「トロ(鳥かご)はなぜ正方形? 三角形でいい」。G大阪アカデミーで家長昭博らを輩出した育成のエキスパート、上野山信行の指導論が面白い

「心をくすぐる練習のほうが選手も楽しいでしょう」

6月10日発売の『サッカーダイジェスト』で「ジーニアスの見極め方」と題して上野山信行氏に話を聞いた。G大阪アカデミーで家長昭博宇佐美貴史を輩出した育成のエキスパートに、「天才は少年時代に何が違いましたか?」と問うと、「目線とともにファーストタッチがゴールに向いている」「得点までの一連のプレーがスムーズ」というふたつのポイントを挙げてくれた。

「では、そのふたつのポイントに当てはまる気になる若手はガンバ以外でいますか?」と質問してみると、上野山氏は「誰だろうなぁ…平均的な選手が多い印象があって」と頭を悩ませた。なんとか田中碧上田綺世、三笘薫らを絞り出してくれたが、「突出した武器を持っている選手が少ないですよね」とも口にする。そして興味深い話を語ってくれた。

「例えば、ボールを回すためには幅と深さを取る必要がありますよね。これは当たり前の原理原則です。そこで3対1や4対2などのポゼッション練習をよく目にしますが、なぜ正方形のグリッドが主流なんでしょうか? 僕は、例えば三角形でもいいと思っています。三角形の頂点は狭いので、そこに追い込まれ、切り抜けようとする選手は浮き球を使ったり、股抜きをしたり工夫を凝らす。アイデアは難しい状況を打開しようとした時に生まれるんです。そういう心をくすぐる練習のほうが選手も楽しいでしょう」

3対1や4対2、いわゆる「トロ(鳥かご)」と呼ばれるトレーニングは、試合前のアップなどでよく目にする。Jクラブも行なうくらいだから当たり前だと思っていたが、同じ練習をしているから平均的な選手が多くなるし、確かに幅を取っていてプレッシャーは緩いので、容易にボールを回せている。

さすがに上野山氏も「CBが浮き球ばかり使ったらあきません」と言い、「平均的な選手も大事」と念を押す。原理原則を覚えるためには正方形のトロ(鳥かご)も必要な練習で、三角形は「ひとつの加味」。そのうえでこう続けた。

「三角形のポゼッション練習が生きるのは特にゴール前ですね。狭いスペースを切り抜ける時に浮き球を使えば、最後はボレーシュートだってできる。そのほうが選手も、観ている人も楽しいでしょう。ガンバではそういうトレーニングをやっていました」

トレーニング中に編み出したアイデアは「頭の中にプレー映像として残る」。家長や宇佐美などはガンバで創造性を蓄積したからこそ、「天才」と称されるプレーヤーになった。実に面白い上野山氏の指導論は、サッカーの本質であるエンターテインメントの真髄を突いているだろう。

上野山氏が説く指導論の根底にあるのは「どういう選手に育てたいか」

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