「あれは教えられない」久保建英17歳の“天賦の才”を長谷川健太は見た…それでも指導者として伝えた“絶対に必要なこと”「ガンバでは堂安律にも…」
幼少期から「天才少年」として注目され、期待通りに日本代表の中心選手へと成長を遂げた久保建英(25歳)。しかし、順風満帆と思えるキャリアにも“挫折”を味わった時期があった。絶対に特別扱いはしない――監督としてFC東京時代の久保を指導した長谷川健太氏が、日本サッカー界の至宝と正面から向き合った日々を振り返る。(全3回の2回目/文中敬称略)
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堂安律にも、久保建英にも伝えた“守備の大切さ”
久保建英の成長過程に、長谷川健太は深く関わっている。選手と監督の関係は約1年だったが、その間に久保は現代的なフットボーラーへ姿を変えていった。
日本サッカー界の至宝と呼ばれる高校生年代の少年を、どのように導くべきなのか。長谷川はガンバ大阪を指揮した当時に、堂安律を指導したケースをひとつの参考とした。
「建英と同じように律も、高校2年生から見ていました。彼はガンバでトップチームに昇格して、試合に出て、2017年のU-20W杯で活躍してヨーロッパへ行った。ガンバの前に監督を務めた清水エスパルスでは、藤本淳吾もふたりに似た感覚を持った選手でした。なので、左利きの選手を右サイドで使うときに、何をしなきゃいけないのかは自分のなかで整理ができていました」
守備の必要性については、岡崎慎司の言葉が裏付けとなった。清水で指導した元日本代表ストライカーから、感謝の言葉を伝えられたのだった。
「清水からドイツへ行って、帰国したときに『健太さんと同じですよ』と言ってくれまして。守備の役割をしっかり果たせるかどうかが問われて、オカはストライカーとしての資質に加えて守備面での献身性があったから、ヨーロッパでキャリアを築くことができたと思うんです。攻撃的な選手も守備ができなきゃいけないというのは、やはり間違っていないのだろうなということで、ガンバでは堂安に教えて、建英にも『ヨーロッパへ行っても守備は必要になる。守備のタスクをこなせないと、使ってもらえないから』と伝えました」
長谷川は左利きの才能だけでなく、右利きの異才も監督として指揮している。清水では小野伸二に、G大阪では遠藤保仁に触れた。
「そういった選手に比べても、建英の技術レベルは高いかもしれないですね。相手が来た瞬間に、クッと反転するのがめちゃくちゃうまい。本当に狭いスペースでもキュッと前を向ける。ボールをさらしておいて、相手が食いついたらかわしていくとか」
久保建英の天才性「あれはもう、教えられない」
ことサッカーにおいて、左利きには「ギフテッド」が多いとも言われる。生まれながらに「授けられた才能」である。レフティーの選手が表現する独特な感覚は、教えられるものではない。
「建英はボールタッチが細かい。あれはもう、指導者が教えたからといってできるものではない。それと、普通に走るのとドリブルするスピードがあまり変わらない印象です。ドリブルしながら狭いスペースをヒュッ、ヒュッと抜けていく。レフティーだから誰もが独特の感覚を持っているとは言いませんが、我々とは見える景色が違うのかなと。ボールをさらして縦へいって右足でクロスをあげるとかは、そういうプレッシャーをしてくると分かっていても、やはり防ぐのが難しい。右サイドからの左足のインスイングのクロスは、一撃必殺ですし」
久保のドリブルやパス、シュートなどのスキルについて、長谷川はほぼ口を挟まなかった。「伝えなくてもできていた」と言う。彼が託したのは、「利き足の生かし方」だ。
「ペナ角右45度で内側へ持ち出して勝負するなら、縦に行っておかないと読まれると。右足で縦にも行ったほうがいいという話をすると、すぐに、器用にこなすんです」
そう言って長谷川は、「サッカーIQが高いんです」と続けた。
「代表選手になる選手は、ほぼみんなサッカーIQが高いですね。こちらがパッと言えば、すぐに理解してプレーできる」
無事に送り出せた安堵と、「建英がいれば…」の思い
2019年シーズン、久保は開幕から定位置を確保した。6月の日本代表の活動前に行なわれた14試合のうち、13試合に出場した。4得点3アシストと数字も残した。
「誰もが認める存在になっていましたね」
シーズン途中の6月4日に、久保は18歳の誕生日を迎えた。同9日には日本代表デビューを飾った。そして14日にはレアル・マドリーへの移籍が発表される。
久保の移籍発表当時、FC東京はJ1リーグで首位を走っていた。長谷川は「無事に送り出すことができた」と、胸を撫でおろした。同時に、悔しさがくすぶる。苦笑いをした。
「ただ、建英とチャン・ヒョンス(アル・ヒラル/サウジアラビアへ移籍)が夏にいなくなったのは、シーズン最終盤でF・マリノスに優勝をさらわれることにつながったのかな……」
間近で感じた久保建英の「目標設定」
ティーンエイジャーだった当時から、久保は「目標からの逆算」で行動してきた。その時々で目標を掲げ、自らを見つめてきた。
長谷川が静かに頷いた。
「2019年のシーズン前に彼と話したときに、ものすごく焦っていました。バルセロナの下部組織で一緒にやっていた選手が、もう5大リーグで試合に出ている。それなのに自分は、Jリーグで出ることもできていない、と。このレベルではもう試合に出て、18歳になったらヨーロッパへ戻って、ビッグクラブへという目標設定があったからこその焦りだったのでしょうね」
久保はレアル・マドリーからマジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェ、そしてまたマジョルカへの期限付き移籍を経て、22-23シーズンからレアル・ソシエダでプレーしている。今シーズンは自身待望のタイトルとなるコパ・デル・レイ(スペイン国王杯)を獲得した。
「スペインでこれだけ長くプレーしているだけで、もう十分にすごいことだと思います。ただ、彼自身はレアル・ソシエダからさらに大きなクラブへ、という思いがあるのでは。そして、そのために何をしなきゃいけないのかについて、自分なりの考えを明確に持っているのでしょうね」
オフシーズンのたびに取り沙汰されてきた去就に、動きがあるとしたら──今回のW杯は、これ以上ないきっかけになる。自分次第で、評価が、価値が、変わっていく。
<続く>



