欧州→Jへ今夏「出戻り組」8人 終盤戦カギ、“復活”立役者は牽引も…大迫らも苦戦の復帰直後【コラム】

川辺は実力を発揮、中山は今季絶望級の負傷

2024年J1リーグも残り9節。9月28日には目下、首位を走るサンフレッチェ広島と同じ勝ち点59で2位につける町田ゼルビアの直接対決も控えている。優勝争いを大きく左右する上位決戦を含め、終盤戦の行方が気になるところだ。

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その動向を大きく左右すると見られるのが、今夏、欧州から戻ってきた日本代表経験者たちのパフォーマンスだろう。

広島には川辺駿、町田にも相馬勇紀、中山雄太という森保ジャパン招集歴のある面々がいる。川辺の方は2021年夏以来、3年ぶりの古巣復帰。8月11日のセレッソ大阪戦からリーグ戦全試合に先発し、チームの快進撃を支えている。彼とトルガイ・アルスラン、ゴンサロ・パシエンシアの補強によって、一時は停滞していた広島が完全に蘇った。

川辺はボランチで出場することが多いが、3列目から2列目に上がって幅広いエリアを動き、攻撃のお膳立てに関与している。もともと創造性とテクニックには定評があったが、欧州にいって決め切るにも磨きをかけてきた。そのストロングがまだリーグ戦では発揮しきれていないだけに、そろそろ得点がほしいところ。次戦では大いに期待が寄せられる。

町田の方はご存知の通り、中山は14日のアビスパ福岡戦で右膝内側側副じん帯損傷の重傷を負い、今季中の復帰が難しくなってしまった。その分、相馬がギアを上げなければいけない。

相馬は今夏、名古屋グランパスにいったん復帰し、直後に町田へ移籍。8月7日のセレッソ戦で新天地デビューを飾ったが、直後に負傷離脱を余儀なくされ、9月14日の福岡戦から復帰したところ。直近2試合は短時間の出場にとどまっており、ゴールという結果も残せていない。

21日の札幌戦では終盤に惜しいシーンがあったが、得点とは認められなかった。その悔しさを頂上決戦でぶつけるしかない。目下、2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選を戦っている日本代表復帰を目指すなら、町田で圧倒的な存在感を示さなければいけない。つねに当落選上の彼にはその厳しさがよく分かっているはず。「チームを勝たせる存在」へ変貌を遂げることが肝要なのだ。

彼ら以外の注目選手に目を向けると、やはり浦和レッズに10年ぶりに復帰した原口元気の一挙手一投足は見逃せない。9月の代表ウィーク明けの14日のガンバ大阪戦で後半31分からボランチとして出場し、新たな一歩を踏み出した男は、続く21日のFC東京戦でも途中出場。最初はトップ下に入ったが、思うように流れを作れなかったため、ボランチに下がってプレー。ビルドアップに参加したり、守備でデュエルの強さを発揮するなど、原口らしさの一端を示した。が、チームはまさかの完敗を喫してしまった。

「全体的に静かなので、もっと情熱的にプレーしたい」と本人は今の浦和に足りない熱量をズバリ指摘。自らが起爆剤になる気概を見せた。ただ、やはり彼もシュツットガルトで1年以上、まともにゲームに出ていなかったこともあり、違いを発揮するには至っていない。そのあたりが欧州から日本に戻ってきた選手の難しさだろう。

ほかのW杯経験者にしても、大迫勇也や武藤嘉紀(ともに神戸)も本領発揮までには1年以上の時間を要したし、香川真司(セレッソ)も最初はよかったものの、2年目に入ってケガの連鎖に苦しんでいる。「欧州の経験を還元することの難しさ」をこれまでの出戻り組も味わっている。原口がいかにしてそのハードルを超えていくか。そこにフォーカスしながら、今後を見ていきたい。

その他の代表経験者という意味では、ヴィッセル神戸の森岡亮太、鹿島アントラーズの三竿健斗、ガンバ大阪の林大地、横浜F・マリノスの西村拓真らが該当する。

森岡は8年半ぶりの古巣復帰。ポーランドを皮切りに、ベルギーの3クラブでプレー。バヒド・ハリルホジッチ監督時代の2017~18年には日の丸をつけてプレーした時期もあった。彼の場合、卓越した戦術眼とアイデア、ゲームコントロール力があり、それを神戸に持ち帰ってくれれば理想的だと見られたが、今のところはまだリーグ戦出場はゼロ。神戸もACLエリート、天皇杯を掛け持ちしていて、出番が増えてくると見られるだけに、そのパフォーマンスには期待が寄せられる。年齢も33歳になり、チームに落ち着きと安定感をもたらせる存在であることは間違いない。

欧州での経験“還元”、チームを上昇させられるか

鹿島の三竿はすでに主力ボランチとして活躍中だ。佐野海舟(マインツ)が海外移籍してきたタイミングで戻ってきただけに、ランコ・ポポヴィッチ監督も頼みの綱だと考えていただろう。その後、8月に入ってから今季ボランチで大ブレイクを果たした知念慶が負傷。柴崎岳とのコンビで中盤を統率していたが、ここへきて知念が復帰。指揮官は柴崎を外して三竿・知念のコンビで勝負をかけている。

ただ、チームはやや足踏み状態が続き、もう一段階弾みをつけなければ、このまま失速してしまう可能性もないとは言えない。だからこそ、三竿には攻守両面でより一層のダイナミックさを発揮してもらわなければならない。もっと強引にチームを引っ張るくらいの強靭なメンタリティを前面に押し出すこと。今の彼にはそういった注文をつけたい。

ガンバの林はシント=トロイデン、ニュルンベルクで計3シーズンを過ごし、国内に復帰。育成時代を過ごした古巣に戻る形になったが、残念ながらまだ負傷が癒えておらず、ベンチ入りも叶っていない。「9月末には復帰するのではないか」と見られていたため、そろそろピッチに戻ってきてもいい頃。直近リーグ7試合未勝利で優勝戦線から後退したチームの救世主になってほしいという願いをダニエル・ポヤトス監督も抱いているはずだ。

とにかく今季のガンバは得点数があまりにも少ない。最多ゴールは宇佐美貴史の9点で、傑出した得点源がいないことが苦境の大きな要因になっている。林が戻ってきてすぐに爆発できるかどうかは未知数だが、東京五輪で一気に先発1トップを射止めた男には流れを変える力があるはず。早い復帰が待たれる。

そして最後の西村拓真だが、7月の復帰以降、ゴール数がリーグ1点とそこまで結果が出ているとは言えない状況だ。しかも、9月13日の京都サンガ戦ではレッドカードをもらって2試合出場停止。ここからのギアアップが強く求められると言っていい。

目下、横浜は9月17日のACL・光州FC戦、22日の広島戦で立て続けに大敗。窮地に立たされている。すでに離脱してしまった宮市亮に続き、広島戦では天野純も負傷交代。前線アタッカーの枚数が少なくなっている。ゆえに、西村にはもっともっと存在感を示してもらうしかない。凄まじい運動量と献身性は誰もが認めるだけに、あとは結果でチームを救うべきだ。

いずれにしても、欧州復帰組が終盤戦のキーマンになるのは間違いない。彼らの中で異彩を放つのは一体、誰なのか。その行方を慎重に見極めたいものである。

[著者プロフィール]

元川悦子(もとかわ・えつこ)/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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