昌子源が語る昨季ガンバと遠藤保仁の移籍「いろんな面でダメージはあった」
ガンバ大阪昌子源インタビュー(前編)
昨シーズンのガンバ大阪は、リーグ戦2位、天皇杯準優勝という結果を残した。2018年シーズンの途中から宮本恒靖監督が指揮を執り、リーグ戦で9位(2018年)、7位(2019年)と順位を上げ、3年目となる昨季はタイトル争いへの期待も膨らんでいた。苦しい時期もあったが、手堅く1点を守り抜くサッカーで上位争いを演じて、”新しいガンバ”を印象づけるシーズンとなった。
そのチームで奮闘していたのが、DF昌子源だ。
昨季、フランスのトゥールーズからガンバに移籍。右足首痛に悩まされながらも18試合に出場し、チームのディフェンスリーダーになっていった――。
――ガンバ大阪は昨季、2015年シーズンの年間2位以来、久しぶりにリーグ戦で2位という好成績を残すことができました。
「夏場に勝てない時期があったんですけど、その後、チームとして『やり直そうや』と原点に戻った結果、12戦負けなしという結果につながって、大きく崩れることがなかった。それが大きかったと思います」
昨季のガンバは、確かに8月から9月中旬まで不安定な試合をしていた。しかしその後、個で負けない守備に磨きをかけて、勝ち星を重ねた。
――昨年は1点を取ったら、それを守り切るスタイルが特徴的でした。
「本来であれば、もっと得点を取って勝ちたいですよ。1-0とか緊迫した試合で勝つのもうれしいですけど、後ろで守っている身としては、2、3点取って勝ちたいという気持ちもありました」
――なかなか追加点が取れなかったイメージがあります。
「う~ん、よくも悪くもですけど、1点を大事にしすぎていたかなって思いますね。1点取ったら『これを守らないと』という思いが強すぎて、なかなか攻撃にいけていなかった。『1点勝っているんだし、取られても同点だから、2点目、3点目を取りにいこうや』という余裕みたいなものがなかった。あと、川崎フロンターレが勝ち点で飛び抜けていた影響もあったと思います」
――それは、どういった影響ですか。
「川崎と勝ち点差や得失点差でそんなに差がなければ、(川崎に追いつくために)僕らは点を取って勝たなければいけないので、もっとアグレッシブにいけたと思うんですよ。でも、川崎とは勝ち点差も得失点差もかなりの開きがあった。そのため、川崎に追いつくというより、2位を死守して『自分たちもACL(AFCチャンピオンズリーグ)に出るぞ』みたいな気持ちのほうが強くなって、それが1点を獲ったら慎重になる試合展開になってしまったのかなと思います」
――得点46はリーグ9位タイ。やや得点パターンが少なかった印象があります。
「(前線の選手は)もっとガンガン攻めたい気持ちもあったと思いますが、状況的にはなかなかいけなかった。そういうなかで点を取るには、セットプレーが重要かなと思います。昨季は大事な試合でパトリックがセットプレーで何点か取ったけど、2点目、3点目をセットプレーで取れていれば、もっと楽に戦えたと思うんですよ。セットプレーは流れとか関係ないし、大きなチャンスなので、そこは今季、自分自身としても、チームとしても、もっと意識して(セットプレーからの得点を)増やしていきたいですね」
失点はリーグ5位の42。守備は安定していた。昌子は守備のリーダーとして期待されていたが、昨季の守備についてはどう見ていたのだろうか。
「(当初)下位チームにもボールを持たれて、攻められていた(苦笑)。そこで、最終ラインの面々とヒガシくん(GK東口順昭)とで話をしたのは、『とにかくしっかり守ろう』ということ。もちろん、前の選手に『もっとこうしてほしい』という要求もしていたけど、DF陣としては、もうあまり上がらなくてもいいから、シンプルに守ることだけを考えていました」
――その分、手堅い守りを見せていました。
「そうなったのは、上位にいた、というのも大きいと思います。ここ数年のガンバは中間順位にいたので、上位にいて、上位の戦い方みたいものをチームとして忘れていたと思うんですよ。だから、あんなに堅い試合が増えてしまった。割り切って、それで勝っていたからよかったけど……。なんか虎の子の1点を守るみたいなサッカーで、カテナチオみたいなチームになっていた部分はあるかもしれません」
――そうした戦いが続くと、疲労度も相当なものだったのではないですか。
「毎試合、結構な疲労感がありましたね。組織的な守備がうまくハマらないことがあって、どうしても個の能力で守っていたところもあったので。それは僕だけじゃなく、(三浦)弦太、(キム・)ヨングォン、(菅沼)駿哉もそういうシーンがあったし、ヒガシくんは何回も1対1のシーンを止めてくれた。
それも大事だけど、やっぱり組織的な守備は重要だし、それができれば個々がもう少し余裕をもってプレーできる。今季は点を取ることも大事だけど、さらに組織的な守備を機能させることも大事だなって思っています」
昨季のガンバにおいて、MF遠藤保仁の移籍も大きな出来事だった。ピッチ内では高い技術と視野の広さでゲームをコントロールし、チームメイトの信頼も絶大だった。”ガンバの顔”の移籍は大きな驚きをもって報道されたが、その影響はチーム内にも少なからずあったようだ。
――昨年の10月初め、遠藤選手がジュビロ磐田に期限付き移籍をしました。世代交代のひとつの事象として捉えることもできますが、チーム内にはいろいろな影響があったと思います。
「ヤットさん(遠藤)は”ザ・ガンバ”じゃないですか。誰もが『このままガンバで現役を終えるんだろうな』って思っていた選手。そんな選手が、いくら期限付きとはいえ、移籍するというのは大変なことですよ。鹿島アントラーズで言うと(小笠原)満男さんが外に出ていくようなものですから」
――具体的にどういった影響があったのでしょうか。
「いいほうで言えば、選手それぞれに責任感が芽生えたと思います。特に山本(悠樹)をはじめ、若い選手が『もうヤットさんには頼れない』という危機感から、『自分がやらなあかん』という責任感が芽生えて、成長したのはプラスだと思いますね」
――ダメージもあったのでしょうか。
「ヤットさんがいなくなって、そのすごさを改めて痛感しました。スタメンで出場すれば、これほど頼りになる選手はいないし、途中出場でもそう。あのポジションで、途中から入って試合の流れを変えられるのって、本当にすごいことですから。
プレー面だけではなく、ヤットさんがいなくなって試合に出るようになった同じポジションの山本や(井手口)陽介らは、個人的にいろいろと思うところがあったんじゃないかな。弦太もキャプテンでしたけど、ヤットさんはキャプテンマークこそ巻いていなくても、そういう仕事もできるので、頼りにしていたと思うし、いろんなことを相談できる大事な存在だったと思うんです。
僕も一緒にプレーしたのは半年ですけど、代表にいたのでヤットさんのすごさはわかりますし、実際にガンバでもそれを見てきました。正直、いろんな面でダメージはありました。みんなでやっていこうということになったけど、ヤットさんがいなくなったことは、やはりチームに大きな影響を与えたと思います」
――それでも、遠藤選手が移籍して以降、チームはリーグ戦で8戦負けなし。「遠藤選手がいなくてもやれる」といった自信が選手たちの中で培われたのではないでしょうか。
「そうですね。ヤットさんがいなくなって弱くなったとか、負けたとか言われるのは嫌じゃないですか。選手はそうは思われたくないし、だからみんな、ヤットさんがいなくなっても勝てるというのを見せたかったと思うんで、必死にプレーしていたと思います。前進しないと意味がないので」 “ガンバの顔”が移籍したことで、山本ら若い選手が台頭してきたのは、チームにとってプラスになった。しかし同時に、試合の流れを変えられる、変化をつけられる存在がいなくなったことは、チームの戦いぶりからも見て取れた。
ゆえに今季、韓国代表のチュ・セジョンを獲得した。そのうえで、山本や井手口、矢島慎也たちにはさらなる成長が求められる。今季ガンバが優勝争いに絡むには、前線の決定力とともにボランチの奮起が不可欠だからだ。
(つづく)
昌子源(しょうじ・げん)1992年12月11日生まれ。兵庫県出身。米子北高を卒業後、鹿島アントラーズ入り。4年目にして頭角を現し、以降は不動のセンターバックとして活躍。2016年、2017年にはJリーグベストイレブンに選ばれる。日本代表でも奮闘し、2018年ロシアW杯に出場。同年、フランスのトゥールーズに移籍するも、右足首の負傷によって思うようなプレーができなかった。2020年、ガンバ大阪に移籍。同シーズン後、右足首の手術をし、改めて今後の飛躍が期待される。