「日本にストライカーがいれば…」マンガ『ブルーロック』に込められた「日本サッカー界への期待と願望」
2018年から「週刊少年マガジン」で連載されているサッカーマンガ『ブルーロック』(金城宗幸・原作、ノ村優介・漫画)は、2022年10月からTVアニメが放映中だ。ガンバ大阪やFC東京とのコラボや、日本代表のカタールW杯着用の新ユニフォーム発表時のコラボなどでサッカーファンにも知られているだろう。W杯優勝を目指すストライカー養成機関を描いた攻めに攻めたこのマンガ、W杯に合わせたこのタイミングにこそ、サッカーファンにも読んでもらいたい。作品の見どころ、読みどころを原作者の金城宗幸(かねしろ むねゆき)に訊いた。
「日本にストライカーがいれば」とみんな思っているんじゃないかと感じていた
――金城さんが、マンガの題材としてサッカーがおもしろいと思った理由は?
金城 まず何より僕自身がめちゃくちゃ好きだからです。それに、世界中の人が観ている人気のスポーツですしね。僕自身は遊びでやっていただけで、部活とかでのサッカー経験はないんですけれども。でも子どものころからずっと好きで特に日本代表を観ていたし、サッカーゲームもずいぶんやりこみました。
「週刊少年マガジン」編集部の方と企画について話しているときに「高校生が熱く戦っている話がいいよね」と盛り上がり、それから僕がずっと感じていた「ストライカーって日本になかなかいないですよね」という会話をしたらさらに盛り上がり、「これだ!」となりました。
――「サッカーを描く」といってもいろいろ切り口はありますが、『ブルーロック』は、なぜ日本中の高校からストライカーたちを集めてW杯優勝を目指す話になったのでしょうか。
金城 「日本がW杯を優勝するところが観たい」という僕の願望ですね。小さい頃から僕はテレビにかぶりついて真剣にサッカーを観て、「勝て!」と必死に応援していたんです。そのころから僕が思っていた「優勝して欲しい!」「日本にストライカーがいれば……!」という願いを持っている人って多いんじゃないかと。それを描けば少年マンガとして大きい話ができそうだな、という想いもありました。
そこから「日本人の特性は和を重んじる協調性で、日本のサッカー界が抱えている課題の根本は、その協調性がありすぎるゆえのエゴイスト不足なんじゃないか?」と僕が思っていたことを全部ぶち込んで原作を作りました。連載前には現役の選手やスタッフさん、元日本代表コーチの方といったサッカー関係者の方にも読んでいただいたんですね。めちゃくちゃ怒られるんじゃないかとビクビクしていたんですが、でもかなりの方から「その通りだよ!」と言っていただいて。取材すればするほど、この方向性で間違っていないんじゃないかなという気持ちになりました。
――原作を作るなかで気付いたサッカーの特徴は?
金城 改めて資料を読んだり関係者から話を訊いて感じるのは、リアルのサッカーはもっとシステマティックなものなんだろうな、と。選手はデータやシステム、規律やチーム内のルールを頭に入れて、それを90分間徹底している。僕も昔は試合を観ながら安易に「そこでシュート打てよ!」と思っていましたけど、勉強するほどに「いや、チームとしてそこはそんな簡単には打たないよな」と思うようになりました。だけどフォワードに関しては「それでも打ってほしい!」という想いもあり。だからそれもあって、あえて『ブルーロック』はエゴイスティックにアドリブで動く選手が多いお話にしています。
――『ブルーロック』は現代サッカーの複雑な戦術や専門用語を知らなくても読めるように描かれていますよね。
金城 僕自身、団体競技もののスポーツマンガを読んでいてルールと作戦を理解しないといけなくなると苦手に感じることがあって。だから『ブルーロック』ではいまだにオフサイドすらまともに出していないんです。ややこしいルールや用語、戦術はなるべく読者に説明しなくてもいいように、サッカー知識がなくても読めるように工夫しています。難しいことを考えずに、読者がマンガのおいしいところだけ楽しめるものにできたらと。
ひょっとしたらマネできるかも、というギリギリで勝負したい
――原作者として、『ブルーロック』の作画はここがすごいと感じているところは。
金城 作画のノ村さんはアニメーション的な、動いているかのような絵が巧いんです。それとキャラクターの目力に非常にこだわって描いてくださっている。ご本人もおっしゃっていたんですけれども、読み終えたときに「息をするのも忘れていた」という状態になるくらい没頭させるような絵づくり、演出を目指していると。マンガ表現として実験的なこともしているつもりなので、バトルマンガとしての視覚的なおもしろさをぜひ味わってほしいですね。
――いま「バトルマンガ」というフレーズが出てきましたが、たしかに能力バトル的な演出ですよね。
金城 ただ、ギリギリ現実でもできそう、ありえるかもしれないプレイに留めるように気を付けています。本当に龍や衝撃波は出てこない。異能力や必殺技を繰り出す路線にしても、リアル路線の本格サッカーマンガにしても、どちらもすでに偉大な作品がありますから、僕らはギリギリのところをやろう、と。少年だったころに「ひょっとしたらマネできそう」くらいのスポーツマンガが好きだったというのもあります。
――最近のサッカーのトレンドも汲もうという意識はありますか?
金城 選手の性格や特徴、どういう人が人気があるのかということは考えています。戦術も調べてはいるものの、読者が意識しなくても読める程度に入れるようにしています。どちらかというと「公開オーディションをサッカー選手でやってリアルタイムショーを配信したら盛り上がるだろう」みたいな、サッカー以外での流行りをサッカーと混ぜるような発想の方が多いかもしれません。
――ああ、『ブルーロック』の「同じグループ内のメンバーと互いに競い合いながらも、相手チームに勝たないといけない」という二重の争いを描いていく感じ、アイドルグループのサバイバルオーディション番組みたいですしね。
金城 その通りです。僕もモーニング娘。やLDHさんのオーディション番組、夢中になって観てましたから。おもろすぎて。『ブルーロック』は初期の企画段階のときに編集さんとも「アイドルオーディション的な楽しみ方もできそうな話ですね」と言っていたんですよね。たとえば糸師凛というキャラクターは、いきなり加入してきたカリスマセンターのような奴にしよう、とかって。そもそもスポーツ選手もアイドルも一瞬の輝きを追求する感じがありますよね。
もちろん、それでも持続できている方が超一線級の人なんだろうなとも思いますが、現実的にはフィジカルも人気もずっとピークを保ち続けることは難しい。その中での必死の戦いですから、『ブルーロック』では「このチームで世界一を目指す」とキャラクターたちが言ったとしても、その関係は決してキラキラした友情とかではないんですよね。キラキラではなく、ギラギラ。チームの中心を奪い合う、エゴとエゴのブツかり合いを描いています。
普通のサッカーものだと思ったらケガすると思います
――現在放映中のアニメ『ブルーロック』の見どころは?
金城 プロデューサーさんや監督さんには、漫画担当のノ村さんと僕とで最初に「ただのスポーツマンガじゃなくてサッカーバトルマンガ」「鳥肌の立つマンガ」を目指そうと話していたとお伝えしましたが、『ブルーロック』が好きな人が作ってくれている感じがすごくありますね。サッカーシーンはめちゃくちゃ迫力がありますし、動きがすごい。実際に人間がプレイしたものをモーションキャプチャして使ったり、「こういう画角で撮るんだ!」という構図ですとか、今までのサッカーアニメではなかなか観たことのない表現をしています。リアルさとハッタリの両立に果敢に挑戦していて、映像として気持ちがいいです。そして、声優さんたちが本当に熱く、キャラクターに生命を吹き込んでくれています。
――『ブルーロック』、原作者としてはどんなサッカーマンガだと思っていますか。
金城 普通のサッカーマンガだと思って読んだらケガすると思います(笑)。「ガツンと頭を殴られた」と読者が感じるようなものにしたくて描いていますので、未読の方も、ぜひ読んでみてください。
また、<【後編】異色サッカーマンガ『ブルーロック』原作者が語る「W杯優勝国&MVP予想」と「日本代表への期待」>では、物議を醸した序盤のセリフの真意や今回のW杯の優勝予想、好みのプレイスタイルなどを金城氏に訊く。



