磐田に課せられた「定着と復興」のテーマ 目先の安定+求められる長期的観点の“刺激策”
【識者コラム】開幕4試合を1勝2分1敗と上々のスタートに潜む磐田の“課題”
ジュビロ磐田が3年ぶりにJ1で戦っている。第2節では清水エスパルスとの静岡ダービーを1-2で落としたが、翌週は同じく昇格組の京都に4-1と快勝し、ここまで4試合を終えて1勝2分1敗と互角の成績は上々と見ることもできる。
【動画】「シンプルだが唯一無二」「相変わらずお優しい」 鋭い縦パス、柔らかい正確無比なクロス…京都戦で見せた磐田MF遠藤保仁の“熟練のプレー”
第4節のG大阪戦はJ1レベルで戦い抜けるかどうかの試金石とも言えたが、前半15分にMF遠藤保仁の縦パスを起点に崩して先制すると、G大阪の猛攻に耐えて1-1の引き分けに持ち込んだ。
序盤は落ち着いてボールを支配しリズムを作った。だが、それはG大阪の「立ち上がりの強度がまったく足りていなかった」(倉田秋)ことも影響した。実際に遠藤の縦パスを受けた右ウイングバックのMF鈴木雄斗がFW杉本健勇とのワンツーから中央へパスを出した時、相手のディフェンダーはズルズルと後退してしまい、MF大森晃太郎は「プレッシャーが来なかったので」余裕を持って流し込むことができた。
だが、失点したG大阪が、その後は積極的な守備を仕掛けるようになり、流れは変わった。5-4で並ぶ磐田のブロックは後退し、1トップの杉本は孤立して反撃の機会を見出せない時間が長引く。互いに3-4-2-1でスタートしたミラーゲームは、追いかけるG大阪が4-4-2に変えて攻勢を強めて終了2分前に追いつくのだが、どちらも反省の多い試合となった。
昇格して来た磐田は、知名度の高い選手が多い。この日のスタメン平均は30.5歳で、遠藤の645試合を筆頭にJ1で3ケタの出場数を誇る選手が過半数を占める。その分、確かに経験に裏づけされた熟達したプレーが見られるのも確かだ。遠藤がG大阪時代にチームメイトだった倉田も、元同僚の先輩を「やっぱり上手いし、嫌らしい独特の間合いがあって飛び込めない」と評していた。京都戦ではロンドン五輪で活躍したFW大津祐樹が目の覚めるようなゴールを決めたし、この日の大森の冷静なフィニッシュも卓越していた。
しかし、一方でG大阪に主導権を握られ始めると、少しずつ運動量や強度の差が見えるようになった。G大阪が55%のポゼッションを記録しているので、守備に回り走らされて疲労が蓄積したことも否めないが、総走行距離では4㎞以上の差をつけられた。
高齢化や外国籍選手の迫力不足も不安要素
J2に落ちた磐田は、経験値の高い選手たちの補強で活路を見出そうとした。それが功を奏して昇格を果たした側面もあるだろう。だが、暑さとの闘いも増えて来るJリーグで、さらに上位チームとの対戦が控えていることを踏まえると、ベンチも含めて25歳未満の選手が森岡陸1人だけという戦力では苦しい。また、チーム最大の得点源だったFWルキアンが去ったのに、今年はまだ外国籍選手が1度もスタメンでプレーできていないのも不安要素だ。
本来なら伸びしろを持って昇格するのが理想だが、反面、カテゴリーの当落線上にあるようなクラブは、どうしても働き盛りの選手を確保し難くなっている。J1連覇の川崎からも次々に海外へ流れていくほどだから、若い有望株はどうしても上位のクラブへ偏りがちだ。それだけに指揮官には、ある程度リスクを冒してでも若い層を戦力に加えていく覚悟とビジョンが要る。
伊藤彰監督は、後半防戦に回った要因について「相手の前からのプレッシャーに対して、サイドで奪った時にもう少し展開したかったのだが、連続して奪い返されてしまった」と話した。やはり90分間を通した集中力や強度や質の持続は、今後も重要なテーマになってくるはずだ。
磐田には、かつてJリーグを圧倒的に魅力的なサッカーで牽引した歴史がある。もし今年残留を果たしたとしても、その先には定着と復興というテーマがある。それにはおそらく目先の安定だけではなく、並行してもう少し長期的な観点に即した刺激策が要る。
[著者プロフィール]
加部 究(かべ・きわむ)/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。