「現役にしがみつきたい」“クビを経験した男”小野瀬康介29歳の新境地…“カズさんの姿勢”に学んだ「好きなことを仕事にする喜び」
18年途中からガンバ大阪で主力を担ってきた小野瀬康介は、昨オフに驚きの契約満了を告げられた。29歳にして初めて戦力外を宣告されたが、複数の選択肢のなかから湘南ベルマーレ加入を決意する。
【写真】「自分もいつかは…」小野瀬康介(当時19歳)の代表ユニ姿をもう一度…カズさんに激励される横浜FC時代の貴重写真や、新天地ベルマーレでの活躍も一気に見る
ガンバ在籍時のコーチでもある山口智監督のもとで、4月22日に30歳の誕生日を迎えるMFは新境地を開いている。ベルマーレに素早くフィットした要因からプロ12年目を過ごす自身のモチベーション、さらには日本代表への思いも聞いた(全2回の2回目/前編へ)。
インサイドハーフでのプレーは「すごく楽しい」
──外から見ていたベルマーレのイメージとは?
「多くの人が思っているものと、大きな違いはありません。よく走って、汗をかいて、攻撃でも守備でもハードワークして、といったものです」
──これまではサイドアタッカーが主戦場でしたが、ベルマーレではインサイドハーフのポジションで起用されています。
「これまではそういうふうに見られてきたと、僕自身も思っています。智さんからは『色々やってもらうよ』と言われながらも、やっぱり外のポジションになるのかなと思ったりもしていたんですけど、キャンプからずっと中をやり続けてきました。360度から相手選手がきたりして、外とは違う難しさのあるポジションですけれど、ボールに触れる回数が多いし、すごく楽しくやっています。自分に合っているのかどうかは、分からないですけれど」
──合っていないということはないでしょうね。開幕戦でCKから右足ボレーを突き刺して、平岡大陽選手の得点をアシストしました。5節のアビスパ福岡戦では、素晴らしいランニングから左足シュートを決めてみせました。得点とアシストとして記されているシーン以外にも、チャンスに関わっています。
「決定的な場面に絡むことを求められているので、それは最低限の仕事と言いますか……。このまま続けていけば、数字を残すことはできるのかなと。というか、シーズンを通して数字を残していけるようにしないといけないですね」
──そうやって数字を残していけば、ベルマーレへ移籍したことによる成長を実感できるでしょうね。
「外側のポジションでやっていると思われてきた自分が、中もできるところを見せていきたいですし、それはあと何年できるのかにも関わってくるので。色々な要素があって、今年はやらなきゃいけないと思っているんです」
「現役にしがみつきたい」カズとの自主トレで得た刺激
──少なくとも何歳まで現役でプレーしたい、といったものはありますか?
「プロになった頃は、32歳ぐらいまでやれたらいいなあと思っていました。でもやっぱり、できる限りやりたいですよね。このチームでも37歳の山本脩斗選手がバリバリにやっていますし。ベルマーレは自分より年齢が上の選手が意外に多くて。好きなことを仕事にするって、誰でもできることではないですよね?」
──そう思います。
「そう、ですよね……。そんなに幸せなことはないので、『現役にしがみつく』ぐらいの気持ちでやりたいです」
──個人的にはスマートなプレーヤーのイメージもあったので、小野瀬選手の「しがみつく」といった言葉はとても新鮮です。
「もっとカッコつけたほうがいいですか(苦笑)」
──いえいえ、いまのままで大丈夫です(笑)。選手寿命ということで触れると、横浜FCのチームメイトだったカズ(三浦知良)選手には驚かされるばかりですね。56歳で現役ですから。
「とんでもないですね。去年の12月に一緒に自主トレをやらせてもらいましたけど、ハートの部分が違うなと改めて感じさせられました。試合に出たい、長く出たいという気持ちを練習から感じますし、そのための準備をしっかりやっている。カズさんのその姿を見て、自分も頑張ろうと刺激をもらいました」
──年齢を重ねることで、サッカーのとらえ方が変わってきたところはありますか? 若い頃にはなかった気づきがある、とか。
「どうですかね……見える範囲が増えてきたのはあります。去年までプレーしたガンバでも、ベルマーレでも、人間がやっているスポーツだからなのか、スコアが動いたときにバタバタしたりするのは同じだなと感じたりします。去年までのガンバは、サッカーを確立している過程にありました。それに対してベルマーレは、智さんの就任前から『走る、戦う』という部分を根づかせて、それにプラスして『ボールを握る、動かす』ということを植えつけている。ガンバよりサッカーが出来上がっている印象があります。そういうチームでも、バタつくことはあるんだなと。技術だったり身体能力だったりは大事ですけれど、やっぱりハートの部分が一番大事なのかなと思いますね」
──ということは、試合が動いた瞬間は強いメンタルで挑む、周りを鼓舞する、といったことを意識しているのでしょうか?
「そうですね、ガンバに居たときよりもそこは意識しています」
──チームが変われば役割も変わるということで、これまでとは違う小野瀬選手が見られていますね。
「僕自身も、こういう面もあるんだと気づきました。プレーの幅は確実に広がっているので、いままた成長中です(笑)」
──いままた、サッカーが面白いのでは。
「はい、面白いですね」
「環境に慣れると、どうしても甘えてしまう」
──今シーズンは8得点5アシストを目標に設定しています。J1でのキャリアハイとなっている19年の7得点4アシストを、ひとつずつ上乗せした数字ですね。
「まずはJ1で築いてきたキャリアの更新を目指す、ということです。それも決して簡単ではないと考えていて、そこを達成してから背伸びをしようかなと」
──いまのモチベーションとは?
「ひとつではないですね。智さんの期待に応えたい。見返したい。成長したい。今シーズンはいろんな要素が僕のなかにあって、それが大きくなっている。たくさんあるからいいのかな。何かひとつ大きなものがあることがいい、という選手もいると思いますが、僕は色々なものが重なっているので、それがモチベーションをより大きなものにしていると思います」
──なるほど。
「モチベーションで言うと、移籍は刺激になります。今回の場合はガンバをアウトになって、他へ行くことしかできなくて、いまのところは正解だったということにできているのかな、と。シーズンが終わったときにそう思えるようにしたくて、それもモチベーションのひとつになっています。環境を変えるのはパワーを使いますけど、自分の性格を考えると同じ場所に長くいるのは良くないな、というのもあります。環境に慣れると、どうしても甘えてしまうんです」
──良くも悪くも、居心地が良くなりますし。
「ずっと同じクラブで活躍している選手もいて、それは才能のひとつなんでしょうね。自分ができないことなのですごいな、と思います。色々なキャリアの作り方があっていいし、自分はひとつのクラブに長く居過ぎないほうがいいんだなと」
日本代表への思いも「自分は土俵にも立てていない」
──最後にもうひとつ、聞かせてください。小野瀬選手のなかで、日本代表入りを狙う気持ちはどれぐらい大きなものでしょうか?
遠藤航選手や伊東純也選手のように、同じ93年生まれで選出されている選手がいます。年齢的にも次のW杯を狙えると思います。
「こういう取材で話したことはないんですが、まずはクラブで結果を残すというのが自分の考えです。1カ月とか2カ月ぐらい活躍した程度で、呼ばれてはいけない。それぐらい価値のある、重みのある場所だと思っています。ベルマーレからはマチ(町野修斗)が呼ばれていますが、やはりクラブで結果を残しているかどうかが問われるのでしょう」
──前所属のガンバには、代表経験者が多く在籍していました。
「身近に代表選手がたくさんいることは、刺激になっていました。自分もいつかは……と思い続けてここまで来ているんですけど、ホントにJリーグで結果を残してから話をしたいんです。自分はまだ、選ばれるかどうかの土俵にも立てていないので」
──代表に選ばれることの重みを理解しているだけに、話すことにも慎重にならなければいけない、ということなのですね。
「はい、そうです。いまは代表を応援する立場です」
◆◆◆
ベルマーレが「勝ち点50以上で5位以内」の目標を達成するためには、3-1-4-2のポジションでインサイドハーフを担う小野瀬の活躍が欠かせない。日本代表FW町野修斗へのマークが厳しさを増すことを考えても、この29歳にはゴールに直結した仕事が求められていく。
所属クラブが勝ち点を重ねていけば、個人にもスポットライトが当たることになる。ベルマーレと小野瀬の今シーズンは、Jリーグの楽しみのひとつになっていくだろう。