DFの天才とは? 日本代表OBが考えるDF目線の定義と選んだ2人の“異才”
【専門家の目|栗原勇蔵】松田直樹は数字に残らないプレーで印象を残す
サッカー界では、数々の「天才」が歴史を彩ってきた。「FOOTBALL ZONE」では、天才をテーマに特集。元日本代表DF栗原勇蔵氏に、“DFの天才”について訊いた。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)
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天才と言えば、元日本代表MF小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)を筆頭に、元日本代表MF中村俊輔氏、元日本代表MF中田英寿氏、日本代表MF久保建英(レアル・ソシエダ)といった名前が挙がるなど、ファンタジスタタイプの中盤の選手が多い。
では、DFに天才はいるのか。現役時代は横浜F・マリノス一筋18年で過ごし、日本代表としても20キャップを刻んだ栗原氏に尋ねると、「何を天才と定義するかによりますが」と前置きしつつ、「天才と言うと、どうしても上手い系、技術がある上手い選手、なんでもできるイメージ。DFで言うなら、足元の技術のほかに、試合を読む能力も大事かなと。一手、二手先まで予想するのはもちろん、ここさえ抑えればチームが盛り上がる、サポーターが盛り上がるような局面で、上手く力を集約させる。エンターテインメント性も個人的には大事だと思います。サッカーはもともとエンターテインメント要素も含んでいるので」と語り、2011年に急逝した元日本代表DF松田直樹さんの名前を真っ先に挙げた。
「サッカーは90分間の中で、サボるというか、上手く力を抜くことも必要になる。数字には残らないプレーで印象を残す。ここぞというところで存在感を発揮する。その感性は天才が持っているものだと思うし、マツさんはそれが際立っていたと思います。僕はまだ若造の立場でマツさんと一緒に組ませてもらって、いいところは全部マツさんに持っていかれました(笑)。良ければ、『今日ディフェンス堅かったよね』『さすが松田だよね』。やられたら、『栗原がミスしたよね』と(笑)。言われる側としては、それだけじゃないでしょという思いはありますけど、もちろんマツさんに実力があって、それまで積み上げてきたものがあるからそう見られんだと思いますけどね」
栗原氏が「天才DF」として触れたもう1人が、“闘将”と呼ばれた2歳年上の元日本代表DF田中マルクス闘莉王氏だ。
「闘莉王さんも周囲の士気を高めるのはすごく上手かったし、圧倒的な実力も兼備していました。闘莉王さんはマツさんよりも、抜いている瞬間が多かったかもしれません(笑)。でも、彼の場合は、指示を出して人を動かせる統率力がある。名古屋グランパスの時は、年上の増川(隆洋)さんを上手くコントロールしながら堅い守備を構築していた。闘莉王さんも天才の部類に入ると思います」
栗原氏は「山口智さん(ガンバ大阪ほか/現湘南ベルマーレ監督)もセンスの塊で、それが今の監督業に生きているのかなと思います」と語ったうえで、「天才は身近なようで近くにはそうそういないので、簡単に使うような言葉ではないかもしれません(笑)」と見解を述べていた。
[プロフィール]
栗原勇蔵(くりはら・ゆうぞう)/1983年生まれ、神奈川県出身。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2002年にトップ昇格。元日本代表DF松田直樹、同DF中澤佑二の下でセンターバックとしての能力を磨くと、プロ5年目の06年から出場機会を増やし最終ラインに欠かせない選手へと成長した。日本代表としても活躍し、20試合3得点を記録。横浜FM一筋で18シーズンを過ごし、19年限りで現役を引退した。現在は横浜FMの「クラブシップ・キャプテン」として活動している。