家長昭博、宇佐美貴史の系譜に連なる中村仁郎。“令和の天才”の真髄が見えたワンプレー【G大阪】
相手の逆を突き、狭いスペースに侵入していく
ガンバ大阪でユースの監督や育成部長などを歴任した上野山信行氏の話をふと思い出した。G大阪アカデミーの礎を築き、家長昭博や宇佐美貴史を輩出した育成のエキスパートに、「天才は少年時代に何が違いましたか?」と問うと、「目線とともにファーストタッチがゴールに向いている」「得点までの一連のプレーがスムーズ」というふたつのポイントを挙げてくれた。
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取材は練習メニューの考え方についても話題が広がった。
「例えば、ボールを回すためには幅と深さを取る必要がありますよね。これは当たり前の原理原則です。そこで3対1や4対2などのポゼッション練習をよく目にしますが、なぜ正方形のグリッドが主流なんでしょうか? 僕は、例えば三角形でもいいと思っています。三角形の頂点は狭いので、そこに追い込まれ、切り抜けようとする選手は浮き球を使ったり、股抜きをしたり工夫を凝らす。アイデアは難しい状況を打開しようとした時に生まれるんです。そういう心をくすぐる練習のほうが選手も楽しいでしょう」
そして上野山氏が期待の若手として声を弾ませて語っていたのが、ジュニアユースからG大阪で育ち、今季にトップチームへ昇格した中村仁郎である。
「僕がJリーグへの出向からガンバに復帰した2014年、初めて中学1年生の彼を見た時に『なんなんだこの子は!』と衝撃を受けましたね。ゴールへの意識があり、キックフェイントが上手いレフティで、とにかく遊び心がある。背が低くて華奢だけど、トリッキーで面白い選手」
1-0で勝利した柏戦での中村は、相手に警戒されていたので、そもそもボールに触れる回数が少なく、決して良いパフォーマンスではなかった。ただ、苦しい展開でのプレーにこそ選手としての本質が出る。家長、宇佐美の系譜に連なる“令和の天才”の真髄が見えたワンプレーがあった。
中村は33分、ペナルティエリア手前右側でセカンドボールを拾うと、またぎフェイントを入れつつ相手を引き付ける。ふたり目のDFにも囲まれたが、鋭い切り返しから敵2枚の間をくぐり抜けようとした。
結局は3人目のDFにカットされたが、空いている外側のスペースに逃げずにゴール方向へ向かい、相手の逆を突き、狭いスペースに侵入していく様は、上野山氏が話していたようなプレーだった。
「次はどんなプレーをするんだろう」と思わせてくれる
中村はまだ18歳と若く、ミスもあるとはいえ、11節の札幌戦では右サイドで囲んできた相手DFふたりをマルセイユルーレットでかわした。超絶技巧で観衆を魅了した成功例があるから、上手くいかない時があっても、「次はどんなプレーをするんだろう」と思わせてくれる。
柏戦で3試合連続スタメンを飾った中村を見れば見るたび「また見たい」と、気づけばとりこになってきた。ラーメン好き界隈では「ラーメン二郎」の熱狂的ファンを「ジロリアン」と呼ぶが、心酔している点では似た感覚で、もはや筆者はサッカー版の“ジロリアン”みたいなものである。中村仁郎のプレーに惚れ惚れするサッカー好きは、今後の活躍次第でもっと増えていくのではないだろうか。