<ガンバ大阪・定期便143>美藤倫。ひたむきに、前へ。
■「いかに最短で前に入っていけるか」を意識して臨んだナムディン戦。
そのスタミナは武器になる。美藤倫のプレーに、そんな確信を持ったAFCチャンピオンズリーグ第3節・ナムディンFC戦だった。
状況に応じて、アンカーの位置あたりまで下がって守備ラインにプラス1のパワーを注ぐと、スペースを見つけるや全速力で前線へ。特に、トップ下の満田誠がポジションを下げて「作る」動きに参加している時には、決まって美藤が前線に顔を出し、相手の守備に揺さぶりをかけた。
「トップ下のマコくん(満田誠)や、途中から入った貴史くん(宇佐美)が下がってボールを受けるシーンもあるので、そういう時は誰かが空いたポジションを取りにいかないと、あるいは、裏のスペースを突く動きをしないと攻撃が前に進まない。だからこそ、マコくんや柊斗くん(安部)とは、ただボールを回すのではなく、いかに最短で前に入っていけるかを意識してやろうと話していたし、自分もそのバランスを取る動きを心掛けながらプレーしていました」
その狙いは前半16分、先制点につながる。相手のゴールキックを三浦弦太が競り勝って、前線に繋げたシーン。満田誠、イッサム・ジェバリを経由したボールが左に展開されると、美藤はハーフウェーライン付近からゴール前中央を目掛けて一気に前へ。相手に圧力をかけた展開から、安部柊斗が粘って右サイドの山下諒也に繋げると、山下のグラウンダーのクロスボールに合わせて飛び出した美藤がダイレクトで合わせた。
「あそこにしっかりと飛び込んでいけるのが自分の持ち味。ああいうシーンでは必ず誰かがニアに1枚入っていくという約束事があった中で、あのシーンではニアに人がいない状況だったので自分が入って行ったら諒也くん(山下)からいいボールが来た。しっかりとチームとしてのタスクを達成しながら結果がついてきて良かったです」
直近のJ1リーグ第34節・柏レイソル戦は0-5の状況下、80分からピッチに立った中で1点すら返せず、なすすべもなく試合を終えてしまった悔しさをしっかりと断ち切ることに気持ちを揃えて臨んでいたという。
「柏戦は本当に不甲斐ない試合をしてしまった。中3日と修正する時間はそう多くはなかったんですけど、チームとしてやるべきことをもう一度リマインドして、全員で気持ちを切り替えました。今日は課題を修正しながらいいサッカーができたと思っています。個人的にはせっかくもらった先発出場のチャンスだったので、絶対に結果を残してやろうと思っていました。点が取れて良かったです」
ただし、プレー内容については「まだまだ精度を高めないといけない」とも続けた。
「ボールを動かしながら、効果的に前にボールを刺して攻撃のラインを押し上げ、チャンスを作るとか、涼しくなったことも追い風に、90分間走り切れたのは良かったところだと思っています。ただ一方で、イージーミスが多かったのは課題です。ナムディンの選手は球際の部分とか体の当て方みたいなところがうまくて、局面の競り合いのところでボールを失うことも何度かあったし、五分五分のボールが相手に渡ってしまったシーンもあった。運がなかったなというようなシーンもあったんですけど、運も実力のうちだと思うので。そういうシーンは減らしていきたいし、それができればプレーにも安定感が出てくるはず。そこが今の僕に足りていないところだと考えても、プレー精度のところはまだまだ追求していこうと思っています」
■長期離脱でリマインドしたサッカーができる幸せ。『ひたむき』に。
プロ2年目のシーズンは開幕からメンバー入り。第2節・アビスパ福岡戦での先発を機に、コンスタントに公式戦に絡んでいたが、4月末に左足首を負傷して約3ヶ月間、戦列を離れた。
「ケガをする少し前くらいからコンスタントに先発する試合が続いていたんですけど、チームとしてはなかなか結果が出ずで…。でも逆に、僕が控えに回った第10節・名古屋グランパス戦はチームとして5試合ぶりに勝てた、と。そういう流れの中で正直、自分では何が正解かわからなくなっていたというか。(同じボランチの)ダワンがいた去年はいい成績だったのに、彼がいなくなった今年は思うように結果が取れない状況にも責任を感じていました。去年とは異なるプレッシャーを感じて、何が違うのかを考えるほど自分を見失っていくような感覚もあった。その最中にケガをしてしまったので、落ち込むというよりは、もう一回自分を見つめ直すきっかけにしようと思いました」
7月の復帰に際してリマインドしたのは「自分の良さで勝負すること」。うまくプレーをしよう、いいプレーをしよう、ではなく、運動量や球際での強さといった、自分の得意なプレーをまっすぐにピッチで表現することに気持ちを注いだ。初めての長期離脱を通して再確認した「サッカーができる幸せ」も真っ直ぐに彼の気持ちをサッカーに向かわせるきっかけになったという。
「思った以上にケガが長引いて、苦しんだ時期もありましたけど、自分ともしっかり向き合える時間になった。その思いをしっかりぶつけようと思って臨んだ復帰戦(J1リーグ第24節・川崎フロンターレ戦)で『ああ、やっぱりサッカーができるは楽しいな』って感じたことも以降の自分の力になっている気がします。1つのプレーに対する重みとか、その1本が蹴れることの幸せみたいなものを大事に考えられるようになったことで、だからこそ、その1本でしっかり自分らしいプレーを、悔いのないプレーをしようと思えるようになったというか。これまで以上に、1つ1つのプレーを無駄にしたくないという気持ちが強くなった」
それはプレーでも表現され、89分からの出場になった川崎戦では気迫ある守備で相手の攻撃チャンスを刈り取ってスタンドを沸かせ、J1リーグ第27節・横浜FC戦では2-1の状況下でピッチに立ち、縦に差し込んだ長いスルーパスで3点目の起点になった。
続く第28節・湘南ベルマーレ戦で挙げたプロ初ゴールも印象的だ。1-3で迎えた後半立ち上がり、左コーナーキックの展開から最後は相手GKが弾いたボールを頭でねじ込んでゴールネットを揺らす。結果的にこの得点が後半の反撃に繋がり、ガンバは逆転勝ちで白星を掴み取った。
「ゴールの瞬間はまだ負けている状況だったので全然喜べなかったけど、試合を終えて、勝つことができてようやく喜びが湧いてきました(笑)。あそこに入っていけば何かが生まれると思っていたし、その意識が結果につながった。次は足でしっかり決めたいです。…いや、どんな形でもいいので、とにかく泥臭く、入っていけるようにします」
それ以外にも、85分からの途中出場になった第31節・横浜F・マリノス戦の後半アディショナルタイム、90+3分にハーフウェーライン付近から送り込んだスルーパスも圧巻だった。左サイドのイッサム・ジェバリからボールをもらった美藤は、ボールを少し前に運んだ後、スピード、軌道ともにパーフェクトなスルーパスを岸本武流に届ける。さらに、第32節・アルビレックス新潟戦の90+3分にも、中盤で相手を背負いながらボールを受けて反転すると、前線のジェバリを目掛けてスルーパスを送り込んだ。いずれも得点には繋がらなかったものの、美藤の「前へ」の意識が作り出した決定機だった。
それらに代表される、公式戦での『爪痕』はすべて、美藤の胸の内を表現するもの。「とにかく、ひたむきに」という思いが注がれている。
「なかなか出場チャンスを掴めないし、リーグ戦では出場時間もそうたくさんはもらえていない状況ですけど『やってやろう』という気持ちは常に持ち合わせていますし、練習でも試合でも、出番があってもなくても、とにかく『ひたむきに』と心掛けています。もちろん、人間なので、試合に出られない現実にムカつくこともあります。でも、プロ2年目の自分がここで腐ったらサッカー選手として終わってしまうだけなので。今年の7月に結婚もして、家族もできた中で、支えてくれる家族のためにも、自分の将来を見据えて、今をしっかりやり続けなくちゃいけない。それに、さっき話したようなミスの多さとかプレーの不安定さが自分が(監督の)信頼をつかめていない理由だとも受け止めているので。その自分にもムカつきながら(笑)、でもそれも『ひたむきさ』に変えて、コンスタントにいいプレーができるように努力を続けるだけだと思っています」
生粋の負けず嫌い。彼曰く「メンタルは強くない」らしく、試合前には不安にもなるし、緊張もするし「機嫌も悪くなる(笑)」そうだ。だが、ひとたびピッチに立てば、すべて「目の前の相手に負けたくない」という気持ちで乗り越えられるという。そのマインドをピッチで、プレーで、まっすぐに表現できるのも美藤の持ち味。熱く、強く、そして前へ、前へ。圧倒的なスタミナをもとに繰り出されるそのプレーは、だから、スタンドを熱くする。
https://news.yahoo.co.jp/users/expert/takamuramisa/articles?page=1



