ガンバ大阪・GK谷晃生インタビュー「W杯まで3年半しかない。試合に出ることで日本代表に近づける」
愛しているJ! Jリーグ2023開幕特集ガンバ大阪・谷晃生インタビュー
4年ぶりのガンバ大阪への復帰について、谷晃生は「サッカー人生を左右するほどの大きな決断だった」と振り返った。
「海外移籍も考えましたが、結論から言って、そういうオファーはなかったし、僕自身、国内では他クラブに移籍するという考えはなかったので、そのまま湘南ベルマーレに残るか、ガンバに戻るかが選択肢でした。もちろん、両クラブから必要とされなければ、『他に』と思っていましたが、幸せなことに必要としてもらえたので。そのうえで、最終的には自分のなかでいろんなことを総合して考えて、ガンバに戻ると決めました。
このクラブのGKには、ヒガシさん(東口順昭)という誰からも信頼されている選手もいるし、去年、ヒガシさんがケガで離脱している際に、試合でいいパフォーマンスを発揮していた(石川)慧くん、(一森)純くんという実力のある選手もいる。その競争に飛び込んでいくのは、周りからしたらリスクしかないと思われているはずですけど、そのくらいのチャレンジをしないと、きっと3年半後のワールドカップ・アメリカ、メキシコ、カナダの北米3カ国共催大会にはたどり着けない。
今年のガンバは監督が交代して外国籍の(ダニエル・)ポヤトス監督が就任することから、ポジション争いもイチからフラットな目で見てもらえる。そこで、自分がどんなプレーを見せられるか、信頼を勝ち取れるかはすべて自分次第。このクラブに育ててもらった感謝と生え抜きとしての責任を、ピッチでのパフォーマンスで示していくためにも、すばらしいGK陣と勝負できる面白さや刺激を、自分の成長の力にしていきたいと思っています」
2021年の東京オリンピックでは、U―24日本代表として6試合にフル出場。うち、準々決勝のニュージーランド戦ではPK戦を含めて存在感を示し、準決勝のスペイン戦でも惜しくも敗れたとはいえ、再三の好セーブでチームの窮地を何度となく救った。
その活躍が評価され、同年8月には初めて日本代表にも選出された。アジア最終予選でもメンバー入りを果たしたが、昨年のワールドカップ・カタール大会への出場は叶わなかった。その事実も今回の決断につながったのか。
「(W杯メンバーに)自分が選ばれなかったことについては、正当な評価だと受け止めています。それに値するだけの毎日を日々過ごしてきたのか。日本代表で仲間の信頼を勝ち得るだけのものを見せてきたのかと考えると、そうではなかったと思います。
特にGKは途中出場でピッチに立つことが少ないポジションだと考えても、日頃のトレーニングで安心感のあるプレーを示し続けて、周りの信頼を勝ち得なければいけないと思っていますが、その部分でも物足りなかったはずだし、実力的にも他のGKに比べて見劣りしていたと思います。
ただ、自分にとってアジア最終予選を体感できたことは、間違いなく大きな経験になったので。それを自分のアドバンテージにしながら、3年半後の舞台を目指したいと思います」
チーム内での熾烈な競争を勝ち抜いてピッチに立つためのアピールポイントを尋ねると、即答で「若さ!」と返ってきた。
「ポヤトス監督がどう考えているのかはわからないですが、未来を見据えて若い選手を使いたいって監督もいる世界だからこそ、チームで一番若いGKだというのは素直にすごい武器だと思っています。
そうは言っても、競争の土俵に上がるには、まず監督が使いたいと思うだけのパフォーマンスが必要だと思うので。そこについては、湘南での3年間でコンスタントにJ1リーグを戦いながら、時に1試合に20本以上のシュートを浴びせられながら(苦笑)、自分なりに自信を大きくしてきましたから。
また、パフォーマンスとしては足りていないところがあっても、それをいろんな要素で覆せるのがサッカーの面白いところでもある。試しに使ってみたら、すごくよくてポジションに定着したという例もたくさんありますしね。
だからこそ、まずは監督が『チャンスをあげたい』と思えるパフォーマンスを練習から示していくことを意識したい。少なからず、始動してからはずっと成長にはもってこいの環境だと感じながらトレーニングを積めているので、それをしっかりと自分のパフォーマンスにつなげていきたいです」
チームを率いるポヤトス監督は、就任時から「ボールを持つことで時間とスペースを有効に活用し、ゲームを支配したい」と明言している。加えてGKについても「GKもフィールドプレーヤーのひとり。GKだけを孤立させるのは好まない」と話し、ビルドアップの起点になることも求めている。実際、沖縄キャンプではパス&コントロールのトレーニングにGKも参加するなど、その狙いを垣間見るトレーニングも多かった。
「GKとして、足元の技術はガンバだけではなく今後、上のステージにいくほど必ず求められる要素。自分もまだまだ磨いていかなければいけないし、そのうえでビルドアップにもしっかり関わっていければと思っています。
とはいえ、ビルドアップは正直、GKの足元の技術だけでどうにかなるものではないというか。フィールド選手の立ち位置、ポジショニングがあってこそ、初めてGKにもパスコースが生まれる。そう考えても、GKだけではなく、チームとしてビルドアップにしっかり取り組むなかで、僕もそのひとりとして存在感を示せるようになっていきたいと思っています」
今シーズンの目標はチームでの”今”を大事に過ごしながら、再び日の丸を背負って戦う舞台に戻ること。
「次のワールドカップまで『3年半もある』と考えることもできるけど、僕は『3年半しかない』と思っています。ただ、日本代表に選ばれるための近道などなく、まずはチームでのパフォーマンス、結果がすべてだと思うので。実際、ガンバで試合に出ることができれば、きっと日本代表にも近づける。
だからこそ、まずはチームスタイルのなかで自分という個性をしっかり発揮することを心がけていきたいと思う」
思えば、昨年末に谷のガンバ復帰が発表された時から、東口をはじめとするライバルとのポジション争いは注目を集めてきた。これについて、チームを率いるポヤトス監督は「年齢やステイタスはまったく関係なく、パフォーマンスだけを最優先に考えて選手を見極めたい。重要なのは、私自身が彼らのベストな瞬間をしっかり見抜いていくこと」と話すにとどまっており、いまだ答えは出ていない状況だ。
それでも「注目してもらえるだけありがたい」と谷は言う。
「以前に在籍した時は、そういう話にもならなかったと考えても、湘南での3年間は自分にとってすごく意味のある時間になったということ。ガンバを離れる時はすごく不安もあったけど、結果的にこうして今『(東口か谷か)どっちが出るの?』と言われる状況になっているのは……満足はしていないけど、それがこの3年間の一番の収穫かもしれない」
あとは、その自信を胸に突き進むのみ、だ。
「日本にはいろんなすばらしいGKがいて、それぞれに見習うべきところもありますけど、総合的に考えて、僕の思う日本一のGKは今もヒガシさんだし、誰よりも近くでヒガシさんの背中を見てきたからこそ、そのすごさも、大きさも一番理解しているつもりです。そのヒガシさんと冷静に実力を見比べて、まだまだ自分が足りていないということも自覚しています。
それでも、さっきの話じゃないけど、この世界は何を理由に監督からチョイスされるかはわからないので。自分にしっかり目を向けて、日々やり続けることで『チャンスを与えたい』と思える選手であり続けたいし、それをつかんだ時にしっかりと結果で応えられる自分でいたい。少なからず、それができるという自信はしっかり備えて戻ってきたので、この先はとにかく自分次第だと思っています」
力を込めた言葉は、大きな壁を乗り越えてみせるという覚悟の証。と同時に、再び”日の丸”を背負う自分になるための決意表明でもある。
谷晃生(たに・こうせい)2000年11月22日生まれ。大阪府出身。ガンバ大阪のアカデミー育ちで、高校1年生の時に二種登録され、2017年3月にはJ3リーグデビュー。同年12月には飛び級でのトップチーム昇格が発表された。2020年、湘南ベルマーレに期限付き移籍。2022年までの3シーズン、不動の守護神として活躍。2023年、ガンバに復帰した。世代別代表では、2017年U-17W杯、2021年東京五輪に出場。2021年8月、日本代表にも初めて選出された。