど、それも強みというより最低限だと。クオリティを高めていくことにトライしながら、相手よりも一歩でも早く、少しでも正確に攻撃を構築して攻め切りたい。ただ、今やろうとしているサッカーを突き詰めるんだったら、もっとクオリティを上げないと正直、相手に食われるというか。

本当にやばくなったとき、頑張って粘って跳ね返す、みたいな形になっていて、結局、ゴールを割れてしまっている。昨シーズンの開幕戦では鳥栖に大勝ちして、「俺たち、行けるんじゃないか」となったところに落とし穴があったかなと。大量得点で勝つのは理想だけど、そうならない試合のほうが日常だと想定してやっていかないと。理想と現実をしっかり見つつ。

あとは智さんが去年と比べて戦力アップしていると考えているのかどうか。既存戦力の成長もそうですけど、新戦力で言うなら、右ウイングバックに入るであろう鈴木雄斗(←磐田)は、石原ほど守備強度がないぶん、得点に絡む能力は高いです。ルキアンとは磐田で一緒にやっていたので、その関係性でどんなプラスをもたらせるのか。鈴木雄斗はそんなにクロスがうまいタイプではないし、ルキアンも高さで圧倒するターゲットマンではなく、幅広く動きながらポイントで入ってくるタイプ。少し近い距離感で、鈴木雄斗とルキアンで合ってきたらもしかしたら、そこの麻雀のコンビ打ちじゃないけど、そういうのはできるかもしれないなってちょっと楽しみですけどね。

――では最後、京都についてはどうですか?

河治 京都に関してはネガティブな要素がそんなにないんですよ。ただ、チーム体力を考えると、Bクラスに入っているチームよりも推せる要素が少ないというのが正直なところ。補強の部分では、守備面で鈴木義宜(←清水)を獲得できたのが大きい。清水で絶対的存在だったディフェンスリーダーですから。これで守備の安定は期待できるので、攻撃陣はより前向きにアクセルを踏めるようになって、川崎颯太や金子大毅が頑張って、結果的にゴールが増えるような形になればいいですね。強調して推せる要素が少ないので、他チームとの比較でCクラスにさせてもらいました。

舩木 新戦力としては、曺貴裁監督のことをよく知っている鈴木冬一(←ローザンヌ)と宮本優太(←浦和)のふたりが入ってきた。これは監督にとっても、再起を図るふたりにとっても、良かったのではないかと思います。ただ、井上黎生人(→浦和)やパトリック(→名古屋)、木下(→柏)といった、昨シーズン多くの試合に出ていた選手がチームを離れ、彼らの穴を明確に埋めるような補強は鈴木冬一だけ。マルコ・トゥーリオ(←セントラルコースト)は年々地盤沈下しているオーストラリアのAリーグでやっていた選手なので、そこまでJリーグで活躍できる予感がしないんですよね。

そうしたなかで原大智は昨年から京都でプレーしていますけど、半年しか在籍していないので新戦力のようなものですし、さらに迫力を出せたら大化けする可能性は十分にありそうですよね。豊川雄太も昨シーズンはキャリアハイの10ゴールをマークし、パフォーマンスが良かった。マリノスが昨シーズンの最終節で京都にボコボコにされているのでCクラスにするのはどうかなと思ったんですけど(苦笑)。ク・ソンユンが完全移籍になったのもプラスですけど、僕としてはCクラスの上位かなと。そこから上に食い込んでいくような下剋上は難しいかなと思っています。

飯尾 僕も河治さんと近くて、ネガティブな要素はあまりないけれど、自信を持ってAクラスやBクラスに推せる理由もちょっと見当たらなかったですね。井上黎生人以外の主力の放出がなかったのは大きいですけど、戦力を大きく上積みできたわけでもない。原大智と豊川雄太をより輝かせるために、センターフォワードの選手に誰を起用するのか。山崎凌吾でいくのか、マルコ・トゥーリオがハマるのか、そこは大きな焦点だと思います。

曺さんのサッカーって、湘南ベルマーレ時代もそうでしたけど、選手を選ぶところがあるじゃないですか。素直で、愚直で、頑張れて、闘えてっていう。だから、それにハマらない選手は、ヴェルディに移籍した山田楓喜なんかがそうだと思うんですけど、他クラブなら輝けそうでも、なかなか起用されない。逆にハマる選手は重用されるから、教え子が集まってくる。金子大毅、三竿雄斗、松田天馬、山﨑凌吾、武富孝介(現・甲府)……今年で言うと、鈴木冬一や宮本優太。イズムを知っている選手を集めるのは悪いことではないですけど、大きな化学反応も起きにくいというか、既視感のあるチームになってしまうというか。もちろん、曺さんは毎年のようにヨーロッパのサッカーを勉強して、新しい刺激をチームに持ち込んでいるんですけど、どうしても似たような選手たちの集団になりがちで、安定した力は発揮できても、上位へと顔を出せない要因になっているのかなと思うんです。なので、しっかり残留してくると思いますけど、Cクラスに予想しました。

河治良幸(かわじ・よしゆき)

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カード は1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意としており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

飯尾篤史(いいお・あつし)

明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、『週刊サッカーダイジェスト』編集部に配属。2012年からフリーランスに転身。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

舩木渉(ふなき・わたる)

大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。
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