日本で“古巣復帰”も? 苦しんだ海外組、Jクラブが獲得に動いても面白い選手は誰だ〈dot.〉
欧州各国の2021-22シーズンが幕を閉じた。所属リーグの注目度、クラブの大小はあれども、今季も多くの日本人が「海外組」としてプレーし、存在感を見せた。だが当然、すべての日本人選手が活躍したわけではなく、思うような結果が得られずに苦しんだ者も多い。そして今夏の「Jリーグ復帰」が取り沙汰される選手も出てくる。
すでに退団が決定的となっているのが、鈴木武蔵だ。抜群の身体能力を持ち、並外れた瞬発力と跳躍力が自慢のストライカー。2020年夏にベルギーのベールスホットへ移籍し、1シーズン目はリーグ戦26試合で6得点をマークしたが、2年目の今季は25試合出場で1得点のみ。チームの2部降格による契約解消条項を行使することにより、今夏のフリー移籍が可能となった。本人は欧州でのプレー継続を希望していると伝えられるが、FWの得点力不足、駒不足に悩むJクラブは多く、日本人としては希少なタイプだけに人気は高い。そして、“まだ”28歳ではあるが、ここから欧州トップクラブへと駆け上がるには“すでに”と言える年齢であり、このタイミングでJリーグに復帰して得点の感覚を取り戻すという選択肢は有意義なものになるはずだ。
A代表歴のあるFWとしては、オーストリアのラピード・ウィーン所属の北川航也が大いに苦しんでいる。清水の下部組織育ちで2015年にトップ昇格し、2018年にはリーグ戦13得点の活躍を披露。同年10月にA代表に招集されると、翌2019年1月のアジア杯にも出場した。そして2019年の夏にオーストリアへ渡ったが、左足首靭帯損傷で出鼻を挫かれると、2シーズン目となる今季もポジジョン争いに敗れ、リーグ戦でのスタメン出場は1試合のみで無得点。契約期間は2024年6月までとされるが、クラブ内での立場は非常に厳しい。現在25歳、ストライカーとして優れた才能を持っていることは間違いなく、下位に沈む古巣・清水にとっても必要な人材であるはずだ。
欧州に渡って3シーズンが経過した食野亮太郎も、思うような結果を残せていない。切れ味鋭いドリブルと思い切りの良いシュートが魅力のアタッカーで、G大阪U-23で活躍した後、J1舞台でも物怖じしないプレーを披露し、2019年夏にマンチェスター・シティと契約した。しかし、今季所属したポルトガルのエストリル・プライアでリーグ戦9試合出場1得点に終わるなど、レンタル移籍先での成長曲線は期待値以下だ。来季の去就は未定だが、世界のトップクラスが集まるシティに23歳の日本人の居場所はなく、今後のキャリアを考えるならば国内復帰も悪くない。“メッシーノ”のアグレッシブなプレーは、古巣のG大阪も含めて閉塞感のあるチームの攻撃を活性化できるはずだ。
まだまだ苦しんだ日本人選手はいる。ドイツのウニオン・ベルリンに所属する24歳の遠藤渓太もそのうちの一人。横浜FMユースから2016年にトップ昇格した1年目からリーグ戦23試合に出場し、2018年にはルヴァン杯のニューヒーロー賞を受賞したスピード抜群の左ウイング。2020年夏にレンタル移籍でドイツに渡り、1年目はリーグ戦16試合に出場して1得点の数字を残したが、レンタルから完全移籍に移行した今季は、システムの変更もあって出場4試合で計66分間プレーしたのみ。プロ選手として自分の持ち味を生かせるチームでプレーすべきであり、Jリーグにも彼の突破力を欲しているクラブは多くある。
日本人が多く所属するベルギーのシント=トロイデンの中では、元清水の松原后が苦しんでいる。左サイドからの鋭いクロスを武器に、高卒2年目の2016年から4年間、清水で不動のレギュラーとして活躍を続けた大型サイドバック。しかし、2020年1月にベルギーに渡って以降は1年半でリーグ戦出場8試合のみ。今季は開幕5試合まではスタメン出場も、第7節以降は出番なしに終わった。だが、3バックにも対応可能な左利きの25歳の存在価値は高く、古巣の清水だけでなく複数のJクラブが興味を持っている。
そして忘れてはならないのが、日本代表不動の主将である吉田麻也だ。イタリア・サンプドリアで3年目を過ごした今季は、シーズン前半こそレギュラーとしてプレーしていたが、指揮官交代とともに出場が減り、今年に入ってからはほぼ出番なし。出場時のパフォーマンスに対しての評価も芳しくなく、契約満了によって今季限りでの退団が濃厚とされている。今年11月開幕のW杯を考えると欧州でのプレーがベストだが、8月に34歳となる日本人センターバックに対して魅力的なオファーが届くのかどうか。中東クラブからの関心が伝えられているが、Jリーグ復帰の可能性も大いにあり、守備を立て直したいチームにとっては非常に魅力的かつ効果的な人材だ。
さらに、元日本代表のGK中村航輔も国内復帰を考えていい選手だ。柏の下部組織で育ち、2013年にトップ昇格。2016年に正GKの座を掴み取ると、鋭い反射神経で数多くのシュートをブロック。2016年のリオ五輪に出場した後、2017年にA代表に初招集されると、2018年のW杯ロシア大会のメンバー入りも果たした。だが、その後は怪我による離脱もあって調子を崩し、2021年1月にポルティモネンセに移籍したが、1年半の所属でリーグ戦2試合に出場したのみ。27歳となった今、このままポルトガルの中位クラブの「控えGK」の立場に時間を費やすよりも、再びJクラブの正GKとしてピッチに立つ方が“オススメ”だ。
果たして、この中から今夏にJリーグ復帰を果たす者はいるのか。確実に言えることは、彼らはJリーグの各クラブにとって即戦力となり、下位に低迷するチームの「救世主」、あるいは優勝のための「切り札」になり得るということ。そして、苦しんだ中で溜まったフラストレーションはピッチの上でのみ発散され、海外挑戦の成否と自身の成長は、再びJリーグの舞台で活躍することでも十分に証明できるということだ。
昨夏は酒井宏樹(浦和)、大迫勇也、武藤嘉紀(神戸)、乾貴士(C大阪)、長友佑都(FC東京)、今季開幕前には鈴木優磨(鹿島)、齊藤未月(G大阪)が欧州クラブからJリーグ復帰を果たしたが、今後もその数が増えることで、日本サッカーの“面白味”は増すはずだ。