『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:世界は近くなりにけり(モンテディオ山形ユース)

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

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コンスタントに年代別代表も経験しているスクール育ちの守護神が、アカデミー出身者として初のA代表選手誕生に際して感じたという想いが、実に振るっている。

「アカデミーの先輩からA代表の選手が出たということは、正直今の環境でもそういう人は出てきたわけで、環境を言い訳にすることは絶対にできないなって。あと、陸くんはジュニアユースからモンテに入った選手で、まだジュニアやスクールの出身者でA代表になった選手はいないので、自分がその1人目になれればいいなとは思いましたね」(上林大誠)。

もう意識からして今までの彼らではない。東北から世界を見据えるモンテディオ山形ユースは、育ってきたOBの活躍も、今の選手たちが抱くモチベーションも、間違いなく次のフェーズに入りつつある。

「東北のチームとは強度の高さだったり、プレースピードや判断の速さが全然違っていて、こういう強いチームとやるからこそ、勝った試合は自分たちのできることがわかりましたし、負けた試合もまだ足りないところや課題が見つかって、自分たちの今の立ち位置もわかりましたし、成長できた4試合だったかなと思います」。

10番を背負ったFW木下晴陽(2年)が振り返るのは、チームとして初めて参戦したイギョラカップ2023のこと。3月19日、20日と1日で2試合ずつをこなした山形ユース。初日はアルビレックス新潟U-18に4-0で大勝しながら、日大藤沢高には0-2で敗戦。2日目も帝京高に5-1と快勝を収めたものの、神戸弘陵高には1-3で敗れており、勝ちと負けを交互に繰り返す結果となる。

帝京との試合は、基本的にボールを相手に握られる展開。だが、「相手が持っている時間が多かったのでキツかったですけど、そんなにやられたというシーンはなかったですし、相手の状態が良かったので、待って、待って、ゴール前で全員で中を閉めて、身体を張ることはできました」とセンターバックのDF千葉虎士(2年)が話したように、守備陣は粘り強くゴールに鍵を掛け続ける。

キャプテンマークを巻いたMF天野瑠成(2年)は、チームの共通認識をこう明かす。「この大会は持たれる時間が多いので、引いたところからいつ出るのかということは考えていて、その中で『一発で仕留める』ということは意識しています」。確かに後半だけで奪った4点は、いずれもカウンターが起点。とりわけ最後の5点目はセンターバックのオーバーラップがきっかけだった。

「自分はスピードがある方で、カウンターで飛び出していくのは武器なので、インターセプトで良い形で奪えたら出て行っていいと、監督から許可は得ているんです(笑)。飛び出したらボランチがカバーしてくれるので、思い切って出ていきました。ああいう形は結構多いです」。虎のような果敢な攻め上がりで、アシストを記録した千葉は少し照れくさそうに笑う。

「相手が前から来た時はうまくスペースができて、そこを使うことは練習からやっていることなので、ちょっと劣勢でしたけど、上手くやれたかなと思います。みんな頼もしいですね。こういう大会に参加させてもらう中で、相手にそれぞれスタイルがあって。それに対する攻撃があって、守備があってというのは、なかなか東北では味わえないので、凄く“サッカーをさせてもらっているな”と。簡単にはボールも獲れないですし、簡単には攻撃できないので、そういうところは凄く良い経験です」。

柔和な笑顔を浮かべながら、そう言葉を紡ぐのは、山形ユースを率いる内山俊彦監督。自身も現役時代を過ごしたクラブで2013年に指導者キャリアをスタートさせた44歳は、2020年から古巣のユース監督に。就任からの3年間でさまざまな経験を得た上で、イギョラカップ、船橋招待U-18サッカー大会と続く今回の関東遠征を画策したという。

「去年の夏に遠征してみて、そこで何試合もやったことで凄く成長を感じたので、自分の中で持っていた知識と現実は、ちょっと違う部分があるのかもしれないなと。『我々アカデミーも何かを変えていかないといけないな』ということで、また必ず得られるものがあると思って、こちらからお願いして、この大会にも船橋招待にも出させていただくということになりました」。

帝京戦でも神戸弘陵戦でもゴールを挙げた木下は、この4試合でチームのある部分に成長を感じたという。「対戦するチームによって戦術も全然違うので、試合が始まってからチーム全体で相手の特徴を掴んで、自分たちがやりたいサッカーをどうやるかを、早く考えてプレーできたことは良かったかなと思いますし、攻撃の手応えはありました」。

肌を合わせるまではスタイルもわからない相手を感じ、考え、アジャストする。これもリーグ戦では味わえない経験だ。U-17日本代表候補であり、11月のU-17ワールドカップを目指しているGK上林大誠(2年)も、今大会での収穫を口にする。

「昨日の日大藤沢も今日の帝京もやり方は全然違って、それぞれチームの特徴がある中で、そういうヤツらに対してもしっかり対応する必要があって、全国でも有名なチーム相手に自分たちがどれだけ通用するのかというのは楽しみでしたし、もうプリンスリーグも開幕するので、シーズン前に基準を知れるのは良い機会だと思います」。

山形という地域性もあって、普段は練習試合も含めて、それほど多くの力のあるチームと対戦する機会を頻繁に作れるわけではない。それゆえの危惧を、内山監督は独特のフレーズを用いて説明する。「関東とは育った環境もパイも違うので、ちょっと『小山の大将』になってしまうんですよね。もっと上には上がいるという刺激を与えながらやらなきゃなとはいつも思っています」。

そう考えると、”2勝2敗”という結果も意味を持ってきそうだ。「東北のチームより強度も技術も一段と上だなと。プリンスリーグとは全然レベルが違うので、そういうチームと戦えたことで結構自信が付いたかなと思いますし、まだ開幕までは時間があるので、いろいろなことを積み上げていきたいです」(千葉)「ずっとボールを持たれる試合もあって、自分たちのビルドアップも正直あまりうまく行っていないので、技術のレベルを向上させていかないとと感じました。でも、この大会は結構点を獲れているので、そこには自信を持てるかなと思います」(天野)。自信を得て、課題を知り、次の船橋招待でさらなる腕試しに挑んでいく。

今月はクラブにとっても、アカデミーにとっても、嬉しい知らせがあった。ジュニアユースからモンテディオで育った半田陸(ガンバ大阪)が、とうとうA代表に選出されたのだ。

天野はトップの練習参加の際に見た”笑顔“が忘れられないという。「トップの練習に行った時に、陸くんは対人も凄く強かったですし、プレーに余裕があるというか、笑いながら対応していたんです(笑)。代表に呼ばれたと聞いて嬉しかったですね」。

千葉は今度の代表戦を、今から心待ちにしている。「自分も1年生の時からトップの練習に呼んでもらって、半田陸選手を近くで見ていたので、憧れていますし、真似していきたいなと思います。身近な……、いや、身近でもないですけど(笑)、アカデミーの先輩が出る代表の試合は見たいですね」。

木下はナショナルトレセンを経験した際の、誇らしい体験を語ってくれた。「夜に日本の各地から来ている選手たちとのミーティングで、陸くんの守備の強さの映像を見せてもらったんです。その時も陸くんの守備の粘り強さのことを言っていて、凄いなと思いましたし、誇らしかったです」。

ジュニアユース村山からユースと自身が辿ってきた道は、半田が歩んだものとそのまま重なる。「陸くんのことは身近な感じがするんですけど、それはもう凄い努力があってのことで、それでも自分にも絶対にチャンスが来ると思いますし、そのチャンスを無駄にしないという気持ちは結構強くなりました。刺激、受けまくりです(笑)」。そう笑った10番にだって、切り拓くべき道は確実に目の前に広がっている。

1998年に当時はJFLだったモンテディオに加入し、他クラブでのプレーや指導も経験しながら、クラブの四半世紀に及ぶ歴史を知る内山監督は、その変化もつぶさに感じてきた。

「今はもうJ1も何度か経験していますし、クラブも大きくなってきていますし、トップに求められる選手の敷居も上がっているわけで、そこにアカデミー出身の選手が食い込んでいけるように、僕らもやっていかなければと思っています」。 「ユースに関しても前任の今井(雅隆)監督が下地を作ってくれて、環境面で苦労したところからある程度のところまで来ていますね。ここからもう1つ上となると、まだまだ冬に使える練習場だったり、寮のこともそうですし、もっともっとというところはありますけど、ある程度Jのアカデミーの中では悪くはない環境なのかなと感じています」。

その上で、選手のリクルーティングに関しても考えていることがあるようだ。

「そもそもパイが少ないので、それを逃さないことと、自分たちで作り出すことは考えています。あとは今まではちょっと広い地域で見ていたところから、東北の良い子を吸い上げた方がいいんじゃないかという思考になっていますね。東北の各クラブの一番手の子をスカウティングしつつ、“自前”の子にもいい子がいるので、そういう選手たちを育てていきたいですね」。

たとえば天野の前所属は宮城のFCみやぎバルセロナ。「正直最初は頭になかったんですけど、声を掛けてもらって、そこから練習や練習試合に行ったりして、こういうチーム全体で戦う雰囲気もそうですし、東北の中ではボールを回す方なので、そういうところに惹かれてモンテに入りました。気候のこととかはまったく何も考えていなかったです(笑)」。カラッと笑う高校生らしさが微笑ましい。

千葉の前所属は、同じく宮城のエスペランサ登米FC。モンテディオにやってきた理由はより明確だ。「ベガルタのセレクションも最終までは行ったんですけど、結局入れなかったんです。でも、どうしてもJのユースに入りたかったので、ライバルのモンテに入って、ベガルタを倒そうと思いました。山形の夏は暑いし、雪もこんなに降るとは思わなかったので、1年目は結構ツラかったですけど、もう慣れました(笑)」。彼らのように東北の他地域からも、好素材は確実に集まり始めている。

もともと鹿児島出身の内山監督は、この山形の地で長い時間を過ごしてきたからこそ、これからのアカデミーとしての課題とこの先への展望を、冷静に見つめている。

「地域性もあるかもしれないですけど、これまでの僕らは受け身というか、内向きなところがあったんです。でも、もうそういう時代じゃないじゃないですか。発信して、認知してもらって、巻き込んで、応援してもらって、ということの大切さをここ数年はより感じるようになっていて、この子たちが愛されて、より応援してもらうためにも、今年になってアカデミーのTwitterも開設していますし、情報も発信していくことにここ最近はよりトライしています」。

「やっぱり山形って少し閉鎖的で、気質も内向的なんですよ。それではもったいないというか、クラブの体制も新しい社長が来たりしながら変わっていっているので、もっと外に、外に、というふうにより思うようになって、そういう働きかけをしているところですね。少しずつ認知してもらって、応援してもらって、その中でもともとちゃんとアカデミーを見てくれるサポーターの方はいるので、そういう方々を大事にしながら、その輪を広げていけたらなと思っています」。

小学校2年生でスクールに入り、このクラブでのプレーも11年目を迎える上林の想いが、静かに響く。

「僕はスクールに通っていた時も少年団には入っていなくて、モンテでしかサッカーをやってきていないんです。本当にモンテが自分のサッカー人生を育ててくれたようなもので、自分もモンテに何かを残せればいいかなと思っています」。

雪深いみちのくの地にも、サッカーを自身の中心に据える若い芽は着実に育ち、それを取り巻く環境も着実に変わりつつある。山形から世界へ。モンテディオから世界へ。もうそんな未来だって、決して夢物語ではない。

■執筆者紹介:

土屋雅史

「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。

著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

▼関連リンク

SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

https://web.gekisaka.jp/

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