清水エスパルス秋葉忠宏監督「ビルドアップは興味がない」 超攻撃的サッカーを目指し「世界と違うことをやっていたら意味がない」
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低迷する清水エスパルスの監督を受けた理由「普通だったら受けなかったけど、成功体験があったのが大きい」
清水エスパルスの監督の打診を受けた秋葉忠宏は、チームを変えられるという自信を持ってオファーを受諾した。過去のコーチや監督経験、そして、それまで3カ月間、コーチとしてチームを見てきたなか、秋葉には着手すべきところが明確に見えていたからだ。
――監督になって最初にどこからメスを入れるのかは見えていましたか。
「コーチの時からチームをよくするためにはどうすべきかという視点で見ていましたし、3カ月ほど経過していたので選手も把握できていました。そこで最初に着手したのが、〝メンタルの解放”です。みんな、苦手なこと、好きじゃないことに取り組み、いい顔をしてサッカーをしていないのが見てとれた。自分の長所や自分のよさを発揮させていい顔をしてサッカーをやらせてあげたい。そうすれば絶対にいけると思っていたので、『できるんだよ』と何度も言いました」
――勝てないことで選手は自信を失っていたように思いましたが、同時にピッチ上で委縮しているようにも見えました。
「ホームの試合でなかなか勝てなかったので、サポーターの応援やアイスタ(IAAスタジアム日本平)の雰囲気にちょっとビビっていた感もあったと思います。でも、サポーターとはいがみ合う間柄じゃないじゃないですか。だから『僕らを応援してくれるし、昇格しようという思いは一緒。より絆を深めて一緒に戦っていこう』と選手に伝えました。それから『ホームで絶対に勝つぞ』『アウェーでもこれだけ応援に来てくれている、あの声が聞こえるだろう』という話をしていくなかで、選手も『そうだな』と理解し、応援を背にノッて戦えるようになったんです」
アイスタでは、秋葉監督になって以来、6試合(第19節まで)5勝1分と無敗だ。サポーターの熱烈なバックアップがある「アイスタ効果」と秋葉は笑うが、そこに至ったのは重要な試合を乗り越えてきたからだ。
――秋葉監督にとって重要な試合になったのは、どのゲームでしょうか。
「監督就任直後の東京ヴェルディ戦(第8節)です。そこで、いい勝ち方(2-1)ができたからこそ今があるんだと思います。あの試合がドローや負けだったら今、ここにいないでしょう(苦笑)。そういう意味では、自分で言うのもなんですが、『もっているな』と思っています」
――初戦を乗り越えたあと、メンタル以外で手を打ったところはありますか。
「僕は適材適所が大事だなと思っていたので、選手の能力や個性を見て適性なポジションに置いていくこと。守備については失点が多かったので、すべきことを口酸っぱくして言っただけです。メッシが『試合に勝つにはアタッカー陣の力が必要だけど、優勝するためには守備が重要だ』と言っていますが、僕も優勝するために球際の強さ、切り替えの速さ、セカンドボールへの意識などについてかなり言ってきました。でも、言うだけでエスパルスの選手はできてしまう。本当にレベルが高いなと思いますね」
適材適所で言えば、監督になってから乾貴士をトップ下において、システムを4-2-3-1に変更し、彼中心の攻撃を構築した。その結果、開幕後7試合5得点と得点力不足に苦しんでいたチームが大量得点で勝つチームに変貌した。
――乾はサイドの選手でした。なぜ、トップ下に置いたのですか。
「貴士とは話をしていて、年齢的にサイドはしんどいとか、いろいろ苦しんでいるのはわかっていました。彼のターンの技術、パス、ドリブル、素早い球離れとか、彼のプレーを活かすには、どこがいいか。コーチ時代に、監督とは1歩引いた目線で全体を見ていたので、その時からトップ下をイメージしていました」
――首位の町田ゼルビアに敗れた時(第17節)は、自らを「ヘボ」と言いましたが、自分に厳しく、表裏のない会見だったなと思いました。
「あんな負け方をしてしまい……千葉戦(第16節、0-1で敗戦)も含めて最低ですよ。これだけ選手が揃っていて、結果が出なかったら監督がヘボ以外の何者でもないですからね。選手は、100%勝とうと思ってプレーしているので、あとはもう監督の能力です。『お前はまだまだ甘い。選手は必死だ。お前も死ぬ気でやれ』とフットボールの神様に言われていると思うので、同じことを繰り返さないようにしていきたいです」
秋葉監督からエスパルスのスタイルが大きく変わった。前監督時代は攻撃の型がなく、得点力不足に泣いたが、秋葉監督は「超・超攻撃的サッカー」を標榜し、実践している。いわきFC戦では9得点(第14節)、レノファ山口FC戦では6得点(第10節)、藤枝MYFC戦は5得点(第15節)と攻撃陣が爆発した。
――エスパルスの攻撃を見ていると、ゴールにストレートに向かうスピーディーな攻撃が目に留まります。
「世界の攻撃の流れは、ゆっくりじゃないですからね。自分は代表のスタッフとして選手を見ながら世界を回っていた時から、世界で勝つサッカーをずっと考えていました。欧州や五輪やU-20W杯とかで世界と戦ってきたのに、世界と違うことをやっていたら意味がないと思うんですよ。よく元代表の選手が『Jリーグは違う競技みたい』と言うけどカチンとくるんですよ。だったらうちでやるよ。リーグを変えてみせるよ。そのくらいの気持ちで今、やっています。正直、ビルドアップは興味がない。すべてはペナルティボックスでの勝負、そこでいかに点をとれるか。それが世界なので、そういうサッカーを極めていきたいですね」
――そのために練習から取り組んでいることはありますか。
「欧州のゴールシーンの映像を使っています。試合前にそれを選手に見せて、『今日はこういうようなゴールシーンをイメージしてみよう。同じ人間がやってんだから絶対にやれるよ』と伝えます。でも、それはエスパルスだから見せているんですよ。そのレベルにない場合は、そういうのを見せても意味ないんで」
――超攻撃な姿勢は、秋葉監督の言葉からも明確に感じとれます。仙台戦(第9節)を1-1で引き分けた時、守備が問題ではなく、2点3点とれなかったことが問題だと言っていました。そういうチームスタイルを目指しているわけですね。
「超攻撃的、超アグレッシブってずっと言い続けていますからね。ゴールに向かうプレーでミスしても何も言いません。でも、バックパスや横パスを引っかけられるのはやめてくれって言います。プレーしていれば、それがゴールに向かうプレーなのか、逃げのパスなのか、わかりますからね。逃げが続いたら交代させます。それに自分が言ったことしかしない選手もダメですね。自分はいつもワクワクしたいんですよ。みんな、何をしてくれるんだろう。何を見せてくれるだろう。それが楽しみなんです」
秋葉スタイルは、西野朗監督時代のガンバ大阪をほんのりと匂わせる。2点とられたら3点とって勝つスタイルを確立し、2005年にはリーグ優勝を果たした。ただ、その時のガンバとエスパルスの違いは、バランスだ。これまでエスパルスは、5試合のクリーンシートを実現しており、攻守のバランスがいい。
――05年、ガンバのスタイルをちょっと意識したりしていますか。
「僕は西野さん以上になりたいですし、オシムさんにも負けたくない。西野さんは、2点とられたら3点とれと言いますけど、僕は4点とってゼロで抑えます。攻守のバランスはどの監督も悩むところなんですが、僕は水戸時代に一度、攻撃に振りきったサッカーをしたんです。その時、合計で68点とって、62点とられて守備どこ行ったぁって感じだったんですが、エスパルスではできるだけ失点はゼロに抑えたい。だから、いわき戦の9-1の1失点が気に入らない。4-0で勝てるサッカーをエスパルスはできると思いますし、それがJ1に上がった時に活きてくると思っています」
――秋に向けては、9点とられたいわきも相当研究してくるでしょうし、難しい試合が増えていきますが、もう対策は考えていますか?
「もう次の手に着手しています。ふた回り目になれば、当然、相手も研究してくるでしょうし、それを上回っていかないといけない。しかも相手は200%で向かってくる。最近はスカウティングとかあてにならないんです。うちとやる時は戦術を変えてガチガチの守備できたりするのでビックリですよ。でも、そういう相手に勝って、J1に行くのは当たり前。その先どうするのかを選手に描かせつつ、僕は5カ年計画でJ1のチャンピオンを目指していけるチームにしたいと思っています」