久保建英に続き鈴木彩艶らがA代表招集も…次回W杯に不安を残す“パリ五輪世代”の本当の評価

11月21日に行われた’26年北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選・シリア戦(ジッダ)で今年の日本代表の活動が終了した。

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この試合でも日本代表が5‐0でシリアを圧倒するなど、3月に発足して以来、第2次森保ジャパンの快進撃は凄まじい。初陣のウルグアイ(国立)、コロンビア(ヨドコウ)こそ1分1敗と未勝利発進を余儀なくされたが、6月のエルサルバドル戦(豊田)以降は8連勝。10月のチュニジア戦(神戸)を除く7試合で4得点以上と、攻撃陣の爆発力は目を引くものがある。

三笘薫(26・ブライトン)やセルティック古橋亨梧(28)、前田大然(26)らが欠場しても、他の選手がしっかりと穴を埋め、主力不在を感じさせない。対戦相手や状況に応じて、基本布陣を変化させる柔軟さも見せた。選手層の厚さと戦い方の幅広さは第1次森保ジャパン時代にはなかったものだ。キャプテンの遠藤航(30・リバプール)が公言する「’26年W杯優勝」の大目標に手が届きそうな雰囲気が漂ってきたと言っていい。

まさに上昇気流に乗っている日本代表だが、不安要素が皆無かと言われれば、そうではない。気がかりなのは、若い世代の押し上げだろう。

’22年カタールW杯に挑んだチームの最年少は当時21歳の久保建英(レアル・ソシエダ)だった。日本が対戦したドイツには当時19歳のジャマル・ムシアラ(バイエルン)がいたし、スペインに至っては’02年生まれのペドリ(21・バルセロナ)、ニコ・ウィリアムズ(21・アスレティック・ビルバオ)、’04年生まれのガビ(19・バルセロナ)と当時10代の選手がいた。

「カタールW杯全体で’01年生まれ以降のパリ五輪世代は約10%いたのに、日本は久保1人だった。そこは大きな懸念材料です。協会としては、『17歳でJリーグデビューし、10代でサムライブルーに昇格する』というパスウェイがモデル。それに近づけていかないといけないと考えています」

日本サッカー協会の反町康治技術委員長(59)は、今年1月のフットボールカンファレンスの場でこう強調した。

しかしながら、この1年間でA代表に昇格して爪痕を残したパリ五輪世代は、シリア戦で先発したGK鈴木彩艶(21・シント=トロイデン)と、この試合で代表初ゴールを挙げた細谷真大(22・柏)の2人くらいだ。

森保監督ももちろん、若手引き上げには注力している。3月シリーズでは、長友佑都(37・FC東京)が長年担っていた左サイドバック(SB)の後継者候補としてバングーナガンデ佳史扶(22・FC東京)を抜擢。コロンビア戦にスタメン出場させたが、その後のケガもあって定着するまでには至らなかった。右SBの有望株の半田陸(21・G大阪)、アグレッシブなボランチ・川崎颯太(22・京都)らも招集はしているものの、出番なし。結局のところ、確実にA代表の戦力と認められたパリ五輪世代は、久保と鈴木彩艶くらい。物足りないと言うしかない。

今の森保ジャパンは、森保一監督が率いた東京五輪世代(’97年生まれ以降)が主力級を占めている。DFラインの主軸である板倉滉(26・ボルシアMG)と冨安健洋(25・アーセナル)、ボランチの田中碧(25・デュッセルドルフ)、2列目の三笘と堂安律(25・フライブルク)、久保、FWの前田、上田綺世(25・フェイエノールト)といった面々だ。

振り返ってみれば、第1次森保ジャパンが発足した’18年9月の時点で冨安は19歳、堂安は20歳と非常に若かった。翌’19年夏のコパアメリカ(ブラジル)でA代表デビューした板倉と中山雄太(26・ハダ―スフィールド)は22歳。前田大然が21歳、上田綺世も20歳でコロンビア、チリ、ボリビアといった南米の強豪国と真っ向からぶつかっていくだけの底力があった。

それに比べると、今のパリ五輪世代は成長速度が遅いと見る向きがある。今夏、鈴木彩艶、藤田譲瑠チマ(21)、山本理仁(21)の若手3人を揃って獲得したシント=トロイデンの立石敬之CEO(54)も「パリ五輪世代は東京五輪世代に比べると小粒感が見て取れる。だからこそ、早く海外リーグを経験させて、成長スピードを引き上げるしかない」と語っており、’26年W杯までに何人の選手がA代表基準にのぼり詰めるかが注目されている。

パリ五輪世代の底上げが遅れている要因の1つと言えるのは、’20~’22年までのコロナ禍だろう。その間、海外との行き来がストップし、’01年生まれ以降の世代が参戦するはずだった’21年のU-20W杯がキャンセルされてしまった。

冨安や堂安は’17年のU-20W杯(韓国)でイタリアやウルグアイといった強豪国と激しいバトルを演じることで大きな成長を遂げている。’19年U-20W杯(ポーランド)に参戦した伊藤洋輝(24・シュツットガルト)はカタールW杯に滑り込み、菅原由勢(23・AZ)や中村敬斗(23・スタッド・ランス)も第2次森保ジャパン発足後は重要な戦力になりつつある。

極東の島国である日本は欧州のように簡単に隣国と行き来して試合をすることができない。とくにコロナ禍はその傾向が強かった。だからこそ、年代別世界大会で真剣勝負をすることが重要だ。今年になってU-22日本代表は強豪国と数多くの親善試合を消化したが、やはり公式戦とは違う。貴重なチャンスを逃したことが、パリ五輪世代の大きな足かせになっているのではないだろうか。

それでも、個人レベルでいち早く海外挑戦に踏み切る選手も少なくない。その筆頭がスパルタ・ロッテルダムでプレーする斉藤光毅(22)。現在は負傷離脱中だが、’21年1月にベルギー2部・ロンメルで欧州キャリアをスタートさせ、1年半後にはオランダ1部へステップアップ。昨季は20試合出場5ゴールという実績を残し、チームの主軸アタッカーと位置づけられるようになっている。

斉藤に追いつけ追い越せと、’23年1月には鈴木唯人(22・ブロンビー)が欧州挑戦に踏み切った。最初のクラブはフランス1部・ストラスブール。川島永嗣の所属先(40・当時)ということで適応は早いと見られたが、なかなか出番を得られず、昨季は3試合出場1ゴールという結果に終わった。そこで本人は心機一転、デンマークという新たな環境を選び、8月に完全移籍。まだ定位置を獲得したとは言えないが、11月18日のU-22アルゼンチン戦(日本平)で2ゴールをゲット。守備面でのハードワークや球際、寄せの激しさなども含めて成長を感じさせた。

同じU-22アルゼンチン戦で先制点をマークした佐藤恵允(けいん・22・ブレーメン)と福田師王(19・ボルシアMG)はJリーグを経由せず、いきなり欧州行きを選択した。佐藤は明治大学から今夏、渡独。今はU-23チームに所属しているが、「すぐにトップに上がって活躍する」と鼻息が荒い。スピーディーなドリブルで左サイドを駆け抜けるウイングということで、三笘薫の後継者と目される逸材だ。

福田は神村学園高校から今年1月にドイツへ渡った19歳の点取り屋。U-17代表時代に彼を指導した中村憲剛(43・川崎FRO)も「凄まじいポテンシャルを秘めたFW」と評している。今のところはU-23チームでプレーしているが、同じクラブに板倉滉がいることもあって、すでに環境には慣れている様子。このままコンスタントに実績を積み重ね、トップチームに上がり、ドイツ・ブンデスリーガ1部の試合に出るようになれば、一気にA代表入りということもないわけではない。

彼らのように若いうちから欧州でプレーする選手が次々と増えているだけに、2年半後の日本代表がどうなっているかは不透明な部分がある。そういう意味では期待も高まるところだが、そのためにも、パリ五輪世代は確実に五輪本大会切符を獲得しなければならない。

五輪に参戦できるアジアの枠はわずか3.5。東京五輪は自国開催だったため、予選なしで出られたが、今回は’24年4月にカタールで行われるAFC・U-23アジアカップで3位以内に入ることが必須。4位のチームはアフリカ勢とのプレーオフに回り、そこで勝てば辛うじて本大会に出られる。狭き門なのは間違いない。11月23日の抽選会で日本は韓国、中国、UAEと同組に入った。「死の組」と言われる厳しいグループで、まずは上位2位以内に入らなければ何も始まらない。タフな戦いを勝ち抜き、世界の大舞台に立てるか、躍進を遂げられるか否かで、パリ五輪世代の未来が大きく変わってくると言っていい。

直近のU-22アルゼンチン戦を5‐2で勝利し、弾みをつけた彼らだが、本番となれば相手の本気度は全く違う。そこで結果を出せる選手が数多く出てくれば、森保ジャパンの若手台頭問題も杞憂に終わる。「パリ五輪世代は久保と鈴木彩艶だけ」という現状を打破すべく、彼らには奮起してほしいものである。

取材・文:元川悦子

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