日本代表、中村敬斗は「ギラギラしている」。アジア杯での屈辱をバネに、WBで意識したプレーとは?【現地発コラム】
日本代表は6日、FIFAワールドカップ26アジア2次予選 兼 AFCアジアカップサウジアラビア2027予選・グループリーグB組第5節でミャンマー代表と対戦し、5-0で大勝している。この試合で勝利の立役者となったのが、2ゴールを挙げた中村敬斗だった。WBで出場した同選手は、屈辱を味わったアジア杯を経てあるプレーを意識していた。(取材・文:元川悦子【ミャンマー】)
●「アジアカップで感じた『タテ突破の壁』を…」
4バックと3バックを臨機応変に可変させながら、「攻撃的3バック」という新オプションを作ることに挑んでいる今回の日本代表。6月6日のFIFAワールドカップ26アジア2次予選・ミャンマー戦(ヤンゴン・トゥウンナ・スタジアム)は重要なチャレンジの場となった。
雨季真っ只中の現地はこの日も雨が降ったり止んだりのあいにくの天気。試合開始の18時40分時点で雨は止んでいたが、気温28度・湿度80%超とピッチに立っているだけで暑さが絡みつくような状況だった。
そんな中、森保一監督が送り出したのは、代表3試合目の1トップ・小川航基や昨年11月以来の復帰となった鎌田大地らフレッシュなメンバー。基本布陣は頭から3-4-2-1で、左ウイングバック(WB)には中村敬斗が入った。
昨年3月の第2次・森保ジャパン発足時から代表に名を連ね、A代表定着を果たしている中村。だが、1~2月のAFCアジアカップカタール2024では肝心な準々決勝・イラク戦で前田大然に先発の座を奪われ、出番を得られないまま、自身初のビッグトーナメントが終わるという屈辱を味わった。
「バーレーン戦が個人的によくなくて、スタメンを外れたのは仕方ないと思った。三笘(薫)選手がケガから帰ってきたので途中から流れを変える役割を担うことは分かっていたし、イラン戦に出れなかったことは悲観はしていないけど、もっと成長しないといけないと強く思いましたね」と本人も厳しい表情で述懐する。
その後、スタッド・ランスに戻ったが、定位置確保に時間がかかり、コンスタントな先発出場は4月中旬以降までズレ込んだ。
「アジアカップで感じた『タテ突破の壁』をフランスでこの半年はすごく意識しました。1対1、個の強いリーグだし、仕掛ける環境に身を置けているので、そこで磨いた『持ったら仕掛ける』という部分を代表で出したかった」と中村は目の色を変えてこの一戦に臨んだのである。
●「WBは点が結構取れるよ」
背番号13はスタートからその意識を前面に押し出した。最初の見せ場は開始早々の3分。インサイドにいた鎌田から大外でボールを受けた彼は、対面のDFを一気にかわしてポケットを取り、左足でクロスを入れた。これはDFに当たって跳ね返り、最終的に守田英正がミドルシュートを放つ形になったが、「相手を抜いてやる」というギラギラ感が色濃く見て取れた。
そこから中村はタッチライン際でパスを受けると次々とドリブルで突破。鎌田と近い距離感を保ちながらチャンスを作る。後ろの伊藤洋輝を含めた左のトライアングルもいいバランスを保っており、守備面のサポートがあった分、迷うことなく前へ出られたのだろう。
「(右の菅原)由勢はサイドバック(SB)の選手なんで、どちらかというと左の敬斗の方が攻撃的。『WBは点が結構取れるよ』という話を彼にもしました」と堂安律も左肩上がりの攻めを献身的にサポート。中村をゴールに近いエリアでプレーさせるように仕向けたことも、彼が大いに輝いた要因と言っていい。
17分の先制点もこの男から生まれた。中央右寄りの位置で守田がパスをカット。旗手怜央に渡し、最終的には鎌田が左の大きなオープンスペースに絶妙のスルーパスを出した。ここに走り込んだのが背番号13。2枚のDFをドリブルでかわして右足を一閃。股抜きで見事なゴールを奪ったのだ。5-4-1のミャンマーが守ってくる中、早い時間帯で1点をリードできたのは大きかった。この一撃はチームに安堵感を与えたのである。
さらに日本は34分に2点目を挙げる。これも中村の仕掛けからだった。伊藤洋輝からのスルーパスを受けると、今度は外をえぐるのではなく、中に持ち込み、ペナルティエリア内でフリーになっていた鎌田に横パスを出した。背番号15は反転して右足シュート。これが左ポストを強襲し、こぼれ球に堂安が反応した。これによって、日本は前半を2-0で折り返すことができた。
そうなると後半は異なるテストが可能になる。森保監督は後半頭から堂安と旗手を下げ、代表デビューの鈴木唯人と2戦目の川村拓夢を起用。新戦力の融合を図った。彼らが入ると前半のような3枚と4枚の可変、流動的なポジション変更の回数は減ったが、左WBの中村の仕掛けは健在だった。
●「敬斗はギラギラしているのがいいですね」
そして指揮官は62分から前田と相馬勇紀を投入。前田を左の大外に配置し、中村を2シャドーの一角に移動させた。本人はこの位置に関してはあまり準備していなかった様子だが、さすがはA代表で1年半、継続的にプレーしている選手。守田と絡んで存在感を示すなど、鈴木や川村らに比べて明らかな余裕を感じさせた。
そのうえで、小川の2ゴールで4-0とリードした後半アディショナルタイムに得意な形から自身2点目をゲットしたのだから、文句なしだろう。中村はミャンマー戦の5-0の勝利の原動力となり、マン・オブ・ザ・マッチを獲得。代表9戦8発という驚異的な数字も残したのである。
「高い位置を取ってウイングと同じようなポジションで切れ味鋭いプレーができるのは敬斗の持ち味。あの頃(ガンバ大阪の新人時代)もだいぶ上下動できるようになったし、守備もできるようになって素晴らしい。これからもっと良くなると思います」と2018年に師事した恩師・JFA宮本恒靖会長が絶賛すれば、森保監督も「敬斗はギラギラしているのがいいですね。WBはそう簡単なポジションじゃないですし、守備で長い距離を戻ったりとかタスクがある中で、彼は攻撃のギラギラ感を出していた」と前向きに言う。自らに関わった2人の指導者からこういった評価を得られたことは、中村にとって大きな自信になったに違いない。
この攻撃迫力をコンスタントに出せれば、最終予選以降は三笘とも互角にポジション争いができるのではないか…。そんな期待感も見る者に抱かせてくれた。 けれども、本人は「薫君は相手がスペインでもドイツでもあのクオリティを出せるから、(自分は)まだまだ比較されるような立場じゃない。どんどん成長したいです」とさらなる野心を口にした。
凄まじい貪欲さでこの先も前へ前へと突き進めれば、中村は本当に大化けする可能性がある。得点力は明らかに三笘より上なのだから、仕掛けの部分に磨きがかかれば、怖いものなしだ。そうやって世界を凌駕する彼の姿が近い将来、見られれば、日本にとっても大きな武器になる。この日の経験を飛躍への糧にしてくれれば理想的だ。
(取材・文:元川悦子【ミャンマー】)