「地道な成果」ヤング守護神続々「GKプロジェクトの23年」/川俣氏語る
東京オリンピック(五輪)を戦い、A代表としてワールドカップ(W杯)アジア最終予選のメンバーに選出されている20歳の谷晃生(湘南)を筆頭に、日本の若手GKの台頭が目立っている。J1の多くのチームで、外国人GKが幅を利かせてきたが、24年パリ五輪に向け、若き日本人GKの競争が激化。課題とされた“最後のとりで”の底上げが進みそうだ。なぜ、若いGKに逸材が目立つようになったのか-。背景には、98年W杯フランス大会後に、日本協会が「GKプロジェクト」を発足したことがある。専門職のGKに特化し、指導者と選手の育成に取り組んできた。現在、プロジェクトのリーダーを務める川俣則幸氏(54)に話を聞いた。
若いGKが存在感を増している。湘南GK谷はA代表に加わり、広島GK大迫敬介、鹿島GK沖悠哉が所属クラブで定位置をつかんだ。4位だった東京五輪は今までにない高いレベルの守護神争いとなった。「GKプロジェクト」に、発足当時からかかわってきた現リーダーの川俣氏は「地道な成果。育成に時間がかかるというのは感じていますね」と、長い道のりを振り返る。
プロジェクトは98年、日本がW杯に初出場した後に、「GKの育成が急務」として発足した。まず取り組んだのは指導者の育成だった。当時は自己流のやり方で、ある人はブラジル人のコーチから、ある人は欧州のコーチから影響を受け、指導法も専門用語も乱立。そこで、準備を進め04年にGKに特化した指導者ライセンスを創設。教本もつくり、日本のGK育成のベースを整えた。川俣氏は「しっかりベースとなるものを勉強していける環境がなかった。そのころから、日本のGK指導を、同じ言葉で語ることのできる環境ができました」と言う。
今や全国で約2300人のGKライセンス(レベル1、レベル2、レベル3)を持つ指導者がいる。特にJクラブの下部組織には、ジュニア(小学生)、ジュニアユース(中学生)、ユース(高校生)でそれぞれにライセンスを持つGKコーチが相当数おり、川俣氏は「GKコーチになりたい人たちが、勉強していただければ、そうなれる道が開けてきた」。
五輪からA代表へと飛躍した谷は、以前、「自分は育成年代からしっかりとした指導を受けられた」と話していた。谷を育成年代で指導したのは現役時代、G大阪で存在感を示した松代直樹氏(現G大阪GKコーチ)。川俣氏は「プロ経験を持ち、なおかつ次の世代を教える指導者が増えてきた。そんなサイクルに、谷選手はちょうど入っている」と話す。
19年からは、アヤックスでファンデルサール(元オランダ代表)、マンチェスター・ユナイテッドでダビド・デヘア(スペイン代表)らを指導したオランダ人の名指導者、フランス・フック氏を招へい。プロジェクトのテクニカル・アドバイザーを任せる。フック氏は「ゲームでのリアリティーがベース」と強調。日本の組織的な育成システムを評価した上で「内容に関しては、精査する必要がある」と厳しい指摘もする。フック氏との取り組みで、昨年からは、JリーグのGK育成サポートをスタートさせ、GKの指導者A級ライセンスも創設。“コーチの先生”であるフック氏の下で11人が受講している。
W杯を経験した川口能活氏、楢崎正剛氏もプロジェクトのメンバーに名を連ねる。ただ、大切なのは草の根だ。川俣氏は「GKになりたい」という小、中学生が日本中どこでも、GKの指導が受けられる環境作りが必要だと強調する。「トップの頂を高くし、裾野も広げる。両方の施策は続けていきたい」。プロジェクトの進行とともに、新たな才能が輩出されていきそうだ。こんな取り組みが、日本代表も、しっかり支えている。
○…世界的には小柄とされる日本人だが、最近は谷を含め190センチ台の長身選手が増えてきた。川俣氏は「GKになる選手のサイズ自体は、高止まりしていない」と見る。Jクラブの下部組織では、トレーニングと休息のバランスという科学的なアプローチも取り入れている。成長期にトレーニングをし過ぎると、潜在的な身長が伸びる可能性を引き出せないこともあるため、栄養学や休息も含め考えている。川俣氏は「欧州はオフ(休養)もちゃんとしている。コロナ禍で自粛になり、アカデミー(下部組織)の方に聞くと、休んだ後、トレーニングを始めたら背が伸びてきたと話す指導者がいらっしゃった。育成年代では、練習の質を高めて適切な量をやる必要がある」とも話した。
<パリ五輪世代の主なGK>
◆鈴木彩艶(19=浦和) 東京五輪ではサポートメンバーから昇格しメンバー入り。190センチ。
◆佐々木雅士(19=柏) 柏の下部組織からトップ昇格。今年6月の広島戦で先発デビュー。185センチ。
◆小久保玲央ブライアン(20=ベンフィカU-23) 柏の下部組織からベンフィカへ。2部ベンフィカ2に所属。193センチ。
◆長田澪(17=ブレーメンU-18) 川崎Fの下部組織から18年、ブレーメンへ。ドイツ人と日本人の両親を持ち、世代別代表にも選出。190センチ。
◆山田大樹(19=鹿島) 鹿島の下部組織から20年にトップ昇格。今季は右膝の前十字靱帯(じんたい)損傷で出番なしも昨季は2試合に出場。190センチ。