Jリーグでスゴイと思ったDFトップ10を鄭大世が振り返る「ノーガードで殴り合ってくれた」「完璧な体勢で競り負けた」猛者たち

Jリーグ、ドイツ、韓国で活躍したFW、鄭大世さんインタビューの後編。ここでは、自身が対戦したり、これまで見てきたなかで、「これはすごい!」と感じたJリーグの歴代DFをトップ10形式で紹介する。

◆【ランキング表】坪井慶介が選ぶ歴代日本人CBトップ10、加地亮が選ぶ歴代日本人SBトップ10など、元日本代表・Jリーガーが選んだスゴイ選手たち

◆ ◆ ◆

【人間的に敵わない】

10位 ガルサ(元名古屋グランパスほか)

これは”思い出枠”になってしまうんですけど、僕がJリーグを好きになったのが1994年頃で、Jリーグカードをオタクみたいに集めていたんです。地元の名古屋グランパスの試合を見に行っていて、そこで活躍していたガルサが好きだったんですよ。

その頃はまだサッカーのことはよくわかっていないし、プレーがどうよかったのかは覚えていないんですけど、岩のように大きなDFだったなという記憶ですね。子どものころに憧れる選手は、だいたいドラガン・ストイコビッチとか攻撃的な選手だと思うんですけど、DFで唯一憧れたのが彼でしたね。

9位 増田誓志(元鹿島アントラーズ、清水エスパルスほか)

増田誓志は、清水エスパルスで一緒にプレーした時にセンターバック(CB)もやっていたんですよ。彼は年下ですけど、本当に尊敬できる選手でしたね。プレーというよりも人間性がとにかくすばらしかったので、ランキングに入れさせてください。

清水時代はもうキャリアの終盤で、ほとんど試合にも出ていなくて、ほぼメンバー外だったんですよ。それでも彼は一人でずっと自分を追い込んでいるんです。

僕もコンディションを上げるためにいろんなトレーニングをやっていたんですけど、「テセさんそれいいんですか?」と聞いてきて、試合に全然出ていないのに「僕もそれやります」と、そういう傾聴する力がありました。

メンバーに入らないと普通はふてくされたりするんですけど、彼は微塵もそんなこと気にしていなくて、自分のパフォーマンス、コンディションさえよければ絶対に使ってもらえると信じきることができる人間でした。

その姿勢がブレることなく、常に努力して、誰よりも早く練習に来て、誰よりも遅く帰って、サッカーにすべてを捧げている姿がかっこよすぎましたね。人間の鑑で、「人間的に俺はこいつに敵わないな」と思いました。

8位 立田悠悟(柏レイソル)

立田は調子に波がある選手なんですけど、ポテンシャルは本当に高い選手です。前に対して強くて、高さもあって縦パスを積極的に入れられる。一方で裏のスペースを使われたり、うまい選手にクルッと入れ替わられたりするのが弱点でもありました。

それでも「新世代でこんなすごいCBがいるのか」と驚きましたね。東京五輪のメンバーに選ばれなかったのは残念でした。ポジションは違いますけど、僕とタイプが似ているんですよね。

自信がなくて、すごく落ち込むし、すごく喜ぶ。調子に乗って空回りして足元をすくわれたり。落ち込む時は誰も止められず、どんどん落ちてパフォーマンスも最悪になる。

だから性格的には本当はストライカータイプだと思います。ただ、最近はプレーの波も落ち着いてきて、今季から柏レイソルに移籍しましたけど、どこまで上がっていくか楽しみですね。

【「プロレスをしにいくんだ」と準備していた】

7位 ファン・ソッコ(サガン鳥栖)

ファン・ソッコは先発から外れていたのに、気づいたら試合に出ているタイプで、いろんな能力が高いですね。足元の技術はあまり高くはないけれど、それ以外の能力が高いので今の時代にも適応できる選手なんです。

とくに対人に強くて、前に出て潰せるし、ヘディングも勝てる。でも僕が一番彼に感銘を受けたのは、淡々とやれることです。たとえ自分の望んでいない状況に置かれても、やるべきことをちゃんとコツコツやれるんです。それで気づいたら試合に出ているんですね。

その姿を見て「精神的、人間的にも本当にできている選手だな」と思いました。僕はうまくいかないと周りに当たり散らすタイプなんですよ。それはいくつになってもそうでした。監督のせいにするし、イライラして味方に当たるし。そういうやつが味方にいると絶対に嫌なんですよ。僕みたいなタイプは監督に「お前じゃない」と言われたら終わりです。

でもファン・ソッコは、どんな監督であっても、そういう状況になってもちゃんと自分に矢印を向けて、必要なこと、求められていることを積み重ねられる。本当に彼からは学ぶことが多かったですね。プレーに波がないし、いいDFでした。

6位 岩政大樹(元鹿島アントラーズ、ファジアーノ岡山ほか)

僕は岩政さんとの対戦が本当に好きでした。彼と対戦する前の心の準備は、サッカーではなくて「プロレスをしにいくんだ」と思って準備していましたね(笑)。

岩政さんは僕の預けた体、パワーに対して、すべて体全体のパワーで返してきてくれるので、まるで相撲をとっているみたいでやりがいがあるんですよ。普通は相手が殴ってくるのがわかっていれば、そこをかわしてカウンターを打つのが賢いやり方ですよね。

でもそこで高山善廣とドン・フライのように拳と拳で、ノーガードで殴り合ってくれたのは岩政さんしかいなかったです。後々話を聞いたら岩政さんも同じような心境だったみたいで、心は通じ合っていました。もちろん、いいDFなので嫌なDFでもありました。

5位 宮本恒靖(元ガンバ大阪、ヴィッセル神戸ほか)

僕の弱点は、調子がいい時は誰にも止められないんですけど、調子が悪い時は猿にも止められちゃうくらいなんですよ。その僕の弱さを嘲笑うかのように突いてきたのが宮本さんでした。

FWはポストプレーでボールを受ける時に、チェックの動きで後ろで受けると見せかけて足元にもらうからフリーで受けられるんですね。でも調子が悪いとそのチェックの動きをせずに「足元!」という感じで受けがちなんですよ。

ただ、そうだったとしても裏を取られるリスクがあるので、DFはそこで先読みして動いてはだめなんです。でも宮本さんはそれをやってくるんです。「どうせお前足元でもらうんだろう」と、しかもさらに先を越してインターセプトをしてくるんですよ。

だからそういう時に宮本さんと目が合うと、まるでメデューサに睨まれたかのように動けなくなっていました。僕の心をすべて見透かしたようなあの守備は本当に嫌でした。

【自分が完璧な体勢で競り勝てなかった】

4位 河合竜二(元浦和レッズ、横浜F・マリノス、北海道コンサドーレ札幌ほか)

僕が大学4年生の頃、横浜F・マリノスに練習参加したんです。その時、僕に「筋トレをしなきゃいけない」と危機感を与えてくれたのが河合竜二さんです。

練習でミニゲームをやったんですね。そのゲームのなかで僕がGKと1対1になって、あとは決めるだけと思っていたら、後追いで来た竜二さんに体を軽くポンとぶつけられたんです。たったそれだけで僕はバランスを失って、GKにボールを取られてしまいました。

大学生の頃は自分が最強だと思っていて、止められるという経験もほぼしたことがなかったんですよ。それが横からちょっとぶつかられただけで、ビッグチャンスを逃してしまったことが本当に衝撃的でした。

プロの世界では自分は弱いんだと思い知らされて、そこから筋トレに励んで体重も10kg増やしました。それが土台となってJリーグで活躍できたと思っています。

3位 田中マルクス闘莉王(元浦和レッズ、名古屋グランパスほか)

僕はDFを背負うプレーが好きなので、ロングボールとか、ポストプレーが得意なんですね。それで闘莉王さんを背負ってボールを受けようとすると、僕の脇のところから足が出てくるんですよ。それでボールを突いて、プレスバックしてきた味方に取らせるのがうまかったですね。

一番嫌だったのは、僕が闘莉王さんを背負ってロングボールが入った時に、まだ懐にボールがあるタイミングで僕がトラップする足をわざとちょっと蹴るんですよ。それで僕のトラップがずれて、こぼれたボールをほかの選手に拾われるんですよね。

トラップはちょっと芯がずれただけでうまくいかないので、その芯をずらすためにファールにならない絶妙な加減で足を蹴ってきて「うわ、うまっ!」と思いましたね。あんなことしてくるのは闘莉王さんしかいませんでした。

フィジカルやヘディングも強い上に、そういう細かい守備の技術までうまいので、本当に嫌でした。

2位 中澤佑二(元東京ヴェルディ、横浜F・マリノスほか)

中澤佑二さんは僕がプロになる前から圧倒的に活躍していて、僕にとってはセンターバックの金字塔なんですよ。「中澤佑二にヘディングの競り合いで勝ってこそ、Jリーグに名を刻める」と思ってプレーしていました。

僕自身もヘディングの強さには本当に自信があって、そこだけは絶対に負けたくないし、負けないと思っていました。でも佑二さんには、さらにその上を行かれてへし折られましたね。自分が完璧な体勢、タイミングで競りにいって勝てなかった。

もちろん、勝ったこともあります。でも相対的に見て勝ちきれなかったと思うのは佑二さんだけでした。

それから佑二さんはレフェリーに守られるケースが多かったというか。全然接触していないと思うんですが、佑二さんがアピールしながら倒れるとファールになったり。そうしたレフェリーとの駆け引きも含めて、本当にクレバーで嫌なDFでしたね。

【1人で3人分の働きをする】

1位 ジェジエウ(川崎フロンターレ)

今までサッカーをやって、見てきた経験のなかでもジェジエウはちょっとすごいなと思いますね。対戦して嫌なのは岩政さん、闘莉王さん、佑二さんなんですよ。でも能力的にはその3人よりもかなり上をいくDFだと思います。

前への強さもあるし、フィジカルの強さもあるし、足は速いし、足元はうまいし、その上クレバーだし、非の打ちどころがないCB。彼がいる時と、いない時では川崎は全然違うチームになりますね。昨年、川崎が優勝できなかったのは、ジェジエウがケガで12試合しか出られなかったからです。

前へプレスで出て、後ろの広大なエリアをカバーして、1人で3人分くらいの働きができるんですよね。現代サッカーはフィットネスレベルがかなり上がっているなかで、ジェジエウはフィジカル的にもテクニック的にも突き抜けていて、歴代のなかでもJリーグでプレーしたDFとしてもっとも能力が高いと言えると思います。

前編「鄭大世が選出したJリーグ歴代FWトップ10」>>

鄭大世 チョン・テセ/1984年3月2日生まれ。愛知県名古屋市出身。朝鮮大学校から2006年に川崎フロンターレに入団し、FWとして活躍。2010年からはドイツへ渡り、ボーフム、ケルンでプレー。その後韓国の水原三星、清水エスパルス、アルビレックス新潟、FC町田ゼルビアで活躍し、2022年シーズンを最後に現役を引退した。北朝鮮代表として2010年南アフリカW杯に出場している。

https://sportiva.shueisha.co.jp/

Share Button