【G大阪】仲間をやる気にさせる主将・中谷進之介が語るガンバの現在と未来。「このサッカーで勝負したいという軸ができ、僕らを前に進めてくれた」◎創設35周年記念連載
今年、クラブ創設35周年を迎えるガンバ大阪のキャプテンに就任したのがDFの中谷進之介だ。イェンス・ヴィッシング監督が新たに就任し、J1百年構想リーグとACL2を戦うチームの現在と未来について話を聞いた。 【動画】G大阪の最新試合◎J1百年構想リーグ第9節ハイライト
監督がやりたいことを察する才能
3月24日に、30歳になった。
この世界ではどことなく『大台』の雰囲気が漂う数字だが「実感がまったくない」と中谷進之介。ただし、プロサッカー選手になったばかりの頃の自分を思い返せば、今も最前線で戦い続けている自分に多少の驚きはあるそうだ。
「柏レイソルでプロキャリアをスタートした時は、30代だったタニさん(大谷秀和)や近藤直也さんらがすごいベテランに見えていました。当時の自分はその年齢までサッカーができるのか、全く想像できないような選手でしたしね。それを思うと、よくこの歳までサッカーができたなと思うし、大きなケガも少なく、今もコンスタントに試合に出場できているのも幸せだな、と。改めて支えてくれている家族や仲間に感謝しつつ、この先も気持ちは若く、ヒガシくん(東口順昭)や秋くん(倉田)のようにフレッシュに歳を重ねたいし、これまで通り、すべては自分次第だと信じて進んでいこうと思います」
13年目を数えるプロキャリアで唯一の心残りがあるとすれば、『海外』での経験を積めなかったこと。プロ3年目からコンスタントにピッチに立つ自分を見出してきた中で、日本代表に初選出された21年頃から試合に出る充実感は新たな野心を生んでいたが、タイミングもあってだろう。また、時間が経つにつれて「20代後半に入って、海外移籍ならどこでもいい訳でもない」と考えるようになり、結果、彼は今も日本で、ガンバ大阪で戦いを続けている。
とはいえ、だ。これだけ目まぐるしく選手が入れ替わるサッカー界でキャリアを積み上げることも、常に「求められる選手」で居続けることも当たり前のことでは決してない。その中で、3つのクラブで9人の指揮官と仕事をしてきた中谷は、それを可能にしてきた理由をどう考えているのだろうか。
「おそらく僕がそこまで色の強い、個性がはっきりした選手じゃなかったからじゃないかな。もちろん、こだわりはあるし、自分なりのプレースタイルもあるけど、でも、それがぜんぜん強くないというか。だから、この監督ならこういうプレーが求められているなということを汲み取って柔軟に自分のプレーを変えられる。そんなふうに監督がやりたいことを察して実行する能力が『才能』に入るなら、その部分に限っての才能は高かったかも。人に対して壁がなく誰とでも仲良くできるとか、自分が楽しいと思っていることには常にハッピーなマインドで向き合えるという、そもそもの性格が活きているのかも(笑)」
彼が言わんとすることはガンバに在籍したこの3シーズンでの姿からも容易に理解できる。実際、加入した24年も始動日からまるで何年も時間を共にしてきたかのごとく、チームにすんなりと溶け込み、先頭に立っていた姿が印象に残っている。つまり、立場や年齢、国籍の隔てなく誰とでもフレンドリーにコミュニケーションを図り、時間を共有し、距離を詰めるのが上手く、早い。しかも、それをナチュラルにできるのが中谷の魅力だろう。
C大阪戦の前半で手応えを得られた
ガンバでの今シーズンも、然りだ。新たに就任した指揮官、イェンス・ヴィッシング監督のもと、キャリアで初めてキャプテンに就任した彼は、あっという間に指揮官の信頼をつかみ、新たなサッカー、意図を汲み取ってチームを牽引してきた。試合を重ねるごとにその戦いにも自信を積み上げられているという。
「正直、スタートは監督が代わってどうなるのか、という不安もありました。サッカーが大きく変わり、キャンプからトレーニングの強度もすごく上がった中で、未知な部分も多かったというか。ゲーゲンプレスでボールを奪って攻撃に転じられれば理想ですけど、それが狙い通り形になるのか。結果につながるのか。守備を預かる一人として、縦横のスライド、スプリント力がより求められるサッカーの中で昨年大きく嵩んでしまった『失点数』を減らしていけるのか、手探りの部分もありました。でも開幕からAFCチャンピオンズリーグ2(2025/26)の戦いを含めた連戦を戦いながら、それなりの結果がついてきたことでチームとしても勢いづき『このサッカーで勝負しようぜ』という軸ができ、それが僕らをぐっと前に進めてくれた」
ヴィッシング監督が漂わせる『自信』に促された部分も大きかったそうだ。
「イェンス(監督)はすごく自信を持っている人。シーズンが始まってからは特に、彼の自信がチームにいい意味で派生してきているのを感じます。彼がそれを狙ってやっているのかはわからないけど、僕らに対しても堂々と振る舞い、お前たちは戦える、みたいなところを植え付けるのもすごくうまい。正直、やっているサッカーはすごくシンプルで、練習でもそこまで複雑な動きや指導が多い訳でもないし、そうなると練習もすごく退屈しそうなんですけど、プレーの細部を含めてイェンスが勝負にこだわることをすごく徹底している分、そうはならないというか。むしろ、僕ら選手も自然と乗せられてテンションが上がっていく。
例えば、今シーズンは、試合前日も…それがアウェーゲームでも、時間は短いながらもちゃんとゲームをするんですけど、そこで言っていること自体は『前に!』『球際!』くらいの端的なものなのに、その言葉がガツンと響いて、チームが締まる。そういう持っていき方がすごくうまい監督だなって思います」
加えて、公式戦の『入り』となった、J1百年構想リーグ開幕戦の『大阪ダービー』で手応えを得られたことも、チームを勢いづけたと振り返る。 「アタッカー陣が本当にかなり大変な仕事を課せられる戦術なので、彼らがどう思っているのかはわからないですけど、前線の選手があれだけ守備をしてくれると、後ろは予測して守備ができる分、めちゃめちゃやりやすい。しかもセレッソ大阪戦の前半で『これはいける』という手応えを得られたことがチームを走らせたというか。それ以降も、3月の中断までに戦った12試合のうち、ホームでの浦項スティーラーズ戦(ACL2 2025/26のラウンド16・2ndレグ)やヴィッセル神戸戦(J1百年構想リーグ第7節)の前半など、強度のあるチームに対して理想とする戦いができたのは、自分たちのサッカーへの自信を深めることにつながった」 中谷自身も好感触を得ながらシーズンを戦えているという。
「前線の選手があれだけ守備を限定してくれると、後ろの僕らも前に出やすいし、ポジションをズレるにしてもリアクションで『ズラされる』のではなく、自分たちのアクションでズレることができる。その分、今年は、もう一歩、半歩の速さが出るようになっているし、そういう場面を数多く作れている感覚はすごくあります」
一方で、課題は、中断前の12試合で感じた自分たちのサッカーに対する手応えのほとんどが、各試合の『前半』に得たものだということ。すなわち、90分の戦いで見ると、試合終盤に差し掛かるほど強度が落ち、相手に押し込まれる時間が増えてしまっていること、だ。実際、J1百年構想リーグ第7節・神戸戦や第8節・アビスパ福岡戦は、その流れから試合の最終盤に失点を喫し、勝ち点3を手放してしまった。
「強度の高いサッカーをするとなると、途中から出てくる選手も含めて全員で戦えないと、どうしても後半は苦しくなってしまう。それを考えても、今後は、途中出場の選手を含めてもう一度ギアを上げられるような戦いができるようにならなくちゃいけないと思っています。あとは対戦相手もいる中で、チームとして行き切る時間と落ち着かせる時間のメリハリも必要というか。その辺のゲームコントロールをうまくできるようにならないと、不用意な失点も減っていかないので、ボールを持つことで体力を保つ戦い方みたいなところも考えなくちゃいけない。
もちろん、イェンスの理想は相手陣地でサッカーをし続けることなので、ボールを支配して、切り替えて、という展開を相手陣地で90分間続けられれば最強ですけど、その時間を増やしていくためにも、ケガ人がたくさん出ている今は、もう少しみんなで賢く試合を進めることも大事になると思っています」
仲間によるキャプテン・中谷評とは?
それは現在参戦中のACL2をたくましく勝ち抜くためにも、だ。
今シーズンに入り、同ラウンド16・浦項戦、準々決勝・ラーチャブリー戦を制したガンバは、4月8日に準決勝・バンコク・ユナイテッド戦の1stレグを、翌週15日に2ndレグを戦う。直近のラーチャブリー戦と同様、厳しい戦いになるのは必至で、だからこそ中谷が挙げた課題を含め、いかにチームとして共通理解を持って戦い抜けるかが決勝進出に向けたカギになる。
「浦項戦の第2戦は前半こそ完璧な試合ができたけど、61分に失点して以降は、なかなかギアを上げられなかったというか。いい試合ができていた中で3点目が獲れないと、終盤は苦戦するよね、っていう試合になった。それはラーチャブリー戦も同じで、連戦や暑さの影響もあったけど、いいリズムで試合を進めている時間帯に取りきれなくて、次第に疲弊して、攻撃のバリエーションも見いだせなくなり、自分たちの首を絞めるみたいなところは課題として残った。しかも、ACL2ではどうにもコントロールできない特有の空気もあるし、特にアウェー戦は何が起きるかわからないので。次のバンコク・ユナイテッド戦は第1戦目がホームだと考えても、まずは初戦でしっかり点差をつけてアドバンテージを持って2戦目に繋げたい。また、アジアの戦いでは1点を取る、取られることで、相手の勢いの出方が大きく変わってくると考えても、後ろはとにかくゼロで進めることを意識しながら試合を進めようと思います」
もちろん、その結果の先には『タイトル』も見据えているが「今はとにかく準決勝を勝ち抜くこと」と中谷。チームとしても個人としても、目の前の試合を積み重ねていくことに気持ちを集中させている。
「イェンスは思ったことは全部伝えるし、オブラートに包むことがあまりない。基準もはっきりしていますしね。実際、これまでも、若い選手でも良ければ使う、いい選手でも基準を満たしてないなら使わない、ということが明確だった分、選手全員がやる気に満ちている。普段の練習から勝負にもすごくこだわる監督なので、自然と活気も生まれますしね。そういう意味ではすごくいい雰囲気で進んできたし、11連戦の初戦となった直近の京都サンガF.C.戦(J1百年構想リーグ第9節)も2週間のインターバルで取り組んできたことをしっかりと表現しながら、2-0で勝ち切れたので。特に後半、流れが相手に渡りかけたところで、亮太郎(食野)が追加点を奪ってくれたり、途中から出た遥海(南野)や秋くん(倉田)、徳真(鈴木)らがゲームを落ち着かせてくれたのはチームとしての成長を感じた部分でした。そこはバンコク・ユナイテッド戦にも繋げながら、全員の『勝ちたい! だから、走ろうぜ、戦おうぜ!』みたいなマインドをまっすぐにぶつけて、とにかくみんなで勝ちにいきます」
ちなみに、こうした大一番を前に、キャプテンとしての言葉がけを考えているのかと尋ねたところ、「いや、考えてない! これまでの試合も僕が言わなくても亮(初瀬)とか諒也がしっかり盛り上げてくれていたから! 僕は『いくぞ!』くらいしか言ってない」と中谷。実際、チームメイトに中谷の『キャプテン評』を尋ねても、「去年までと全く変わってない」が大方の意見だ。
「いつだって声を出してチームを盛り上げてくれるし、締めてくれるけど、去年もそうだったからそこまで今年に入ってからの新たな変化は感じません。キャプテンの言葉が響いたな…みたいな瞬間も、今のところそんなになくて、むしろ諒也(山下)の方が意外といいことを言ったりしています(笑)」(安部柊斗)
「試合では、そのプレーで、背中で僕らを導いてくれますけど、僕らへの振る舞いは全然変わってないです。ただ、チームを代表して監督に僕らの意見を伝えてくれるし、僕らもシンくんには気軽に『これ、聞いてくださいよ』って言いやすいのはいいな、と(笑)。若手もシンくんには結構、意見していますしね。そういう風通しの良さと、いい意味でキャプテンぽくないのがシンくんの持ち味です」(山下)
「キャプテンになっても何も変わらず、これまで通りチームを引っ張ってくれるし、プレーでも見せてくれるし、しんどい時ほど戦ってくれている。その姿を見て、俺らも、やらなあかんって気持ちにさせられるという意味では背中で語るキャプテンなのかなと。実際、みんなの前ではいつも『みんなでやろうよ!』ってことしか言わないのに(笑)、それだけでみんながなぜか『そうや、やろうぜ!』ってなるのもシンくんの凄さ」(初瀬)
だが、彼らの言葉にもある通り、変わっていない=キャプテンとしての仕事をしていないということでは決してない。むしろ、今年からキャプテンに就任していることに違和感を感じないほど、これまで同様にチームの先頭に立ち、リーダーシップを発揮しているということだ。しかも、自然と仲間を盛り立て、元気にするような、明るいキャラクターもあってだろう。彼の周りに自然と仲間が集い、笑いが起き、結束を強められているのも、中谷だからこそのキャプテンシーだと言っていい。
そして、それもまた今シーズン、ガンバに備わった新たな強さであることを記しておく。
取材・文◎高村美砂[フリーランスライター]



