長谷川健太が証言する監督・森保一の“本当のすごさ”「焦っている彼を見たことがない」「あれだけのプレッシャーのなかで…」ドーハの戦友に送るエール
監督として多くの名選手を指導してきた長谷川健太氏。北中米W杯でも、堂安律、久保建英、渡辺剛と、その成長に深くかかわった選手たちが日本代表に選出されている。そんな長谷川氏の目に、かつて共にW杯を目指した戦友であり、監督としてのライバルでもあった森保一が率いる日本代表はどう映っているのか。「試合中に焦っているような彼を、見たことがない」――名将ならではの分析と、W杯への期待を聞いた。(全3回の3回目/文中敬称略)
【貴重写真】「超小柄なのにドリブルで無双してる…」“天才少年”久保建英12歳の激レア写真。FC東京時代の挫折からの成長や、長谷川健太監督との“エモい絆”もすべて見る(全80枚超)
「試合中に焦っている森保一を見たことがない」
監督の苦労は、監督にしか分からない。
監督の心理は、監督にしか想像できない。
「森保はすごいですよ。あれだけのプレッシャーのなかで、しっかりと仕事をしていますので。クラブでも相当なプレッシャーはありますが、日本代表はもっとプレッシャーがあるでしょうから。外で食事をすることも、大変じゃないかと思うんです。自分にはとても務まらないですよ」
そう話すのは、長谷川健太である。学年は長谷川が3つ上になる。現役時代は日本代表のチームメイトとしてW杯出場を目指し、“ドーハの悲劇”の当事者となった。スパイクを脱いでからは監督として、Jリーグのピッチで対峙した。
タイトルを懸けた舞台で、激突したことがある。
2014年のリーグカップ決勝で、長谷川が率いるガンバ大阪と、森保が指揮するサンフレッチェ広島がぶつかり合った。広島が35分までに2点をリードするが、G大阪が3対2と逆転勝利を飾った。
翌2015年は、Jリーグのチャンピオンシップ決勝で対戦した。
ホームの第1戦で、G大阪は81分までに2対1とリードする。しかし、86分にDFオ・ジェソクが退場になると、アディショナルタイムに連続失点して2対3の逆転負けを喫した。
広島に許した3失点目は、自陣右サイドのスローインを相手に渡してしまったことがきっかけとなった。結果的にこの小さなミスが、チャンピオンシップそのものの行方を左右したのだった。
「第1戦でこちらがリードしている時間帯も、森保は慌てないんですよね。第2戦も我々が前半に先制したけれど、森保は最後まで自分のやり方を変えずに、同点に持ち込んで押し通したという印象でした。いつもすごく落ち着いている。試合中に焦っているような彼を、見たことがないですね」
日本代表を指揮する森保は、試合前の国歌斉唱で涙する。感情の鎖を解く。長谷川はそこに、「国を背負う重み」を読み取る。
「現役当時からサンフレッチェの監督までは、冷静な印象が強かったんです。代表監督でもそこは変わりませんが、感情の起伏が表に出るようになった。それぐらい大きなもの、重いものを背負って戦っているんだな、と。本当にもう、すごいなとしか言いようがないですよね」
堂安律と久保建英の“同時起用”「これもありだな…」
北中米W杯へ向かう道のりでは、主戦術の変更があった。4-2-3-1や4-2-1-3から、3-4-2-1へシステムの軸足を移した。森保はサンフレッチェ広島で3度のJ1リーグ制覇を成し遂げた際に、3バックを採用している。日本代表を指揮する2期目にして、その特性を熟知するシステムをチーム作りの柱に据えた。
「世界で日本が勝っていく、ベスト8以上という目標を達成するには、3バックのほうがいいんじゃないかな、と思います。どこかのタイミングで森保が伝家の宝刀を抜くとは思っていましたけど、個人的にはアジア予選からやるとは思っていなかった。W杯本番でやるのかな、と」
森保は4-2-3-1なら2列目で起用される選手を、3-4-2-1のウイングバックに配した。2022年のカタールW杯でも見られた選手起用である。ただ、北中米W杯への道のりでは、ウイングバックにより攻撃的なタスクを与え、かつシャドーとの流動性を高めていった。相手の良さを消すためではなく、自分たちの「個」の強みを引き出す意図を鮮明にしている。
右サイドでは、長谷川が良く知る2人が並び立っている。ガンバ大阪で指導した堂安律が右ウイングバックを、FC東京で成長を促した久保建英が、右シャドーを任されてきた。
「律は身体が強くてパワーがある。シュートも力強くて思いきりがある。建英はキュッと反転する技術があり、細かいボールタッチで相手の逆を取れる。同じ左利きでもタイプは異なりますが、彼らを同時に起用するとどうなるのだろう、と思っていました。実際に試合を観ると、ふたりでポジションを入れ替えたりして、窮屈さを感じさせない。これもありだな、と思いました」
ガンバ時代にあった“ウイングバック堂安”の伏線
実は長谷川も、堂安をウイングバックに配したことがある。2017年シーズンに3バックを用いた際に、この攻撃的なレフティーを右ウイングバックで起用したのだ。
「チーム事情で選手が抜けたりして、3-5-2も使っていたなかで律をウイングバックで起用しました。システム的には右肩上がりで、攻撃の時はサイドハーフみたいなポジションを取っていいから、という話をしていたのですが、なかなうまくいかなかったですね」
慣れないウイングバックで起用された堂安は、当時のことを以下のように回想している。
「トップチームでは、健太さんからプレスのかけ方や立ち位置など、とにかく守備のことを言われた。攻撃面のことを言われた記憶がほとんどない」「日本代表やヨーロッパで経験を重ねれば重ねるほど、健太さんの言っていたシュートの意識、守備の意識がいかに大切かがわかってきた」(堂安律『俺しかいない』集英社より)
いずれにしても、「ヨーロッパへ行くなら守備もできなきゃいけない」という長谷川の指導を受けた堂安と久保は、森保監督のもとで守備のタスクもきっちりと果たしている。彼らを同時起用するという判断に、長谷川はクラブでの経験が作用しているのではと推察する。
戦友・森保一に送るエール「2期8年間の集大成を」
ミシャことミハイロ・ペトロヴィッチのもとでコーチを務めたことで、森保はミシャ式と呼ばれる彼の戦術やフォーメーションの理解者となった。各ポジションへの選手の当てはめ方にも、影響が及んでいるのでは、と長谷川は分析する。 「ミシャさんが札幌の監督だった当時に、左利きの攻撃的なMFだった金子拓郎(現・浦和)を右のウイングバックで使った。同じようなイメージで、律をウイングバックに置いたのかなと」
守備の局面では3バックから5バックになるものの、あくまでも自分たちの良さを引き出すための3-4-2-1は、アジア相手だから機能したのか。あるいは、対世界でも通用するのか。その答えは3月のイングランド戦、スコットランド戦で示された。どちらの試合も1対0で勝利を飾り、イングランド相手にも試合を通して主導権を握ったわけではないものの、再現性のある攻撃でゴールをこじ開けている。
「森保監督なりに、3バックを進化させてきたと思います。当事者でなければ分かり得ないプレッシャーがあるのでしょうし、2期8年間の集大成として、目標を達成してほしいと願っています」
Jリーグの頂点に立った3-4-2-1に攻撃的な選手を配して、世界のトップ・オブ・トップに挑む。通算8度目のW杯は、これまででもっとも「日本らしさ」をぶつける機会である。
森保のチャレンジが、日本サッカー界の指針となっていく。
<全3回/第1回、第2回とあわせてお読みください>



