「選手寿命がなくなっていく」昌子源が抱えていた苦悩と代表への思い
ガンバ大阪昌子源インタビュー(後編)
昌子源という個人にフォーカスすると、昨季はガンバ大阪で18試合出場、得点0という成績だった。守備のリーダーとして、危ない場面では率先して個で対応し、相手を封じ込めるシーンが目立った。昌子の守備がチームの勝利に大きく貢献したことは間違いない。
フランスのトゥールーズから移籍してきて1年目、昌子は自らのプレーについては、どのように分析していたのだろうか――。
――ガンバ大阪での1年目、昌子選手ご自身のプレーはどう評価していますか。
「右足首痛がひどくて、満足できる試合はひとつもなかった。ほんまにストレスだった。もう『ハゲるんちゃうか』って思いましたから(苦笑)」
――右足首のケガは相当ひどい状態だったのですね。
「フランスにいた時は日々、『選手寿命がなくなっていく』という危機感を抱いていました。僕が自分のケガと向き合っても、チームのメディカルスタッフはまったく向き合ってくれなくて……。『このままだとサッカー選手として(の自分が)終わるぞ』と思って、日本に帰ってきたんです。
ガンバに入った昨季、足首の状態がよくないなかで18試合も出られたのは、ガンバのメディカルスタッフを含め、自分に関わってくれたみなさんのおかげ。みんなに感謝したいという気持ちでいっぱいです」
――プレーにおいてはどんな影響があったのでしょうか。
「普通にダッシュするだけでも痛かった。片足ジャンプは右足ではできなくて、いざ(相手と)競ろうと右足の助走になっても、両足で整える感じになるので、相手よりもワンテンポ遅れて飛んで、競り負けるシーンがあった。キックもロングボールを蹴るのは痛くて……。対人守備で1対1になった時、なかなか右足が出ないとかもあった。なんか言い訳に聞こえてしまうかもしれないけど、本当に苦しかった」
そうした状況にあって、昌子は昨季のリーグ戦終了後、右足首の手術に踏み切った。まだ天皇杯決勝が控えていたが、最終的に新シーズンのことを考えて「一日でも早く手術したほうがいい」というチームや宮本恒靖監督の判断もあってのことだ。
手術に際しては、かつて同じ個所をケガしたことのある森重真人(FC東京)や酒井宏樹(マルセイユ)らに連絡を取って話を聞いた。現在は「痛みはゼロじゃないですけど、痛み止めの注射も薬も飲んでいない」状態にあるという。完治まで、一歩一歩近づいていることは間違いない。
――手術後、右足首は順調に回復していますか。
「今は70~80%ぐらいですね。昨年は痛め止めの注射を打って、そのぐらい無理してやっていましたけど、今年は注射も薬も飲んでないですし、痛みのストレスもなくなりつつあります」
――まだ違和感みたいなものはあるのでしょうか。
「今は痛くないんですけど、昨年はずっと痛かったわけじゃないですか。そのせいか、体というか脳が『右足首が痛い』というのを覚えてしまっていて、ボールを蹴ろうとするとめちゃくちゃ足首が固まるんですよ。すると、ボールが明後日の方向に飛んでいくんです。練習だとどうしても考える時間があるので、そういうシーンが出てしまう。それが今のストレスですね。これは、試合で無我夢中でやっていくなかで克服していかないといけない」
まだ本調子ではないが、完治に向けて何をすべきか明確になっているので、話す表情は明るい。今季も主将は三浦弦太だが、昌子もチームを引っ張る存在になっていくだろう。
――さて、2021年シーズンの目標を聞かせてください。
「目標はリーグ戦の優勝。もちろんACL(AFCチャンピオンズリーグ)も獲りたい。僕がガンバに来た目的は、ガンバを常に優勝争い、つまりタイトルに絡むところにいるチームにすること。ここ数年、優勝争いに絡めず、世間から中堅クラスのチームみたいなイメージをもたれていたと思うんです。でも、僕が知っているガンバは強かったし、常に優勝争いに絡んでいるチームだった。
僕ひとりの力じゃ無理だけど、そういうチームに戻す手助けをしたいというのが最大の目的です。その延長戦上に、目標として優勝がある。ガンバが優勝したら『ようやった』とみんな思ってくれたらいいなって思うし、そう思わせたいなって思っています」
――ライバルとなるのは、やはり昨年の覇者川崎フロンターレになりますか。
「昨季みたいに”川崎一強”にはしたくないですね。今季ももちろん強いと思うけど、昨季ほどうまくはいかないと思う。どこのチームも『打倒・川崎』でいくと思うんで。
そういったことを考えると、川崎だけというよりは、目の前の試合に集中して、勝ち点を地道に積み重ねていくことが大事かなと思います。昨季、うちはリードした試合はほとんど勝っている。2、3年前のような”安い失点”はなくなってきているので、今季は昨季の引き分け分を勝ちに、負け分を引き分けにできればいけると思う」
昌子には、ガンバでの活躍の先にもうひとつ大きな目標がある。それは、W杯でのリベンジだ。
2018年ロシアW杯では、日本代表のセンターバックとしてグループリーグから決勝トーナメント1回戦まで3試合に出場。ベルギー戦では2―0とリードしながらも追いつかれ、最後は猛烈なカウンターを食らって逆転負けを喫した。あの敗戦の日、昌子は「また4年後、もっと成長してW杯に戻ってくる」と語っている。
―-来年はカタールW杯が開催されます。
昌子選手にとって、日本代表は戻るべき場所になるかと思います。 「W杯の借りはW杯でしか返せないし、『4年間、さらに成長してカタールW杯で』と前回の大会が終わった時は思っていました。でも今は、ケガの影響で思うようにできていない部分があります。
来年の本大会を考えると、守備の選手は予選から出ていないと、どんどん厳しくなってしまう。借りを返したいと思っているけど、今の自分がすべきことはまず、ガンバで試合に出ることが優先。そこで、森保(一)監督に認めてもらえるような活躍をしていくこと。そうすれば代表に呼んでもらって、借りを返すチャンスを得られるかなと思います」
3月末に予定されているW杯アジア2次予選のモンゴル戦は、コロナ禍ということもあって、海外組不在での戦いになる可能性が高い。ガンバで試合に出て、結果を残していけば、そこで昌子も招集されるかもしれない。チャンスは意外と早くやってきそうな気配だ。
もっとも秋からの最終予選は、レギュラー争いがより厳しくなる。センターバックは、若い選手の台頭が目立っている。能力が高く、国際経験が豊富な昌子といえども、伸び盛りで勢いのある若手に勝つのは容易なことではない。
――ロシアW杯のあと、日本代表も若返って、センターバックのポジション争いも激しさが増しています。
「以前、トミ(冨安健洋/ボローニャ)とは代表で一緒にプレーしたけど、トミは誰が見てもいい選手。若いけど、基礎能力が高いし、『ほんまに22歳か!?』っていう風貌をしている(笑)。他にも若い選手がたくさん選ばれているけど、僕はまだ絡んだことがないので、もし代表に呼ばれたら、みんなとコミュニケーションを取って切磋琢磨して、日本のためにやっていきたい。
あと、(吉田)麻也くんとはロシアW杯以降、森保さんの代表ではまだ一緒にやったことがないんですよ。なんか恋しいというか、寂しい感じもあるので、また一緒にやりたいですね(笑)」
――代表に復帰するため、またガンバで確固たる地位を築くため、自らに何かノルマを課していますか。
「いや、特にノルマとか、数字は考えていない。とにかく、ガンバでは目の前の試合で、100%でやる。センターバックは力のある選手が多いので、3バックだと3人出られるけど、4バックでは2人しか出られないので、そこでも自分が出られるようにしたい。そうして、100%の自分を取り戻す。
昨年は足首が痛くて、自分らしいプレーができなかった。今年はそういう意味では、『ほんまのスタートやな』って思います。正直、新加入みたいな気持ちです」
思い切り走れない、思うように蹴れない……。昌子は長らく、サッカー選手としてつらい時期を過ごしてきた。今季はその時期を乗り越えて、ようやく100%の自分を出すべく動き始めた。今の昌子からは、右足首の痛みに苦しんだ1年半近くの時間を取り戻すのではなく、以前よりも一歩、二歩前進して、新しい何かをつかみ取ろうとする意欲が感じられる。
鹿島アントラーズ時代の昌子には、DFらしからぬギラギラしたものがあった。足首が完治に向かっているその眼には、かつて見た、野心と挑戦の炎が大きく宿りつつある。
(おわり)
昌子源(しょうじ・げん)1992年12月11日生まれ。兵庫県出身。米子北高を卒業後、鹿島アントラーズ入り。4年目にして頭角を現し、以降は不動のセンターバックとして活躍。2016年、2017年にはJリーグベストイレブンに選ばれる。日本代表でも奮闘し、2018年ロシアW杯に出場。同年、フランスのトゥールーズに移籍するも、右足首の負傷によって思うようなプレーができなかった。2020年、ガンバ大阪に移籍。同シーズン後、右足首の手術をし、改めて今後の飛躍が期待される。