なぜ”レジェンド”宮本恒靖氏を電撃解任したガンバ大阪は新体制初陣で浦和レッズに完敗を喫したのか?

不甲斐なさと自らへの怒り、長いトンネルを抜け出せない現状に対する苛立ちを、ガンバ大阪のセンターバック昌子源は「あーーーっ」という叫び声に凝縮させた。

16日の明治安田生命J1リーグ第14節で、浦和レッズに0-3の完敗を喫した直後のひとコマ。緊急事態宣言の延長に伴い、大阪府からの要請を受けて無観客での開催となったホームのパナソニックスタジアム吹田に、昌子の声が痛々しく響いた。

開幕から1勝4分け5敗、総得点わずか「3」と不振に陥り、J2への自動降格圏となる18位にあえぐ泥沼で宮本恒靖監督が13日付で電撃的に解任された。日本代表でキャプテンを務め、ガンバが悲願のリーグ初優勝を果たした2005シーズンには守備の要として活躍したレジェンドだけに、チームの内外に与えた衝撃は小さくなかった。

強化アカデミー部長を兼任したまま、暫定的に指揮を執ることが決まった松波正信新監督のもとでチームは再始動。わずか2日間の練習で生じた変化を、MF倉田秋は「より相手ゴールへ、という意識づけを松波さんはしてくれた」と振り返る。

「ゴールを奪うための守備、攻撃に繋げるための守備をしようと。後ろのリスクがあるけど前へ行こう、とも話していましたけど、そこを上手く相手に突かれてしまった」

背後のスペースに対するリスクマネジメントが伴わなければ、ハイプレスは諸刃の剣と化す。象徴的な場面が前半20分だった。敵陣の左タッチライン際で人数をかけて浦和ボールを奪いにいった矢先に、4分前に技ありの先制ゴールを決められていたFWキャスパー・ユンカーに逆サイドへ、50mを超えるサイドチェンジのパスを通された。

目の前に広がるスペースをドリブルで進んできた浦和の左サイドバック、明本考浩がグラウンダーのクロスを送る。ニアへ走り込んだFW武藤雄樹につられ、ファーにぽっかりと空いたスペースへ走り込んできたMF田中達也に完璧な追加点を決められた。

この場面で必死に田中を追走しながら届かなかった昌子は、前半40分には痛恨のミスを犯してしまう。またもや敵陣の深い位置から発動されたカウンター。左サイドを突破してきた田中を並走した昌子が、ペナルティーエリア横でスライディングタックルを仕掛けるもボールを奪い切れない。田中があげたクロスを再びユンカーに決められた。

今シーズンでワーストとなる3失点を前半だけで奪われた。いまだに複数得点をあげた試合がない状況を考えれば、この時点で万事休すだった。後半には次々と選手を入れ替えるなど、意図的にペースダウンした浦和に一矢も報えないまま喫した3連敗。踏ん張りきれなかった守備陣の無念さが、昌子が響かせた叫び声に反映されていた。

攻撃面での改善が難しいという判断のもとで解任された、クラブのレジェンドでもある宮本前監督は[4-4-2]に加えて、今春のキャンプから取り組んできた[4-3-3]にもトライ。4人の新外国籍選手を加えた攻撃陣の最適解を追い求めてきた。

急きょバトンを引き継いだ松波監督は、前節から先発メンバーを2人変更した上で[4-2-3-1]を選択。1トップの一美和成の背後に左から宇佐美貴史、倉田、5試合ぶりの先発となった新加入のチアゴ・アウベスを並べた意図をこう説明した。

「相手のビルドアップに対してしっかりとハイプレスをかけて奪うという狙いと、(ウチの)フォワードと中盤の間が少し開く傾向があったので、そのあたりでボールを引き出せる選手を一人置いて、相手の中盤を寄せたなかでのワイドからの崩しを考えました」

浦和ボールになれば一美と倉田が横関係でプレスをかけ、マイボールになれば縦関係に転じる。しかし、リカルド・ロドリゲス新監督のもと、相手の出方を見ながら選手が立ち位置を変える戦い方を熟成させてきた浦和にすぐに対応されてしまう。

左利きのチアゴ・アウベスには右サイドからのクロスやパスを期待したが、ガンバの逆手を取り、逆にサイド攻撃に照準を合わせてきた浦和の前に中途半端なプレーに終始。結局、前半途中で倉田とポジションを入れ替えたチアゴ・アウベスは、0-3で迎えたハーフタイムにユース出身の19歳、FW塚元大との交代でベンチへ下がっている。

前半をピッチの外から見ていた塚元は、いま現在のガンバが抱える課題を間近で感じ、自分の特長を生かすことで変えたいと言い聞かせながらプレーしたと明かす。

「今日もボールを持っている選手に対して、サポートする周りの選手が止まっているというか、そういう感じがしたので。いまは個人でクロスを上げる場面が多いなかで、僕としては(相手の)間でボールを受けて、そこからドリブルで仕掛けるとか、そういうプレーを出していけばチャンスに繋がり、得点が近くなってくると思っていました」

前半途中までのガンバは「前へ」を意識しすぎるあまり、攻守両面で空回りしてしまった。失点を重ねてからは時間の経過とともに攻撃が単発になり、ボールは保持するもののリスクを冒したパスを放てない、これまでと変わらない悪癖が顔をのぞかせた。

後半は塚元こそ流れを変えようと奮闘した。しかし、FWレアンドロ・ペレイラ、MFチュ・セジョン、MFウェリントン・シウバの新戦力、そして昨シーズンのチーム得点王FWパトリックが次々と投入されながら最後まで浦和ゴールを脅かせなかった。

サッカー界では監督交代がショック療法となり、低迷していたチームが劇的に変わるケースが珍しくない。いわゆる「解任ブースト」は今シーズンのJ1でも、相馬直樹新監督の就任後にリーグ戦で4連勝を含めた6戦連続無敗をマークし、ザーゴ前監督が解任された時点で15位だった順位を6位にまで上げてきた鹿島アントラーズに見られる。

指揮を執って4年目になる宮本前監督の唐突な解任を受けて、ガンバの選手たちも責任を痛感して奮い立った。しかし、荒療治が施された効果は、残念ながら結果として現れなかった。試合前のチーム内の雰囲気を「今日から変わろう、いい流れをつかもうとみんなで話していた」と明かした倉田は、完敗を受けて努めて前向きな言葉を紡いだ。

「結果は0-3で負けているので、まだまだ自分たちの実力が足りないのかなど、いろいろなことを考えないといけない。ただ、すべてが悪かったわけではない。みんなが吹っ切れたというわけじゃないけど、攻撃した後に切り替えて、前でまたみんなで奪って、というプレーを出せていた部分もあったので、そこは引き続き積み上げていきたい」

22日の次節は連敗を5で止め、士気が上がるFC東京と敵地・味の素スタジアムで対峙する。ボール奪取からカウンターを仕掛けられるタレントがそろう相手だけに、松波監督のもとで前への意識を高めていく以上は攻守の切り替え、特に攻撃から守備へのネガティブ・トランジションの意識をさらに高めなければ大けがを負いかねない。

「準備時間が少ないなかで選手たちは前向きに取り組んでくれたし、前にかかる守備や攻撃は少し出せていたと思っている。ただ、前半で0-3にされているので、ボールの奪われ方や自陣に戻るスピードという部分を、同時進行でしっかり修正していきたい」

初陣をこう総括した松波監督の任期は新監督が決まるまで。国際大会で指揮を執った経験のある日本人を候補に急いで人選を進め、6月下旬からウズベキスタンで集中開催されるACLのグループリーグには、新体制で臨む青写真をフロントは描いている。

しかし、浦和戦で「解任ブースト」は発現されず、極度のゴール欠乏症が解消される兆しも見えず、開幕6試合目まで2失点と踏ん張ってきた守備陣にも綻びが見え始めた。創設30周年を迎えるクラブ史上でただ一度、J2へ降格を喫した2012シーズン以来の危機に直面しかけている状況で、ポジティブな要素は現時点では見つかっていない。

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