Jリーグ6月のベスト11を独自選考「誰にも負けないインパクト」を見せた選手たち
スポルティーバJ1月間ベストイレブン 2023年各月のベスト11はこちら>> 識者による独自選考のJリーグ月間ベストイレブンを発表。6月は、スポーツライターの小宮良之氏が11人を選んだ。好成績が目立ったチームの肝となっていた選手をピックアップ。夏場にさらに飛躍しそうな注目プレーヤーばかりだ。
◆【画像・フォーメーション】前月はどうだった? スポルティーバ独自選考の2023J1各月の月間ベストイレブン
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FW/アンデルソン・ロペス(横浜FM)、ディエゴ・オリヴェイラ(FC東京) FW/宮市亮(横浜FM)、小野裕二(鳥栖)、マテウス・カストロ(名古屋) MF/香川真司(C大阪) MF/河原創(鳥栖) DF/永戸勝也(横浜FM)、ファン・ソッコ(鳥栖)、半田陸(G大阪) GK/朴一圭(鳥栖)
【横浜FMの面々に王者らしさ】
6月は代表活動による中断があったため、リーグ戦は3試合しか行なわれていない。ヴィッセル神戸、川崎フロンターレに至っては、台風の影響で1試合延期になったため、たった2試合。神戸は大迫勇也が文句なしに前半戦のMVPだし、武藤嘉紀、山口蛍、齊藤未月、酒井高徳も同じく前半戦のベストイレブンに値するが、6月だけだと1勝1敗の戦績……。
神戸や川崎の選手を外さざるを得ないのもあって、やや歪な選考になった。前輪駆動と言うのか。守りのところではミスが多かったこともあり、アタッカーの活躍が目立った。
サンフレッチェ広島、鹿島アントラーズなど上位チームが足踏みするなか、横浜F・マリノスが3戦全勝で暫定首位に立っている。エウベル、ヤン・マテウス、渡辺皓太の活躍は目覚ましかったし、交代の切り札に水沼宏太を擁する。突出した戦力を誇り、勝負強さも含めて王者らしさを示した。サッカーそのものはやや低調だったが……。
宮市亮は、「6月の敢闘賞」に相当するだろう。復帰した柏レイソル戦、劇的な逆転弾の感動は、スタジアムを揺らすほどのスケールだった。切り札的な起用のなか、3試合とも途中出場で、プレー時間だけを考えたらベストイレブン選出は無理がある。しかし、6月のJリーグでは誰にも負けないインパクトを残した。
一方、アンデルソン・ロペスはJリーグ王者の中心的存在と言える。中盤に落ちてボールを受け、ポストワークで展開を広げるなど、攻撃をけん引。ゴール前に上がった時の高さや迫力も際立っていた。6月は3試合で4得点。FC東京戦ではヤン・マテウスからのクロスを頭で合わせ、柏戦でも水沼のクロスを呼び込み、豪快なヘディングを叩き込んだ。
また、永戸勝也は左サイドでセンスが光った。抜群のスペース感覚と、そこに入った時のスキルとビジョンで、サッカーの奥深さを示した。スルスルとライン間に入ってボールを受け、長短のパスで相手のズレを生むパスやクロスは特筆に値する。カウンター一辺倒になりがちなチームに、攻撃の厚みを加えていた。
【G大阪が3連勝。鳥栖はベストチーム賞】
もう一つ、3連勝を飾ったのがガンバ大阪である。そもそも戦力的に、降格圏で喘ぐようなチームではない。ダワン、イッサム・ジェバリは確実にフィットしつつあるが……。
特筆すべきは、右サイドバックの半田陸だろう。抜群のセンスの持ち主。FC東京戦でのゴールは、その躍動感が出ていた。ほぼ五分五分になったボールに対し、長いストライドで追いつき、食いついてきた相手と入れ替わって前に出ると、カウンターを発動。そのままダイナミックに攻め上がって、味方が落としたボールをネットに沈めた。
左サイドバックの次点は黒川圭介か。鹿島戦、左サイドからカットインし、右足シュートでゴール。ダワンに合わせたクロスのアシストも技術の高さを見せた。サッカーの「道筋」としては評判が悪くなかったダニエル・ポヤトス監督のサッカーに、プラスアルファを与えたと言える。
そして「月間ベストチーム賞」があるなら、2勝1分けと上昇気流に乗ったサガン鳥栖に贈るべきだろう。川井健太監督が与えた「仕組み」が浸透し、各選手が勇躍。朴一圭、小野裕二、河原創、ファン・ソッコと最多4人を選出したが、手塚康平、堀米勇輝、長沼洋一、山﨑浩介なども有力候補だった。
「楽しくてしょうがない。まだまだできます」
選手たちは口々に言うが、そこまでポジティブなチームはほかにあるか。
朴は鳥栖のプレー構造のキーマンで、前半戦のベストGKと言える。リベロプレーでボールプレーの土台を作りつつ、激しく味方を叱咤し、士気を高めている。一方でゴールキーピング技術も神がかりで、湘南ベルマーレ戦は6-0で勝利も6-6になってもおかしくないほどのピンチを悉(ことごと)く守った。
小野は朴と対になる前線の戦術軸になっている。生粋のセンターフォワードではなくゼロトップに近い。下がって受け、流れてスペースを作る。連係面に優れた能力を生かし、ボールを呼び込んで「触ればゴール」というほどの感覚を得ている。その証拠に、湘南戦はハットトリックを達成。何をすべきか整理されたことで天性のセンスが覚醒し、大袈裟に言えば川崎時代の大久保嘉人に近い状態だ。
河原は序盤戦こそやや空回りしていたが、今や風格すら漂う。初のJ1挑戦であることを考えたら、「新人王」にも等しい。とにかくインテリジェンスを感じさせ、ポジションの取り方一つで味方を生かし、パスのタイミング、コースは白眉。「チーム全体を動かし、勝利する」というボランチの本分を心得る。誰とでも組める選手だが、6月は左利きの手塚とのコンビが際立った。
ソッコは開幕直前の怪我で長期離脱から復帰となったが、すぐに存在感を発揮している。元々は強さを売りにしたクラシックなセンターバックだったが、川井監督のチームでつなぎやポジショニングなど、技術、戦術を洗練させて急成長。7月以降はコンディションも上がり、さらに質の高いプレーを見せるはずだ。
【存在感を放つ活躍ぶり】
首位を走っていた神戸を撃破するなど、2勝1敗だったセレッソ大阪は、香川真司がチームにアクセントを加えていた。北海道コンサドーレ札幌戦では、相手の攻撃力に苦戦も、香川が随所でタメを作って、押しきらせなかった。GKとの1対1で浮かせたシュートは、世界の舞台で戦ってきた男の妙技だったと言えるだろう。
同じく2勝1敗の名古屋グランパスは、マテウス・カストロが調子を上げてきた。5月末から3試合連続ゴール。キックの精度はJリーグ最高レベルで、強力な武器になっている。C大阪戦では、3点すべてに絡んでいた。2点目のアシストはCKでニアに魔球のようなボールを送り、3点目の爆走ドリブルシュートも圧巻だった。新加入のキャスパー・ユンカーの得点を引き出すなど、堅守カウンターの戦術を完結させていた。
一方、チームは不調で監督交代もあったFC東京だが、ディエゴ・オリヴェイラは一人で戦術になる存在感があった。前線でボールを受けるタイミングが絶妙で、相手の動き次第でプレーキャンセルし、最善の選択に切り替えられる。その老練さは出色。直近の名古屋戦、反転からのシュートは鮮やかだったし、駆け引きからマークを外し、背後を取ってヘディングも決めた。
6月のJリーグは、やや変則的だった。そのなかで、目立ったのは鳥栖だろう。チームの仕組みのなかで選手が台頭し、本物の”強さの高まり”が見られる。夏場は復帰したストライカー、富樫敬真に注目だ。