【記者のJ1展望】2023シーズンの構図は3強! 本命は横浜FM、川崎Fではなく…対抗、有力、サプライズは?
2月17日に開幕を迎える2023シーズンの明治安田生命J1リーグ。ここ数年のタイトルを独占している横浜F・マリノスと川崎フロンターレに注目が集まるが、その勢力図にも変化が起きるかもしれない。広く国内外のサッカーを取材する河治良幸氏に展望をお願いした。
本命:サンフレッチェ広島
[昨季成績]
J1:3位
天皇杯:準優勝
ルヴァン杯:優勝
■指揮官の手腕
前回王者の横浜F・マリノスと奪還を目指す川崎フロンターレの“二強”に昨年3位の広島がどう食い込めるかという大方の見方はあるかもしれない。その構図も承知しつつ、広島を本命に推す理由はチームの勢いにある。
昨年の開幕前予想で筆者は「“改革元年”になるので優勝までは難しい」と書いたが、ミヒャエル・スキッベ監督がキャンプから直接指導できなかったハンデがあってなお、リーグ3位でフィニッシュ、天皇杯で準優勝、ルヴァン杯は優勝とカップ戦でも躍進した。
選手に伝えていることはシンプルなようだが、明確である分、チーム全体に判断の迷いがあまり無い。そのためトランジションが極めて速いのだ。スキッベ監督の采配も強みで、前半があまり良くなくても、ハーフタイムの指示や効果的な選手交代で、流れをガラリと変えて勝ち点をつかんだ試合がいくつもあった。
■開幕前の準備も万全
開幕に向けてJリーグでは唯一、欧州のトルコに遠征して東欧圏の強豪クラブと“ぶつかり稽古”をこなしてきた。戦力面はここ数年を同じく、主力の流出を最小限にとどめた上で、ネームバリューにこだわらない補強に努めている。
特に福岡から加入した志知孝明は左サイドの主力を担い、29歳にしてキャリアハイのブレイクを果たす期待がある。また昨年は開幕後に合流したFWナッシム・ベン・カリファや夏加入のピエロス・ソティリウは昨シーズンを上回る成績が見込まれる。選手層の面でも、パリ五輪代表候補である大卒ルーキーの山﨑大地、昇格2年目のFW棚田遼などが順調に戦力化されれば、夏場も乗り切れるだろう。
不安要素は2つ。昨シーズンのJ1でブレイクし、最近の海外メディアによく名前が出るようになっている満田誠が、欧州の夏の市場で狙われる可能性だ。そして5月に行われるACLのファイナルで、もしも浦和レッズが西側の王者に敗れて、秋からスタートするACLの権利が転がり込んだ場合。どちらもクラブの成長を考えれば悪いことではないが、リーグ優勝を狙う上ではマイナス要素になる可能性も否定できない。
有力:横浜F・マリノス
[昨季成績]
J1:優勝
天皇杯:3回戦敗退
ACL:ベスト16
ルヴァン杯:ベスト8
■攻撃の選手層は随一
喜田拓也キャプテンは個人の考えとして、連覇ではなくチャレンジャーとしてタイトルを奪いにいくことを主張した。ケヴィン・マスカット監督にも「維持=後退」という考え方があるようで、チームがさらなる進化を遂げるべく、チーム作りを進めている。その基準で言うと、11日に行われた富士フィルムスーパー杯は甲府の健闘にも苦しめられ、理想的なゲーム運びはできなかった。
それでも今年の初タイトルを獲得するとともに、開幕に向けて今一度、チームがピリッとした部分はあるだろう。昨シーズン70得点を叩き出したオフェンスはレオ・セアラが名古屋、仲川輝人がFC東京というJ1のライバルに移籍してもなお、かなり期待できる。昨シーズンの新加入組では西村拓真がブレイクしたが、植中朝日が同等の活躍を見せる可能性も十分にある。柏から加入したDF上島拓巳も早期のフィットが見込めそうだが、それでも昨シーズンMVPの岩田智輝と守護神だったGK高丘陽平の穴は簡単に埋まるものではない。
どんな相手にも「自分達のサッカー」を貫くスタイルはおそらく変わらないが、より速く、より正確にゴールを目指すことで、相手を上回っていく試合は多くなりそうだ。ただ、その中で二人を忘れさせるぐらいの安定を手に入れられるかはテーマになる。
対抗:川崎フロンターレ
[昨季成績]
J1:2位
天皇杯:3回戦敗退
ACL:GS敗退
ルヴァン杯:ベスト8
■序盤が難所か
ディフェンスリーダーとして、またキャプテンとして川崎Fのタイトル獲得を支えてきた谷口彰悟の移籍は誰がどう見ても痛手だ。そして、マリノスの岩田にも言えるが、そんな選手の代わりが務まったり、穴を完全に埋められる選手など、簡単に見つかるものではない。そこをカバーすることも大事だが、別の強みを作っていくことで、総合的に昨年までのチームを上回れば良いという考え方の方が、よりポジティブだろう。
今シーズンから取り組んでいるという可変システムをベースとしたアクションが、プラスに出るかマイナスに出るかは分からない。ただ、7年目にしてもチームをアップデートさせようという鬼木達監督の意欲が伝わるトピックであるし、Jリーグで勝つだけでなく、国際的なスタンダードでもチームを高みに導きたいという野心は前向きに評価したい。ただ、そうしたトライにリスクは付きものだ。スタイルの変革は短期間で完成するものではないはずだが、その中でもボールの奪いどころ、失った時のリスクマネージメントなど、チーム共有をかなりハイレベルに突き詰めないと、相手の対策にかかりやすい部分も出てくるかもしれない。
また、そうしたスタイルをあまり得意としないタイプの選手も現有メンバーにいるかもしれない。個人が戦術の割を食ってしまうというのは欧州クラブなどでも、よくある現象だ。そして周知の通り、レアンドロ・ダミアンと小林悠が開幕に間に合わず、家長昭博も微妙であることはスタートダッシュに少なからず影響を与えうる。そうは言っても、徳島や鳥栖で成長して復帰したFW宮代大聖など、若手や主力を狙う選手にとっては大きなチャンスだ。
やはり川崎Fは戦力的にも優勝のポテンシャルがある。ここでは「対抗」とはしたが、長いシーズンで尻上がりにチーム状態を上げて、広島やマリノスを上回ってタイトルを奪還しても全くおかしくない。
サプライズ:サガン鳥栖
[昨季成績]
J1:11位
天皇杯:4回戦敗退
ルヴァン杯:GS敗退
■違いを作る個人も加入
昨年の11位ということで、あまり上位に予想するメディアは多くないかもしれないが、チーム力が明らかにベースアップしているチームということで“3強”を追う一番手にあげたい。
川井健太監督が2年目となる今シーズンは主力の大半が残り、そこに横山歩夢(←松本)、富樫敬真(←仙台)、樺山諒乃介(←横浜FM)、河原創(←熊本)といった個性豊かなタレントが加わった。守護神の朴一圭によると、昨シーズンのベースがあるおかげで、新加入の選手も戦術や方向性を共有しやすく、チーム作りがスムーズに進んでいるという。
川井監督が昨シーズンの課題と考えているのは大きく二つ。一つは攻め込んでも最後に打開していく力が不足していたこと。もう一つは90分の終盤まで戦い抜く、さらにはシーズンを戦い抜くための選手層だ。
得点力を上げるにはチームの攻撃をブラッシュアップすることも大事だが、やはり個人で違いを作り出すパワーも重要になる。その意味で横山や樺山の加入は大きく、周りも彼らを生かしながら、周囲のスペースを活用するなど、個人をチームに組み込む意識付けが進んでいいる。そうは言っても、誰か一人に頼るのではなく、チームのベースは共有しながら組み合わせの数ほど可能性が生まれてくる体制が、川井監督やスタッフによって作られている。
今年5月からU-20W杯があり、DF中野伸哉や横山など、複数の選手が代表で抜ける時期もありそうだが、日の丸を背負う選手を育てたいという指揮官の理念もあり、前向きに乗り越えていく期待が高い。
大穴1:浦和レッズ
[昨季成績]
J1:9位
天皇杯:3回戦敗退
ACL:決勝進出(決勝は未消化)
ルヴァン杯:ベスト4
■実績十分な指揮官を招へい
浦和に関してはポテンシャルは“3強”に匹敵しうるが、やはりマチェイ・スコルジャ監督が1年目ということもあり、あまり過度な期待はかけたくないのが正直なところだ。無論、ポーランドで4度のリーグ優勝を経験した指揮官だけに、いきなり浦和をJリーグの頂に導く可能性もある。
リカルド・ロドリゲス前監督は2シーズンで1年目に天皇杯を獲得、そして昨年はACL決勝進出は果たしたが、J1優勝という目標には近づくことすらできなかった。理由は1年間の波が大きかったこと、そして連勝の波をほとんど作れなかったことだ。スコルジャ監督はビルドアップのベースを引き継ぎながら、ハイプレスから時間をかけずに攻め切るスタイルを加えて、選手たちに前向きな姿勢を植え付けている。
名古屋に移籍したキャスパー・ユンカーに代わる外国人FWの獲得プロジェクトが思うように進んでいないのは懸念材料だが、キャリアで初めて自主トレをやったというFW興梠慎三など、現有戦力が結果を出す期待感もある。逆に夏の移籍期間でビッグディールが成功すれば、後半戦に向けてギアを上げることができる。
選手層に関しては5月に行われるACLファイナルで優勝すれば、後半戦にACLが入ってくるので、日程は当然ながら厳しくなる。ただ、浦和の場合はACLが栄養となる部分もあるため、その権利を勝ち取ることで、選手たちに試合の出場チャンスが増えるぐらいに捉えるはずだ。
大穴2:セレッソ大阪
[昨季成績]
J1:5位
天皇杯:ベスト8
ルヴァン杯:準優勝
■J1屈指のタレント力
優勝の可能性という基準で、6番目にあげることになったが、上位争いを演じる可能性という意味では鳥栖や浦和を上回るし、“3強”にほぼ匹敵するかもしれない。強みはなんと言っても戦力の充実ぶりで現時点で、“主力クラス”と評価できる選手だけでも、べンチ入りの18人から溢れてしまう。
ジェアン・パトリッキがライバルの神戸、長く左サイドバックの主力を担った丸橋祐介がタイのパトゥムに移籍したが、横浜FMから2年連続二桁得点のレオ・セアラ、福岡からサイドアタッカーのジョルディ・クルークスを獲得。昨年のJ2で10得点を記録した藤尾翔太が徳島から舞い戻り、日本代表で10番を背負った香川真司が12年半ぶりに復帰するなど、タレント力は間違いなくJ1屈指だ。
あとは分析力に定評のある小菊昭雄監督が、大所帯のチームを掌握して、一つの戦う集団として長いシーズン戦い抜けるかというのが、最大のテーマになるかもしれない。また結果が出ないと守備に重きを置きすぎるなど、チームバランスを自分たちで崩してしまう傾向もある。そうした部分でコントロールしていければ、優勝争いが混戦になった場合に芽は出てくるかもしれない。
その他にも期待のクラブ
アルベル監督が2年目のFC東京、同じく長谷川健太監督が2年目の名古屋グランパスはスタートダッシュに成功すれば、優勝戦戦に加わるだけのポテンシャルはありそうだ。FC東京はボールを大事に動かしながら、ディエゴ・オリヴェイラ、アダイウトンと言ったアタッカーの推進力を押し出す戦い方になるか。
名古屋は長谷川監督が、後ろからボールを動かすスタイルを構築しようとしたが、なかなかうまく行かなかった。今年は強みの守備を安定させながら、新加入のキャスパー・ユンカーや永井謙佑、マテウスなど、シンプルに前線のスピードや突破力を生かす、本来の長谷川監督のスタイルがもっと先鋭化するかもしれない。一つ間違えると前と後ろが間延びしてしまうが、和泉竜司という優れたコンダクターが、鹿島から帰ってきたのは大きい。
G大阪はダニエル・ポヤトス監督が1年目、しかもJ1初挑戦ということもあり、優勝までは推せない。当初、筆者も残留を確保しながらチームに成長が見られたらOKぐらいに考えていたが、補強が非常に意欲的で、即効性も高そうだ。パリ五輪代表候補のDF半田陸、A代表も経験したGK谷晃生、さらにカタールW杯にも出場したチュニジア代表FWイッサム・ジェバリ、イスラエル代表MFネタ・ラヴィなど。新戦力に限ればプラスは一番かもしれない。
その反面、指揮官が基本的な立ち位置やボールの動かし方、攻撃スタイルに則したディフェンスを植え付けるのに、相応の時間がかかりそうだ。それでもキャプテンに任命された宇佐美貴史を筆頭に個の力が強く、新戦力のプラスも大きいので、プロセスの中でも勝ち点を取っていけるのではないか。ただ、さすがに横浜FMや川崎Fを上回ってのリーグ優勝までとなると、常軌を逸したようなチームのまとまりが必要になる。
最後に昨年4位の鹿島だが、開幕前の時点では優勝候補には推せない。岩政大樹監督が掲げるチームの方向性に、編成バランスのピントが合っているように見えないからだ。しかし、選手たちと一緒にチームを成長させていきたいという指揮官だけに、ビジョンと成長曲線がうまく噛み合って来れば、シーズン半ばあたりから軌道に乗る期待もある。