【番記者の視点】鳥栖にあってG大阪にないもの…現実路線からの脱却を果たせるか
◆明治安田生命J1リーグ第16節 鳥栖2―1G大阪(29日、駅スタ)
今のG大阪に足りないものを、見せつけられたような敗戦だった。1―1の後半41分。MF斉藤が、自陣で鳥栖DFジエゴのプレッシャーを受けて思わずファウルを犯した。このFKから同DF黄に決勝ゴールを許した。斉藤は「あんなファウルをしなければ…」と悔やみ、FK時に自らのゾーンを守り切れなかったMFダワンは頭を抱えた。ただ誰かのせい、と言うよりは、最後までゴールにこだわった意識の差が、決勝点として現れたようにみえた。
25日の広島戦が中止となったG大阪は、前節から中7日。コロナにより離脱していた主力の数人も先発に戻った。一方で鳥栖は前節、3点リードから一時逆転を許し、最後に追いついて4―4で終えた激闘の鹿島戦から中3日。コンディション面ではG大阪が有利では、と見ていたが、試合終盤は疲労しているはずの鳥栖に、鋭さが増したように感じた。最後に隙を見せたのはG大阪で、その隙をついたのは鳥栖だった。
15試合を終え、4勝5分け6敗の13位。相手の特徴を消す戦略で粘り強く勝ち点は拾っているが、今季招へいした片野坂知宏監督に期待していた攻撃的かつ組織的なスタイルが、積み上げられているようには見えない。FW宇佐美やMF倉田、GK東口といった主力の長期離脱をはじめとする怪我人の続出(DF昌子、GK一森もこの日は負傷欠場)もあり、レギュラーが定まらないという問題も大きい。MF小野瀬は「あまり言いたくはないけど、自分たちで主導権を握れないから、弱いチームの戦い方として現実的にやっている部分もあると思う」と悔しそうにつぶやいた。
一方、鳥栖は昨季の主力をごっそりと抜かれた中で、川井新監督の下で魅力的なサッカーを構築し、ここまで8位と健闘している。実績に乏しい若手監督と選手たちで作り上げる攻撃的スタイルは、かつて大分で片野坂監督がやってのけた仕事にも重なる部分がある。川井監督が試合後「僕らはいつも点を取りにいっている」と静かに語った言葉に、指揮官のスタイルが浸透している強みを感じた。
2度のJ1リーグ制覇など、数々のタイトル獲得経験から“西の名門”と呼ばれることもあるG大阪(最近はこのフレーズを使う記者も希少だが…)。ただ片野坂監督にとっては、その看板が足かせになってはいないだろうか。絶対にJ2降格はできない、怪我人も多い…。その中で、現実的に勝ち点を取る方法は。その思考の中で、苦しいシーズンが続いているように映る。
その考えも十分に理解できる。その上で、次節リーグ戦まで約20日あるこの期間は、片野坂監督のカラーを濃くする時間に使えるはずだ。選手たちも、大分時代に指揮官がみせていたようなサッカーへの飢えがあるのでは、と推察する。リーグ再開の相手は、J1首位に躍り出た横浜M(6月18日・パナスタ)。この試合までにどんな時間を過ごすかに、今シーズンの浮沈がかかっている。