2強に迫るのは浦和、広島、FC東京か? キャンプに密着した識者3人によるJ1展望座談会
「クラブ力」が最も優れている横浜FM
●Aクラス予想(※並び順は北から)
河治:浦和、川崎、横浜FM、C大阪、広島、鳥栖
青山:浦和、FC東京、川崎、横浜FM、C大阪、広島
池田:浦和、FC東京、川崎、横浜FM、広島、鳥栖
河治 チャンピオンチームの横浜F・マリノスには、継続性がベースにありますよね。ですから、ここから「変化」するというよりも、昨シーズンのチームをベースに、どう「進化」していけるかがポイントになってくると思います。
ただ、チームの屋台骨を背負っていた岩田智輝(→セルティック)が抜けたのは大きい。正直、J1MVPの穴を埋められる選手なんて、簡単には見つかりませんから。そこを1人じゃなくてチーム全員でカバーする、あるいは岩田にはないプラスアルファを、例えば藤田譲瑠チマのような選手がもたらしていけるかでしょうね。
青山 昨シーズンのF・マリノスは毎週のようにスタメンが変わりましたが、誰が出てもそれぞれの良さが上手く噛み合っていました。それでも岩田や、起用法にかかわらず高い決定力を見せていたレオ・セアラ(→セレッソ大阪)、さらに仲川輝人(→FC東京)も含め、チームの根幹を成すような選手たちが抜けたのは、ちょっと不安ですね。今のJ1は選手層が厚くないと勝ち上がれませんから、余計に彼ら主力の穴をどう埋めるのかは気になるところではあります。
河治 ただ昨シーズンも、ここまでやるとは思わなかったような選手、例えば西村拓真なんかがものすごくいい働きをしたじゃないですか。個人的にV・ファーレン長崎から加入した植中朝日は、そういう存在になりうると見ていますし、センターバック(CB)の上島拓巳(←柏レイソル)もポテンシャルはとても高い。期待値込みになりますが、補強に関してはプラスの要素もなくはないと思います。
青山 大分トリニータから加入の井上健太も、あの右サイドからの突破は面白そうです。だから計算は立ちにくいけれど、河治さんが言うように期待値込みで、彼らがF・マリノスに来てどう成長していくのか、見守っていきたいですね。
──タツさんは、今シーズンのF・マリノスをどう見ていますか?
池田 僕が何よりも重視するのは「クラブ力」なんです。結局、単純な選手のイン&アウトだけでは今の時代、予想は難しい。そのクラブがシーズン中にどんな補強するかだとか、コーチングスタッフを含めたクラブ全体の力、そういったものが順位予想の骨子になると思っていて、その点で最も優れているのが、F・マリノスなんです。このチームは、シーズン中に必ず足りないところを埋める素晴らしい補強をしますからね。それはもう何年も続いていて、決して偶然ではありません。
もちろん岩田が抜けたのはきついですけれど、クラブ力を考えれば、僕は優勝候補の筆頭かなという気もしています。
川崎の宮代は「ここでやらなきゃ……」
──なるほど。では、対抗馬となりそうな川崎はどうでしょう?
河治 僕は(中下位チームに)食われる可能性もあると見ています。最終ラインの柱だった谷口彰悟(→アル・ラーヤン)が抜けたことに加え、前線に怪我人が相次いでいることもマイナス材料。ボールを持てるチームだし、止める・蹴るはみんな上手いんですけれど、前線に迫力をもたらしていた選手たち、レアンドロ・ダミアン、家長昭博、小林悠といったところが軒並み出遅れているので、そこを控え選手たちがどこまでカバーできるかでしょうね。特に3年ぶりに復帰した宮代大聖(←サガン鳥栖)には期待していて、ことシュート力に関しては、彼は日本一だと思っていますから。
青山 登里享平と大島僚太が怪我なく順調にきていたのは、ポジティブな材料でしょうね。あの2人が万全でいてくれれば、間違いなく川崎のクオリティは担保されますから。あと、宮代の話が出ましたけれど、言ってみれば、彼にとってこんなチャンスはないわけじゃないですか。「ここでやらなかったら男じゃない」くらいの意気込みでやってくれると思っています。
それから、高卒ルーキーの名願斗哉(←履正社高)。見ていて本当に面白い選手ですよね。紅白戦でも左サイドからのカットインプレーなど、持ち味をしっかりと出していましたし、これも期待値込みなんですが、1年目からチャンスは結構あるんじゃないかと。そこで一発決めれば、一気に「ネクスト三笘薫」にもなれるかもしれません。
池田 今年の川崎は新しいことにトライしていて、特に攻撃時の動き方がこれまでとはかなり違うんです。だから正直、全選手が付いていけているかと言ったらそうではないんですが、山根視来なんかは「久々に新しいことをやって、すごく刺激的で楽しい」と話していましたし、チームとして前向きに取り組んでいる印象を受けました。現体制も7年目と長くなりましたが、鬼木達監督が優秀だなと思うのは、こうして常に新しい刺激を入れて、チームを停滞させないところなんです。
選手では宮代、名願に加えて、京都サンガF.C.から加入したGKの上福元直人にも期待しています。もちろんチョン・ソンリョンのシュートストップは凄いんですけれど、何回もボールに関わって、作り直して、みたいなビルドアップの部分では、上福元が一歩リードしている。このオプションを得たのは相当大きいんじゃないかな。
あと僕は、大島が全試合に出場するくらい、シーズンを通して良好なコンディションを維持できれば、普通に川崎が優勝すると思っています。彼は別格の選手ですから。
──宮代、名願の印象は?
池田 名願は手足が長いモデル体型で、相手より先にボールに触れるリーチがある。同じ左サイドだし、プレーを見ていても三笘を彷彿とさせますね。宮代については、青山さんもおっしゃっていましたが、ここで燃えないわけがないでしょ、ってことです。L・ダミアンも小林もいない序盤戦は特に、彼が前線を引っ張ってくれないと。
浦和は「1年目だけれど1年目じゃない」
優勝するための1つの条件として、僕は「立ち戻れるベース」をクラブとして持っているかどうかってことを、すごく考えるんですね。だから、これまでのベースを引き継いで戦えるという意味で言うと、今シーズンのレッズは、スコルジャ体制1年目だけれど1年目じゃないという見方を、僕はしてもいいんじゃないかなと思うんです。DAZNで一緒に沖縄キャンプ取材に行った浦和OBの槙野智章さんも「今シーズンは期待できる」って話していましたよ。
──コンサドーレ札幌から復帰した興梠慎三も、調子が良さそうでしたよね。
青山 本人も、体のキレがここ数年で一番いいって話していましたよ。面白い人だし、若手にも積極的に絡んでいますよね。
池田 もう青山さんが言ってくれたことがすべてですね(笑)。「1年目だけれど1年目じゃない」っていうのは、本当にそうで。スコルジャ監督はすごくリアリストで、とにかくいいものは全部残すくらいの勢いでやっている。大きな変化は感じないけれど、逆にそこがメリットになりそうな気がしています。
あとは、僕が言っている「クラブ力」の中にはコーチングスタッフも含まれていて、パッと見の印象ですが、浦和はJリーグでも一番コーチの数が多いように見えます。今はサポートの時代で、コーチの数は多ければ多いほどいいくらい。ヨーロッパのクラブチームを見ても、とんでもない人数がいますからね。ビッグクラブだと、例えば分析担当だけで6人とかは当たり前になっている。その意味で、浦和はそういったサポートスタッフが非常に充実しているなっていう印象を受けますね。
──不安材料はないですか?
池田 ブライアン・リンセンが今年はかなりやってくれそうで、他の既存の外国籍選手も含めて、きちんと彼ら助っ人がキャンプに間に合ったというのは大きいでしょうね。逆に言うと、今年獲得したCBのマリウス・ホイブラーテン(←ボーデ・グリムト)の合流が2月になったのは、1つの不安要素です。浦和の場合、例年こうした移籍関連の動きが遅いのは、クラブとしての課題でしょうね。
──広島に関しては、3人の中でも河治さんが一番熱く推しているようですね。
河治 ほぼプラス要素しか見当たらないんです(笑)。チームの骨格となる主力が残った上に、満田誠や川村拓夢ら若手の成長も期待できるし、さらに志知孝明(←アビスパ福岡)っていう本当に広島のスタイルに合いそうなサイドの選手や、ルーキーですがいきなりレギュラーになってもおかしくないCBの山﨑大地(←順天堂大)も獲りましたから。
あとはミヒャエル・スキッベ監督の高い要求に選手も応えて、今の広島はトランジションの部分が川崎やF・マリノスに比べても速いんですね。攻守の切り替え時に、どこにいて、どこで受けるべきかがすごく整理されているからタイムラグがない。佐々木翔のようなベテランも含めて、スキッベさんのもとで成長したいという意欲が伝わってくるし、オフの上積みを考えれば、F・マリノス、川崎との立ち位置を逆転するのは十分に可能だと思っています。
青山 スキッベさんは昨シーズン、コロナ禍で来日が遅れたにもかかわらず、これだけのチームを作ってきましたからね。トルコでのキャンプを通じて、さらにそのサッカーのクオリティが上がっているのだとすれば、今年も安定して上位には入ってくるでしょうね。
ただ心配なのは、選手層がそんなに厚くないということ。もし、主力に怪我などのアクシデントがあれば、厳しくなるかもしれません。とはいえ、チームの年齢構成もいいし、大型補強をせずに積み上げてきたという意味でも、非常に好感が持てます。来年は新スタジアムもできますし、そこに向けて今年もうワンステップをしようというクラブとしてのビジョンも明確ですよね。
河治 棚田遼っていうユース出身の19歳のアタッカーも、すごくいいですよ。去年の満田みたいにブレイクする可能性があるので、そこにも注目してください。
池田 僕が思うに、Jリーグのクラブが強くなる一番の方法って、トルコでキャンプすることなんですよ、マジで(笑)。イビチャ・オシム監督時代のジェフユナイテッド市原(現千葉)、曺貴裁監督時代の湘南ベルマーレがそうでしたけれど、ヨーロッパではトルコでキャンプをするのが当たり前。なぜかというと、そこでキャンプをしているチームがたくさんあって、とにかく練習試合が多く組めるからなんです。僕は以前から「Jクラブはトルコに行け」ってずっと言っているんですけれど、トルコでヨーロッパ勢とバチバチの試合ができるのは相当な刺激だし、その経験が間違いなくこの1年の成長にもつながってくる。
昨シーズンの戦いぶりを見ていても、スキッベさんの引き出しはまだまだ山ほどあるはずで、今シーズンの広島は、僕が一番期待するチームでもありますね。
FC東京は完成度アップが仇に!?
──次はFC東京(昨季6位)にいきましょう。まずタツさんから、Aクラスに入れた理由を教えてください。
池田 今回の順位予想で重要な判断基準は、「継続性」だと思うんです。FC東京の場合も、就任2年目のアルベル監督の意向に沿ったチーム編成をしていて、仲川、小泉慶(←サガン鳥栖)といった新戦力は、まさにアルベルさんが必要としていたタイプ。特に前プレ(前からのプレス)がハンパなくて、2度追い、3度追いも当たり前という小泉のスプリント力を手に入れられたことは、非常に大きかったと思います。
それにF・マリノスで優勝を経験した仲川、鹿島アントラーズに在籍していた小泉には勝者のメンタリティが備わっていて、勝ちにこだわる姿勢を、彼らがチームに注入してくれてもいますよね。
楽しみなのが18歳の3人、俵積田晃太、熊田直紀、荒井悠汰ですね。練習試合から「開幕スタメンしか考えていない」くらいのオラオラ感(笑)。彼ら18歳のルーキーがこれだけのアピールをすれば、主力クラスだって刺激を受けますからね。まさに好循環が生まれていますよ。もちろんこれには、昨シーズンに高卒ルーキーで開幕スタメンを飾った松木玖生の影響が、間違いなくあるでしょう。こうした若手の突き上げによって活性化されたFC東京は、すごくいいチームになっていると思います。
青山 インサイドハーフに松木、小泉、安部柊斗といった強度の高い選手を置いて、さらに前線に仲川、ディエゴ・オリヴェイラ、アダイウトンを並べた布陣は、かなり破壊力がありそうです。やはり点が取れないと優勝争いには絡めませんから、そこは期待しています。特に松木が、高校時代みたいにどんどんゴール前に飛び出して行けるようになれば、彼自身も一皮むけるでしょうし、チームも違った景色が見られるんじゃないかと思っています。
池田 1つだけ懸念点を挙げると、僕はアンカーのところだと思う。誰をメインにして、誰がここでボールを捌くかというのは、練習試合でもなかなか見えてこなかった。昨年、このポジションにコンバートされた東慶悟も頑張っていますが、捌くタイプではないですからね。今シーズンも塚川孝輝などインサイドハーフの選手が下りてきて“偽アンカー”のように振る舞うことで、騙し騙しやっていくことになるかもしれません。
──河治さんは唯一、FC東京をAクラスから外していますね。
河治 僕はアルベル監督のサッカーが浸透することで、逆に順位は落ちるのかなと考えているんです。昨シーズンのチームはまだ完成度が高くなくて、ある種リアリストに徹することができた。もっとつないでくるのかと思いきや、カウンターでひっくり返して勝ち点を拾うケースが結構あったんです。それがベースアップをしたことで、対策もされやすくなるし、かといってF・マリノスや川崎レベルのパス&ムーブができるかと言えば、先ほども出たようなアンカー問題もあって、なかなかそこまでにはいかない。
もちろん戦力値は去年よりもアップしているんですが、パフォーマンスは上がるけれど結果がついてこないというパターンに陥る危険性が、結構あるんじゃないかと見ています。あとは松木が、シーズンを通してチームに留まるのかどうかという心配もありますね。
池田 確かに、夏に海外移籍をしてしまう可能性はありますよね。ただ僕はそれ以上に、松木が18歳トリオに与える影響力や、仲川や小泉がもたらす勝者のメンタリティといったプラスの要素の方が大きいと思っています。
──青山さんと河治さんがAクラスに入れているセレッソ大阪(昨季5位)はどうでしょう? 香川真司(←シント=トロイデン)も戻ってきましたけれど。
青山 完全に2チーム分の選手層ができましたよね。昨シーズン、途中出場から流れを変えていたジェアン・パトリッキ(→ヴィッセル神戸)の移籍は不安材料だったんですけれど、それを補って余りある陣容が整いましたし、すべてのタイトルを獲りに行くんじゃないかって思えるくらいの印象さえ受けます。
ただ、香川の加入については、正直、彼の使い方が見えてこない。今のチームは攻守両面ですごくハードワークを求められますからね。はたしてそこに、香川がハマるのかと。逆に言えば、小菊昭雄監督が香川をどうフィットさせるかが、今シーズンのセレッソを左右する大きなポイントになるような気がしています。
河治 香川は運動量や強度というより、ポジショニングでコースを消していく守備のスタイルで、それが現在のセレッソのスタイルと合うのかっていう疑問は、僕も感じています。ただ、それでも攻撃のクオリティは上がるでしょうし、チーム全体の守備のベースは高いレベルで整備されていて、なかなか崩れることはないので、僕はマイナス面よりもプラス面の方が上回ると見ています。
池田 僕はBクラスと予想しましたけれど、選手層に関してはAクラス。でも気になるのは、新加入のレオ・セアラがどれだけゴールを決められるのか、というところですね。F・マリノスでの去年のプレーを見ていても、今シーズンのセレッソで爆発するとはちょっと想像できない。
あと、去年のセレッソは、広島みたいに前から来るチームに弱くて、その問題が今シーズンの後ろのメンバーを見るかぎり、すぐには解決しないんじゃないかとも思うんです。もちろんこれだけの選手層だから、なんらかのタイトルに絡んでもおかしくはないんですが、自信をもってAクラスに推せない材料もあるんです。
鳥栖の一番の魅力は川井監督
──宮代や垣田裕暉(→鹿島)らがレンタルバックして抜けた穴も埋まると?
河治 それを補って余りある補強を実現していますし、ここもFC東京と同じくアカデミーが充実していますからね。竹内諒太郎、坂井駿也といったユース育ちの18歳コンビは、3年半後のワールドカップには自分たちが出ると言っているくらいで、とにかく意欲に溢れている。そういった雰囲気や勢いに僕も引き寄せられて、予定よりも多く鳥栖のキャンプに足を運んでしまいました(笑)。
池田 鳥栖の場合はなんと言っても監督が魅力的ですよね。いろいろなチームのキャンプを見ましたけれど、川井監督と京都の曺貴裁監督の練習が図抜けて面白かった。鳥栖の練習は30分とか40分でスパって終わることもあって、それも今風ですよね。ちなみにデータによると、シーズンの1試合平均スプリントが200を超えたのは、19年のF・マリノスと昨シーズンの鳥栖だけらしいんです。練習が短時間で終わるのも、シーズンを通してパフォーマンスを維持するには、今はこれくらいの強度でやればいいという、データの裏付けがあるからなんです。
今年から強化部門のトップ(スポーツダイレクター)に小林祐三さんが入ったことで、例年に比べて流出する選手も少なく抑えられたし、浦和と同様、スタッフの数も多い。「クラブ力」がかなり高いチームであることが、鳥栖をAクラスに推す理由ですね。
──そんな鳥栖を、青山さんだけがAクラスから外していますね。
青山 これまでの鳥栖は、垣田や宮代みたいな選手を他からレンタルしながらチームのベースを築いてきましたが、自分たちで育てた選手たちを中心にやっていくのはこれからだと思うんです。まだクラブとして成長段階で、近年はアカデミーも各年代で全国制覇をするなど伸びしろは十分にありますが、僕が挙げた上位6チームの一角を崩すまでには至らないんじゃないかと。だからBクラスの上位というのが、僕の見立ててですね。
汗臭さや泥臭さが消えた鹿島
青山:鹿島、柏、名古屋、G大阪、神戸、鳥栖
池田:札幌、鹿島、名古屋、京都、G大阪、C大阪
池田 今、チーム力とかクラブ力とかが問われる中で、鹿島は強化部の補強ポイントと監督の意向がズレてしまっているような印象を受けますね。岩政大樹監督は「新しい鹿島を作る」と言っているのに、強化部は昔の鹿島の選手を連れてくる。加えて監督の言葉が抽象的で、何をやりたいのかが具体的に見えてもこない。昨シーズン半ばに就任して、リーグ戦11試合で2勝しかできなかったのも、決して偶然ではないと思うんです。
青山 岩政さんはたぶん、新しい鹿島を作るために、昔の鹿島を知っている植田直通(←ニーム)や昌子源(←ガンバ大阪)といった選手たちがベースとして必要だと思ったんじゃないかな。鹿島の強さって、ピッチ上での臨機応変さや個々の対応力にあったわけだけれど、そういった「らしさ」が薄れてきてしまっているから。
ただ、そこからどんなふうに新しい鹿島を提示していくかっていうと、いわゆるチームビルディングの部分で、上手くハマっていないのかもしれませんね。
池田 鹿島というチームには、「勝利のためならどんなことでもする」っていうカルチャーがあって、選手もサポーターも、とにかく「勝ち点3を奪うこと」にプライオリティを置いてきたんです。そういったアイデンティティ、自分たちの一番良かった部分がなくなってしまったことが、今抱えている大きな問題なんじゃないですか。
河治 確かに、汗臭さとか泥臭さがないですよね。いい意味での汚れ感というか、『魁!!男塾』っぽさが消えて(笑)、すごくきれいにまとまってしまった。
戦力面で言うと、単純にサイドバック(SB)の守備強度が足りていない。だから、例えば右SBの常本佳吾に何かあったりすると、途端に苦しくなるわけです。かなり前輪駆動型のチームで、さらに昌子が怪我で開幕に間に合わないわけですから、すでに今の段階で黄色信号ですよ。
青山 「鹿島の魂」みたいなものを知っている昌子と植田が、言葉とプレーでどこまで周りを引っ張っていけるか。そこが今シーズンのチームビルディングを左右する大きなポイントになるでしょうね。結局、チームとして立ち戻るベースというものが、今は定まっていないような気がしています。
──同じく3人がそろってBクラスとした名古屋グランパス(昨季8位)は、どう見ていますか?
池田 僕はAクラス入りもあると見ています。去年が厳しかったのは、キャンプ中にクラスターが発生した影響もあると思うんですが、今年は長谷川健太監督も2年目で、まず準備段階でしっかりやれたのは大きいですね。実際、メンバーを見ても日本人選手はほぼ代表クラスじゃないですか。戦力はトップレベルだし、あとはキャスパー・ユンカー(←浦和)がハマるかどうかがポイントになるでしょうが、僕は結構やれるんじゃないかと見ています。
河治 健太さんのサッカーって、良くも悪くも前にスペースができやすいので、ユンカーがやりたい放題になる可能性はすごくあると思いますよ。健太さんはチーム全体として求める強度は高いけれど、個別にはさじ加減ができる監督でもありますから、ユンカーに「灰になるまで走れ」なんてことはきっと言わない(笑)。
池田 練習試合を見て思ったのは、中盤に展開力がないこと。それは懸念材料でもあるんだけれど、いわゆる「行ってこーい!!」って言って、実際に行けるユンカーやマテウス・カストロ、永井謙佑といったストライカーには、逆に合っているかもしれません。
青山 ユンカーに関しては、健太さんも彼に点を取らせるためのサッカーを考えていると思いますよ。周りをハードワークができる選手で固めて、ユンカーには最低限の守備だけしてくれればいいって。そうなれば、カウンターを仕留める決定力はあるので。
今シーズンはたぶん、中盤に構成力を求めていないんじゃないかって気がします。ボランチを1枚にするか2枚にするか分かりませんが、稲垣祥も高い位置で持ち味を発揮するタイプだし、だからボールを保持して戦うというよりは、ある程度構えて、奪ってから早く攻めるスタイルになると思います。その意味で、ラストパスが出せる和泉竜司(←鹿島)が戻ってきたのは大きいでしょうね。
池田 ただ、今のチームで一番割を食っているのは和泉でしょう。中盤と前線の繋ぎ役ができる気の利いたタイプは彼しかいないから、とにかく中盤を作って、前線にも顔を出してと、あらゆる仕事をやらされているんです。
河治 でも、それが和泉の和泉たるゆえんでもありますよね。いわゆる掃除人になれるのは彼のストロングだし、名古屋のごつごつとしたパーツをつなぎ合わせる接着剤の役目を担ってくれると思いますよ。
池田 完全に、パルマ時代の中田英寿に見えましたね(笑)。ムトゥとアドリアーノがいたチームで、足りないところをすべて埋めてくれて。
青山 確かに。和泉が1年間フル稼働できれば、後ろも安定しているし、名古屋は十分Aクラスに入れると思いますよ。
※後編に続く
(企画・編集/YOJI-GEN)



