【番記者の視点】G大阪、5失点大敗 なぜ“解任ブースト”は不発に終わったのか
◆明治安田生命J1リーグ第25節 広島5―2G大阪(20日、Eスタ)
松田浩新監督は、後半崩れていくチームをずぶぬれになりながら、じっと見つめていた。前半は2―1とリードを奪いながら、後半の4失点で大敗。まるで後半から強まった雨が、G大阪が“解任ブースト”で噴射した炎を鎮火していったように映った。
解任された片野坂前監督の下で戦った14日の清水戦から、先発5人を入れ替え。布陣も3―4―3から、松田監督が得意とする4―4―2に変わった。最も特徴的だったのは、攻守の献身性に課題を抱え、出場機会を失っていたFWレアンドロ・ペレイラが、約3か月ぶりに先発起用されたこと。松田監督は「彼がどういう理由で試合に出ていなかったかはわからないが、1週間ぐらい練習を見て、質の高い選手だと思った」とFWパトリックとのツインタワーで起用した。すると前半2分、狙い通りにパトリックへのロングボールを起点にレアンドロが決め、先制点を奪った。
さらに同点とされた後の前半37分にも、3試合ぶりに先発したMF斉藤がカウンターから勝ち越しゴール。自陣ゴール前での自らのボール奪取から一気に相手ゴール前まで駆け上がり「前日に(宇佐美)貴史くんとかとシュート練習をやった時に、ニアに打てば入るよ、と言われていた。その助言のおかげ」と得点を決めた。ともに出番が減っていたふたりが、特徴を発揮して奪った2得点は、監督交代による効果とも言えた。
しかし後半、広島に主導権に握られる時間が続いた。G大阪もカウンターで応戦したが、3点目は決めきれず。4―4―2でコンパクトな陣形を保とうとするG大阪に対し、広島は左センターバックのDF佐々木がフリーで持ち上がり、効果的なパスを次々と供給。G大阪は前半から苦しんでいた起点を抑えきれないなかで、サイドチェンジも交えながら揺さぶられる展開に。松田監督は守備で疲弊し始めたMF食野、アラーノの両サイドハーフに代え、MF倉田、山本を投入して対応に動いた。しかし途中交代のふたりが試合の流れをつかむよりも早く、精度を高めていった広島の攻撃に“隙間”を突かれ、同点、そして逆転と失点を重ねた。さらに終盤は糸が切れたかのように、守備は崩壊。5失点という屈辱の大敗を喫することになった。
松田監督は「急造のシステム、戦術と言うことはあると思うんですけど、不慣れな部分を機能させるには、ディティール(細部)が大事になる。全体的なボールの寄せ、強度面でこれまでに、あまりチームにないんじゃないかと。そこがもう少し上がってこないと、いい試合になっていかない」と語った。その課題は、片野坂監督時から続いてきた部分だ。
では残り9試合で、サッカーの本質的な部分である強度面を上げることができるのか。個人の身体能力が急に上がることはないが、チームとして強度を上げる方法はあるはずだ。どう守る、という狙いが浸透し、ボールを奪いきるポイントが整理されて、迷いなき一歩が出るようになれば、松田監督が求める強度に到達する可能性はある。ただし、この日の終盤、DF三浦が前線に上がって生まれた混乱状態のように、ピッチ上で意思がそろわないことがあれば、浮上の目は見えてこない。
斉藤は「最後、バラバラになってしまったことが残念。逆転されるまでは、手ごたえも感じながら戦えていた。今はどんな状況になっても、チームのために全員が戦う、という意志をみせる時」と話した。“解任ブースト”が不発に終わり、選手たちは今、残留争いの重圧や焦りに支配されつつある。しかし、まだ巻き返すための試合が残されていることも事実だ。(G大阪担当・金川誉)