戦国時代のJリーグ、首位快走の町田の失速の可能性は? 残留争いでよもやのチームがJ2降格危機
サッカーJ1リーグはクラブ間の力が拮抗して激しい順位争いを繰り広げている。その中で、首位を快走しているのがJ2から初昇格した町田だ。現在15勝5敗4分で勝ち点49。2位・ガンバ大阪に勝ち点5差をつけている。
町田のサッカーは、日本でなじみが深いポゼッションサッカーとまったく異なる。青森山田高校を28年間率いて、昨年から町田の監督に就任した黒田剛監督の哲学が色濃く反映されている。前線にロングボールをどんどん放り込み、出足の鋭さと運動量、フィジカルの強さでセカンドチャンスを次々に構築する。ロングスローを多用し、短い手数でゴールに迫るため、相手チームの選手が時間の経過と共に体力を消耗していく。魅せるサッカーとは言えないが、勝ちに徹したスタイルと言える。就任初年度の昨年にJ2優勝を飾ると、初昇格したJ1でもダークホースどころか優勝争いの中心になっている。
■初昇格初年度優勝の可能性は十分
スポーツ紙デスクは「日本代表が苦手とする中東のサッカーに似ています。ボールを奪われるとすぐにプレスを掛けて奪い返し、ロングボールとショートカウンターで相手ゴールに迫る。シンプルなサッカーに見えますが、約束事がきめ細かいのが特徴です。守備では立ち位置が徹底していますし、攻撃時のセットプレーは何十種類も引き出しがある。守りが固いチームなので失速しないと思います。初昇格初年度でのJ1優勝の可能性が十分にある」と分析する。
補強も抜かりがない。攻撃の軸だったFW平河悠がイングランド2部ブリストル・シティへ期限付き移籍したことで戦力ダウンが危惧されたが、日本代表のMF相馬勇紀(名古屋)を完全移籍で獲得することが7月23日に発表された。サイドアタッカーとしての能力は際立っているだけに、移籍が実現すれば平河の穴を埋める活躍が期待される。
ただ、サッカー雑誌の編集者は「優勝争いは最終盤までもつれるのでは」と分析する。
■「強豪チームはここからギアを上げてくる」
「シーズンはまだ14試合残っています。他のクラブも町田を研究していますし、最近は攻撃で決定機を作れない試合が増えてきている。昨季のリーグ覇者・神戸、強豪の鹿島、広島はここからギアを上げてくるでしょう。今までの町田は失うものがない強さがあったが、リーグ制覇の重圧がかかってくる。相馬がすぐにチームにフィットするかも未知数です。真価が問われるのはこれからですね」
3位・鹿島は勝ち点44、4位・神戸は勝ち点42。5位・広島は勝ち点40で町田を追いかける。この3クラブは大型連勝できる力を持っているだけに、逆転優勝の可能性が十分にある。
優勝争いと同様に注目されるのが、J1残留争いだ。今年は下位の3クラブがJ2に自動降格する。
厳しい状況に追い込まれているのが最下位の札幌だ。3勝15敗6分と大きく負け越し、勝ち点15。降格脱出圏となる17位・鳥栖の勝ち点25に10ポイントの差をつけられている。得失点差-26もリーグワーストだ。得点力不足を解消するため、今夏の移籍市場でスペイン人FWジョルディ・サンチェスを完全移籍で獲得。さらに大﨑玲央、フランシス・カンなど経験豊富な選手を補強した。今月20日の浦和戦は4-3と点の取り合いを制している。この勢いで後半戦は勝ち点を積み上げていけるか。
■かつての王者も降格争いに
残り2枠の降格圏内を回避する戦いは熾烈だ。 18位・磐田は勝ち点24、19位・鳥栖は勝ち点23。勝ち点29の13位・柏まで拮抗している。14位・川崎、15位・新潟、16位・湘南、17位・京都と6チームがJ2降格の危機に巻き込まれている。成績不振でハリー・キューウェル監督の解任を今月16日に発表した11位の横浜F・マリノス、12位の名古屋も残留の安全圏内とは言えない。
前出のサッカー雑誌編集者は、「降格争いは、優勝争い以上に先が読めません」と強調する。
「現在降格圏内の磐田、鳥栖は決して弱いチームではない。特に鳥栖はマルセロ・ヒアン、横山歩夢という強力なアタッカーがいる。守備陣を整備すれば十分に巻き返せるでしょう。この2チームが勝ち点を伸ばせば、思いもよらないチームがJ2降格するかもしれません。かつての王者・川崎もその可能性がゼロとは言えません」
川崎は昨オフにファンウェルメスケルケン際、丸山祐市、山本悠樹、三浦颯太、ゼ・ ヒカルド、パトリッキ・ヴェロン、エリソンと各ポジションに即戦力を補強したが、なかなか上昇気流に乗れない。試合の主導権を握るが、先制した後に追加点が奪えず同点に追いつかれるケースが目立つ。20日の柏戦で3-2と7試合ぶりの勝利を飾ったが、2点のリードを追いつかれるなど安定した戦いぶりとは言えない。個々の選手の能力は高く歯車がかみ合えば連勝できる予感が漂うが、今後も白星を積み重ねられないようだと残留争いから抜け出せなくなる恐れがある。
「上位クラブと互角以上の戦いをする一方で、下位クラブに足元をすくわれる危険性があるのが現在の川崎です。技術が高い選手がそろっているが、中盤で相手のプレッシャーを受けるとボールを失ったり、サイドからクロスをどんどん上げられたりと、球際での強さに欠ける。田中碧(デュッセルドルフ)、三笘薫(ブライトン)、谷口彰吾(シント=トロイデン)、旗手怜央(セルティック)、守田英正(スポルティング)と日本代表の主力選手たちが次々に抜ける中、チームは変革期を迎えている。J2に降格したら主力の大量退団は免れません。次節の神戸戦がポイントになります」(スポーツ紙記者)
戦国時代のJリーグ。優勝争いだけでなく、残留争いで目が離せない戦いが最後まで続きそうだ。
(今川秀悟)



