カメラで見た「湘南スタイル」 ファインダーが捉えた阿部浩之の“何気ない動き”が物語ったもの
【カメラマンの目】G大阪戦で充実感が窺えた湘南の戦いぶり
日本代表に名を連ねるチームのエースが前半だけで圧巻の4得点。J1リーグ第6節湘南ベルマーレ対ガンバ大阪戦は町野修斗が次々とゴールを重ねると、後半に1点を返されたものの4-1でホームチームが鮮やかな勝利を挙げた。湘南の戦いぶりは、まさに作戦どおりの理想的な展開による勝利だったと言える。
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序盤、主導権を握ったのはG大阪だったが、湘南はタイトな守備で最終局面を崩させない。ボールを奪うと素早いカウンターアタックで反撃する。その攻撃は特に右サイドからの崩しが目を引き相手陣地に侵入すると、そこからゴール中央へとラストパスを供給するプレーが威力を発揮した。
そうした戦術的な動きはゴールに表れる。1点目は自陣から阿部浩之が放った一気の縦パスから生まれ、2点目も攻め上がってきた石原広教がタリクのスルーパスに反応し、右サイド深くを突破して中央へセンタリング。混戦となったところを町野が決めた。
右サイドからのチャンスメイクは後半に入ってより活発になり、途中出場の鈴木章斗や若月大和もG大阪陣内へと進出しては、狙い澄ました丁寧なラストパスをゴール中央に供給していた。
試合を通して威力を発揮した湘南のカウンター攻撃は、サポーターたちも自分たちのチームが得意としているスタイルを熟知しているため、反撃に転じ相手ゴールへと迫ると、声援も一段と高まりを見せる。まさにチームとサポーターが自信を持って貫くスタイルだ。
この湘南の選手たちの戦い方を貫く姿勢は、ゴールなどの結果に直結するようなプレーに限ったことではなく、何気ない動きからも見て取れ、その徹底さを物語っている。
阿部の“今この時”を見逃さなかった動きに表れたスタイルの浸透度
それは後半25分過ぎだった。G大阪の選手が放ったキックが湘南ゴールへと飛ぶ。だか、ボールは明らかにゴールの枠から逸れる、威力もそれほどないものだった。
このとき何気なくファインダーで捉えていた阿部は、ボールがゴールラインを割るのを最後まで見届けることなく前線へとダッシュする。プレーがラインを割って途切れる前に行動を起こしたのだった。
阿部は攻守が入れ替わり、反撃のチャンスと判断しカウンター攻撃の起点になろうと素早く反応したことになる。しかし、仲間の選手と上手く呼応できず、ボールは阿部のもとに届くことはなかった。当然、ゴールが生まれたわけではない。
そのためファインダーに捉えていたとはいえ、この場面でカメラのシャッターを切ることはなかった。しかし、阿部の“今この時”が得点へと結び付く攻撃のチャンスと悟り、自分たちが得意としているカウンターでゴールを目指そうとした意思が見て取れたプレーだった。
前半だけで勝敗の趨勢が決まってしまうような町野の4得点という特筆すべき結果が記録された試合に限らず、こうした動きが目立つことはまずない。だが、チームのコンセプトを選手たちが理解し、それをしっかりと遂行しようとしていることが何気ない場面からも伝わってきた。
湘南のスタイルがリーグ内においてどんな相手にも通用するかは別として、2021年シーズン途中から指揮を執る山口智監督のサッカーが確実に浸透してきていることは間違いない。明確なコンセプトを持って戦うチームは、試合後の町野の笑顔とともに見ていて実に気持ちが良かった。
[著者プロフィール]
徳原隆元(とくはら・たかもと)/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。80年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。