Vol.30 ガンバ大阪チアダンスチーム/松倉愛采
サッカーとのめぐり合わせは十人十色。それを体現しているのが、ガンバ大阪のホームゲーム時にパナソニックスタジアム吹田で華麗に舞う松倉愛采氏だ。幼少期からダンスの道を歩んできた彼女がサッカーとの出会いによって、また新たに踊ることの意義を見いだした。チアダンスのすばらしさを全身で伝えながら、理想の将来像へと歩を進めている。
―まず、現在の活動について教えてください。
松倉 現在はガンバ大阪チアダンスチームに所属しています。加入してから、今年で2年目のシーズンになります。
―ガンバ大阪のホームゲームの日は、どのようなスケジュールで動いているのですか?
松倉 キックオフの6時間前に集合して、演出ミーティングに参加させてもらってから当日の練習をして、そのあとピッチでリハーサルを一度やらせてもらいます。それからメイクをして、衣装を着て、試合が始まる前にスタジアム場外の吹田Gステージで踊って。スタジアムのなかでは、今シーズンから試合前のオープニングパフォーマンスに出演し、あとガンバ大阪の選手紹介時と選手入場時にフラッグパフォーマンスもさせて頂いてます。その後、試合中はスタジアム4ゲート下で、サポーターさんのチャントに合わせながら踊っています(笑)。
―忙しいスケジュールですね(笑)。
松倉 はい。試合の日は結構、バタバタと動いています(笑)。
―そもそも、ガンバ大阪チアダンスチームに入ったきっかけはどんなことだったのでしょうか?
松倉 実は私の妹がガンバ大阪チアダンスチームのOGなんですが、彼女が「ガンバ大阪はすごくええで~!」みたいな感じで絶賛していたんです。それで、「私もオーディションを受けてみよう」と思って、そのオーディションを経てチームに加わりました。
―加入前はどのような活動をされていたのですか?
松倉 以前は全国各地のテーマパークでダンサーとして働いていました。ミュージカルやショーなどに出演するような役割です。最近では香川県のテーマパークで働いていたのですが、コロナ禍でお仕事も自粛期間になってしまって、改めて今後について考えていたときに妹妹に相談したら、「自分のために踊るのではなくて、誰かのために踊って応援することもすごく素敵だよ」と言われて、ガンバ大阪チアダンスチームのオーディションを受けることにしました。
―いつ頃からダンスをしていたのですか?
松倉 5歳くらいのときですかね。最初はクラシックバレエを習っていて、中学・高校でバトントワリング部ポンポンチームに所属していました。それから近畿大学の舞台芸術専攻に進み、そこで舞台についていろいろと勉強してきました。
―では、ダンス一筋で歩んできた人生なのですね。
松倉 でも、大学を卒業してからは一度ダンスをやめて、一般企業に就職したんです。ただ、たったの3カ月で辞めてしまいました(笑)。
―3カ月ですか(笑)。そこはどのような企業でしたか?
松倉 やっぱり体を動かすことが好きなので、女性専用のスポーツジムを運営している企業に就職しました。でも、あるとき、お母さんに「あんた、なんかもう暗いわ~」みたいに言われてしまって……(苦笑)。自分としては毎日精いっぱいに働いていたので、あまり自分自身の変化に気づかなかったけれど、お母さんが心配して「自分がもっと好きなことをやってみたら?」と言ってくれたんです。自分でも、やっぱり踊ることが好きなので、そういったテーマパークに転職することにしました。
―そういった経緯があったのですね。今でも踊ることが一番好きですか?
松倉 そうですね、踊ることが大好きです。それに、ガンバ大阪も大好きですよ(笑)。今、私が踊っている理由は、“ガンバ大阪が勝利するために”ということ。やっぱり私も優勝したいです!
―もともとガンバ大阪との接点はあったのでしょうか?
松倉 以前からガンバ大阪が好きでしたが、そこまで熱心だったわけではありません。むしろ、チアダンスチームに入ってからよりいっそう好きになりました。
―他にもガンバ大阪チアダンスチームに入ってから心境の変化はありましたか?
松倉 以前は、踊る事が好き!人の笑顔が大好き!自分が楽しいという気持ちが大きかったんです。でも、ガンバ大阪チアダンスチームには、自分たちのパフォーマンスがガンバ大阪の力になるように、という目的があります。また、これまではずっと個人プレーみたいなところもありましたが、今ではチアダンスチームのメンバーはもちろん、ガンバ大阪のサポーターの人とのつながりも増えていって、“ガンバ大阪ファミリー”としての一体感を感じています。日々のトレーニングのときも、「ガンバの勝利の後押しになるようなパフォーマンスをするために、今この筋トレをやってんねやー!」って気合いが入ったりしますから(笑)。なんか、これまでとは違ったエネルギーが湧いてくるし、すごくやりがいがあります。
―現在の活動にとても満足されているのですね。
松倉 そうです。また、パナソニックスタジアム吹田は4万人もの観客が入るような、すごく大きなスタジアムです。そんな場所で踊れる機会なんて他にはないでしょうし、スタジアムのピッチという選手が試合をする神聖な場所で、選手と同じ目線で観客席を見られることは、ガンバ大阪チアダンスチームの魅力でもあります(笑)。
―他にもチアダンスをやっていての醍醐味はありますか?
松倉 ガンバクラップのときは最高です! スタジアム全体が一体化する瞬間でもあるので、それを共有できるガンバ大阪チアダンスチームは、本当に素敵なチームだと感じます。ガンバクラップのときには、その前のチャントが終わったらみんなでスタンバイする場所まで移動するんですけれど、みんなもスキップしたり、飛び跳ねたり、「いやっほーい!!」みたいな感じで興奮しながら移動しています(笑)。
―楽しそうですね! 満員のスタジアムの雰囲気も経験されましたか?
松倉 それが、私がガンバ大阪チアダンスチームに加わってからは、コロナ禍の影響もあってまだ満員の試合はないんです。やっぱりスタジアムに空席がないくらいにサポーターでいっぱいになってほしいし、今は声を出して応援することもできないので、サポーターが声を出して応援しているスタジアムの雰囲気もすごく味わってみたいです。今シーズンもホームゲームは盛り上がっているので、もっとたくさんの人にスタジアムに来てもらえたらうれしいです!
―そんなガンバ大阪チアダンスチームでの活動において、大切にしていることはありますか?
松倉 自分たちでどんどん自発的にアイデアを出して、いろいろな企画を作っていくことをメンバー同士でのテーマとして取り組んでいます。
―例えば、どんな企画を?
松倉 例えば、過去の作品をメドレー形式にしてオープニングで踊る企画を考え、実際に5月から披露させて頂いています。ガンバ大阪は昨年、クラブ創設30周年を迎えていて、チアダンスチームも18年目ということで長い歴史があるので、今年はこれまでのOGの人たちが披露してきたダンスを見せられないかなって。サポーターの人たちにもそのような私たちのパフォーマンスを見てもらい、「これはタイトルを獲った年のダンスだ」「このときは、この選手が点を決めたよね」「この年はシーズン後半戦での巻き返しがすごかった」などと、いろいろな思い出とともに楽しんでもらえたらいいなと思っています。これまでの歴史があってこそ今があるとも思っているので、そのような思いも表現できるようにメンバー同士で「ああだ、こうだ」と言いながら企画を考えました(笑)。
―ガンバ大阪チアダンスチームにも18年もの歴史があるのですね。
松倉 はい(笑)。なので、OGの方々がお子さんを連れて試合を応援しに来たりもしています。それもつながりですよね。
―一方で、チアダンスで大変なことはありますか?
松倉 屋外で踊っているので、天候によって気温などが変わるのが大変です(苦笑)。特に雨の日は気温も低かったりするし、逆に日差しの強い日は目を開けることが難しいなかで、頑張って目を開けていたりもします。
―季節ごとに衣装は違っているのでしょうか?
松倉 いえ、ロングパンツバージョンなど、いくつかパターンはあるのですが、特に冬用の衣装、夏用の衣装などという違いはありません。ただ、自分たちで「この衣装でいこう」と決めることはできるので、その日の気温などに合わせて衣装を選んだりしています。
―他にも、チアダンスチームならではの苦労はありますか?
松倉 苦労というほどのことではありませんが、体形の維持には気を使っています。体のラインが見える衣装をまとうので、毎月のように体形測定もしています。
―体形測定とは?
松倉 身長に合った適正体重、体脂肪、BMI、内臓脂肪などを体重計で測定しています。それらの数値をすべて表に出していて、もしも数値が増えていたら「要注意!」みたいな声をメンバー同士でかけ合っています(笑)。
―多くの人に見られる仕事ならではのことですね。
松倉 そうですね。あと、シーズンが始まる前にはメイク講習もあります。どのようなメイクをするのか、メンバー全員に向けた講習の場となっていて、私たちもメイクの仕方を共有しています。
―試合日以外の活動内容についても教えてください。
松倉 週に2日くらい、試合でのパフォーマンスに向けてみんなで練習しています。他のメンバーでは学生やOLの人も多いので、平日は夜の8時から10時くらいまで、日曜日は朝から夕方までスタジアムで活動しています。
―松倉さんも平日は何か仕事をされているのですか?
松倉 今は幼稚園にダンスを教えにいったり、小学生にチアダンスを教えにいったり、子どもたちに踊ることを教える仕事もしています。あと、ガンバ大阪チアキッズダンススクールの講師を務めていて、そこでは高校生も見ています。
―自身が踊るだけでなく、ダンスを教える仕事も魅力的ですか?
松倉 はい、子どもが大好きなので(笑)。子どもの成長ってすごく顕著ですよね。ダンスの技術もそうですが、例えばすごく内向的だった子が「ありがとう」「ごめんね」の言葉を言えるようになったり、みんなの輪のなかに入っていって、人前で踊れるようになったりすることを目の当たりにすると、すごくうれしくなります。それに、子どもと話しているとめちゃくちゃおもしろいんですよ(笑)。「そういうふうな考え方をするんや~」「なるほどな~、オモロイなあ~」みたいな感じで、私自身もいろいろな発見がありますから。
―どのようなことを意識しながら子どもたちにダンスを教えているのですか?
松倉 私の幼少期に、そのときの先生から言ってもらったことや、そのときに経験したことを今度は自分が子どもたちに伝えていけたらいいなと思ってやっています。やっぱり、今の自分があるのも、そのときの指導があってのことなので。
―幼少期に得たもので、特にどのようなことが今につながっていると感じますか?
松倉 そうですね、一番は“どんなときでも笑顔でいれば道は開ける”ということですかね。それはバレエを習っていたときも、部活動に励んでいたときも常に考えていることでした。だって、何をするにしても、やっぱり大変なことはあって、それを乗り越えていかなければいけないじゃないですか。それは例えばガンバ大阪の試合でも、相手チームにゴールを決められたら結構落ち込むけれど、そういうときこそ笑顔になって前向きに「次、次」って考えることが大事だと思っています。どんなときでもスマイルを見せてポジティブになれば、物事は結構プラスの方向に動いていったりもしますので。そういった自分の姿勢が周りに伝播していくように、私はどんなときも笑顔を忘れないことを意識しています。
―ポジティブですね(笑)。
松倉 はい(笑)。私の名前も「なるさ」っていうように、「何事もなんとかなるさ~」って、いつも周りに言っています(笑)。「大丈夫、大丈夫。なんとかなるから、笑っていこう!」って!
―そういったマインドは大切ですね。
松倉 そうですね。今後、もっともっとガンバ大阪のホームタウンの子どもたちと接する機会ができたらいいなあって、すごく思っています。そういう機会をガンバ大阪チアダンスチームの活動を通して作っていけたらいいし、それが将来のチアダンスメンバーを輩出するきっかけにもなったらすばらしいです。
―チアダンス自体も習い事として広まっていけばいいですね。
松倉 はい。私たちとしても、結婚して子どもができてからでも講師としてチアダンスの現場に戻ってこられる環境を、ガンバ大阪チアキッズダンススクールのほうで目指しています。どのスポーツ選手とも同様に、私たちも人生において現役で踊っていられる期間には限りがあります。だから、女性が人生のすべてのサイクルにおいて活躍できる社会を、ガンバ大阪チアダンスチームを中心に作っていきたい。現在はそのための活動もしています。
―壮大な目標ですね。
松倉 そうですね(笑)。ガンバ大阪チアダンスチームとして自主性を大切にしているので、ホームタウンの女性たちに対しても、外見も内面にも美しさを持った強い女性、自立した女性のロールモデルになりたいと考えています。私たちの活動を通して女性の活躍できる場がもっと増えていけばいいです。それとともに、私たちの活動がきっかけとなって、もっと多くの女性や子どもたちがガンバ大阪のサポーターとなり、スタジアムに来てくれたらすばらしいです!
―試合日にチアダンスを披露するだけでなく、活動の幅がとても広いですね。
松倉 あと、ガンバ大阪チアダンスチームで子ども向けのワークショップも計画しています。昨年も何回か実施したことで、スタジアムで一緒にチアダンスを踊ったりするものです。今年はスタジアムに来てもらうだけでなく、私たちがホームタウンの小学校や中学校、幼稚園に行かせていただいて、そこでワークショップを行えたらいいなとも考えています。ガンバ大阪チアダンスチームのインスタやTwitterでイベントなどの情報を発信しているので、ぜひ多くの方々にチェックしてもらえたらうれしいです!(笑)
<プロフィール>
松倉愛采(まつくら・なるさ)
1993年大阪府出身。幼少期にクラシックバレエを習ったことをきっかけにダンスの道へ。中学・高校時代にはバトントワリング部ポンポンチームに所属。大学時代は近畿大学で舞台芸術について学んだ。社会人になってからは全国各地のテーマパークでミュージカルやショーのダンサーとしても活躍。その後、オーディションを経て2021年にガンバ大阪チアダンスチームに加わり、ガンバ大阪のホームゲーム時にパナソニックスタジアム吹田でチアダンスを披露している。その傍ら、ガンバ大阪チアキッズダンススクールの講師を務めるなど、子どもたちへのダンス指導も行う。