J1リーグ「今夏の補強診断」 “残留争い”クラブが積極強化、成果を上げた“夏のチャンピオン”は?
【識者コラム】J1リーグ今夏の各クラブ補強動向を改めてチェック
Jリーグの第2登録期間(ウインドー)が終わった(※リーグ戦の追加登録期限は9月2日、ルヴァンカップは16日まで。フリートランスファー、育成型期限付き移籍、アカデミー所属の選手などに適用)ものの、夏の移籍が結果に大きく反映されているクラブは、まだ少ない。新戦力の合流から間もなく、すぐにフィットするのが難しいという実情があり、ここから残り9、10 試合で評価して行くしかない部分がある。
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それでも明らかな成果を上げているチームがある。清水エスパルスだ。今年6月からチームを指揮するゼ・リカルド監督は、ボールを動かしながら相手ディフェンスを崩すスタイルを得意とする監督だが、清水ではどちらかというと守備の修正に取り組んだのは見て取れた。その一方で攻撃面は怪我から復帰してきたFWチアゴ・サンタナに頼る部分が大きかったことも確かだ。
しかし、そこにセレッソ大阪を退団したMF乾貴士、オーストリアのラピド・ウィーンで3シーズンプレーしたFW北川航也、ブラジルでも実力が知られるMFヤゴ・ピカチュウの3人を補強。乾はセレッソでの前半戦のパフォーマンスは良かったうえに、J2のファジアーノ岡山が練習環境を提供していた影響もあってか、新天地にすんなりフィットした。
北川は古巣クラブへの復帰という点もあるのか、欧州から日本に帰国した選手によくある違和感もあまりなく、スタートからでも途中からピッチに立っても前線で効果的なプレーを見せている。ピカチュウはその名前への話題性が先行していたが、適応の早さは目を見張る。これもゼ・リカルド監督の功績かもしれないが、早い段階で3人を戦力化できたことで、ベンチパワーを含めた攻撃陣の選手層がグッと上がった。
逆に、FW鈴木唯人やMF中山克広が復帰してきた時に、主力候補だけでベンチから溢れてしまわないか心配もあるほど。一時は最下位に転落して後がない状況から、直近3試合で勝ち点7を稼いで12位まで浮上。現場だけでなく強化部も、それだけ必死さを示したという意味で、夏の補強ではチャンピオンと言える。
清水ほどの派手さはないが、同じく残留争いの渦中にあるアビスパ福岡も、夏に補強した選手が着実に戦力化されているという意味では評価できる。アル・シャバブ(サウジアラビア)から復帰したFWジョン・マリはコンディション次第でフィットできるのは想定されたことだが、J2水戸ホーリーホックでブレイクしたMF平塚悠知が“恩師”でもある長谷部茂利監督の率いる福岡に加入して、第25節の鹿島アントラーズ戦(1-2)では獅子奮迅の働きを見せた。試合には敗れたが、長谷部監督が中盤に求める技術とダイナミズムがあり、強いハートも感じさせる。最も懸念された中盤に確かな厚みを加える存在になりそうだ。
長谷川監督の“愛弟子”を獲得した名古屋は、残留争いの危険水域から脱出
夏に加入して、すぐに主力として活躍している選手の代表例が、現在16位で残留争いの渦中にあるヴィッセル神戸のMF飯野七聖(←サガン鳥栖)とサンフレッチェ広島から鳥栖に加入したMF長沼洋一だ。先に飯野が神戸に移籍し、その後釜となり得る戦力を鳥栖が獲得するという流れだが、飯野は攻撃的な右サイドバックとして早くも神戸に欠かせない存在になっている。
神戸は吉田孝行監督になって最初の4試合で3勝1分だったが、E-1選手権の中断明けから成績が下降線を辿り、苦しい状況ある。しかしながら飯野のほかにも、ブラジルのフラメンドから加入したセンターバックのDFマテウス・トゥーレル、韓国の江原FCに在籍していた元日本代表MF小林祐希、大型FWのステファン・ムゴシャがそれぞれ出番を得ており、MF橋本拳人のスペイン2部ウエスカ移籍で懸念された中盤も、出番を失っていたMF扇原貴宏を起用する形でカバーしている。
一方で鳥栖は現在4バックにトライしており、より前目のポジションもこなせる長沼は川井健太監督の愛媛FC時代の教え子というアドバンテージもあり、“穴埋め”以上の効果をもたらしている。また中盤にはJ2で首位の横浜FCからMF手塚康平を補強しており、MF小泉慶とMF福田晃斗の負担が大きかった中盤に厚みをもたらすだけでなく、持ち前の展開力と左足の鋭い縦パスなどで、攻撃にアクセントを加える期待が大きい。
現在10位の名古屋グランパスも長谷川健太監督の“愛弟子”である元日本代表FW永井謙佑をFC東京から補強。前線からのハイプレスと裏抜けで戦術的なキーマンとなり、直近3試合で1勝2分の勝ち点5を稼いで、残留争いの危険水域から脱出した。もちろん残留で満足して良いクラブではないが、福岡から加入のMF重廣卓也が2試合に先発起用されて、3-0と勝利した第25節の浦和レッズ戦で先制ゴール。湘南ベルマーレからMF阿部浩之と交換トレードのような形で加入したMF永木亮太も3試合に途中出場して、渋い働きを見せている。期待の新外国人FWレオナルドが残り試合で結果を残せれば、申し分ない夏の補強ということになる。
ここから活躍が期待されるのは“外国人助っ人”がメインに
この夏に4人の主力候補を補強したガンバ大阪も降格圏からの飛躍が期待されたが、十分に効果を発揮しないうちに片野坂知宏監督が成績不振で解任される事態となった。古巣復帰となったFW食野亮太郎は7月30日の京都サンガF.C.戦でゴールを挙げてチームに勝ち点1をもたらしたが、期待のFW鈴木武蔵がいまだ結果を残せず、左足のパスを武器とするU-21日本代表MF山本理仁は東京ヴェルディから加入前に負った怪我のためシーズン中の復帰が間に合うかどうかというところ。鹿島から加入したMFファン・アラーノは0-2と敗れた第25節の清水戦で、短い時間でも積極的な姿勢を見せたが、松田浩新監督のソリッドな戦術にフィットできるかは未知数だ。
そのほか、15位の湘南は鳥栖から加入のMF中野嘉大がアウトサイド、名古屋から加入のMF阿部が中盤で着実に出番を得ており、その意味では2人とも効果的な補強だったと言える。ただ、湘南の場合は前線の得点力に関して、ここまでのチーム得点王(8ゴール)であり、E-1選手権で3得点した日本代表FW町野修斗に依存している現状もある。1得点のFW瀬川祐輔や2得点のFW大橋祐紀、1得点のFWタリクらは、プレー自体は決して悪くないが、結果という部分でさらなる奮起が不可欠。仮に成績が落ち込めば、FWの補強がなかったことがその理由に挙げられても仕方がない。
ここから活躍が期待される選手としては、鳴り物入りでサンフレッチェ広島への加入が決まったキプロス代表FWピエロス・ソティリウや北海道コンサドーレ札幌に加入のタイ代表MFスパチョークと韓国代表の大型FWキム・ゴンヒ、ポルトガルの名門スポルティングCPからFC東京に加入した長身のブラジル人FWルイス・フェリッピ、戦火にあるウクライナのメタリスト・ハルキウから京都に移籍した快速FWパウリーニョ・ボイアなど“外国人助っ人”がメインになる。
岩政大樹新監督の下でリスタートを切った鹿島アントラーズもベルギーのベールスホットからナイジェリア人FWブレッシング・エレケが加入している。元々、レネ・ヴァイラー前監督の教え子として獲得に至った経緯もあるが、解任後に本人の同意を得て正式加入。岩政監督も終盤戦の戦力になる期待感を語っており、鹿島初のアフリカンがどこまで得点力を発揮できるか注目される。
[著者プロフィール]
河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。