ガンバ大阪のイェンス・ヴィッシング監督が電撃離脱。三上大勝フットボール本部長が経緯を明かす。
■クラブの慰留にも「このチャンスを逃したくない」。
7月6日、ガンバ大阪はイェンス・ヴィッシング監督のチーム離脱を発表した。
クラブに激震が走ったのは先週半ばだったという。
7月8日に本件の取材に応じたガンバ大阪の三上大勝フットボール本部長によれば、正式な申し入れがあったのは「具体的なところは言えなくて申し訳ないですが、先週の、週頭と言えるかどうかのタイミング。日本時間の夜中でした」とのこと。オフシーズン中もヴィッシング氏とは1日に2〜3回の頻度で連絡を取り「2026/27シーズンに向けたチーム編成を軸に話し合いを続けてきた」と三上氏。その言葉からも寝耳に水だったということだろう。
もちろん、その過程において6月半ば頃からSNSで同氏が他クラブの監督に就任するのではないか、といった話題が持ち上がっていることは「知っていた」とし、それを受け、クラブとしても水面下でリスクヘッジのための周辺調査は行っていたそうだ。だが、三上氏にしてみれば、ともすればシーズン中にもまして本人と密に連絡を取り合う毎日が続いていた中でもヴィッシング氏から一度もそうした話題が出なかったこと。「対話の中身がすべてガンバでのプロジェクトの進捗と、具体的な打ち手についての話し合いだった」となれば、「このような事態を想像できていなかった」のも無理はない。
「イェンス(ヴィッシング氏)とは1日に2〜3回の頻度で話し合いをしてきた中で、先週、急遽、相手クラブから我々のクラブに対して、正式なレターが入ると同時に、監督サイドから私に連絡がありました。そこではイェンスに直接『我々サイドとしては非常に興味を持って考えているのでクラブとしても考えてほしい』という趣旨の話をされました。それを受けて、私としてはまず、イェンスを招聘するところから始まったこのクラブのプロジェクトについて、改めて話をさせてもらいました」
そのプロジェクトとは、ガンバが長らく遠ざかっていた『タイトル』を手にするための短期、中期、長期の目標から逆算したチームづくりだ。
クラブ創設30周年を迎えた21年を機に、クラブとしてのリブランディングに取り組んできたガンバは、昨年12月に三上氏をフットボール本部長に迎えて以降も、それを継続。2026/27シーズンを見据えて百年構想リーグをスタートするにあたっても、今一度、タイトルを獲得するには何が足りていないのか。世界で勝てるサッカーを目指すためには、チームにどんなエッセンスが必要なのかを洗い出し、ヴィッシング氏の招聘に踏み切っていた。
もちろんヴィッシング氏自身にもそうしたビジョンへの共感を得た上で、だ。
この半年、百年構想リーグやAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)において、氏が落とし込んだゲーゲンプレスから縦に速い、強度の高いサッカーも、ある意味、そのクラブの描く未来像の1つであり、ACL2における11年ぶり、10個目の『タイトル』はその成果の1つだった。
「イェンスとは、百年構想リーグとAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)における一定の成果を組み込んだ2026/27シーズンに向けた短期のプロジェクトと、その先の中・長期のプロジェクトの中心になる存在として一緒に仕事をしていこうと約束していました。そのことを踏まえ、イェンスには、ガンバとしては引き続き一緒に仕事をしていきたいと思っているということをお伝えし、クラブを代表して慰留いたしました」
だが、数日間にわたる話し合いの中で、ヴィッシング氏が首を縦に振ることはなかったという。
「イェンスは『このチャンスを逃したくない』と。その意思が当初から一貫していたのもありますし、監督サイドから、例えばですが『こうした外部からの評価を得たので、自分自身の評価をガンバとして見直してもらえないか』というような話もなかったというか。仮にそれがあれば僕自身もできる、できないは別として、クラブとしてポジティブに検討したいと考えていましたが、残念ながらそうした経緯は一切なく、とにかく『自分はチャンスを活かしたい』ということだったので。我々としましては、イェンスの中で別のビジョンというものが完全に描かれてしまっているんだなと感じ、先週末の段階でこれは(慰留は)難しいだろうと判断して、まずは我々のスタッフ、選手に事情を説明しました」
三上氏の言葉から察するに、つまりはヴィッシング氏の胸の内にすでに『ガンバ』が存在していないと感じたことが決定打になったということだろう。
それを受け、クラブは6日に『イェンス・ヴィッシング監督チーム離脱のお知らせ』をリリース。「海外クラブとの契約に向けた手続きのため、現在チームを離脱しておりますのでお知らせいたします。同監督はオーストリアキャンプにも帯同しておりません」と伝え、ハリー・プファルコーチ、ティモ・ローゼンベルグフィジカルコーチの離脱も明らかにした。
あわせて、チームに向けてはオーストリアキャンプを含め、明神智和コーチが暫定的に指揮をとることを伝えたという。
「今回の件を受けた選手の反応としては、正式発表の数日前から自主練等々のためにクラブハウスに顔を出していた選手もいて、多少なりともコミュニケーションはとっていたので、やっぱりか、決まってしまったか、という印象を受けていたように感じました。多少なりとも動揺もあったと思います。ただ、その中でもプロとしてやるべきことははっきりしているよね、というところと、我々クラブが考えている短・中・長期のプロジェクトについては選手も納得してくれていますので、イコール、自分たちがやらなくちゃいけないことはっきりしているよねという共有もできています」
■気になる後任監督。三上大勝フットボール本部長が考える監督選びの基準とは?
ということでヴィッシング氏の退任が決まった今、気になるのは今後の監督選考をはじめ、それに紐づくチーム編成だ。
クラブはすでに、6月26日に今シーズンのチーム始動日とキャンプ日程を発表。以降も同28日には唐山翔自の北海道コンサドーレ札幌への期限付き移籍と満田誠の柏レイソルへの期限付き移籍を、30日には南野遥海の浦和レッズへの完全移籍を発表している。さらに7月2日には山本天翔のチーム離脱や(注:7日にボルシア・ドルトムントへの期限付き移籍が発表)、イーライ・アダムスの加入がリリースされ、3日には中村仁郎の栃木SCへの完全移籍も発表された。三上氏によれば、2026/27シーズンのチーム編成は、クラブのスタンスとして「目の前の試合に勝たなければいけないという現場の意向が7割。絶対に譲れないという中・長期的な部分が3割。つまり基本姿勢としては7対3の割合でチーム編成を考えてきた」と聞く。
つまり、現有戦力はあくまで特別シーズンで示したサッカースタイルの継続を前提に編成されたメンバーだと考えれば、そのフィロソフィーを受け継ぐ指揮官を、次なる監督に指名するということになるのか。三上氏が考えを明かす。
「後任の人選はすでに並行して進めています。まず重要なのは、クラブのプロジェクト、方向性に共鳴していただけるのか、だと思っています。その中では百年構想リーグで築いてきたガンバのサッカースタイルを継続して落とし込んでいただけるかを含め、国内外問わずに人選を進めていますし、現時点では暫定的に指揮をとってくれている明神コーチを含め、日本人監督になることもありうると考えています。また、監督交代によって我々が描く、短・中・長期の目標設定を変えることは考えていません。先ほども申しました通り、現有のスタッフ、選手にもそこは変わらず、やっていくよと伝えています。わかりやすく言葉に変えると、まずはACLEのプレーオフを勝ち上がってACLEに出場すること。プラス、リーグ戦を含めた4つの大会でタイトルを取ること。それが2026/27シーズンの短期目標で、すでにそこに向けて、選手から要望のあったメディカル機材を新しく取り入れるとか、人材を増やす、リカバリーの質を上げるための取り組みなどはこのオフ期間も含め、クラブとして本気で取り組んできています。それも含めて、我々はクラブのプロジェクトを変わらずに追求していくという姿勢を伝え、スタッフ、選手も、みんながその気持ちでいてくれています。オーストリアキャンプが始まって実質まだ2日ですが、現地のスタッフからは非常にポジティブな雰囲気だという報告も受けています。それについてはクラブとしましても、現場のスタッフ、選手に感謝しています」
その監督選考の最中では三上氏も予想だにしなかった数多の『売り込み』もあるそうだ。また、今年のはじめ、クラブの水谷尚人代表取締役社長は「英国のサッカー専門データコンサルティング会社やJリーグヨーロッパのデータベースをもとに候補をリストアップした上で監督選考にあたった」ことを明かしていたが、そうしたロングリストも活用しているという。
「ありがたいことに、今回のイェンス以下、コーチングスタッフが正式に離脱するとリリースしてからの数日間、世界中の指導者から逆オファーと言いますか、売り込みが届いています。そのうち2割くらいが名の知れた方、8割がイェンスのように自身が野望を持っている指導者の方です。それも我々の1つの成果だというと烏滸がましいですが、クラブにとって価値があることだと受け止めつつ選考を進めています。我々の考えるガンバらしさというのは、技術とプレーの選択を自由に与えながらもチームとしてより攻撃的に戦っていくこと。それを継続的に積み上げていける監督ということは譲らず、焦らずに選考していこうと考えています」
とはいえ、すでにシーズンはスタートし、8月7日にはJ1リーグ開幕が、8月11日にはACLEのプレーオフが待ち受ける。選考を焦りたくないのも理解できるが一方で、時間が潤沢にないのも事実だ。仮に外国人監督に白羽の矢を立てるとなれば、就労ビザの手続きやアジアサッカー連盟やJリーグへの登録等にも時間がかかることになる。そう考えると、暫定的に指揮をとる明神コーチの監督就任もありうるのか。
「正直、今はまず、きちんと後任選びを進めることに集中しています。当然今後は、Jリーグへの監督申請、AFCへの監督申請は必要になっていく中で、しっかりとそこから逆算して見極めていかなければいけないと思っていますし、現実的に4〜5週間かかることもあると想定していますが、今一番重要なのは、そこに合わせることではなく、クラブとしてのビジョンに沿った指導者かどうか、ということです。なので、現時点ではどちらかというと現実的な問題より、今にフォーカスをあてて対応している状況です」
「今シーズンはクラブとして、U-21リーグへの参戦を決めていた中で、それに応じてこのくらいのスタッフが必要だよね、ということも想定して準備していました。それもあって今回、監督を含めて3名のコーチングスタッフがいなくなりましたが、体制的には全てがゼロになったわけではありません。明神コーチ、遠藤保仁コーチをはじめ、吉道公一朗フィジカルコーチら多くのスタッフがいます。そんなふうに、我々がクラブとして自前で育てたコーチ陣をクラブの財産として残していこうという取り組みが活きているところもありますので、そこは今後もクラブの強みとして活かしていきたいと思っています」
現在行われているキャンプにおけるトレーニングメニューについても、オーストリア出発前に明神コーチ、遠藤コーチと話し合いの場を設け「目的、やるべきことは共有できている」と三上氏。すでに発表されている現地でのトレーニングや練習試合等の予定についても大きな変更はなく、経験豊富なスタッフたちのもと、同じ方向を向いて進んでいるそうだ。
となれば、あとは、来るもの拒まず去るもの追わず。過去ではなく未来に目を向けて、ガンバの進化を待ちたい。



