日本代表“5-0の完勝”はナゼ? 2ゴール・三戸舜介に離脱した半田陸が贈った“ある言葉”「TV中継には映らなかった」パラグアイ戦舞台ウラ
試合終了から1分も経っていないくらいだった。ミックスゾーンに真っ先にやって来たのはパラグアイのMFフリオ・エンシソだった。「パラグアイの宝石」と呼ばれる彼は、三笘薫のブライトンの同僚でもあり、本来ならば今頃は日本で親善試合をしているはずだったが、ブライトンの会長に直訴してパリ五輪に出場している。
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燃える気持ちを日本戦にぶつけるはずだったがまさかの0-5。それでもパラグアイメディアの質問に対して真摯に答えている様子は近くで見ていてよく伝わった。そして、「僕たちは立ち上がらなくてはならない」と険しい表情で取材エリアを去っていった――。
「余裕すら感じさせた」4人の選手
パリ五輪が始まった。U-23日本代表は一次ラウンド初戦で南米予選1位のパラグアイと対戦し、5-0で完勝した。前半19分にMF三戸舜介が先制点を奪い、後半も18分に三戸が追加点を挙げると、その後は日本がゴールラッシュ。MF山本理仁の得点で3-0とし、さらには途中出場のFW藤尾翔太が2点を加え、終わってみれば大量5点を奪って勝ち点3を手にした。銅メダルに輝いた1968年メキシコ五輪以来56年ぶりのメダル獲得に向け、最高の白星スタートだ。
パラグアイの選手が次々とミックスゾーンを通過していった後、少し遅れて日本の選手たちも取材エリアにやって来た。どの選手も誇らしげだった。
三戸の先制ゴールが生まれた場面、ペナルティーエリア内で相手DFを背中でブロックしてシュートコースを作るように体を張ったFW細谷真大は、「いいところで舜ちゃんがもらえていた。舜ちゃんの良さはパンチ力のあるシュート。うまくCBを抑えることができて、いい形で打ってもらった」と“陰のアシスト”に胸を張った。
先制点の起点となるパスを左サイドバックの大畑歩夢に出したFW斉藤光毅は、「歩夢とはああいう形で練習でも出来ているので、それを本番で出せたというのがポジティブな部分かなと思っている」と、親しみのある笑みをこぼしていた。斉藤は日本の5得点中3得点に絡む大活躍だった。
それにしても、やりたいことがすべて詰まった先制ゴールだった。大畑に裏抜けのパスを送った斉藤、ポケットの深い位置へ進入して敵陣を崩し切った大畑、折り返しのパスを収めて冷静にシュートを打った三戸、相手DFを背中でブロックして三戸をフリーのままにさせた細谷。4人の息の合ったプレーは余裕すら感じさせるものだった。
選手たちが明かした「直前に離脱したDF半田陸への思い」
日本がずっと苦手としてきた南米勢のパラグアイを相手に、望外レベルとも言える5ゴールを叩き込んだ原動力は何だったのだろうか。
メンバー全員の胸には共通のモチベーションがあった。初戦の直前に負傷で離脱したDF半田陸への思いだ。
半田はパラグアイ戦2日前の7月22日の非公開練習で行なった紅白戦中に負傷。昨年骨折していた左腓骨を再度痛め、パラグアイ戦前日の23日にメンバーリストから外れた。
半田は10代半ばからこの世代の中心選手として年代別代表に招集され、同学年の久保建英や1つ下の鈴木彩艶に次ぐ若さで日本代表にも選出されたことがあるエリート選手。4、5月にパリ五輪アジア最終予選を兼ねて行なわれたU23アジアカップ(カタール)では胃腸炎が長引いて出番は限られていたが、帰国後はその悔しさをJ1リーグの戦いにぶつけ、所属のガンバ大阪を上位へと押し上げ、パリ五輪代表入りを果たしていた。
殊勲の三戸はこう語る。
「個人としては半田選手とはすごく仲が良くて、オフでも一緒にいたりもするんです。02世代(2002年生まれメンバーたちの年代別代表活動)の時からずっと一緒にやっている選手なので、僕自身もすごく悔しいし、本当に……かわいそうだなと思いました。陸の分までみんなでやろうと思いましたし、自分も陸のためにも、という気持ちがすごくありました」
「悔しい気持ちはあるけど…」半田が三戸にかけていた言葉
三戸と半田はともに2002年生まれ。学年は1月生まれの半田が一つ上だが、年代別代表では中学生の頃から一緒に活動してきた間柄だ。
「中学の時からずっと一緒で、ずっと仲がいい。自分がああいう立場になったら本当に悔しいと思います」
半田からは「悔しい気持ちはあるけど、メダルを獲ってほしい」と言われているという。三戸は、「本当にメダルを獲りたいという気持ちです」と言葉に力を込めた。
三戸だけではない。細谷は「みんなも陸のためにというのもある。来れなかった人たちの分まで優勝して、結果で見せていけたら」と言い、大畑も「陸のために、と全員が思っている」と話していた。気持ちはがっちりと一枚岩になっている。
オーバーエイジ“なし”も結束の要素に?
そして、チームの結束が強まっている理由はそれだけではない。今回の日本は、パリ五輪出場の16カ国でただ1つ、24歳以上のオーバーエージ(OA)枠を使っていないチーム。他チームのOA選手には、アルゼンチンのW杯カタール大会制覇に貢献したアルバレス(マンチェスター・シティー)や、カタールW杯ベスト4入りの原動力となったモロッコのハキミ(パリ・サンジェルマン)らがいるが、日本は全員が23歳以下だ。
7月3日のパリ五輪代表発表でOA選手がいないことが決定した際には、戦力不足を憂う声が噴出していたが、U23アジアカップを制し、アジアチャンピオンとしてパリ五輪に出場している選手たちにとっては、心外な声であるだろう。
キャプテンのMF藤田譲瑠チマは「外部でどう言われているのか正直、知りませんが、この試合をきっかけに応援してくださる方が多いと思う。そういった中で自分たちのプレーをしっかりと見てもらって、自分たちも楽しめたらいいなと思います」と淡々と言った。抑揚の少ない口調であることが、内に秘める反骨心を表しているようだった。
ミックスゾーンで選手たちは顔を引き締めていた
ミックスゾーンには大岩剛監督もいた。この試合は試合後の監督会見がなく、パラグアイ指揮官もミックスゾーンで記者に対応していた。
大岩監督は「オリンピックで1試合を終えて、次の試合のことしか頭にない。選手にも中2日であるということを再認識してもらって、しっかりと向かっていくだけ」と表情を引き締めた。 実は、5-0の大勝でも、選手たちこそ笑顔一辺倒というわけではなかった。中2日で行われる一次ラウンド第2戦に気持ちが向いていたからだ。
日本と同じD組の裏カード、マリ対イスラエルは1-1の引き分けだった。これにより、日本は第2戦のマリ戦に勝てば決勝トーナメント進出が決まる。マリは3月の国際親善試合で1-3で敗れている相手。だが、結束力を強めている今の大岩ジャパンにとっては、一度負けた相手に二度と負けないという反骨心は大きな武器になる。
藤田は記者の質問にひとしきり答えると、「もういいですか」と自ら切り上げ、取材エリアを後にした。その背中に、決勝戦まで計6試合をやりますから、という覚悟めいたものが浮かんでいた。



