<football life>J2降格ちらつく“西の名門”ガンバ大阪 理想の「西野」と差
サッカーの“西の名門”ガンバ大阪が苦境に立っている。緊急補強に監督交代とカードを切りながらチーム状況は好転せず、2度目のJ2降格が現実味を帯びてきた。理想の「攻撃サッカー」という錦の御旗(みはた)を降ろさざるを得ない状況に追い込まれた。
今季7度目の無得点で敗れた8月14日の清水戦から2日後、17位に沈むチームは就任1年目の片野坂知宏監督を解任した。
同監督が目指したのは、GKから前線までパスをつなぎ、ボールをキープしながら攻め続けるスタイルだった。2002年から10季にわたる長期政権を築き、圧倒的な攻撃力で05年のJ1制覇など3位以内が8回と実績を残した西野朗監督の下、コーチを務めた経験もある。16年に就任した大分をJ3からJ1へと引き上げた手腕を買われ、攻撃サッカーの再建を託された。
しかし、かみ合わなかった。こんな場面があった。1―3で敗れた5月21日のセ大阪戦の終了間際、DF昌子源がスローインを入れようとしたが、劣勢にもかかわらず味方はパスを受けることに消極的だった。
FWレアンドロペレイラに怒りをぶつけた昌子は試合後、「お互いにやりたいことは分かっている。しこりはない」と話した。だが、高い位置からボールを追う前線と最終ラインは連動性を欠き、パスサッカーの肝となる意思疎通もうまくいかない。戦術の浸透に苦心していることが透けて見えた。
「西野ガンバ」の理想像と現実が乖離(かいり)している。18年途中に就任したクラブの顔とも言える宮本恒靖氏は、3季目の20年には堅守からカウンターを狙う戦い方でリーグ2位の結果を出した。しかし、ボールを支配して攻撃型にかじを切った21年は新型コロナウイルスの集団感染に見舞われる不運もあって序盤からつまずき、5月に解任された。
仕切り直して理想に近づけるはずだった今季も同じてつを踏んだ。強化アカデミー担当の和田昌裕取締役は「攻撃的なサッカーは魅力的だが、攻守のバランスを取りながら移行していかないといけない。そこに行くには段階が必要だと感じさせられた」と語った。
小野忠史社長は「シーズン序盤から新型コロナによる活動停止や主力のけがの多発で思うようなチーム作りができなかった」と話す。FW宇佐美貴史は右アキレスけん断裂でわずか3試合の出場にとどまり、GK東口順昭は右膝のけがによる長期離脱から6月に復帰と、攻守の要の不在も大きく響いた。
21年度のチーム人件費は約27億円で7位と、決して少なくない。今夏は日本代表経験のあるFW鈴木武蔵にFW食野亮太郎、鹿島からはMFファンアラーノを獲得するなどてこ入れした。ただ、11月開幕のワールドカップ(W杯)を控える今季は例年の同じ時期より試合消化が早く、和田取締役は「(選手の追加登録が可能な)夏のウインドーの前に、かなりの試合を消費したのがもったいなかった」と悔やむ。
片野坂監督の後任は、6月までJ2長崎で監督を務め、8月9日にガ大阪コーチに就任したばかりの松田浩氏。守備戦術に定評があるが、新体制初戦となった20日の広島戦は今季ワーストの5失点で逆転負けした。「急造のシステムで戦った。機能させるにはディテール(細部の詰め)が必要」と松田監督。期待される守備が整えられなければ、13年以来のJ2陥落の足音が近づいてくる。