【番記者の視点】G大阪を救ったMF食野亮太郎の成長 広がるシンプル思考が残留の鍵に
◆明治安田生命J1リーグ第32節 G大阪2―0磐田(29日、パナスタ)
パスを受け、仕掛け、打つ。0―0で迎えた磐田戦の後半21分、途中出場のG大阪MF食野亮太郎は、よどみない動きでゴールを陥れた。あまりに自然な流れに、まるでDFがいないシュート練習を見ているかのような感覚に陥った。左足から放たれたシュートがネットを揺らすと、湧き上がるスタンドに向かって吠え、叫んだ。まるで体の中にぎゅっと押し込んでいた感情が、爆発したかのようだった。
試合後のミックスゾーン。「とりあえず、足を振ってやろうと試合に入りました」と値千金のゴールを振り返った食野。18位・磐田との“裏天王山”は、引き分けでもJ2降格に近づく一戦だった。残留争いにおいて最も恐ろしいのは、重圧から自身のプレーを見失うこと。0―0の後半14分にFWパトリックとともに投入された意味は、誰の目にも明白だった。重圧はのしかかっていたはずだ。
3年間の海外挑戦を経て今夏に古巣・G大阪に復帰したが、この試合前までは1ゴール。サイドハーフとして守備のタスクを懸命にこなす中で、チームを救いたいという思いが強いからか、ゴール前では力が入りすぎたプレーも見せていた。ここ2試合は先発から外れた。鼻っ柱の強さが売りだけに、大一番での先発落ちには複雑な心境もあったのではと想像する。それでも「点を取っていないので仕方ない。反骨心が自分の真骨頂。腐らずにシュート練習を繰り返してきたことが、大事な試合で出た」。海外で出場機会を失う経験を何度も味わってきた24歳に、確かなメンタル面の成長を感じた。
また、食野が「足を振る」というシンプルな思考に至った点には、9月途中に就任した松田浩監督が語り続けていた言葉の浸透もあるとみる。J1残留というタスクを託された62歳の経験豊富な指揮官は、選手たちに期待することについて、「目の前のプレーにすべてをかける。それ以外は考えなくていい」と繰り返してきた。戦術的にはシステムを4―4―2に変更し、戦い方を統一。選手たちがすべきことを、できるだけシンプルに整理した。戦術面、精神面ともになすべきことが統一されてきたからか、シーズン終盤にかけ、それぞれの選手たちが話す言葉にも、どこか共通するニュアンスが増えてきた。食野が自身の強みを発揮することだけを考え、結果につなげたことも、無関係とは思えない。
サッカーは複雑なスポーツで、少しの要素で大きく流れが変わる。一方でシンプルで大切なことは、ずっと変わらずにそこにある。それを選手たちに伝え、浸透させることは、指揮官の大きな仕事の一つだろう。松田監督が繰り返してきた言葉が、もう一つあると言う。「他力に頼るな、自力を信じろ」。磐田戦の勝利で、15位に浮上したG大阪。最終節の11月5日・鹿島戦(アウェー)に勝てば、自力でJ1残留が決まる。
(G大阪担当・金川誉)