ガンバ大阪が”新型コロナ活動停止”を乗り越えて執念ドロー…宮本恒靖監督「選手はファイティングポーズを取り続けた」

最後までゴールを奪えなかった。放ったシュートもわずか5本にとどまった。それでも、倍以上となる12本のシュートをサンフレッチェ広島に浴びながら、自分たちのゴールも割らせなかった。

スコアレスドローに終わった試合後にDF昌子源が残した言葉に、優勝候補の一角として今シーズンに臨んだガンバ大阪が、J1リーグ戦で初めて手にした勝ち点の価値が凝縮されていた。

「僕らは2週間しか準備する時間がなかったので、苦しい時間帯が多くなる展開は予想できた。そういう時間帯こそチームで守ろうと話していたなかで、後ろの選手だけでなく、前線の選手からの守備もあった。チーム全員でつかみ取った、本当にプラスにとらえていい勝ち点1だと思う」

敵地エディオンスタジアム広島で3日に行われた明治安田生命J1リーグ第7節。3勝4分けと無敗をキープしている広島とは対照的に、ガンバにとっては敵地でヴィッセル神戸に0-1と苦杯をなめさせられた2月27日の開幕戦以来、35日ぶりとなる公式戦だった。 選手6人、チームスタッフ2人の計8人がPCR検査で陽性判定を受ける、新型コロナウイルスのクラスターがチーム内で発生した状況を受け、3月に予定されていたリーグ6試合が開催中止となった。感染拡大防止の観点から、トップチームは9日から2週間にわたって活動休止となった。

選手各々が自宅でトレーニングできたとはいえ、シーズンの開幕へ向けてキャンプから作り上げてきたコンディションは、活動休止の間に必然的にゼロベースに戻ってしまう。キャプテンのDF三浦弦太は、広島戦へ向けて抱いていた一抹の不安が具現化されたと試合後に明かしている。

「70分過ぎぐらいから、運動量がちょっと下がってくる感じがチーム全体としてありました」

センターバックを組んだ昌子が言及した「苦しい時間帯が多くなる――」にも共通する現象は、チーム活動を再開させた3月23日以降で、90分間の実戦を一度も消化できなかった点に起因している。ガンバを率いる宮本恒靖監督も、広島戦へ向けたチームのコンディションをこうとらえていた。

「シーズン前のキャンプでも日数をかけて、例えば1試合目は45分間、2試合目は60分間と時間を積み上げていくなかで90分間を迎えるところで言えば、全員が90分間プレーできるぎりぎりのコンディションにあった。その意味では、けが人が出ることなく終えたところはよかったと思っている」

今シーズンのJ1リーグを戦う19チームが公式戦を戦っていくなかで、自分たちは自宅で筋力トレーニングなどを繰り返す日々を余儀なくされる。開幕直後に図らずも直面してしまったギャップに、選手たちはどのような思いを抱いていたのか。昌子がチーム全員の思いを代弁した。

「活動中止しているときに他のチームの試合を見ることがあったけど、僕自身にもチームにも焦りがあったと思う。再開してからも不安はありましたけど、それよりもサッカーができる喜び、ファン・サポーターにサッカーを見てもらう喜びを感じながら練習ができていた。高いモチベーションのもとで、すごくいい気持ちで、焦りというものをピッチに出すことなくこの試合に臨むことができた」

リーグ戦で2位に入り、天皇杯で準優勝した昨シーズンの陣容から、ともに6ゴールをあげたFW渡邉千真(現横浜FC)とFWアデミウソン(現中国2部・武漢三鎮)が退団。新たにFWチアゴ・アウベス(サガン鳥栖)、FWレアンドロ・ペレイラ(松本山雅FC)、MFチュ・セジョン(FCソウル)が加わり、京都サンガF.C.と横浜FCでの武者修行を終えたFW一美和成が復帰した。

開幕への前哨戦となる、王者・川崎フロンターレとのFUJI XEROX SUPER CUPではMF矢島慎也と昨シーズンのチーム得点王、FWパトリックがゴールした。もっとも後者はPKであり、2試合を終えて無得点が続くリーグ戦を見ても、新戦力を加えた攻撃陣が機能しているとは言い難い。今後も原則として週2試合が続く過密日程のなかで、宮本監督は試合後に喫緊の課題をあげた。

「やはり十数人の選手だけでは、戦い抜いていくことはできないので。誰が試合に出ても、自分が求めているプレーの質を高いレベルで出せる状況が必要になってくると思っています」

急ピッチでフィジカルコンディションを100%に近づけながら、同時進行で特に攻撃面でのコンビネーションも高めてチームを完成させていく。他チームよりも出遅れた部分を取り戻すピッチ内での戦いに加えて、フロントも大きな課題を乗り越えていかなければいけない。

延期となったリーグ戦6試合の代替開催日を選定する作業は、2チーム増の20チームで争われ、東京五輪に伴う中断期間も設けられている今シーズンは決して容易ではない。ガンバの場合はACLも同時に戦い、6月から天皇杯、9月からはYBCルヴァンカップの決勝トーナメントも加わる。

今後は原則として水曜日があてられている予備日のなかから、鹿島アントラーズ、大分トリニータ、横浜F・マリノスをホームのパナソニックスタジアム吹田に迎える3試合、名古屋グランパス、北海道コンサドーレ札幌、ベガルタ仙台とアウェイで対戦する3試合を開催する可能性を探っていく。

予備日そのものが限られるなかで、相手チームのスケジュールに加えて、アウェイの場合は相手チームのホームスタジアムの空き状況なども関係してくる。万が一、最終節までに代替開催日が確保できなかった場合、今シーズンのJリーグで導入されている「みなし開催」規定の対象となる。

聞き慣れない「みなし開催」とは、当該試合が開催されたものとして扱われ、Jリーグの場合は帰責性のあるチームが0-3で敗れることが最高議決機関の理事会で確認されている。ピッチ内外の状況を受けて、ガンバの小野忠史代表取締役社長はクラブを通じてこんな覚悟を示している。

「創立30周年を迎えるガンバ大阪において、過去を振り返っても一番困難なシーズンであるといっても過言ではありません。しかし、我々はタイトル獲得という当初の目標を変えることはありません」

次節は7日に昇格組のアビスパ福岡と、パナソニックスタジアム吹田で対峙する。当初のスケジュールから約1ヵ月遅れのホーム開幕戦へ向けて、後半は広島に主導権を握られながらも歯を食いしばって手にした勝ち点1の価値を踏まえながら昌子が闘志を新たにした。

「活動休止中にも応援メッセージをいただいた、サポーターのためにも勝ちたかったけれども、まずはサッカーをしている姿、新型コロナウイルスに負けずに頑張っている姿を見せることが大事な試合だった。そうした姿を見せられたのが僕自身にも、チームにとっても幸せなことだと思っている」

経験したことのない逆風にさらされた状況で、それでも宮本監督は「選手たちはしっかりとファイティングポーズを取り続けてくれた」と目を細めた。勝ち点1で横浜FC、仙台と並び、得失点差で暫定18位に沈んでいる逆境からの巻き返しへ。敵地で見せた意地と執念がガンバを支えていく。

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