Jリーグ歴代FWトップ10を鄭大世が選出 「化け物に近い身体能力」「初めて吹っ飛ばされた」というストライカーたち
Jリーグで通算100ゴール以上を挙げ、ドイツや韓国でも活躍。昨年現役を引退した鄭大世さんにインタビュー。同じFWのポジションですごいと思った歴代のJリーガーを、トップ10形式で挙げてもらった。
◆【ランキング表】中村俊輔が選ぶフリーキッカートップ10、福西崇史が選ぶデュエル王トップ10など、元日本代表・Jリーガーが選んだスゴイ選手たち
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【シュートが一番うまい】
僕は矢島卓郎がケガをしていなかったら、絶対に日本代表になっていたと思うんです。消えた天才じゃないですけど、それくらい才能に恵まれたFWでした。ただ、彼はシーズンの6、7割はケガをしているんですよね。それでも30歳を超えるまで現役を続けられたので、それだけポテンシャルがすごかったということです。
身体能力が抜群に高くて、体重が80kgを超えているのにスピードもものすごくある。化け物に近いなと思うくらい日本人離れしていました。
清水エスパルスのあとに川崎フロンターレに移籍してきて、僕とポジション争いをしたんですけど「これはちょっとやばいかもしれない」と思うタイミングで、彼がケガをしてしまうので、なんとかポジションを守れていました。
今でも覚えているのが、京都サンガF.C.戦で川崎移籍後の初ゴールを決めた時。相手DFのシジクレイを引きずり回しながら、最後はなぎ倒してゴールを決めたんですよ。僕もまだプロ1年目で、先発で出たことがなかった時の話。こいつはとんでもないなと思いましたね。
9位 オルンガ(アル・ドゥハイル)
オルンガは彗星の如く現れて、あっという間にいなくなっちゃいましたね。短い間しかプレーを見る機会がなかったのにもかかわらず、とんでもないインパクトをJリーグのファンの頭に残していきました。
彼は身体能力が化け物で、スピードもものすごくて、足が長いからその分ストライドがあって、ムチのような振り足からとんでもない威力のシュートを打ってくるんですよね。規格外とはまさにオルンガのような選手のためにある言葉で、サッカーのセオリーが通用しないんですよ。
サッカーには「こう守らないといけない」というベース、セオリーがあるわけじゃないですか。それをしっかりと守って、対応しているにもかかわらず、オルンガはその上からぶん殴るようにして無効化してしまう。あれは反則でしたね(笑)。
8位 マグノ・アウベス(元大分トリニータ、ガンバ大阪ほか)
今回選ばせていただいたランキングのなかで、シュートが一番うまいのはマグノ・アウベスだと思います。ミドルレンジからでも平気で決めてくるので、止められないんですよね。どう対処していいかわからない。
これは安田理大が言っていたんですけど、マグノ・アウベスはインスイングでファーサイドを狙う時、ポストの外側を狙うらしいです。そうするとちょうどボールが曲がった時にポストの内側を叩いて入るんですね。最初からポストの内側を狙うと、GKが取りやすいところに飛んでしまうんですよ。
それを聞いて練習したんですけど、理屈はわかっていながらまったく習得できなかったですね。試合で使うにはやはり冷静さと習慣が必要なんですけど、ポストの外へ打つのは僕には難しかった。マグノ・アウベスの、ボール1つ分ポストの外を狙ったシュート技術は変態的なレベルでした。
【かなり影響を受けた選手】
7位 佐藤寿人(元サンフレッチェ広島、名古屋グランパス、ジェフユナイテッド千葉ほか)
寿人さんはボックスの中で足を止めないストライカーの代表格で、かなり影響を受けた選手の一人です。寿人さんのゴールシーンをたくさん見て、クロスに対するゴール前の入り方をかなり研究していました。
オフサイドにならない飛び出し方もうまいし、ポジショニングがいいから背が低くてもヘディングで勝てる。どこにボールがこぼれてくるかもよくわかっていて、GKとDFの間に必ず入ってくる。またそのタイミングも抜群。だからワンタッチゴールがものすごく多い。
「シュートはダイレクトで」というのは、僕がずっと考えてきたプレーなんです。ワンタッチしたら相手に寄せられて、シュートコースもなくなるというのが僕の理論です。そう考えた時に、寿人さんの動きは本当に勉強になりました。
それから寿人さんはポストプレーもうまくて、ラフなボールもしっかりと収めて、散らして、ゴール前へ入っていくプレーもちゃんとできる。ボックスプレーヤーと思われがちですけど、それだけじゃないんですよね。
6位 興梠慎三(浦和レッズ)
興梠選手は超万能型で、僕が持っていないものをすべて持っているタイプですね。身体能力はそれほど高くないけれど、シュート技術がとにかく高いです。本人は「自分はシュートが下手だ」と自己評価が低いんですけど、僕からすればそんなことはない。
切り返しがうまいし、ボールをもらう時の動きが絶妙で、DFをかわしてシュートまで持っていくのが抜群にうまい。
普通のFWは、流れのなかで裏へ抜けられるタイミングがあると、その瞬間に、最初に裏を取ろうとしてしまうんです。
でも興梠選手はそこで一度逆の動きを入れることができます。それがあるので相手が釣られて、そのあとよりフリーでボールを受けることができるんです。誰しもそういう動きをすればいいとわかっているんですけど、なかなかできないんですよ。
そうした相手を外す動きがうまいから、それほどスピードがなくてもDFの裏が取れるんです。ポジショニングがいいから高さがなくてもヘディングで決めることができる。また、ボックスの外からでもコースに落ち着いてシュートを打てる技術もあります。
もちろん、得点だけではなくて、足元の技術が高いのでビルドアップに参加して攻撃起点も作れるので、チームの流れもよくすることもできる。チームに一人FWをオファーするとしたら、興梠選手ですね。
5位 小林悠(川崎フロンターレ)
川崎にリーグ初優勝をもたらしたのは小林悠なんですよ。僕がいた時代に優勝できなかったのは、最後の1点を決められる選手がいなかった。僕やジュニーニョはいましたけど、一番大事な最後の「ここ」というところでの勝負強さが足りなかった。
僕はキャリアを通しても、そういう場面で決めることができなかったんですね。でも小林悠は「ここで決めればタイトル」という一つの線を越える、大きな壁を越えることができる選手なんです。川崎が2017、18年と2連覇できたのは、彼の活躍があったからです。
プレー面では、オフ・ザ・ボールの動きがずば抜けてうまい。川崎は相手を押し込んでいる状態が多いですけど、その狭いスペースの中、ペナルティーエリアの中でも相手の裏を取れるのが小林悠という選手なんですよ。
ボックスの中は相手がかなり密集しているので、裏はほぼ空いていない。直線的な動きではダメだし、相当動かなければ相手の裏は取れない。そのなかでもそれができるのは、特別な能力だと思います。そのうえでシュートがうまくて、ヘディングでも点が取れるので、本当にいいFWですね。
【初めて吹っ飛ばされた】
4位 フッキ(元川崎フロンターレ、東京ヴェルディほか)
僕は日本でプレーしていて、練習も含めて体をぶつけられて吹っ飛ばされたことがなかったんですよ。そのフィジカルの強さには強いこだわりを持っていて、当たり負けだけは絶対にしないという誇りを持っていたんです。
でも川崎時代の練習でフッキに当たった瞬間に、僕は空を眺めていたんですよ。それからドンと地面に落ちて、自分が吹っ飛ばされたことに気がつきました。あんな経験は初めてでしたね。
体の強さは、お尻のデカさだと思うんですよ。僕も母親譲りでお尻はめちゃくちゃゴツいので、Jリーグでは負けないんです。でもフッキは、それをさらに凌ぐお尻のデカさをしていましたね。キックの強さは異次元で、ボールが爆発するんじゃないかと思うくらいで、まるで『キャプテン翼』の世界ですよ。GKが可哀想になるくらいです。
それでも川崎にいた2008年頃は彼もまだ若くて、僕が先発だったのでJリーグでの優位性は僕のほうがありました。でも時が経ってからはえげつない。UEFAチャンピオンズリーグに出て、あのセレソン(ブラジル代表)でエース格でしたからね。それだけの器だったと思うと、僕がフィジカルで吹っ飛ばされるのも納得ですね。
3位 エメルソン(元浦和レッズほか)
エメルソンが浦和レッズでプレーした2005年頃に、彼を止められる選手はいなかったと思いますね。「こんなすごいFWがJリーグにいるのか」と思いました。
その頃、僕はまだプロではなかったのでテレビでしか見たことがないんですが、まるでチーターがピッチの中を走り回っているんじゃないかというくらい野生的で、人間離れしたスピードがありました。「こんなの誰が止められるんだよ」とテレビで見ながら思っていましたね。
それから「そんなところから打つの!?」という位置からでも、ゴールを決めていましたよね。どこからでも打つというのは超わがままだと思うんですけど、今思えばあの超強引なスタイルにはすごく影響を受けて、マネしていました。
2位 ジュニーニョ(元川崎フロンターレ、鹿島アントラーズほか)
ジュニーニョは「川崎の太陽」と呼ばれていましたけど、シンプルにすごいストライカーでした。なによりも圧倒的なスピードがすごかった。オフ・ザ・ボールの時はもちろん、ボールを持っていてもずば抜けて速かった。
それだけのスピードと突破力がありながら、周りを使うことにも長けていました。自分自身で点を決められるし、サイドを突破してGKとDFの間にクロスを入れられるし、低い位置でボールを受けて、仕掛けて、相手のラインを下げることもできる。
それからシュート技術がとにかく高くて、ミドルレンジのインフロントで巻いて打つシュートは感動的なくらいうまかった。大舞台で勝負強いタイプではなかったけれど、リーグ戦のなかでチームが苦しい時、「あと1点欲しい」という場面で決めてくれるのが彼でした。
ゴールも取って、アシストもして、起点にもなっていた。彼1人で2人、3人分くらいの働きをしていたので、当時の川崎は強かったんですよね。
彼がいた頃の川崎の攻撃は縦に速い攻撃が特徴的でしたけど、それはジュニーニョが「縦に早く出せ」と要求していて、それで(中村)憲剛さんに縦に早く出すパス能力が身について、こんどは憲剛さんが僕に「縦に早く動け」と要求するという流れがあって、あの縦に速い攻撃が生まれていましたね。
【圧倒的にファンです】
1位 ドウグラス(柏レイソル)
ドウグラス選手は非の打ちどころが見当たらない。スピードがあって、フィジカルがとにかく屈強で、身長も高くて、ヘディングが強い。ブラジル人らしく相手の体重の逆を突くのが巧みだし、その上、クレバーで周りを使うのもうまい。
それだけ選手として優れていながら、人間性も抜群なんです。だから僕は圧倒的にドウグラスファンです。
Jリーグで最初に所属した徳島ヴォルティスではあまり活躍できなかったみたいですが、その後のサンフレッチェ広島に移籍してからはどのクラブでも活躍しています。
僕が清水時代の2018年にドウグラス選手が加入してきて、彼のプレーや振る舞いを見て「ああ、こいつには勝てないな」と、どう足掻いても彼より上のパフォーマンスはできないと思いましたね。
FWはわがままな生き物なんですけど、彼は自分が点を取ったらツートップの相方の北川航也選手のところへいって「次はキミの番だよ」と言ったり、僕が試合に出られなかったら僕のところへきて「テセ、みんなで一緒に頑張ろう」と言ってくれるんです。
僕はわがままで自己中心的で、自己主張の塊だから、試合に出られなかった時は、この世の終わりかのような精神状態なんです。それを彼は理解してくれて、そういった言葉をかけてくれた時は本当に救われたし、勝てないと思いました。
後編「鄭大世が振り返るJリーグでスゴイと思ったDFトップ10」>>
鄭大世 チョン・テセ/1984年3月2日生まれ。愛知県名古屋市出身。朝鮮大学校から2006年に川崎フロンターレに入団し、FWとして活躍。2010年からはドイツへ渡り、ボーフム、ケルンでプレー。その後韓国の水原三星、清水エスパルス、アルビレックス新潟、FC町田ゼルビアで活躍し、2022年シーズンを最後に現役を引退した。北朝鮮代表として2010年南アフリカW杯に出場している。J1通算181試合出場65得点、J2通算130試合出場46得点。