J1リーグ再開!中村憲剛&佐藤寿人に聞いた「打倒フロンターレはどこ?」

中村憲剛×佐藤寿人第4回「日本サッカー向上委員会」@前編

1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」、第4回はいよいよ再開するJ1リーグの後半戦の見どころについて語ってもらった。

—- J1は東京オリンピックによる中断期間に入りましたが、おふたりは今季のここまでの戦いをどう見ていますか?

中村 自分の予想以上に(川崎)フロンターレが走ったな、という印象です。

佐藤 だから、言ったじゃないですか。開幕前から、みんな言ってましたよ。フロンターレが圧倒的だって。「そんなにうまくいかないでしょう」って否定的な意見だったのは、憲剛くんだけだから。

中村 前年、あれだけの勝ち方をしたので、他クラブが対フロンターレ戦だけの特別な対策を持ってきてもおかしくはないなと思って、そういう意味で「そこまでうまくいかないのではないか」と言ったよね。

佐藤 それだけフロンターレのクオリティが高いってことですよ。

中村 どのチームも対策は講じているだろうけど、昨年の優勝を大きな自信と力に変えて、フロンターレの選手たちがそれを上回る経験と技量を示していたし、チームとしても去年から始めた4-3-3がさらに浸透しバージョンアップされていることで、それが結果に表れていると思います。

リーグ全体を見ると、コロナ禍で新外国籍選手の入国が遅くなって、そこに期待していたクラブが軒並み難しくなっていると感じますね。逆に去年からの継続を選んだチームが上位に来ているかなと思います。

—- 昨年圧倒的な強さを見せたフロンターレが、今年は昨年のようにはいかないと考えていた理由は何ですか?

中村 先ほど言ったようにやっぱり、ほかのチームがもっと躍起になってくるだろうと思っていましたから。しかも、今年は4チームが降格するので、フロンターレに対してもっと固いというか、引き分け狙いのような戦い方を選択するチームが増えるんじゃないかと。でも前半戦で言えば、思いのほか自分たちがやりたいことを優先するチームが多かったかなと感じます。

佐藤 そうなんですよ。僕はオコですよ(笑)。本当はフロンターレのサッカーを壊しにいかないといけないのに、どのチームもそういうことをしていない。

中村 まだ前半戦だからというのもあるのかな。後半戦は変わってくると思います。あと、フロンターレはここまでホームゲームが比較的多かったんですよ。それも追い風になったはず。内的要因と外的要因があいまって、独走につながっていると思います

佐藤 やっぱりフロンターレは、点を取るべき選手がしっかり取っている。レアンドロ・ダミアンしかり、小林悠しかり。連戦のなかでも選手を代えながら、決めるべき選手が決められる強みを感じますね。

ほかの上位にいるチームもそうで、(横浜)F・マリノス、(ヴィッセル)神戸、(サガン)鳥栖、あとは浦和(レッズ)なんかも、取れる選手が前線にいる。そこが上に行くためには大事な要素だと、あらためて感じています。

逆にガンバ(大阪)は取れる選手がいながらも取れていない。試合数が少ないこともありますけど、順位に顕著に表れていますよね。

—- 佐藤さんの古巣である名古屋グランパスは上位にいますけど、点を取るというところでは物足りなさもありますよね。

佐藤 そこが課題としてずっと残っていますよね。当初は守備の強度で補えていたけど、フロンターレとの”矛盾対決”2連戦では屈してしまいましたから。あの2試合は、ちょっと力の差を感じましたね。

フロンターレに迫れそうなのは、現状ではF・マリノスですかね。さっき憲剛くんが言ったように、後半戦のフロンターレはアウェーが続くし、海外移籍で選手が抜けることも多少は影響があるでしょう。でも、やっているサッカーと選手層を考えれば、やっぱり力は抜けていますよ。

—- このままフロンターレが独走してしまう可能性も?

佐藤 夏場の戦いでは、もっと差が出てくるかもしれませんね。ボールを持てるし、当たり前のことを当たり前にこなせるので、イージーなミスが起こらない。夏場はそういうイージーなミスが堪えるんですよ。

中村 僕は今まで中(フロンターレ)にいた人間だったからわからなかったけど、引退して、仕事柄あらためてリーグ全体を見るようになりましたが、ほかのクラブよりも「基準」が高いんだなと感じました。パススピードもそうだし、ボールへの関わり方もそう。

守備のところでも、切り替えが速いし、連動して周りも動いている。サッカーとして当たり前のことを当たり前にやれているのは、日常からの基準値が高いからなんでしょうね。

佐藤 止める・蹴るも高いレベルでできているんですけど、それ以上に身体の向きやボールが来る前の予備動作といった細かい動きも、見れば見るほど質が全然違いますから。

中村 後半戦はどうなるかわかりませんが、前半戦を総括すると、やっぱりフロンターレの強さが際立っていたのは間違いないでしょう。

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—- リーグの盛り上がりを考えると、フロンターレが強すぎることに懸念する声もあります。混戦のほうが面白いと。一方で、混戦よりもリーグを牽引する強い存在があったほうがレベルが高まる、という意見もあります。

佐藤 僕はどっちでもいいと思います。多くのチームに優勝の可能性があったシーズンも面白かったですし、去年や今年のようにフロンターレが圧倒的な強さを示せば、ほかのチームがそこにどうアプローチしていくかという焦点もあるので、どちらの展開でも楽しめると思います。

中村 いずれにせよ、突出したチームが出ればそこを倒そうと考えて、新しいことを生み出すことでJリーグのレベルがまたひとつ上がると思うんですよね。ただ、個人的にうれしいことは、攻撃的な哲学を持ったクラブが上位にいること。フロンターレ、F・マリノス、鳥栖、あとは浦和もボールを握りたいサッカーになってきた。

過去の優勝クラブを見ても、まず守備をしっかり整備したチームが勝つ傾向が高いリーグでしたけど、ここ数年はフロンターレ、F・マリノスと、攻め勝つチームがリーグを獲っている。攻撃的な機運がJリーグで高まっているのは喜ばしいことだと思いますね。

今度は、そこにどう勝つかというクラブが出てくるだろうし、もしくはより攻撃的なサッカーを構築するクラブが出てくる可能性もある。そうなればまた、面白くなると思います。

(中編につづく)

【profile】

中村憲剛(なかむら・けんご)1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに入団。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。

佐藤寿人(さとう・ひさと)1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。

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