世界一メンバーとなった唯一の男は? 「Jリーガー」としてW杯に出場した外国人選手たち
4年に1度の祭典であるサッカーW杯。日本代表は今年11月開幕のカタールW杯で7大会連続出場となるが、それを上回る“8大会連続”になるのが、日本でプレーしながら母国のユニフォームを着てW杯舞台に立った「外国人Jリーガー」たちである。
日本が“ドーハの悲劇”に泣いて出場を逃した1994年のアメリカW杯で、優勝したブラジル代表のメンバーに名を連ねたのが、DFロナウド(清水、代表での登録名ロナウダン)だ。サンパウロFCの主将としてトヨタカップ連覇に貢献した直後の1994年に清水に加入。強靭な肉体は愛称の“ロボコップ”そのもので、激しいチャージとタックル、そして圧倒的な空中戦の強さでJリーグを席巻した。W杯本大会では残念ながら出番なしに終わったが、世界一チームのメンバーであったことは変わらない。そして現在でも唯一、欧州、南米以外のチームに所属した状態でW杯の優勝トロフィーを掲げた男でもある。
もう一人、現役JリーガーとしてアメリカW杯に出場した選手が、韓国代表のMFノ・ジュンユン(広島)だ。大学卒業後すぐの1993年に広島に入団し、無尽蔵のスタミナと優れたスピードを武器にアタッカーとして活躍。当時は日韓関係が今以上に険悪だった時代で、母国から「裏切り者」と呼ばれ、また、アメリカW杯アジア最終予選で日本に敗れた際に、日本のテレビカメラに向かって「おめでとう。がんばれ」と森保一(現日本代表監督)など友人も多かった日本チームにエールを送ったことでスパイ扱いも受けた。
その批判、苦難を乗り越え、23歳でアメリカW杯に出場。スペイン、ボリビア、ドイツという(今回の日本代表に似た)組分けの中で2試合に先発出場。1分2敗でグループリーグ敗退となったが、Jリーグでの姿と同じく、歯を食いしばりながら懸命にピッチを走り回った。
続く1998年のフランスW杯には、多くの現役Jリーガーが出場した。まず目立ったのは、準優勝のブラジル代表の“心臓”となったドゥンガ(磐田)とセザール・サンパイオ(横浜F)の2人。1995年からJリーグでプレーして4年目だったドゥンガは、当時34歳。主将として自身3度目のW杯に挑み、スター揃いのチームを例の如く怒鳴り散らしながら力強く引っ張った。
そのドゥンガとダブルボランチを組んだ当時30歳のサンパイオも1995年からJリーグで活躍し、迎えたW杯本大会では開幕戦でのオープニングゴールを含む3得点を決める活躍を披露した。最終的にはジダン擁するフランス代表の“斬られ役”になったが、前回王者セレソンの中で2人のJリーガーの働きは欠かせないものだった。
韓国代表の現役Jリーガーも増えた。当時のチームには、DFホン・ミョンボ(平塚)、DFハ・ソッチュ(C大阪)、FWキム・ドフン(神戸)の3人がメンバー入り。「左足の達人」と呼ばれたハ・ソッチュは、初戦のベルギー戦で直接FKからゴールを記録。「爆撃機」の異名を持ったキム・ドフンはグループリーグ2試合に先発出場。当時29歳の「アジア最高のリベロ」ホン・ミョンボは、すでに自身3度目のW杯だった。だが、チームは初戦でメキシコに逆転負けした後、2戦目にオランダに0対5の惨敗を喫し、大会中にチャ・ボングン監督が解任される事態になった。
そして忘れてはならないのが、ユーゴスラビア代表として出場したストイコビッチ(名古屋)だ。1994年夏に来日して日本のファンを虜にした後、33歳で自身2度目のW杯にJリーガーとして出場。内戦に対する制裁措置の解除後初の国際大会で背番号10を背負い、洗練された華麗なテクニックで観衆を魅了。抜群の存在感でパス回しの中心となりながらドイツ戦では自らゴールを奪い、決勝トーナメント1回戦のオランダ戦でもFKから美しい軌道のボールを送り込んで同点弾をアシストした。チームはベスト16で敗れたが、全世界に“ピクシー健在”を見せつけたことは、日本人としても非常に誇らしかった。
その後、2002年の日韓W杯では、韓国代表にMFパク・チソン(京都)、ユ・サンチョル(柏)、ユン・ジョンファン(C大阪)、FWチェ・ヨンス(市原)、ファン・ソンホン(柏)と5人の現役Jリーガーが選出。初戦のポーランド戦は、ファン・ソンホンとユ・サンチョルのゴールで2対0の勝利を収め、パク・チソンは1対0で勝利したポルトガル戦で殊勲のゴール。ベスト4進出を果たしたチームの中で存在感を見せた。また、同大会にはスロベニア代表としてDFミリノビッチ(市原)もメンバー入りし、元G大阪のカーリッチとともにグループリーグ全3試合に出場した。
続く2006年のドイツW杯では、韓国代表としてDFキム・ジンギュ(磐田)、FWチョ・ジェジン(清水)の2人が出場したのみだったが、2010年の南アフリカW杯では、韓国代表にDFイ・ジョンス(鹿島)とMFキム・ボギョン(大分)、オーストラリア代表にDFミリガン(千葉)とFWケネディ(名古屋)、そして44年ぶりの本大会出場となった北朝鮮代表にはFWチョン・テセ(川崎)とMFアン・ヨンハ(大宮)が選出されて現役JリーガーとしてW杯のピッチに立った。
記憶に新しい2014年ブラジルW杯では、韓国代表としてDFキム・チャンス(柏)、ファン・ソクホ(広島)、ハン・グギョン(柏)の3人がメンバー入り。そして前回の2018年ロシアW杯では、韓国代表にGKキム・スンギュ(神戸)、キム・ジンヒョン(C大阪)、DFチョン・スンヒョン(鳥栖)、チャン・ヒョンス(FC東京)、MFチョン・ウヨン(神戸)の5人が選出され、オーストラリア代表にもDFデゲネク(横浜FM)とFWナバウト(浦和)の2人がメンバー入りした。ただ、2006年のドイツ大会以降はアジア以外の国の代表としてW杯に出場した現役Jリーガーはいない。
迎えるカタールW杯では、柏の守護神だったGKキム・スンギュがサウジアラビアの強豪アルシャバブに移籍したことで韓国代表のJリーガーはDFクォン・ギョンウォン(G大阪)のみとなる可能性が大。プレーオフを勝ち上がったオーストラリア代表には、ミッチェル・デューク(岡山)とアダム・タガート(C大阪)の2人のFWが候補に入っているが、今回もアジア以外では出場国の候補者の中にJリーガーの名前はない。日本代表においても「海外組」の増加に伴って「国内組」の数が減少し、今回のカタールW杯では5人前後の予想。故に、カタールW杯に参加するJリーガーの数は、日本が初出場した1998年以降、過去最少となる見込みだ。
果たして、これは是か非か。W杯が開催される度に「日本と世界の距離」が討論されるが、早期の海外移籍と日本経済の停滞の間で、少なくとも「Jリーグ」と「W杯」は隔離されてきているのではないか。これは今後の日本サッカーが改善していくべき課題である。