<ガンバ大阪・定期便154>チーム全員の思いを繋げた、食野亮太郎の美しきゴラッソ。
■苦しい時間帯をチームで乗り切る。その決意を示した追加点。
明治安田J1百年構想リーグ第9節・京都サンガF.C.戦で後半からピッチに立っていた食野亮太郎は、75分。左サイドからのカットインから右足を振り抜き、ゴールネットを揺らした。
その食野らしい『ゴラッソ』を振り返るにあたり、少し前の時間帯に時計の針を巻き戻してみる。
試合の入り、強度、内容ともに申し分のない前半を1-0で折り返したガンバだったが、後半は立ち上がりからやや押し込まれた。その状況にイェンス・ヴィッシング監督が動き、65分には倉田秋を投入。さらに74分には鈴木徳真と南野遥海をピッチに送り込む。その中で、試合は交代直前にヒュメットが受けたファウルによって得たセンターサークル付近からのフリーキックで再開された。
キッカーは初瀬亮。左足で蹴り込んだボールをペナルティエリア内、一番大外にいた中谷進之介が頭で競り、こぼれたボールを相手選手がクリア。それを右サイドで拾った山下諒也が倉田へと繋ぐと、すかさずライナー性のクロスボールをゴール前に送り込む。相手選手が頭でクリアしたボールは左に流れ、前線に残っていた半田陸が相手DFを背負いながら左タッチライン際でマイボールに。やや難しい体制ながら後ろからフォローに来ていた初瀬ではなく、中を選択し、パスを通す。
そのボールを受けたのが食野だ。右足でトラップした後は相手DFを揺さぶりながらドリブルで仕掛け、ペナルティエリア内に侵入。その瞬間、猛ダッシュでペナルティエリア内に入ってきた鈴木が相手の視線を惹きつけている間に、縦に行くと見せかけて右に持ち出し、豪快に右足を振り抜いた。
「前を向いた時に1対1だったので、自分の得意なカットインで打とうと思いました。徳真くん(鈴木)がいいランニングをしてくれてうまくコースを開けてくれたので感謝しています。いいところに飛んで良かったです」
なぜ、ゴールシーンの1分ほど前からの長い流れを記したのか。食野の一撃が必然と思えるような、それぞれの判断が繋がって生まれたゴラッソだったことを伝えたかったからだ。途中出場の倉田のボールの質。FKの流れということもあって半田が前線に残っていたこと。同じく途中出場の鈴木がファーストプレーで一気にギアを上げた走力を示し、コースを作り出したこと。そして、チームが向けた『前へ』の矢印。食野によれば「宇佐美(貴史)くんのアドバイスのおかげ」でもあったという。
「これまでもああいう『自分の形』は何回かあった中で決めきれなかったんですけど、少し前にジムでトレーニングをしているときに、宇佐美くんが寄ってきて『お前“力み”すぎや』って言われたんです。端的に言うと『練習でやっているように軽く足を振ったらええんちゃうか』みたいな。もっと詳しく話してくれたんですけど、そのアドバイスがほんまにストンと入ってきたというか。その言葉を聞いて、自分でも『点を取りたいがあまり、いらん力というか余分なモーションが1つ入っているんやな』と思い当たり…。宇佐美くんはほんまによく見てるなと思ったし、的確にアドバイスをくれて、やっぱり偉大やなと思いました。明日の朝、宇佐美くんに会ったらお礼を言います(笑)。今日はウェルトンも前半いい動きをしていた中で、後半から使ってくれた監督にも感謝しています」
そうしてチーム全体の思い、プレーが繋がって、相手を突き放し、流れを取り返す『追加点』がゴールに突き刺さる。その瞬間、食野は左コーナーフラッグに向かって猛ダッシュ。『膝スラ』でゴールパフォーマンスを決めるはずが、控えメンバーを含めて駆け寄ってきた仲間に次々と乗られ、頭を叩かれ、なぜか髪の毛を整えられ、最後は山下に足を引っ張られ、寝転んだ状態のまま体を波立たせて喜びをあらわに。
「膝スラですまして終わろうと思ったのに諒也くん(山下)がちょっかいをかけてきたからノリで! もう、恥ずかしい。あの部分だけ(映像を)カットしてほしい」
イメージとはかけ離れたパフォーマンスに終わったことだけを悔やんだ。
■ハードなインターバルで再び蓄えた強度。自信を積み上げACL2・準決勝へ。
3月21日のJ1百年構想リーグ第8節・アビスパ福岡戦までのハードな『7連戦』を終えた後の2週間のインターバル。やや長めのオフでは心身両面でリフレッシュしたとはいえ、練習再開後はまるでシーズン前のキャンプを思い出すようなハードなトレーニングと向き合ったからだろう。食野は「まだ体のそこら中が張っています」と話していた。京都戦の前日だ。
「久しぶりにちゃんと練習をした期間になりましたけど、マジでキツかったです。いまだに体のそこら中が張っていて『明日の試合、大丈夫かな』って思うくらい(笑)。でも、ほんまに質も強度もある、いい練習ができた。試合が再開したらここから1ヶ月ちょっとこんなしっかりとした練習はできないのもあって、イェンス(ヴィッシング監督)もみんなに対してこの2週間をすごく大事に考えているようなアプローチでしたし、紅白戦なんかも、今のガンバの紅白戦はすごく強度の高い試合になるのもあって公式戦以上にキツかった印象もあります。でも、だからこそ自信を持って、明日の京都戦もインテンシティ高く入れるはずだし、実際、京都のサッカーを想定しても明日はその部分が大事になってくる。球際や切り替えの部分は相手も強みにしているとはいえ、今シーズンの自分たちはそこで劣っているとも思っていないし、それを苦にもしていないので。相手のプレスを剥がすタイミング、どこにスペースがあって、どう活かすかも含めてみんなで共通理解を持って戦うことが大事になると思っています」
食野自身も、その時間を通して今一度、自分の存在価値を示すことを意識して準備をしてきたという。
「シュートはもちろんのこと、しっかりとボールを前に運ぶこと、相手を剥がすこと、背後へのランニングなどを増やして欲しいということはイェンスにも求められていますし、中断前は、ウェルトンが先発で出るようになっていたことを考えても、もう一度、自分の存在価値をしっかり示せるようにやっていこうと思います」
そして、その決意は京都戦の後半のピッチで示される。
先にも書いた通り、立ち上がりは京都にやや押し込まれ、なかなか敵陣でボールを動かせない時間が続いたが、その時間を全員の守備で耐え抜くと、次々と交代選手がピッチに送り込まれる中で食野が追加点を奪い、流れを取り戻していく。以降も、前線で強さを示し続けた南野や、85分に投入された唐山翔自を含めて、個々が局面をしっかりと戦い、強さを発揮してギアを上げた。
「試合の締めくくり方のところはチームとしても課題だったので、中断期間にも色々と取り組んだし、全員で話していたのは『60分以降、少し受け身になってしまうことが多いのでどこかのタイミングでもう一度、今シーズン、継続してきたハイプレスで流れを断ち切って、自分たちの土俵に持っていこう』ということでした。今日は苦しい時間帯に、途中から出てきた選手がパワーを持って入ってきてくれて、それぞれの質を出してくれた。それを京都というすごくいいチームに対してできたのは自信になる。だからと言って次も勝てる保証はないですけど、でも、確かな自信を得られたのも間違いないので、この勢いを次に、繋げていきたいです」
食野のいう『次』とは、来週水曜日に待ち受けるAFCチャンピオンズリーグ2・準決勝の戦いを指す。相手はバンコク・ユナイテッド。京都戦前にも「京都に勝てれば、いい雰囲気でACL2に繋げられる。だからこそまずは京都戦での勝利に集中したい」と話していた食野だが、その白星を掴めた今、どんな決意で、バンコク・ユナイテッド戦に臨むのか。
「11連戦の最初の試合って意味でも京都という上位を争っているいいチームに対して、いい勝ち方でいい入りになった。バンコク・ユナイテッド戦も第1戦はホームで戦えるし、2週間のインターバルを経てパナスタのピッチコンディションも京都戦でしっかり掴めたので、その流れを繋げてバンコク戦に臨みたい。ここからの連戦は間違いなくチームをあげた総力戦。僕もその一人として、しっかりと自分の仕事をしたいし、チームが勝つためのゴールを決めたい」
その決意を胸に、まずは4月8日、ホームで戦う第1戦を勝ち切るために食野は再び、ゴールを目指す。泥臭く、でも、力みなく。



