浦和、川崎、神戸、広島の4チームが抜けている!? キャンプ密着の識者3人によるJ1展望座談会【前編】

2024年シーズンのJ1リーグが2月23日に開幕した。今季のJ1は2チーム増えて20チームによって熱戦が繰り広げられる。さらに今季は、J2降格が3チームに増えるため、残留争いが熾烈になること必至だ。はたしてそれが、各チームの編成にどのような影響を及ぼしているのだろうか。ここでは、精力的にJリーグを取材する3人のジャーナリスト、河治良幸氏、飯尾篤史氏、舩木渉氏に登場を願い、20チームをA、B、Cとクラス分けしてもらった上で、各チームの状況について話をうかがった。(文中敬称略/座談会は2月19日に実施)

大型補強の浦和の敵は内にあり

──2024シーズンの明治安田J1リーグが開幕するにあたって、今年も各クラブのキャンプを取材された3人のジャーナリストの方々にお集まりいただき、新シーズンのJ1を展望していきたいと思います。皆さんには事前アンケートで計20チームをAクラス、Bクラス、Cクラスに分けて予想していただきました。まずAクラスから見ていくと、全員がトップ6に入れているのは、浦和レッズ、川崎フロンターレ、ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島の4チームです。

●Aクラス予想(※並び順は北から)

河治:鹿島、浦和、川崎F、横浜FM、神戸、広島
飯尾:浦和、川崎F、名古屋、C大阪、神戸、広島
舩木:浦和、川崎F、横浜FM、G大阪、神戸、広島

──まずはこの4チームを北から触れていきましょうか。まずは浦和から。

河治 とにかく補強した選手がムキムキというか(笑)。昨シーズンのメンバーを完全に上書きするレベルの選手たちが加わり、ピッチに立つ11人のうち半分くらいがそういう選手になりそうなんですよね。従来の主力が残ったところに、本当にストロングな選手が入ってきた。それをしっかり活かす監督も呼んでいて、これは強いだろうなというのが率直な印象です。しかも、浦和は今季、過密日程ではないので、週末に試合に向けた1週間で選手たちはしっかりアピールして、チームは戦術的な対策を組み立てられる。そこも大きいと思います。浦和に関してはすごくポジティブな印象が強いですね。

舩木 まずシンプルに外国籍選手の質と量が今のJリーグを見渡しても一番なんじゃないかと思います。その選手たちも含めてですけど、他チームの選手に対してフィジカル面で優位に立てる選手が各ポジションにそろっている感じがするんですよね。単純にうまいだけじゃなくて、チームとしての成熟度を高める前の段階でも、個の力で押し切るようなサッカーができそうな印象があります。それができてしまったら、スタジアムの雰囲気も含めて相当強いんだろうなと。新しい外国籍選手がフィットしやすい状況もできているでしょうし。

飯尾 僕は沖縄キャンプでいろいろなチームを取材してきたんですけど、最も取材をしたのが浦和です。浦和は補強から今季の本気度が感じられますよね。関根貴大のような既存の選手も、「優勝に向けて言い訳ができないメンバー」というような話をしていました。攻撃陣はチアゴ・サンタナ(←清水エスパルス)、現役ノルウェー代表のオラ・ソルバッケン(←ローマ)、前田直輝(←名古屋グランパス)を獲得して戦力が相当高まった。今季はかなり前重心だから、リーグ最少失点だった昨シーズンの堅守がどこまで維持できるか分からないですけど、僕も優勝候補の最右翼だと思うし、キャンプでいろいろなチーム関係者と話をしていても、皆さん、浦和のことを気にしていましたね。

──やはり浦和が優勝争いの中心になっていきそうですか。

舩木 ACL(AFCチャンピオンズリーグ)はすでに昨年のグループステージで敗退しているので、前半戦は日程に余裕がありますしね。

飯尾 それだけじゃなくて、浦和は天皇杯もないので(苦笑)。

舩木 そうでしたね。他のクラブがカップ戦に臨むなかで、これだけのメンバーを揃えて、少し余裕を持ちながら戦いを進められるのも大きいんじゃないかなと。

河治 浦和って良くも悪くも、毎年すべてのタイトルを獲りにいくんですよ。タイトルがあればあるほど勝ちにいってしまうから、どうしても苦しくなるんですよね。今年はYBCルヴァンカップがトーナメント形式に変わったので、基本的にリーグ戦に“全振り”してもいい。酒井宏樹もそう言い切っているくらいなので。

ただ、試合数が少ないだけに、ポジション争いがすごく激しいんですよね。そこが逆に不安要素というか。かなり序列もできているみたいだし、そうなるとメンタル的につらい選手が出てきますよね。やっぱりシーズン後半になったら、今のサブ組の力が絶対必要なってくる。そこまで彼らのメンタルをコントロールして、しっかりと戦える状態にキープできるか。そこが“内なる敵”というか、ポイントになるかなと思いますね。

飯尾 僕も同感です。浦和はBチームでもJ1を戦えるくらいの陣容が整っています。個人的に考える懸念点はふたつあって、河治さんが言ったようにレギュラークラスでも試合に出られない選手が出てくること。天皇杯とACLがないので、固定メンバーでリーグ戦もルヴァンカップも戦えてしまうから、レギュラー以外の選手はだんだんと厳しくなる。そこでポイントになるのが、ベンチスタートになりそうな岩尾憲や、FC岐阜から復帰した宇賀神友弥のようなベテランたちの立ち居振る舞いだと思います。宇賀神はそういう部分での期待も獲得理由にあったでしょうし、岩尾は同ポジションに監督の教え子である現役スウェーデン代表のサミュエル・グスタフソンが加入することが分かっていて契約延長をしていますから。

もうひとつは、浦和は2006年の一度しかリーグ優勝の経験がないこと。シーズンを通して波なく戦い抜くのは、かなり難しい。昨シーズンの神戸みたいにスタートダッシュでうまく波に乗れたら、そのまま行っちゃう気がしますけど、序盤で少しつまずいたりすると、プレッシャーも掛かってくるから、何が起きるか分からないなと。クラブとしてリーグ優勝の経験値がないですから。

河治 対策もされるだろうし、そこを上回れればいいんですけど、他のチームも個の力で浦和に圧倒され続けることはないと思う。そういうときにプランBを持てるかどうか。今のところ、新監督が就任したばかりなので、そこまで植え付けられていないと思うんです。まずはどれだけ勢いよく勝点を積み上げられるか。そして、対策されたときに何ができるか。優勝候補には挙げていますけど、苦しい時期はあるとは思いますね。

神戸は王者に対する“リスペクト”を振り払えるか

──浦和はチームマネジメントと、対策された際の戦い方でどう幅を出していくかがポイントになりそうですね。続いては川崎フロンターレです。リーグ開幕前に公式戦を戦っているので、ご覧になられた方も多いのではないかと思います。

舩木 富士フイルムスーパーカップでは、直前のACLから完全にメンバーを入れ替えて神戸に勝った。2チームを作りながらタイトルを獲れることを提示できたのが、上位に予想した理由です。昨シーズンは8位ですし、主力選手の移籍もあったので、どうなるかなと思っていたところで、リーグ開幕前の段階でしっかり組織を作って、能力の高そうな新外国籍選手も入ってきた。上位争いに絡んでくるだけの力があるチームだなということを改めて感じさせられたので、ここは上位予想に入れなきゃいけないかなと。

飯尾 エリソン(←サンパウロ)は沖縄にいるときから「あいつはすごい」という噂が広まっていたんですよね。長年チームを支えてきたレアンドロ・ダミアンの退団で不安視された部分は、彼の加入で払拭できる。宮代大聖(→神戸)が出ていってしまったのは残念だけど、ガンバ大阪から獲得した山本悠樹は大学時代から“中村憲剛二世”って言われていた選手だし、日本代表にも選ばれた三浦颯太をヴァンフォーレ甲府から、ファン・ウェルメスケルケン際(←NEC)をオランダから連れてくるなど、選手獲得にセンスがある。チームとしても戦い方のベースはできている。優勝は難しいかもしれないけれど、トップ5に入ってくるだけの力はあると思います。

河治 実はプレシーズン前の段階では、6位予想だったんですよ。でも、キャンプやスーパーカップを見て、2チーム分のタレントがいるなと。神戸に対してあれだけやれていたし、“大迫封じ”とか、セカンドボールを奪って素早く攻めるとか、あのメンバーで“いつものフロンターレ”とは違う戦い方をできるようになっていた。そうした準備も含めてチームとして柔軟な戦い方ができるようになっていると考えて、6位から上方修正しています。

──続いて前年度王者のヴィッセル神戸。親善試合も含めて、こちらも試合を見る機会がありましたね。

飯尾 神戸はちょっと評価が難しいんですよね。補強は素晴らしいと思うんです。長期離脱中の齊藤未月のところに井手口陽介(←アビスパ福岡)を獲ってきた。彼は大迫勇也や武藤嘉紀、酒井高徳が示している“欧州スタンダード”を体現できる選手ですから。さすが、そこを獲るんだって感じましたし、川崎から宮代を引き抜いたのも鮮やか。7年ぶりに復帰した岩波拓也(←浦和)はアカデミー出身の古巣に並々ならぬ覚悟で戻ってきたと思うし、GKには新井章太(←ジェフユナイテッド千葉)とオビ・パウエル・オビンナ(←横浜F・マリノス)を加えている。

鹿島アントラーズから獲得した広瀬陸斗もそうですけど、補強がすごく効果的で、間違いなく戦力アップしている。ただ、神戸のようなインテンシティ型のチームが2年続けてハイパフォーマンスを発揮するのは簡単なことではないし、主力選手の年齢も高い。しかもシーズン後半にはACLも入ってくる。連覇するだけの強度を保てるのかどうか疑問がちょっとあって。でも、トップ5から外れることは想像できなかったです。

河治 僕はスポナビに寄稿した戦力ランキングで、神戸をかなり高く評価したんです。ただ、インテル・マイアミ戦やスーパーカップを見て思ったのは、いざ戦うとなったときに大迫が抑えられた場合の前線のオプションがない。宮代を獲りましたけど、スーパーカップで井出遥也が負傷退場して、武藤もケガのためかメンバーから外れていた。それでジェアン・パトリッキをスタメン起用すると、流れを変えるジョーカーがいなくなっちゃうんですよね。

中盤より後ろの選手層はACLを見越しても問題ないんですけど、シーズンを戦っていくうえで、決定的な仕事をするアタッカーがもう1枚必要だということを開幕前の試合で痛感しましたね。スーパーカップを見ていても、チャンピオンチームへの対策はすごく進んでいるはずですからね。

──酒井高徳がスーパーカップ後に「僕たちは王者じゃなくて、今年もチャレンジャーの気持ちで戦う」と話していたんですけど、彼らはそう考えていたとしても、周りは王者に対して“リスペクト”してきますからね。さて、先輩方がいろいろと話してくれましたが、舩木くんはどうですか?

舩木 もうないですよ(笑)。

飯尾 あるある。絞り出して(笑)

舩木 僕もおふたりと同じようなことを思っていたんですよね。まずは前線の層の薄さ。人数がそこまで充実しているわけではないので、主力が抜けてしまうと大きくチーム力がダウンする可能性が高い。昨シーズン、マリノスも大迫に何もやらせなければ神戸の攻撃力は半減すると睨んで、大迫封じの布陣を敷いて戦ったことがあったんです。それはたぶん、大半のチームが分かっていますよね。神戸は王者としてゲームを支配していくサッカーではないですし、対戦相手からしたら勝ち点1を狙う戦い方は選択しやすい。守りを固められた場合にどれだけ崩していけるのか、チャンピオンとして試されると思います。僕も優勝予想をするとしたら、神戸を1位にはしないかなとは思いますね。

広島は“Jリーグあるある”を覆せるか?

──皆さんが共通してAクラスにピックアップした最後のチームは、待望の新スタジアムが完成したサンフレッチェ広島です。

舩木 広島は宮崎でキャンプをしていて、マリノスの隣で練習していたので、トレーニングマッチも取材しました。ミヒャエル・スキッベ監督の就任3年目ということもあって、チームとしてものすごく安定感がある。やるべきことも決まっているし、「これが広島だよね」っていうサッカーをプレシーズンからしていました。

新チームのメンバーを見ても、在籍の長いベテラン選手だったり、ルーキーでもアカデミー育ちで大学を経由した選手だったり、広島に縁のある選手の比率が高い。気持ちをプレーに乗せやすいチームだと思いますし、何より念願だった新スタジアムという“自分たちの場所”ができて、何としても結果を出したいというモチベーションもある。それらがここまで積み上げてきたサッカーと掛け合わさって、手堅くいいチームを作ってくる気はしています。

飯尾 ポジティブな部分は舩木くんが言ったとおりですよね。それに近年のチーム編成を見ても、選手のイン・アウトを最小限にとどめながら、しっかりプラスになっているイメージがあります。今回もいわゆる“即戦力”の補強は大橋祐紀(←湘南ベルマーレ)だけなんですけど、昨季13得点をマークした選手を獲得して上積みした。そういったノウハウは強化部がこれまでしっかりと積み上げていて、素晴らしいと思います。

ただ、広島で懸念する点を挙げるなら、スキッベ監督の就任以降、3位、3位と来ているんですけど、ホップ・ステップ・ジャンプのジャンプでつまずくことって、“Jリーグあるある”というか。3年目になるとマンネリ感も出てくるし、相手からも分析されるので、3年目で鮮やかに結果を残すのは難しいと思うんですよね、あと、新スタジアムに関しても、かつてガンバは新スタジアムができた年に思うような結果を残せなかったですよね。相手チームも相手サポーターもモチベーションが高いし、逆にホームチームは絶対に勝たなきゃいけないっていうプレッシャーが強い。“新スタジアムあるある”も気になります。

河治 僕も新スタジアムについて話したいと思っていたところで飯尾さんに言われてしまったんですけど(笑)、モチベーションの問題だけじゃなくて、チームとしても新スタジアムに慣れてないんですよね。キックオフカンファレンスで満田誠が話してくれたんですけど、まだ練習も含めて2回くらいしか使っていないと。サポーターの盛り上がりやスタジアムの雰囲気はさておき、ピッチの慣れ具合としてはセントラル開催に近いんじゃないかな。

今シーズンは新スタジアムの雰囲気が後押ししてくれる一方で、セントラル+アウェイみたいな環境での戦いを強いられる可能性もある。“我がホーム”という感覚になるまでには時間が必要なんじゃないかなと思います。最初は広島を1位にしようかなと考えていたんですけど、それほど簡単にはいかないかなと……。それにスキッベ監督のスタイルが対戦相手に分析されるんじゃないかなとも思うんです。そんなにやることは変わらないはずなので、あとは1試合1試合のディティールになる。若手でブレイクする選手が出てくるかどうかもポイントになりそうですね。

舩木 僕が広島に関して少し懸念しているのは、後ろの選手層がちょっと薄めなことですね。宮崎キャンプで取材した練習試合では、ケガ人が多くて東俊希が左センターバックに入っていました。最終ラインはベテランが多いセクションで、困ったときに複数ポジションをこなす選手はたくさんいるんですけど、少しバランスが取れなくなったときにガタガタと崩れてしまう可能性があるんじゃないかという心配もあります。

逆に昨シーズン、ケガが多くてほとんど起用できなかったピエロス・ソティリウがフル稼働したら前線の起爆剤になるでしょうけど、まだまだ計算できないところもあると思っています。彼はケガが多くて、昨シーズンは5回くらい離脱したそうなんですよ。もともと2ケタゴールは計算できる選手なので、彼が実力どおりに活躍してくれたら、広島は優勝争いに絡んでくるかもしれません。

──昨シーズン、最後まで優勝を争った横浜F・マリノスですが、河治さんと舩木くんがAクラス予想をしている一方、飯尾さんはBクラスに入れています。まず最も現地で取材している舩木くんから伺いますが、やはり今シーズンの優勝予想はマリノスですか?

●Bクラス予想(※並び順は北から)

河治:札幌、FC東京、町田、新潟、名古屋、C大阪、福岡、鳥栖
飯尾:鹿島、FC東京、町田、横浜FM、磐田、G大阪、福岡、鳥栖
舩木:鹿島、FC東京、町田、新潟、名古屋、C大阪、福岡、鳥栖

舩木 立場上、すごく難しいですけど、現時点では浦和かなと思っていました(苦笑)。もちろん、心情的にはマリノスって言いたいところなんですけど、現時点でこういうシーズンになるかなと想像する範囲では、優勝はちょっと難しいかもしれないなと感じています。まず監督が替わったんですけど、ハリー・キューウェル新監督にトップリーグでの監督経験がないことが最初の懸念点です。キャンプではすごく丁寧に、いろいろなことを落とし込んでいたんですけど、細かく指導する一方で、チームの出来上がり自体はそこまで早くない。これまでとはシステムを変え、立ち位置を細かく教えながら徐々にチームを作っていて、ACLの試合を見ると分かるように、はっきりとした穴が見えるチームになっています。

負傷で長期離脱している選手も多いですし、攻守の安定感という意味では、ちょっと疑問符がつくかなというのが、今のところの僕の見立てです。もちろん、前線のメンバーは変わっていないので攻撃力は維持されていて、点は取れるし、チャンスも作れるはず。それがトップ6に入れた理由で、ある程度は点を取られても、勝ち点を積める可能性は高いだろうと踏んでいます。ただ、チームとしては上振れも下振れも可能性がある印象です。

横浜FMが抱えるはっきりとした穴とは?

──マリノスが抱える“はっきりとした穴”が気になります。

飯尾 鋭い!(笑)

河治 みんな思ったよね(笑)。

舩木 かなり前掛かりなサッカーをするのは変わらないんですけど、システムが4-3-3になったことで、アンカーが1枚になる。相手陣内に押し込んだときにサイドバックも高い位置を取るので、センターバックがかなりサイドに開くんですね。そうしたときにボールを奪われて、前に長いボールを蹴られて潰し切れないと、サイドバックの真横や背後がガラ空きになって、そこを簡単に使われてチャンスを作られてしまう。そういうシーンが練習試合でも多かったんです。サイドチェンジやロングボールを入れられると、センターバックとアンカーのカバー範囲が広くなってしまい、彼らの負担が大きすぎる現状があります。そのバランスをどう取っていくかは、試合をしながら見ていかなければいけないですね。

河治 マリノスはAクラスの上位に推しにくい状況ではありますね。チームを作る段階を考えたときに、例えば、浦和のヘグモ監督なんかは最初に大枠をドンって提示して、ディティールはあとから、みたいな感じで選手たちは分かりやすいんですけど、キューウェル監督は徐々に積みあげていくタイプなのかなと。マリノスって、強みが弱みでもあるんですよね。ただ、今後チームが成熟していったときに弱みを消していくやり方をすると、強みが研ぎ澄まされなくなっていくんですよ。

これはアンジェ・ポステコグルー監督のときも同じ。前任のケヴィン・マスカット監督はちょっとバランスを取っていましたけど、ボス(ポステコグルー)は強みを押し出して、弱みを恐れないようなチームを作っていましたから。それをカバーしていたのが、チアゴ・マルチンスのように守備におけるスーパーなタレントですよね。現在はスピードがあって無理も効く、カバーができるリソースがない。そこは不安ですよね。守備の成熟度だけじゃなく、夏の補強が必要になるかもしれないなと感じているところです。

──唯一のBクラス予想をしている飯尾さんの見方もお伺いしていきましょう。

飯尾 僕は河治さんみたいに「Aの下位」みたいな言い訳はせず(笑)、Bクラスに入れてみました。おふたりも話されていましたけど、僕が一番感じているのは、編成のサイクルの問題。例えば、川崎もそうだったんですけど、主力選手が次々とヨーロッパに飛び出していった。それでも揺るぎないスタイルがあったし、選手層も充実していたから強かったんですけど、海外移籍していくほどの選手の穴を埋めるって簡単ではないから、補強じゃなくて補充という意味合いでの穴埋めしかできなくなって、だんだん戦力が削がれていった。それで昨シーズンは8位に沈んでしまった。

マリノスにも同じようなことが起こっていると思うんです。近年だと、前田大然、岩田智輝、チアゴ・マルチンス、高丘陽平、藤田譲瑠チマが移籍して、このオフにも西村拓真(→セルヴェット)と角田涼太朗(→コルトレイク)が抜けた。角田の代わりとしてアルビレックス新潟から渡邉泰基を獲りましたけど、西村のところは移籍決定のタイミングが遅くて埋め切れていない。レンタルバックの天野純(←全北現代)が穴を埋めて余りある活躍をするかもしれないですけど、全体的に考えたら、踏ん張りが効かないシーズンになりかねないかなと。それに、シーズンの前半も後半もACLに出場することが決まっているから、相当な試合数が見込まれる点も不安ですよね。

あと、この1、2年のマリノスの屋台骨は、喜田拓也と渡辺皓太のダブルボランチだと思っていて。大好きなコンビなんですけど、さっき舩木くんが話したように今季は4-3-3へシステムが変更されたので、このダブルボランチが解体されてしまった。渡辺皓太は今、インサイドハーフもやっていますけど、ダブルボランチで彼らが見せる“あうんの呼吸”やバランスの取り方、ボールの運び方がなくなってしまうのは不安材料。こうしたことを総合的に考えて、今季に関してはいったんAクラスから外れてしまうかもしれないという気がしています。

──続いて、河治さんだけがAクラスに選んでいる鹿島アントラーズについても見ていきましょう。

河治 そんなに補強はしてなくて、何なら抜けた選手もいるんですけど、ランコ・ポポヴィッチ監督が目指すサッカーに対して、戦っていく上での設計バランスは悪くないんですよね。今回僕が挙げた6チームの中で、最も効率良く力を発揮しやすいサッカーを早い段階からできている印象がある。もちろん、センターバックの植田直通と関川郁万は絶対にケガをしてはいけない、といった懸念点もあるんですけど、岩政大樹前監督が志向したサッカーが良くも悪くも数年先を見据えたようなハイスペックなスタイルだったので、ポポさんになってシンプルに整理されて、選手たちは頭の中がリフレッシュされて分かりやすくなったんじゃないかと。この転換が実はプラスに働くんじゃないかと思います。

サッカースタイルとしては、とにかく速い。考える余裕もないほど速いです。だから、失敗すると引っかかってしまったりするんですけど、そこは柴崎岳がしっかりハンドルを握っていけば大丈夫なはず。ポポさんの前向きさと選手たちの自己判断がミックスされたら面白い。それをポポさんが許容できればいいなと思っています。

あと、強化部長の吉岡宗重さんや新たに強化に入った中田浩二さんがポポさんをうまくサポートして、ワンマン体制になりがちな監督をうまくコントロールしてほしい。そういう体制を鹿島が作っていければ、すごくいいソリューションを生んでいきそうだという期待値を込めています。もっと上位争いをする可能性も、Bクラス以下に落ちちゃう危険性もあると思っています。

舩木 僕は宮崎で練習試合を見たんですけど、河治さんがおっしゃる通り、「このチーム、めっちゃ速いな」っていう印象を受けました。このサッカーだと1試合ごとの消耗度がすごそうだなとも。とにかく縦にすごく速く攻めるし、一気に押し上げて、一気にゴールに襲いかかって、戻るときも素早く戻らなきゃいけない。縦にずっと動き続けるイメージですね。求められる運動強度は本当に高いと思います。これはプレッシングなども含めてなので、キャンプの時点ではそれがある程度できる選手と、馴染めていない選手がはっきり見えた気がしました。

あと、欠かしてはならない重要な選手が複数ポジションにいて、そういう選手が欠場したときのリスクはかなり大きいんじゃないかなという気がしたので、Bクラスに入れました。ただ、噛み合えば優勝争いに絡んできてもおかしくないとも思っています。

飯尾 僕は鹿島が正念場を迎えていると思っているんですよね。鹿島は2016年の優勝を最後にリーグタイトルから遠ざかっているけれど、その後も5位以内にずっと入っているんですね。なんだかんだでしっかり踏みとどまっている。この粘り強さは、積み上げてきたクラブ力の賜物で、さすがだなって感じます。でも、クラブとしては、このままでは置いていかれるという危機感があって、石井正忠さん、大岩剛さん、相馬直樹さん、岩政大樹さんらOBを監督に指名しては次々と首をすげ替えてきて、ザーゴさん、レネ・ヴァイラーさんを招聘して大きなチャレンジをしたものの、こちらも早めに見限ってしまった。それで今回白羽の矢を立てたのがポポヴィッチ監督。

古い話で恐縮なんですけど、僕はポポさんがFC東京の監督をしていた2012〜13年頃によく取材をしていて、ポポさんにもお世話になったんですね。そのときに感じたのは、すごくオープンな性格で人間的に魅力的な方だし、チームにポゼッションのノウハウを植え付けるなどベースを築くのには長けているんですけど、勝たせられる監督ではないかなと。その後、FC町田ゼルビアではまた違うサッカーをしていたし、水戸ホーリーホックとのプレシーズンマッチでは素早くサイドを攻略するなど、スピーディなサッカーをしていたので、吉岡さんがおっしゃっていたように、そこは「成長した」部分かもしれないですけど、勝負師という感じはしないんですね。

あと、岩政さんを1年ちょっとで解任して、“常勝軍団”復活に向けて勝負に出たなら、このオフの補強でもっと覚悟を見せてほしかった。水戸戦を見る限り、1トップのアレクサンダル・チャヴリッチ(←スロヴァン・ブラチスラヴァ)はかなりやりそうですけど、センターバックで獲得するはずだったヨシプ・チャルシッチはメディカルチェックで引っかかって契約できなかった。でも、その代わりの選手を獲得していない。それに、退団したディエゴ・ピトゥカ(→サントス)の代わりも獲っていません。知念慶を本当にシーズン通してボランチで使うのかという疑問もあるし、柴崎は負傷を抱えているのでシーズンをフルで戦い抜ける保証もない。佐野海舟だって夏に海外移籍してしまうかもしれない。そういうことを踏まえると、絶対に覇権を奪還するんだという覚悟があまり感じられなかった。もし本当にBクラス以下に沈んだら、そのままガタガタと崩れてしまいかねない心配があります。

効果的な補強を行った大阪勢の躍進の可能性は?

──飯尾さんだけがセレッソ大阪をAクラスに置いています。ここはいかがですか?

飯尾 とにかく陣容が充実している印象なんですよね。新外国籍選手のヴィトール・ブエノ(←アトレチコ・パラナエンセ)は“本物”だという話を聞いていますし、田中駿汰(←北海道コンサドーレ札幌)の獲得でアンカーシステムが可能になって、インサイドハーフに香川真司と清武弘嗣を並び立たせることもできるようになった。そこは奥埜博亮を起用するかもしれないですけど、相変わらず攻撃のタレントは揃っていますよね。

それに登里享平(←川崎)の獲得も大きい。リーダーであり、ムードメーカーでもある選手が入ったことでチームの雰囲気は変わりそうだし、香川が背負っているものも少し軽くなるんじゃないかと思います。昨季のレギュラークラスも抜けていないし、小菊昭雄監督も就任4年目に入って、スタイルも浸透している。普通にAクラスに入ってくる力がある……というか、マイナス面があまり見当たらなかったです。

舩木 ヴィトール・ブエノの昨シーズンのプレーを見たんですけど、割と何でもできるタイプですね。ポジションも含めて柔軟に起用できそうだなという印象があります。前所属で主に起用されていたのは3-4-2-1の2シャドーや4-2-3-1の右ウイングなんですけど、セレッソの4-3-3だとインサイドハーフになるのか、それともウイングなのか注目しています。3年連続2ケタ得点のレオ・セアラがいれば、得点源に関しては問題ないでしょうし、飯尾さんがおっしゃっていたように主軸はほとんど変わっていないので、安定感もあるだろうなと。個人的にはAクラスに入れたくて迷ったんですが、他との比較で泣く泣く外しました。

河治 僕は、セレッソは色気が出てしまうんじゃないかなと思っていて。田中駿汰を獲得できたことで、“強者のサッカー”に向かっていきそうな気がするんですけど、そこにはちょっと守備のタレント力が足りないのかなと思うんです。自ずと主導権を握ることにはなると思うんですけど、中盤から前が攻撃的になる一方、後ろの強度がそれを支えるだけのものを持っていない。毎熊晟矢も「自分のところでしっかり守備をしないと」みたいに守備の重要さについて言及していました。

僕がAクラスに推した6チームのセンターバックと比べると、最終ラインの不安定さは否めないですね。小菊監督っていい守備からいい攻撃に移行するサッカーをやってきて、ハマってるときは勝点を稼げるけど、いいサッカーをしながら結果がついてこない状況もできやすくなったのかなと。これが勇気を持って踏み出すきっかけにしたいシーズンなら応援したいんですけど、予想という観点だと難しいですね。

──ガンバ大阪をAクラスに挙げているのは舩木くん。飯尾さんはBクラス、そして河治さんはCクラス予想でした。ここの違いは興味深いです。

舩木 まず補強の本気感がすごい。獲得した選手数とメンツを見て、昨年の課題だった守備を補強しつつ、中盤にダニエル・ポヤトス監督の徳島ヴォルティス時代の教え子である鈴木徳真(←C大阪)や、スタイルに合致しそうな山田康太(←柏レイソル)が加入しました。各ポジションに2〜3人がひしめいていて、もしかすると昨シーズンのレギュラーだったイッサム・ジェバリも試合に出られない状況になるかもしれません。開幕前の広島とのプレシーズンマッチを見ていたら、昨シーズン終盤の厳しい内容が嘘みたいに安定感のあるサッカーをしていたんですよ。中谷進之介(←名古屋)の加入、一森純(←横浜FM)のレンタルバックによる守備の安定が前線の躍動にもつながって、もしかしたら一気にブレイクする可能性があるなと思って、Aクラスに入れました。期待も込めてということですね。

飯尾 僕も補強リストや陣容を見ると、かなりの本気度が感じられ、実際に戦力的にすごくプラスになったと思います。沖縄でガンバの練習試合を見たときは、大丈夫かな、と思ったんですけど(苦笑)、広島とのプレシーズンマッチを確認すると、かなり仕上がってきた印象を受けました。ただ、鈴木徳真や岸本武流(←清水)といったポヤトスサッカーの“申し子”たちが加入した一方で、ジェバリやネタ・ラヴィ、宇佐美貴史といった昨季の中心選手がベンチに回りそうな感じがある。だから、監督のチームマネジメントや人心掌握術がポイントになりそうだなと。

浦和の展望とも似ているんですけど、少しボタンをかけ違えると、「敵は我にあり」みたいな状況になりかねない。新戦力と既存の選手たちをどうマッチさせるかが少し不安だったことが、ガンバをBクラスにした理由のひとつです。ちなみにジェバリに代わって1トップに入りそうな坂本一彩(←ファジアーノ岡山)は練習試合ですごく良かったので、今季ブレイクするんじゃないかと思っています。

河治 ガンバはタレント力に関してはリーグ上位に入ってもいいくらいで、チームとしての完成度はさらにアップするだろうと。中谷や山田といった、かゆいところに手が届くような補強もできている。そこは素晴らしいと思います。ただ、Jリーグって、いかに相手の強みをつぶしていけるか、というところもある。今シーズンは3クラブが降格するから、昨シーズン終盤の横浜FCのように、極端な戦い方を序盤から選択してくるチームもいる可能性があるんですよね。

例えば、町田からすると、ガンバはおあつらえ向きの相手なんですよね。昨シーズンの浦和もガンバと対戦したとき、前半はほぼガンバペースで進んで、「ボールは持たれても最後のところでやらせない。点は取らせません」みたいな状況を続けておいて、相手に穴が出てきたら、裏返して勝ってしまった。そうした展開に対応するだけのプランニングができればいいんですけど、試合終盤の戦い方のマズさで勝点を落として苦しくなる印象が強い。戦い方のリスクを一番感じるチームだと思っています。

──そして飯尾さんだけがAクラス入りにしている名古屋グランパスです。

飯尾 Aクラスの最後は名古屋かガンバで迷ったんですよ。決め手は、ガンバは目指すスタイルのまだまだ途上であるのに対して、名古屋は可変システムでボールを握る取り組みもチャレンジしているけれど、最終的には5-3-2で守れる。前からプレスを仕掛けられるし、キャスパー・ユンカーや永井謙佑、山岸祐也(←福岡)、パトリック(←京都)の前線を活かしたカウンターも繰り出せる。名古屋は勝点を積み重ねていく戦い方ができるチームなんじゃないかと思ったんです。特に注目なのが山中亮輔(←C大阪)と中山克広(←清水)の両ワイドの推進力とクロスです。ユンカーや山岸にかなりのチャンスボールが入りそうです。

インサイドハーフには森島司や稲垣祥、アンカーには柏から獲得した椎橋慧也や米本拓司、さらにマルチロールの和泉竜司もいる。センターバックは、藤井陽也(→コルトレイク)、丸山祐市(→川崎)、中谷の3人が移籍したことで心許ないんだけど、韓国から連れてきたセンターバックのハ・チャンレ(←浦項)も攻撃の起点になれる好タレントだし、そこまで大崩れしないんじゃないかと。就任3年目となる長谷川健太監督は地元テレビ番組で優勝宣言をするくらい気合が入っているそうで、6位以内は堅いのかなと思いました。守備面の不安という点ではマリノスと同じ課題を抱えていますけど、ハイラインを取りたいマリノスに対して名古屋はいざとなったら5バックで守れる強みもありますから。

河治 そのあたり、健太さんは開き直りがいいからね(笑)。僕も中盤から前の補強は素晴らしいと思います。椎橋の移籍は柏にとってはめちゃくちゃ痛い。柏の順位を大きく変えてしまうくらいの穴なので。ただ、守備の構築はそんなに簡単にはいかないと思うんですよね。いろいろな組み合わせを試したり、ちょっと時間が掛かるかもしれないです。健太さんはなんだかんだ“割り切りのいい男”だからうまくまとめてくると思うので、優勝の可能性だってある。でも、残留争いに巻き込まれる可能性もある。未知数の部分が多い感じですかね。ガンバもそうですけど、振れ幅が大きいと思っています。

舩木 前線に関しては、時間さえ与えれば2ケタ得点できる選手が3人もいる。まずそこは強いと思うんです。ただ、やっぱり僕も気になったのが、メンバーが大きく変わるディフェンスライン。新しい戦い方が序盤戦でうまくいかなくて、割り切って最終ラインを5枚にするサッカーへシフトしてしまうタイミングが意外と早めに来てしまう可能性があるかなと。名古屋は後ろがハマらないことには優勝争いはできないと感じていて、そこが未知数なのでBクラスにしました。

後編に続く

https://sports.yahoo.co.jp/column/writer/1511

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