今日開幕!30周年のJリーグは“2強時代”から大混戦の”戦国時代”へ

川崎F、横浜F・マリノスは主力が退団

 マリノスや川崎と同じく、このオフに目立った補強はない。しかし、来日1年目で優秀監督賞を受賞した昨シーズンから引き続き指揮を執る、ドイツ出身のミヒャエル・スキッベ監督の指導力を踏まえれば総合力はアップ。2強に割って入る最有力候補と言っていい。

ヨーロッパのさまざまなチームが集結し、キャンプを張るトルコで実戦を通じて調整。チームを仕上げてきたスキッベ監督も2シーズン目へ自信をのぞかせる。

「キャンプを通じて、非常にいい準備ができたと思っている。昨シーズンから引き続き、勇敢でオフェンシブなサッカーを目指していきたい」

対照的に積極的な補強に動いたのがセレッソだった。昨シーズンは5位に入り、ルヴァンカップでは2年連続で準優勝した。2021シーズンの途中から指揮を執る小菊昭雄監督は、昨シーズンを「チームの確固たるベースができた1年だった」と自信を持って振り返る。

ただ、引き分けが12とリーグで4番目に多かった。肝心な場面でゴールを奪えなかった反省に立ってFWレオ・セアラをマリノスから、サイドアタッカーのジョルディ・クルークスをアビスパ福岡から獲得。チーム2位タイの5ゴールをあげたFWジェアン・パトリッキがヴィッセル神戸へ移籍すると、すかさず左利きのアタッカー、カピシャーバも獲得した。

今月1日には元日本代表MF香川真司が、実に12年半ぶりとなるJリーグへの復帰を果たした。開幕を直前に控えた段階でキャプテンのMF清武弘嗣が負傷し、戦線離脱を余儀なくされたのは誤算だが、それでも攻撃陣の新戦力がフィットすれば総合力は昨シーズンより確実に上がる。広島とともに2強に割って入る存在となるのは間違いない。

小菊監督は清武の胸中を慮りながら、決意を新たにしている。

「私もショックでしたが、キヨ自身も残念だったと思う。だれが出ても規律をまっとうするチームを作ってきたなかで、キヨの離脱を全員でカバーしてきたい」

セレッソ以上に積極的な補強に動いたのが、4位の鹿島アントラーズだった。現時点で最後の国内タイトルとなる2016シーズンのJ1制覇を支えた元日本代表のセンターバックコンビ、昌子源(ガンバ大阪)と植田直通(ニーム・オリンピック)を復帰させた。

さらに前出の知念やサイドアタッカーの藤井智也(広島)、J2でデュエルの強さを発揮していたMF佐野海舟(FC町田ゼルビア)を獲得。6シーズンにわたって武者修行を積ませ、その間にJ1とJ2を合わせて51ゴールをあげたFW垣田裕暉も復帰させた。

しかし、昨年8月に就任した岩政大樹監督が目指すサッカーがなかなか見えて来ない。目標に「新しい鹿島を作る」を掲げた昨シーズンは、10試合を2勝6分け2敗で終えた。十分な準備期間を経て迎えた今シーズンも、J2勢に1勝4敗と負け越して開幕を迎える。常勝軍団復活への軌道に乗れるかどうかは、開幕から数試合を見ないとまだ判断できない。

むしろ楽しみな存在として、11位だった鳥栖があげられる。

債務超過に陥っていた財政事情もあって、昨シーズンは主力のほとんどが他チームへ移る状況で開幕を迎えた。降格候補にもあげられたなかで、初めてJ1の指揮を執る川井健太監督のもと、ふた桁順位とはいえ一度も残留争いに巻き込まれることなくシーズンを終えた。

迎えた今シーズン。前述した宮代や垣田のレンタルバックは、ある意味で致し方ない部分がある。ただ、主力の流出をMF小泉慶(FC東京)とDFジエゴ(柏)だけにとどめたのは、川井監督が掲げる攻撃的なスタイルに、多くの選手が共鳴しているからだろう。

問題は2人で14ゴールをあげた、宮代と垣田の穴をどのようにして埋めるか。昨シーズンのJ3で11ゴールをあげた19歳のFW横山歩夢(松本山雅FC)、J2で11ゴールをあげたFW富樫敬真(ベガルタ仙台)ら新戦力が台頭すれば、上位を食う存在になる可能性が大きい。

もっとも鳥栖の場合、横山やヨーロッパの移籍市場で取り上げられた19歳のDF中野伸哉が、U-20アジアカップとFIFA・U-20W杯を控える日本代表の活動で不在になる可能性が高い。実際、2人は開幕節を終えた直後に、U-20アジアカップへ臨むためにチームを離脱する。有望な若手を数多く擁する、育成型クラブの宿命とも向き合っていくシーズンになる。 それでも川井監督は、今シーズンのストロングポイントをこう語る。

「選手層の厚さですね。誰が出ても、チーム力が落ちないと思っています」

今シーズンからはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)が秋春制に移行し、マリノスと川崎はJ1戦線が佳境を迎える9月以降に、ACLのグループステージを並行して戦う。ACLの決勝に進出している浦和レッズが敗れれば、広島も来シーズンのACLプレーオフの出場権を得る。

過密スケジュールによる故障など不測の事態に直面したときには、シーズン中に迅速かつ的確な補強に動けるかどうかという点でクラブ力も問われてくる。その場合は過去にもシーズン中の補強を成功させてきたマリノスに、一日の長があるかもしれない。

2強時代を形成してきたマリノスと川崎の背中を、広島を筆頭とするライバル勢が射程距離にとらえつつある状況で迎える今シーズン。優勝候補筆頭が不在の戦国リーグは前売りチケットがわずか5分で売り切れた、川崎とマリノスの黄金カードで幕を開ける。 (文責・藤江直人/スポーツライター)

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