京都、湘南、昇格組の新潟にサプライズの可能性も キャンプに密着した識者3人によるJ1展望座談会

 日々Jリーグを追いかけ、このオフも精力的にキャンプ取材を行った3人の識者、河治良幸氏、青山知雄氏、池田タツ氏(プロフィールは文末を参照)による、2023年シーズンのJ1リーグ展望座談会。AクラスとBクラスについて評価してもらった前編に続き、後編では残りのBクラスとCクラスについて、各チームの戦力を分析していただく。
●Aクラス予想(※並び順は北から)
河治:浦和、川崎F、横浜FM、C大阪、広島、鳥栖
青山:浦和、FC東京、川崎F、横浜FM、C大阪、広島
池田:浦和、FC東京、川崎F、横浜FM、広島、鳥栖●Bクラス予想(※並び順は北から)
河治:札幌、鹿島、柏、FC東京、名古屋、G大阪

青山:鹿島、柏、名古屋、G大阪、神戸、鳥栖

池田:札幌、鹿島、名古屋、京都、G大阪、C大阪

※詳しくは前編をご確認ください。

補強した選手の粒が一番大きいG大阪

──続いて、みなさんがBクラスに入れたガンバ大阪(昨季15位)を見ていきましょう。

青山 ガンバはAクラスにも上がれるし、Cクラスに落ちる危険性もあると思っていて。徳島ヴォルティスからポゼッションスタイルを掲げるダニエル・ポヤトス監督を呼びましたが、それによってボールを繋ぐことが目的のサッカーになるのではなく、ちゃんとゴールから逆算したボール回しができるかどうかで、順位も変わってくるでしょうね。ただ、前線にチュニジア代表のイッサム・ジェバリ(←オーデンセ)、ボランチにイスラエル代表のネタ・ラヴィ(←マッカビ・ハイファ)が加わったことで、これまで多くの役割を託されていた宇佐美貴史の負担は軽減されるでしょうね。去年は大きな怪我もあって、シーズンをほぼ棒に振った宇佐美ですが、背番号を「7」に変え、キャプテンも務める今シーズンは、かなりやるんじゃないかと見ています。河治 純粋に、補強した選手の粒が一番大きいですよね。正直に言うと、最初はCクラスにしようかとも考えたんですが、オフの補強で軸となるような選手が3、4人入ってきて、宇佐美におんぶに抱っこのチームではなくなった。ポヤトスさんのサッカーが完成するにはまだ時間がかかるでしょうが、去年のFC東京のように、完成しない中でもそれなりの結果は出すんじゃないかと思います。

池田 これまでのガンバは、良い意味でも悪い意味でも宇佐美の存在感が大きすぎましたが、ここ数年でかなり若手が台頭してきた。昨シーズンの山本理仁(21歳)、中村仁郎(19歳)に加え、このオフには湘南ベルマーレから谷晃生(22歳)を呼び戻し、モンテディオ山形からはパリ五輪世代の半田陸(21歳)も獲得した。新しいガンバを作っていく彼らがベテラン勢を脅かし、チーム内に良い切磋琢磨が生まれれば、僕はAクラス入りもあると思っています。

ただ、一番大きかったのは、確実に点が取れるジェバリを獲得できたこと。得点王になってもおかしくない力があるし、鈴木武蔵あたりもかなり触発されているようですよ。

小林が札幌にもたらすインテリジェンス

──続いて北海道コンサドーレ札幌(昨季10位)ですが、唯一Bクラスからも外した青山さんから、その理由を聞かせてください。青山 まず、どうやって点を取るのかなっていうのがあって。確かに中島大嘉などブレイクを期待したいタレントはいますが、高嶺朋樹(→柏レイソル)、興梠慎三(→浦和レッズ)、ガブリエル・シャビエル(→未定)といった中心選手がいなくなり、点を取れるイメージが湧かないんです。パリ五輪世代の馬場晴也(←東京ヴェルディ)の獲得とGKク・ソンユン(←金泉尚武)の3年ぶりの復帰で、後ろは安定すると思うんですけどね。

河治 僕は逆に、FWのメンバーには可能性しか感じない。エース格の小柏剛はもちろんですが、中島も興梠のプレーを見て学び、チームのために働きながら個人としてスペシャルな部分も出せるようになってきています。さらにキム・ゴンヒの高さを生かす形も持っている。確かに絶対的なストライカーがいないので、僕もBクラス止まりにしましたが、逆にフィニッシュの部分さえ上手く行けば、ACL出場権を争ってもおかしくない。

その大きな根拠の1つが、小林祐希(←ヴィッセル神戸)の存在ですね。彼を獲得したことで、札幌の攻撃にインテリジェンスが加わった。ミシャさん(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)のサッカーって、ときにオートマティックに振れすぎてしまう傾向があるんですが、小林がいればそこにクリエイティブな変化を与えられる。

あとは、馬場ですね。本人はセンターバック(CB)で勝負したいんでしょうけど、前向きにボールを奪いに行けるプレースタイルを考えても、僕は中盤で使って、小林とコンビを組ませた方が覚醒する可能性が高いし、チームとしてもより多くのチャンスを作っていけると思っています。

池田 韓国人の2人、キム・ゴンヒとク・ソンユンがしっかり活躍すれば、全然Aクラスもありえますよ。FWに関しては、みなさんが推す中島よりも、僕はキム・ゴンヒに期待していて。キャンプを見ていても、凄すぎましたから。彼をシーズンの頭から使えるのは、札幌の最大の強みでしょうね。

このオフに獲ってきた選手はみんな有能で、僕が再三言っている「クラブ力」も高い。練習試合では、小林、馬場の新戦力2人が、誰よりもミシャさんのサッカーを体現していたくらいですから。

河治 ミシャ・サッカーがベースにある上で、そこにプラスアルファを加えられるのが、その2人ですよね。

池田 まさにそう。特に小林はシャドーもボランチもできるから、その幅の広さは札幌にとって大きいと思いますね。馬場に関しては、僕は1トップをやってもいいんじゃないかって思うくらい、シュート力がエグい(笑)。セカンドボールを拾って、ミドルをズトンに期待したいですね。

──その札幌から高嶺を獲得した柏(昨季7位)はどうですか?

河治 柏は、現時点では良くも悪くも計算できない選手が多いですよね。去年のレギュラーの半分くらいが変わりそうで、高嶺も含めた新戦力がどの程度フィットするか、蓋を開けてみないと分からないところがある。

青山 確かに、未知数すぎますよね。上手くハマらなければ残留争いに巻き込まれる可能性もある。特に最終ラインから、キャプテンシーを持った選手たちがごっそりいなくなってしまったのは心配です。大谷秀和も引退したし、誰がチームリーダーになるのかなって。大谷はコーチに転身しましたけど、ピッチ内に「柱」が見当たらない。例えば、山田康太(←モンテディオ山形)がJ1でどんなプレーをするのかとか、楽しみな選手は多いんですけどね。

河治 ワクワク感はあるんですよ。ただ戦えるチームかと言われると、本当に古賀太陽なんかが覚醒してメンタルリーダーになっていかないと、厳しいかもしれませんね。

池田 僕が柏をCクラスにしたのは、ディフェンスラインに不安があるから。まったくもって駒不足だし、なかでも高橋祐治(→清水エスパルス)がいなくなったのは、柏にとって最大の痛手でしょう。昨シーズンも、彼のところで全部はね返していましたからね。

攻撃に関しても、細谷真大がどこまでやれるのかという懸念があります。昨シーズンも序盤戦は良かったけど、終盤戦でペースダウンしましたからね。

河治 いい補強はしているんですよ。オランダ人FWのフロート(←ヴィボー)なんかは、浦和にやってきた頃のユンカーみたいに、チームに新たな側面をもたらしてくれるかもしれない。

池田 柏のプラス要素は、“鳥栖味”があるということですね。小屋松知哉と仙頭啓矢のコンビとか、三丸拡やジエゴなど、かつて鳥栖で一緒にプレーした選手が多いこと。それぞれの特徴を分かり合っているのは大きいと思いますね。あとは、GKの佐々木雅士。僕は今シーズンのブレイクを予想していて、活躍次第ではA代表に呼ばれてもおかしくないタレントだと思っています。シュートストップはもちろん、足元も上手いので、ポゼッションをベースとする“鳥栖味”のあるサッカーをすれば、間違いなく彼は生きるでしょうね。

京都が取り入れるW杯のトレンド

●Cクラス予想(※並び順は北から)
河治:横浜FC、湘南、新潟、京都、神戸、福岡
青山:札幌、横浜FC、湘南、新潟、京都、福岡
池田:柏、横浜FC、湘南、新潟、神戸、福岡──と言いながら、タツさんは柏をCクラスにしていて(笑)、代わりに京都サンガF.C.(昨季16位)を唯一Bクラスに推していますね。

池田 ダークホースですね。去年はプレーオフに回りましたけど、チームとしてやりたいことはずっとできていたし、成長もしている。それでも結果が出なかったのは、ピーター・ウタカ(→ヴァンフォーレ甲府)がコロナになって、点が取れなくなってしまったからなんです。曺貴裁監督に鍛えられた選手たちは、判断力が高くて、どんな状況にも対応できる。FWの選手がしっかり決めてくれれば、僕は普通にBクラス入りがあると思っています。

新戦力で面白そうなのが、谷内田哲平(←栃木SC)ですね。京都の速いテンポのサッカーの中で、彼は唯一チェンジ・オブ・ペースができる存在。シュートもパスも技術レベルが圧倒的だし、この谷内田が上手くハマったら、京都は結構やるんじゃないかと。

青山 だけど去年の京都を支えていた選手たちが、ごっそり出て行ったじゃないですか。特にGKの上福元直人(→川崎フロンターレ)、左サイドバック(SB)の荻原拓也(→浦和レッズ)なんかが抜けた後ろが大丈夫なのかなって。一方で期待するのが、キャプテンに就任した川﨑颯太。彼がこのチームの核にならなきゃいけないし、日本代表の未来を考えても、なってもらわないと困る。アンカーとして、すでに中盤で潰す役割はできていますが、作る部分、例えば川崎の大島僚太くらいにボールを捌けるようになれば、京都にも上位に食い込むチャンスは出てくる。

池田 曺さんはカタール・ワールドカップ(W杯)を見て、トレンドも取り入れていますよ。それは「臨機応変さ」という部分で、これまでは川崎をアンカーに固定してきましたが、最終的には中盤の3枚をフラットに並べて、誰がアンカー役になってもいいよ、という形にまで持っていこうとしている。そうなれば、川﨑がゴール前に顔を出すシーンも増えてくるでしょうね。

河治 川﨑はここで京都の核となって、チームを上位に押し上げる中心的な存在にならないと。パリ五輪世代のアンカーは、藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)や松岡大起(清水)などもいて、競争が激しいポジションですからね。

あとは荻原の抜けた左SBと、ウタカがいなくなった前線の穴を埋められるかどうかでしょう。左SBでは個人的にアカデミー出身の植田悠太に期待しています。Jリーグ全体を見てもこのポジションは人材が不足していますし、若手が伸びてきてほしいという期待も込めて。

──ヴィッセル神戸(昨季13位)は、青山さんだけがBクラスに入れていますね。

青山 僕も最初はCクラスにしていました(笑)。選手は揃ってるんですけど、ベテランが多いから、練習の強度がなかなか上げられないみたいなんです。

ジェアン・パトリッキ(←セレッソ大阪)と汰木康也のいる左サイドは面白いし、昨シーズンを怪我で棒に振ったセルジ・サンペールもすでに練習に合流していて、前線には大迫勇也、武藤嘉紀がいて、アンドレス・イニエスタも少し落ちてはきたけどまだまだ健在。こうした個の力を融合して、組織力に高められるかどうかなんですが、その意味で問われるのは、選手たちをマネジメントするコーチ陣の技量だと思っています。ベテラン選手のフィジカルコンディションをいかにキープするか。これができなければ、開幕ダッシュに失敗した昨シーズンと同じ轍を踏む危険もあるでしょうね。

河治 戦力がちょっといびつすぎるというか、レギュラー陣が怪我などでいなくなった時に、チームが変わりすぎてしまうんですね。個人戦術への依存がすごく大きいチームだから、若手がベテランの穴を簡単にはカバーできない。もちろんポテンシャルの高い若手もいますが、結局チーム戦術の共有レベルが低いから、彼らもすっと試合に入って行けないんです。小田裕太郎(→ハーツ)とか、アカデミーからいい選手も育ってきてはいるんですけど、それをトップチームに上手く組み込めていない印象がありますね。

池田 吉田孝行監督は、いわゆる“修理屋”であって、“建築家”ではないので、チームビルディングの部分がかなり心配です。あとは、小林友希(→セルティック)、郷家友太(→ベガルタ仙台)、ボージャン・クルキッチ(→未定)、小田など、主力級の人材がかなり出て行ってしまったことも不安材料ですね。

河治 なにより郷家が出て行ったという事実が、現在の神戸を象徴していると思います。今後チームの核になるはずだった彼を、結局チームとして育てきれなかったわけですからね。

池田 徳島ヴォルティスにレンタルで出している櫻井辰徳(21歳)だって、なぜ呼び戻さないのか、分かりませんね。個人的に、大好きな齊藤未月(←G大阪)には頑張ってもらいたいですけどね。

湘南の選手層は過去最高クラス

──まだ触れていないのは、3人ともCクラスとした湘南ベルマーレ(昨季12位)、アビスパ福岡(昨季14位)、アルビレックス新潟(昨季J2優勝)、横浜FC(昨季J2の2位)の4チームですね。まず、湘南から話していきましょう。

池田 「クラブ力」ということを考えた場合、この20年にわたって湘南を支えてきた水谷尚人社長が去ったダメージは、相当に大きいと思います。戦力的には例年に比べても多くの主力を残せたとは思うけれど、僕はフロントの安定感のなさが露呈するシーズンになるんじゃないかと見ています。

青山 僕はハマれば、Bクラスの上の方まで行けるポテンシャルは十分にあると思っていて、特に日本代表の町野修斗が残留し、得点感覚に優れた山下敬大(←FC東京)も加わった前線は、結構やるんじゃないかと。それに後ろも永木亮太(←名古屋グランパス)が戻ってきて、杉岡大暉も完全移籍で残ってくれたし、選手層で言えば過去最高クラスと言っていいかもしれません。人格者として知られる山口智監督のもとで、湘南らしい一丸となった戦いができれば、少なくとも降格の心配はないでしょう。

河治 僕が個人的に注目しているのは、小野瀬康介。同じくガンバOBで兄弟みたいな関係性の山口監督のもとで、もう一度輝きを取り戻してくれるんじゃないかって期待しています。それから、新守護神のソン・ボムグン(←全北現代)。彼はJリーグ史上最強のGKになれるだけの器ですよ。そうやって見ていくと、全体的にタレントの粒はそろっていますし、町野に続き、プラスアルファの要素をもたらせるストライカーが現れれば、課題の得点力不足も解消できると思います。

東京五輪出場を逃した悔しさを成長の糧にしてくれそうな杉岡も含めて、こうして個々を見ていけば本当に楽しみは多いんですけど、ただチームとして見た時には、いろんなことがすべて上手く回らないと、なかなか厳しいんじゃないかなって。町野もシーズンを通して湘南で戦ってくれる保証はありませんしね。

池田 町野に関して言うと、湘南は海外で勝負したい選手がいて、そのタイミングが来たと判断したら、積極的に欧州に送り出そうとするクラブですからね。夏に彼がいなくなる可能性は、十分にあると思いますよ。

新潟は“力蔵力”でAクラス入りも!?

─続いて福岡にいきましょう。河治さん、いかがですか?
河治 プラス要素が非常に少ないですし、基本的には残留争いに巻き込まれる可能性が高いんじゃないかと思いますね。そうした中で、だからこそ長谷部茂利監督には、かつてJ2の水戸ホーリーホックを率いていた頃のようなアグレッシブなサッカーを見せてほしいんです。福岡でJ1に上がってから、ちょっとこじんまりしてしまった印象があるんですが、決して戦力的には恵まれていないなか、ここは長谷部さん自身がアップデートしていかないと、正直厳しいと思います。特に今シーズンは1チームしか降格しないレギュレーションですから、もっとチャレンジングなサッカーにトライしてもいいんじゃないかと。

池田 おっしゃる通りだと思います。川崎の鬼木達さんが良い例ですが、長期間、指揮を執っている監督は、チームに新しい刺激を与え続けなくちゃいけないんです。そうしないと、チームってすぐに腐ってしまう。だから、長谷部監督が何か新しい引き出しを提示しない限り、選手のイン&アウトを見ても、やはり苦戦は免れないでしょうね。

ただ東京ヴェルディから加入の佐藤凌我が、J1でどこまで通用するのかっていうのは本当に楽しみ。J2ではスーパーだった彼が、仮に15点くらい取るような活躍をすれば、あるいはジャンプアップもあるかなって思いますね。

河治 その意味では紺野和也(←FC東京)もそうですよね。彼のドリブルも独特で、もしかしたら福岡の上位躍進に寄与するような活躍を見せてくれるかもしれない。

青山 いや、それでもジョルディ・クルークス(→C大阪)が抜けたのは痛すぎるでしょう。Jリーグの中でもトップクラスのアタッカーだったし、紺野も独特のリズムを持つアタッカーですが、その代役が務まるのかなって。ファンマ・デルガド(→V・ファーレン長崎)、志知孝明(→サンフレッチェ広島)を含めた3人の穴は、そう簡単には埋まらないと思いますよ。

──昇格組の新潟と横浜FCですが、まず昨シーズンのJ2を制した新潟から。

河治 メンバーがほとんど変わっていないので、基本的にはJ2でやっていた戦い方を、そのまま引き継ぐことになるでしょうね。それがどこまで通用するかですが、個人を見ると、高宇洋や三戸舜介など何人かJ1レベルのタレントがいますから、個の力でチームを引き立てていくことはできるかもしれません。

とはいえ、今シーズンの新潟はとにかく残留することが大目標なので、17位でも十分なんです。その意味で、松橋力蔵監督は勝負に徹することができる人だから、ぎりぎりの勝負を拾っていくことも可能かもしれない。

青山 もちろんJ1で通用するものを求めて、J2でチーム作りをしてきたとは思うんですけど、プレスの強度がかなり上がるなかで、新潟のポゼッションサッカーどれくらい通用するかというのは、やはり未知数ですよね。というよりも、J1クラブのプレスの餌食になるんじゃないかっていう不安の方が先に立ちます。

攻撃にしても、1トップの谷口海斗は万能型で抜け出しが上手いストライカーとはいえ、チャンスメーカーの高木善朗が怪我で夏前くらいまでは戻ってこられないし、そうなると攻めのパターンが限られますよね。

河治 数少ない希望は、新潟が久しぶりに得意のブラジル・ルートを使って獲得したグスタボ・ネスカウ。確かに未知数ではあるけれど、彼がかつてのレオナルドのような活躍をすれば、それこそBクラスを狙えるところまで行ける可能性も出てくる。

それに力蔵さんって、選手活用が上手くて、いわゆる戦力外を作らない監督なんですよね。サブにした選手には、その理由をちゃんと説明できるから、誰も腐らないし、選手交代の効果も高い。そうした“力蔵力”が、J1を戦う上でモノを言うかもしれませんよ。

池田 僕はまさに、その“力蔵力”が発揮されれば、Aクラス入りだってあるんじゃないかと思っています。今オフにチームを離れた選手がほとんどいないのは、みんな松橋監督のもとで成長したいと思っているからで、サブの選手もここにいて幸せだからなんです。昨シーズンを見ていても、途中出場した選手が必ず活躍していましたからね。このチームは、まさにメンバー全員が“ガチ戦力”。そうした状況を作り出した松橋監督の凄さは、ちょっと計り知れない。

ただし、一番の心配の種はCB。J2では千葉和彦も舞行龍ジェームズもゴリゴリ持ち上がって、それがスペクタクルを生んでいたけれど、J1では受けに回らざるをえない時間がどうしても長くなる。はたして、現在のCBの陣容で、その攻撃を跳ね返せるかと言えば、やっぱり怖さがありますよね。

“梁山泊”のような横浜FCだが……

──では、最後は横浜FCですね。青山さん、印象はいかがですか?
青山 Jリーグもそれなりに長く見てきましたが、これだけ選手を入れ替えて機能したチームは、正直見たことがありません(新加入20人・退団11人)。J1に定着する基盤作りの1年にしたいとのことですけど、チームとして機能するのがシーズン終盤にならなければいいですね。その一方で、小川航基が久しぶりのJ1でどこまでやれるかっていうのは、たぶんサッカーファンなら誰もが注目していると思うんです。17年のU-20W杯で負った大怪我から、よくぞここまで戻ってきたし、活躍次第ではワンチャン代表入りもあるんじゃないかと、今シーズンの彼には期待しています。

池田 クラブ力、フロント力という点で見ると、そこはかなり怪しい。特に補強面で、本当に四方田修平監督が獲りたい選手を獲っているのかなって気がする。昨シーズンから監督が代わっていないのに、これだけ継続性が感じられないチームもないでしょう。だから期待値は低いし、僕は降格候補の筆頭だと思っています。

河治 僕も順位予想的には18位なんですけど、ただ四方田監督って、さっきの力蔵力じゃないけど“なんとかしちゃう力”があって、不思議な期待感もあるんです(笑)。選手で言えば、橋本健人(←レノファ山口)というスペシャルな左SBを獲って、彼が初めてのJ1でどこまでやれるかも、ぜひ見てみたいですね。

池田 不思議なのは、どうしてJ1のトップ5くらいのクラブが、橋本みたいな選手を獲りに行かないのかってことなんですよ。なぜ昇格組の横浜FCなのかって。

河治 橋本とか、欧州帰りの新井瑞希(←ジル・ヴィセンテ)とか、井上潮音(←神戸)とかが集まってきて、まさに“梁山泊”みたいになっている(笑)。

青山 だから、選手個々を見ていくと、めちゃくちゃ面白そうなんですよね。

河治 彼らが爆発したら、それこそ川崎とかF・マリノスも食っちゃう可能性もありますよ。そういった“梁山泊味のあるチーム”を、“なんとかしちゃう力”のある四方田監督がまとめるわけですよ(笑)。

池田 このチームで一番、梁山泊味のない人だけどね(笑)。

──さて、こうしてJ1の18チームを一通り見てきましたが、今シーズンならではのトレンドみたいなものはありそうですか?

池田 今年のキャンプを見ていて、明らかにこれまでと違ったのは、どこも5人交代制でゲームチェンジすることを前提にチームを作っているってことなんです。W杯の影響もあるんでしょうが、2つ、3つのフォーメーションは当たり前、試合中の3枚替えで一気にチームを勢いづかせるとか、それをやるための層の厚さ、バリエーションを用意している感じがすごくするんです。

特に、監督が複数年目になっているチーム、つまり継続性のあるチームは、やはりその準備がしっかりできているし、きっとそういったチームが上位に行くんだろうなっていう感じはしています。

──それは、Aクラスで言うと川崎とかF・マリノスとかになるわけですね?

池田 F・マリノスはキャンプを見ていないのでなんとも言えませんが、川崎は間違いないし、鳥栖や浦和なんかもそうでしょうね。とにかくレギュラーを定めるというよりは、20人ぐらいのグループで回していく感じです。

河治 それは本当に分かります。J2の話になってしまうけど、ジュビロ磐田の横内昭展監督も、キャンプから3セット分のチームを作っていますから。いつでも交代できるメンバーを用意しておくっていうのは、もはやチーム作りの前提なんですよね。

池田 例えば札幌なんかも、力強いオプションを持てるチームになったし、現状では誰もAクラスに入れていないけど、上手く回せば一気にジャンプアップしてくるかもしれない。そもそもミシャさんは、大胆な選手交代で流れを変えていくのが得意な監督ですからね。

青山 川崎は谷口彰悟、F・マリノスは岩田智輝が移籍して戦力がダウンしていますから、こうして予想してみると、今年ほど本命を決めにくいシーズンもないですよね。大混戦になるんじゃないかと思います。

河治 ここ6年間は川崎とF・マリノスがリーグを制してきましたが、この2チーム以外からチャンピオンが誕生してもおかしくないですね。

(企画・編集/YOJI-GEN)

河治良幸(かわじ・よしゆき)

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カード は1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意としており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

青山知雄(あおやま・ともお)

2001年からJリーグやJクラブの各種オフィシャル案件で編集やライターを歴任。月刊誌『Jリーグサッカーキング』で編集長も務めた。関係各所に太いパイプを持ち、現在はDAZNでコンテンツ制作に従事しながら、Jリーグ、日本代表の取材を継続中。

池田タツ(いけだ・たつ)

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。
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