なぜ浦和レッズは開幕ダッシュに失敗したのか…槙野ら主力放出の世代交代プランの誤算
明治安田生命J1リーグ第2節が26日に行われ、ホームの埼玉スタジアムにガンバ大阪を迎えた浦和レッズは、後半38分に喫した失点を挽回できずに0-1で敗戦。昇格組の京都サンガF.C.に苦杯をなめた19日の開幕戦に続いて2敗目を喫した。
前半から圧倒的に試合を支配し、数多くのチャンスを作った浦和だったがゴールを奪えず、逆に後半36分にはMF岩尾憲(33)が2度目の警告を受けて退場。数的不利になった直後に、投入されたばかりのMF福田湧矢(22)に決勝点を決められた。
2006シーズンを最後に遠ざかっているリーグ戦優勝へ向けて、3ヵ年計画のラストイヤーを迎えた浦和だったが、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)との関係で前倒し開催された、23日のヴィッセル神戸との第9節も退場者を出した末に2-2でドロー。開幕3戦を終えて未勝利が続き、順位も暫定16位にあえいでいる。
ガンバ指揮官は「試合内容から言えば浦和」
ゴールが遠い。それ以上に勝利が遠い。16シーズンぶりのリーグ優勝を目標に定め、開幕を迎えた浦和が3試合を終えて未勝利と、まさかの泥沼にはまり込んだ。
試合後のオンライン会見で両チームの指揮官が残した言葉が、前半から試合を優位に進めた浦和が一瞬の隙を突かれて喫した黒星を象徴していた。
昨シーズンまで大分トリニータを率いていたガンバの片野坂知宏新監督(50)は、公式戦3試合目で手にした待望の初白星に安堵の思いを隠せなかった。 「内容から言えば浦和さんの試合だったと思います。確かに勝利を収めましたけど、浦和さんの攻撃力と素晴らしいサッカーを上回れなかった。早い時間帯に失点していたら、勝つのは難しかった、という反省も兼ねて終わった瞬間は安堵していました」
天皇杯優勝で昨シーズンを締めくくり、今シーズンの初陣となった川崎フロンターレとのFUJIFILM SUPER CUPでも快勝。自信を持って挑んだシーズンでいきなりつまずいても、浦和を率いて2年目のリカルド・ロドリゲス監督(47)は胸を張った。
「リードして前半を折り返すのも十分に可能だった。結果は私たちの試合内容にふさわしくないが、こういったことが起こるのもまたサッカーだと思っている」
両指揮官の言葉通りに、浦和は前半から攻守両面で違いを見せ続けた。 まずは開始9分。左サイドを抜け出したFW江坂任(29)が送ったグラウンダーのクロスをトップ下の小泉佳穂(25)がスルー。相手のタイミングを狂わせた直後にMF松崎快(24)が放った強烈な一撃は、ガンバのGK石川慧(29)にセーブされ、真っ先にこぼれ球に反応した小泉のシュートも左サイドネットのわずか外側をかすめた。
同34分にはセカンドボールを拾ったMF関根貴大(26)が、ドリブル突破からミドルシュートを放つも石川が阻止。後半20分にはDF馬渡和彰(30)がゴール右上を狙って鋭い直接フリーキックを放つも、またもや石川のファインセーブに阻まれた。
試合の流れが大きく変わったのは後半36分だった。
ハーフウェイラインから前へ抜け出そうとしたMF石毛秀樹(27)を、岩尾が後方からのスライディングタックルで倒してしまう。ラフプレーで前半30分に続くイエローカードが提示され、23日の神戸戦に続いて退場者を出してしまった。
選手交代を機に劣勢を盛り返し始めていたガンバが、数的優位に立った2分後に鮮やかなパスワークを見せる。4本のパスをテンポよくつないで右サイドを攻略し、すかさず中央へ展開。MF山本悠樹(24)がゴール正面のFW山見大登(22)へ横パスを送った。
しかし、山見がまさかのトラップミス。後方にいた福田の目の前にボールがこぼれた後の展開を見れば、勝利の女神がどちらに微笑んだかがわかる。福田が苦笑する。
「(シュートを)打ったら入った、という感じです」
迷わずに振り抜かれた右足から放たれた一撃は、ブロックしようととっさに繰り出したDF岩波拓也(27)の右足にわずかにヒット。コースを右端から真ん中へと変えて、浦和の守護神・西川周作(35)の逆を突く形で無情にもゴールネットを揺らした。
「シュートを打つ選手に対する寄せがひとつ遅れた分だけ、ちょっとイレギュラーに当たって入ってしまった。あの場面で自分に何ができたかをしっかりと分析して、これもひとつのいい経験と思いながら次の試合への準備をしていきたい」
ガンバ戦でJ1通算出場試合数を「525」に伸ばし、歴代6位の小笠原満男(鹿島アントラーズ)と並んだ浦和のキャプテンは努めて前を向いた。ポジティブな思考回路は「長いシーズンを考えると、こういう試合が必ずあるのは想定内だった」と振り返り、その上で流れを手放した岩尾の退場ではなく、その後の味方選手たちへこう言及した。
「退場者が出てしまったことは、ベストを尽くした結果だと思っている。その後の“間”というところで、プレーを続ける選手たちがもっと声を出して集中力を高める、といった部分はこれからの糧になるんじゃないかと思います」
神戸戦に続いて退場者を出し、数的不利を余儀なくされた直後に陥った一瞬のエアポケットを西川は悔やんだ。しかし、選手たちの意識だけでは対処できないこともある。
今シーズンの浦和は、フォワード登録選手が2人だけという陣容で開幕を迎えた。しかし、途中加入した昨シーズンに9ゴールをあげた、デンマーク出身のキャスパー・ユンカー(27)は、コンディション不良でベンチ入りすら果たせていない。
もう一人は高卒ルーキーの木原励(18、京都橘卒)だけという状況で、川崎戦からミッドフィールダー登録の明本考浩(24)が起用され、神戸戦で退場となった明本が出場停止のガンバ戦では江坂が最前線を担った。しかし、ストライカータイプの選手ではない。
このオフには興梠慎三(35)が北海道コンサドーレ札幌へ、杉本健勇(29)が昇格組のジュビロ磐田へそれぞれ期限付き移籍。チーム始動時からフォワード陣の層の薄さが指摘されたなかで、フロントが獲得を示唆していた新戦力はまだ実現に至っていない。
さらにガンバ戦では、日本代表にも名を連ねる右サイドバックの酒井宏樹(31)が欠場。代役に指名され、リーグ戦初出場を先発で果たした大卒ルーキーの宮本優太(22、流通経済大卒)は、試合後のオンライン取材で反省の弁を残している。
「例えば(酒井)宏樹さんだったら、一人で打開できる場面も多かったと思います。右サイドからは打開できなかったし、左サイド頼みになってしまいました」
リーグ戦優勝を目標に掲げる3ヵ年計画のラストイヤーを前にして、チームを支える顔ぶれは大きく変わった。精神的支柱でもあった阿部勇樹さん(40)が引退し、10年間在籍したDF槙野智章(34)と12年在籍のDF宇賀神友弥(33)も契約満了に伴い退団。前者は神戸へ、後者はJ3のFC岐阜へそれぞれ新天地を求めた。
神戸戦では槙野に“恩返し”となる同点ゴールを決められて土壇場で勝利を逃し、この日は興梠が新天地・札幌で移籍後初ゴールを決めて、歴代3位に名を連ねるJ1通算ゴール数を「159」に伸ばした。世代交代を加速させるための放出だったが、チームから安定感が失われている点で、現時点では逆効果が出ていると言わざるをえない。
開幕を前にしてチーム内がコロナ禍に見舞われ、スウェーデン代表歴を持つMFダヴィド・モーベルグ(27)も、外国人の新規入国が停止されている状況下で合流時期すら未定となっている。ガンバ戦の後半終了間際にはPKを獲得しながら、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入した結果、直接フリーキックに変更された。 流れが悪い上にベストメンバーがそろわず、フル稼働している江坂や関根らには疲労も目立つ。いま現在を「困難」と位置づけながら、ロドリゲス監督は解決策をこう語った。
「違ったポジションでも懸命にプレーしてくれる選手たちには感謝している。早く全員がそろって、しっかりとプレーできるようになる状況を願っている」
しかし、時間は待ってくれない。3月2日には川崎のホーム、等々力陸上競技場に乗り込む次節が待つ。ACLとの関係で4月下旬の第10節が大幅に前倒しされ、中3日で臨む王者との一戦へ、西川は静かな口調のなかに闘志をのぞかせた。
「チームに勝ち点3をもたらすことができれば勢いづく。決していい入りとは言えない結果が続いていますけど、ここから自分たちがはい上がる姿、勝っていく姿を見せることが大事。今日の敗戦をしっかりと反省して、次にみんなで生かしていきたい」
前半が物語るように、志向するサッカーは決して悪くない。しかし、結果が伴わなければ、チームを鼓舞できるフィールドプレーヤーがいない状態で、自信が失われていく悪循環に拍車がかかる。16位にあえぐ順位表の下には湘南ベルマーレと、活動休止中のFC東京しかいない。開幕4戦目にして浦和が早くも正念場を迎えようとしている。