「山形はすごく居心地のいいクラブです。だけど…」世代屈指のディフェンダー半田陸がガンバ大阪への移籍を決断した理由
サッカー日本代表「パリ世代」インタビュー08
半田陸(ガンバ大阪/DF)前編
Jリーグの最年少出場記録の上位には15歳、16歳の選手がズラリと名を連ねているように、各クラブがアカデミー(育成組織)を持つJリーグでは、高校生がプロの試合に出場するケースも珍しくない。
とはいえ、彼らは二種登録(ユースチームに所属したままトップチームに選手登録する)の選手であることも多く、高校生が正式にプロ契約を結ぶのは稀なことだ。
そんな数少ない”高校生プロ”が東北の地に誕生したのは、2019年3月。当時、モンテディオ山形ユースに所属していた高校2年生、半田陸は晴れてトップチームとの契約を結ぶと、その年、J2デビューを果たした。
以来、着実に磨かれてきた若き才能は今季、慣れ親しんだ山形からガンバ大阪へと移籍。自身初となるJ1でのシーズンに挑んでいる。
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── 昨季までモンテディオ山形に所属していた半田選手は、山形県上山市の出身です。地元はサッカー熱が高い地域だったのですか。
「特別にサッカーが……っていう感じでもなかったです。僕が小学生の時にいたチーム(上山カメレオンFC)からひとり、モンテディオに入った選手が出て、その選手がいてくれたからサッカーが少しホットな感じになったのかなと思います」
── その選手というのは?
「秋葉勝さん(MF/2002年〜2017年)です。秋葉さんはユースからモンテディオに入ったと思うんですけど、自分が小学生の頃に(Jリーガーとして)バリバリ現役で、たまにオフシーズンとかに遊びに来てくれたりして、すごく夢を与えてくれる存在でした」
── 半田選手自身はジュニアユースから山形のアカデミーに入るわけですが、小学生の時から目標にしていたのですか。
「それを明確に目指したのには、また別の人が出てくるんですけど(笑)。僕の3つ上の先輩だった髙橋成樹くん(DF/2017年〜2020年)が(小学生の時の)同じチームからモンテディオのジュニアユースに入ったので、僕もそこを目指しました」
── 当時、山形の試合はよく見に行っていたのですか。
「いやあ、それがそんなに見てなかったですね(苦笑)。対戦相手に有名な選手がいる時だけ見に行っていた、というくらいです」
── 山形のアカデミーに入った段階で、トップ昇格が目標だったのですか。
「そうですね。ジュニアユースに合格してからは、それを目標にしていました」
── ジュニアユースからユースには上がらず、高校サッカーを進路に選ぶ選手も少なくありません。迷いはありませんでしたか。
「まあ……、多少はやっぱり、ありましたね。山形のユースも、まだそんなに力がない状態だったので。東北には(強豪校の)青森山田(青森)とか尚志(福島)とかもありますし、少し悩む期間はありました」
── 最終的に山形のユースへ進むことを決断した理由は?
「決め手は、監督の今井(雅隆/現FC刈谷監督)さんがいたことです。そこでサッカーだけじゃなく、人としても成長できるなって思って決めました。あと……、高校サッカーに行くと朝練があるので、それが嫌で……っていうのも少しはありましたね(笑)」
── 結果的に、高校2年時にプロ契約。Jリーガーへの近道を選んだわけですが、それを伝えられた時はどうでしたか。
「もう……ビックリした話で。すごく早いなって思いました。
自分と年齢が近い人のなかからも、ほかのクラブではそういう選手がちらほら出てきていたので、僕も早く(Jリーグに出たい)っていう思いはありましたけど。それでも、その話を聞いたときはビックリしました。なんかこう……なかなか実感の湧かないものでした」
── プロ1年目の2019年はJ2で5試合のみの出場。当初、プロの壁は感じましたか。
「スピード感も、一人ひとりの技術もまったく違いましたし、最初は慣れるのに時間がかかりました。シーズンを重ねるにつれて試合数を増やせたこと(翌2020年は15試合出場)はよかったなと思いますけど……」
── けど?
「僕と同い年(同学年)のほかのクラブの選手、たとえば山本理仁(MF/当時・東京ヴェルディ→現・ガンバ大阪)とか、斉藤光毅(FW/当時・横浜FC→現スパルタ・ロッテルダム)とかは、もうけっこう試合に出ていたので、だいぶ焦りはありましたね」
── 17歳の半田選手にとって、プロの世界は心身ともに厳しいものでしたか。
「体がキツいな、という試合は何試合かありました。でも、毎試合、毎試合、できることが増えていくような感覚だったので、自分のなかでは楽しくやれてましたし、ひとつひとつ(こなしていこう)っていう感覚でした」
── 2021年になると、J2でほぼ全試合(42試合中37試合)に出場。自分なりに勝負の年として臨んだシーズンだったのですか。
「やっぱり3年目ということで、おっしゃるとおり、勝負の年だと思って挑みました。
開幕からは試合に出られず、ほかの選手のケガがあって(出られるようになった)という状態ではあったんですけど、いつ(出番が)きてもいいように、キャンプから通じてずっといい準備ができてたからこそだったと思います」
── 半田選手の記録を振り返ると、2021年に3ゴールを挙げ、それが現時点でのJリーグでの全ゴールとなっています。このシーズンだけ、何があったのでしょうか。
「去年も何回かチャンスはありましたけど……、いやー、なんでですかね(笑)。
(しばし熟考して)思いきりのよさがより出ていたのか、そんなに重圧を受けることなくプレーできていたのか……っていうくらいですね(笑)」
── そして2022年の昨季を最後に、山形からガンバ大阪へ移籍。なぜこのタイミングで山形を離れる決断をしたのですか。
「ずっと山形で育って、ずっと山形でJ1に(昇格したい)っていう思いでやってきました。それを達成できるのが一番でしたけど、(昨年の)夏頃はそれができるような位置にいたのにダメだったとなって……。
山形はすごく居心地のいいクラブです。だけど、いつまでもその環境にいては成長できないなって思いましたし、J1で(プレーしたい)っていう思いはずっとあったので、このタイミングになりました」
── とはいえ、17歳でのJ2デビュー以来、これまでにもJ1クラブからの獲得オファーはあったのではないですか。
「いや、そんなになかったと思います。たぶん僕が、ずっと『山形から海外へ』って言ってきたからだと思いますし、代理人にも『できたらそうしたい』ということは伝えていましたから」
── なぜ、山形から海外移籍したい、と。
「クラブにできる最大の恩返しがそういう形だなって思いましたし、サッカーに限らず山形でスポーツをしている子どもたちに『自分たちでもできるんだ』っていう夢を与えることができるのかな、と思ったからです」
── 最終的に、J1昇格を果たせないまま山形を離れることになりました。やはり心残りはありますか。
「そうですね。ちゃんと(1年を通して)試合に出たのは2シーズンだけですけど、ずっとJ1を目指してやってきて、すごく悔しかったですし、心残りももちろんありました」
── 移籍先にG大阪を選んだ最大の決め手は何ですか。
「ガンバは誰もが知るビッグクラブですし、監督も変わって新しいサッカーにチャレンジするっていう状況だったので、僕も一緒にチャレンジしたいなって思いました。
それにスペイン人の監督とは一緒にやったことがなかったので、新しいサッカーを覚えることで僕も大きく成長できるのかなって思い、ガンバに決めました」
── サイドバックとしての理想像はありますか。
「やっぱり、守備がすごく安定しているサイドバックになりたいですね」
── G大阪のダニエル・ポヤトス監督と山形時代のピーター・クラモフスキー監督は、志向するサッカーに通じるところはありますか。
「そんなに似てないので、これっていうのはないですけど……。どちらのチームもウイングが(外に)張っているので、(サイドバックの自分が)内側で受けるプレーは今もすごく生かされているんじゃないかなと思います」
── G大阪移籍後、シーズン序盤はなかなか勝てない時期が続きました。新加入選手だからこその苦悩もあったのではないですか。
「自分の力でどうにもできないのがすごく悔しかったですし、どうしたらいいんだろうっていう感じでした」
── それでも第7節でリーグ戦初勝利。徐々に流れが変わり始めています。
「それまでもルヴァンカップでは勝ててましたけど、リーグでは初勝利でしたし、しかもホームで(の勝利)っていうところでは、すごく自信につながったのかなと思います」
── 現在、G大阪は勝ち点7の17位(第12節終了時点)。チームの現状をどう感じていますか。
「シーズン序盤は先に失点してしまって難しい試合になることが多かったですけど、チームとしていい攻撃ができるようになってきているので、うしろが安定していれば、前は点を取ってくれる。
僕もまずは守備を安定させてから前に行ったり、チームとしてもっとボールを動かすことができるようになれば、これからも勝っていけるんじゃないかなと思います」
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【profile】
半田陸(はんだ・りく)
2002年1月1日生まれ、山形県上山市出身。モンテディオ山形ジュニアユース→ユースを経て2009年にトップチームに昇格。同年5月のジェフユナイテッド千葉戦でJリーグデビューを果たす。2023年、ガンバ大阪に移籍。U-15から各年代の日本代表に選出され、キャプテンとしてチームをまとめる。2023年3月のキリンチャレンジカップでA代表に初選出。ポジション=DF。身長176cm、体重63kg。