ガンバ大阪で「カタノサッカー」は浸透しているのか。ピッチに立つ選手たちの本音
どれほど”カタノサッカー”は浸透しているのか――。
それは今季のガンバ大阪を見るうえで、どうしても気になるテーマだろう。
【画像】元日本代表レジェンドが選出。日本人ドリブラー「ベスト10」
一昨季の2位から一転、昨季は13位まで転落したG大阪。今季は「強いガンバをとり戻す」を合言葉にチームの強化が進められているが、その舵取りを任されたのが、新たに就任した片野坂知宏監督である。
昨季まで6シーズンにわたって大分トリニータを率いた片野坂監督は、就任当初J3に落ちていたチームを3シーズンでJ1まで引き上げ、昇格1年目の2019年には9位に躍進。GKからパスをつなぎ、ボールを保持し続けることで主体的にゲームを進めるスタイルは”カタノサッカー”と称され、注目を集めた。
昨季J1では18位に終わり、大分でのラストシーズンはJ2降格という悔しい結果となったが、シーズンごとに戦術をマイナーチェンジさせ、潤沢とは言えない戦力で質の高いサッカーを披露し続けた手腕は、非常に高い評価を受けていた。
それだけに、今季から片野坂監督がG大阪を率いると聞き、こんな想像(あるいは、期待)をした人は多かったに違いない。
G大阪でも、大分と同様のスタイルが確立されていくのだろう、と。
しかしながら、今季ここまでの印象で言えば、まだ就任1年目、それもシーズン序盤だから、という理由はあるにしても、G大阪のサッカーに(あくまでも大分時代から想像する)片野坂色は強く表れてはいない。2勝2敗4分けの勝ち点10で11位という成績も、ネガティブな印象を強調してしまうのかもしれない。
直近のJ1第8節清水エスパルス戦(1-1)でも、G大阪は相手のプレッシングに苦しみ、思うように攻撃を組み立てることができなかった。片野坂監督が語る。
「清水の守備に対して、(パスをつなげる)立ち位置をとらせて、狙いを持ってやろうとしたが、清水のスライド、プレッシャーがよくて、なかなか前進できなかった」
実際、G大阪の決定機の多くは、最前線のFWパトリックにロングボールを送り、ヘディングで競り勝ったボールをFW山見大登やMF石毛秀樹が拾うことで作り出していた。低い位置からパスをつないでプレスをはがし、相手ゴール前まで迫るというシーンを、ほとんど見ることはできなかった。
試合終了間際に生まれた劇的な同点ゴールにしても、FWレアンドロ・ペレイラを試合終盤に投入し、パトリックと合わせて前線のターゲットを2枚に増やした結果、パワープレーが功を奏したものだ。
片野坂監督も「最終的に、ああいう形の攻撃をせざるを得なくなった」という表現で振り返っているのだから、決して理想とする試合展開ではなかったのだろう。
とはいえ、パスをつなげないからパトリック頼みになっていると見るか、低い位置からの組み立てとロングボールとを状況によって使い分けていると見るかによって、G大阪の印象はまったく違ったものに変わってくる。
片野坂監督の言葉を借りれば、前線の個人能力を生かした攻撃も「我々の強みや、武器のひとつ」である。「選手の強さを状況によって使い分けながら、やるべきことをはっきりさせるなかで(攻撃の構築に)トライしていきたい」とは、指揮官の弁だ。
ピッチに立つ選手の言葉からも、試行錯誤の様子こそうかがえるものの、必ずしもそこにネガティブな響きは感じられない。
「特に前半は、パト(パトリック)がヘディングに勝ってセカンドボールを拾って、そこからの攻撃が多かったが、全部がパト一辺倒になってもダメだし、じゃあ、相手に(プレスに)こられているのに、全部が全部つなぐのがいいのかっていうのもあるし……」
そう語るのは、DF昌子源だ。
自陣の低い位置からでもパスをつなごうとすれば、当然、相応のリスクがともなう。「テレビで見ていたら、(相手選手と自分との距離が)まだこんな遠かったんや、って思うけど、(実際にピッチに立って)目の前にあのスピードでこられると、やっぱりプレッシャーを感じる。今シーズンのはじめのほうは、(ビルドアップに)トライして、トライして、ゴール前でミスして(ゴールを)入れられて、というのが多かった」と、昌子は振り返る。
だが、試合を重ねるなかで、「そういうのは減ってきた」と昌子。前線のパトリックめがけてロングボールを入れるにしても、「端からパトに、ってなると難しいけど、GKから(センターバックの)僕や(DF三浦)弦太に1個、2個(パスを)つないでパトに、ってなれば、相手が前からくる分、パトへの圧も弱くなって、スペースが空いて、パトが(ヘディングで)勝てば、山見や石毛がフリーになれる」。
清水戦でビルドアップがうまくいかなかったのは事実だとしても、無闇にロングボールで逃げるだけなら、これほどのチャンスは生まれかったに違いない。そんな手応えを口にしつつ、昌子が続ける。
「それでもまだ、どんどんトライして、(相手のプレスを)はがしていくのが大事になってくる。(センターバックの)僕のところからでも、状況によって、しっかり(ボールを)持って上がるとか、あえて行かず、早めにサイドを使うとか、そういう使い分けにもトライしていきたい」
今季新加入のボランチ、MF齊藤未月もまた、少しずつ手応えを感じ始めているひとりだ。
「(2ボランチを組む)ダワンが入って、いい選手がうしろ(DFライン)にもいて、もっと地上戦でチャンスを作っていこうというなかで、ビルドアップの部分でも、僕がピッチに入ってからの最初2、3試合よりは、今はいい融合ができてきている。パトっていう武器があるなかで、しっかり下で(ボールを)動かして、2列目の選手にフリーでボールをつけてあげる、みたいなシーンが増えていかないといけないのかなと思う」
清水戦にしても、ショートパスがリズムよくつながる場面がなかったわけではないが、そこから相手を脅かす状況にまでは、なかなか進展しなかった。
齊藤は「今日(清水戦)に関しては、相手のDFラインと中盤の間にいいボールが入る回数は多かったとは思うが、その後でミスが多いからカウンターを食らってしまう」と課題を指摘し、こう語る。
「短いパスをつないだあとにサイドに展開して、サイドの選手とかがフリーになることで、相手がもう一回ズレないといけなくなって、それを繰り返すと相手も疲れてくる。いい時間帯はそういうのができていると思うけど、体がキツい時間帯になった時に、もう一個動いてボールを受けてあげるというシーンを全員が共有できていないと、サイドにも展開できないし、ミスも出てしまう。キツくても、頭を動かしてやれるシーンが増えていかないとダメだと思う」
のうえで齊藤は、自らにもテーマを課す。
「カタさん(片野坂監督)は、最終的にピッチのなかで判断するのは選手だということをわかってくれたうえで、攻撃の時はどうするか、守備の時はどうするか。常にやり方をたくさん提示してくれている。その(判断を任された)なかで、チャンスを作るとか、相手のプレスを回避するっていうのは、ボランチをやっている僕としては、ひとつのテーマかなと思っている」
昨季まで片野坂監督が率いた大分のサッカーをイメージして見てしまうと、今のG大阪はパトリックという強力な個が目立つ分、ボールを握るという点では物足りなく映ってしまう。
しかし、プレーする選手が変われば、サッカーが変わるのは当然のこと。下手な先入観は、むしろ誤った評価を下すことにもなりかねない。
大雑把に攻撃手段を「つなぐ」と「蹴る」とに大別するならば、前者の比重をもっと大きくしたいというのが、指揮官の本音ではあるのだろうが、(少なくとも現時点では)そればかりにこだわっているわけでもないというのも、実際のところかもしれない。
昌子が語る。
「相手が(プレスを)ハメにきて、それでミスして(ゴールを)入れられました、ではいけないが、じゃあ、もう全部蹴りましょう、でも意味がない。リスクはあるけど、勇気を持ってつなぐ。それで相手がきていると思ったら、(相手の守備を)裏返す時、サイドチェンジする時があっていい。何が何でもパスをつなげばオッケーかって言ったら違うし、相手を見ながら、自分たちも見ながら、状況に応じてやっていければいい。
ただ、監督も言うように(つなぐことの)トライは続けないといけない。これから先、いろんなことがあるなかでも、トライすることは絶対にやめてはいけないと思う」
G大阪の変革は道なかば。ひと味違った”カタノサッカー”を浸透させながら、着実に前進しているのではないだろうか。