古橋亨悟、セルティック残留選んだ“納得の光景” カメラマンが見た1人スタンドへ向かった日本人FWの行動【コラム】
【カメラマンの目】来日プレシーズンマッチG大阪戦後に見せた古橋の表情に注目
試合後、サポーターの声援に手を振りながら場内を周る前田大然に「今日の試合はマークが厳しかったですか?」と広角レンズを装着したカメラを向けながら聞いた。
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スコットランド王者セルティックの得点源は笑顔で「いや」と答えてくれた。セルティックジャパンツアーの第2戦となった対ガンバ大阪戦。7月19日に日産スタジアムで行われた横浜F・マリノス戦と比較すると、その違いはゴール付近での攻防でより激しさが見られたことだ。
横浜FM対セルティック戦がお互いに長所を出し合うノーガード気味の展開で進み、大量得点が生まれたのとは対照的に、この試合は相手へのマークの意識が強く、両チームともスムーズな攻撃の流れをあまり作ることができずに終わった。
実際、最前線でプレーした前田も三浦弦太を中心としたG大阪ディフェンス陣の前にノーゴールに終わっている。ただ、相手のマークに対して手も足も出なかったという内容ではなく、互角の攻防を見せたため、前田の思いもマークに苦しめられた90分間とはならなかったのだろう。
セルティックがそうであったように、対戦したJリーグ勢も公式戦に向けての調整の意味合いが強かったため、結果やプレーをそのまま評価することはできないが、先の横浜FM戦ではハットトリックをマークし、このG大阪戦でも前線からの守備で相手にプレッシャーかけ、攻撃となればマークを掻い潜り積極的にシュートを放つなど、前田のパワフルなプレーには目を引いた。
前半を0-0で終え、ハーフタイムに入るとセルティックの選手たちはそのままピッチでクールダウンを始め、総入れ替えの展開となる。後半からは古橋亨悟がキャプテンマークを巻いて登場した。
その古橋は来日する前のポルトガル合宿で負傷していたようで、調整で出遅れた分、ジャパンツアーの2試合では途中出場となり本領を発揮することはできなかった。昨シーズンのリーグ得点王の古橋だが定位置は保証されておらず、8月から始まるリーグ戦に向けて前田らFW陣とのレギュラー獲得に向けた戦いが続く。
そして、ジャパンツアーで見せた前田と古橋のプレーから、新たな指揮官ブレンダン・ロジャースが構築するチームでの彼らの役割も明確になってきた。
これまでは左ウイングでプレーすることが多かった前田は、前線の中央でプレーすることも増え、ボールを持った相手選手への積極的な守備と、サイドを突破した味方からのラストパスに点でコンタクトしゴールを目指すセンターフォワード(CF)の役割を担っていた。
対して古橋はCFというより、前線からやや下がり気味の位置でボールを受けるとドリブルで局面を打開し、味方にパスを供給して敵陣に進出。チャンスメイクも行いながらゴール前でパスを貰うとフェイントで相手守備を交わしてシュートを放つ、技巧的なプレーを見せた。新シーズンは攻撃において、より幅広い動きでチームに貢献していくことを求められていくのかもしれない。
サポーターから愛されていることを実感、古橋は格別の表情でダンス
スコットランドでは無敵を誇るセルティックだが、その実力はジャパンツアーの親善試合から判断すると、J1リーグクラブの中位といった印象を受けた。古橋はこのセルティックと新たに4年の長期契約を結んだ。
昨シーズン、リーグ得点王とMVPの称号を手にし、これ以上の活躍はないほどチームに貢献した古橋にとっては、ステップアップを考えて移籍することも視野に入っていたことだろう。だが、セルティックでプレーすることを続ける決断を下した。
そうした思いに至った理由の一端を試合後に見ることができた。古橋はインタビューに応じていたため、仲間の選手たちとは1人遅れてスタンドに向かって挨拶をしていると、セルティックサポーターからリーグ優勝の際にも見せたダンスをするように促された。最初は断っていた古橋だが、結局は照れながらも笑顔でサポーターの思いに応える。
限られたサッカー人生を考えた時、なにを優先してプレーする場所を決めるかは選手それぞれの思いによって異なる。それはさらなる高みを目指す挑戦への思いだったり、ヨーロッパのリーグにあってセカンドレベルでも、チームの中心選手としてプレーすることの充実感であったりする。さらに生活のし易さやサポーターとの関係などプレーするチームを選択する判断材料は多岐にわたる。
試合後、カメラのファインダーに捉えたダンスをする古橋の表情は実に楽しそうだった。ピッチでのプレーに勇気を与えてくれるサポーターから愛されていることを実感できる。選手にとってこれほど嬉しいことはない。
古橋にとってセルティックは居心地の良い格別な場所のようだ。
[著者プロフィール]
徳原隆元(とくはら・たかもと)/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。80年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。