大黒将志は伝えたい「偶然はダメ。理屈でやるからゴールを決められる」

大黒将志インタビュー 後編

222ゴールを決めた現役生活を終え、ガンバ大阪で育成年代を指導することになった、大黒将志。今後、どんな指導をしていくのか。ストライカーとしてゴールを決めるコツは何かを聞いた。

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2021年2月より、古巣ガンバ大阪のアカデミーでストライカーコーチとして、育成年代の指導を始めた。「将来は監督を目指している」と言う大黒の指導哲学は、次のようなものだ。

「指導者としては、プロで長く活躍できる選手を輩出したい。FWはいつでも、どこでも、誰とでもプレーできる選手になってほしい。どこのクラブでプレーしても、ゴールを決められる選手。途中出場でも、スタメンでもゴールできる選手を育てたい」

まさに、現役時代の大黒そのものである。大黒自身、ガンバ大阪アカデミーでプロとして戦うために必要なことを、たくさん教わってきた。だからこそ、現役生活を長くつづけられたと感じている。

「ガンバのアカデミーでちゃんと教わってきたから、プロになって困ったことがなかったんです。プロになって周りを見ると、ベースがない選手も結構いて、『これやったら負けるわけない』ってずっと思っていました。たとえばボール回しにしても、日本代表に行っても、ミスをしてボールを取られて、何回もオニになるとか一切ない。それはガンバで基礎技術をしっかり教えてもらってきたからだと思います」

ガンバ大阪アカデミー初期の出身選手たちは、年齢を重ねても現役をつづける選手が多い。それも「アカデミーで身につけた土台があるからではないか」と分析している。

「橋本(英郎)くん、稲本(潤一)くん、二川(孝広)とか、僕もそうですけど、40歳近くなっても現役でプレーしていて、選手寿命が長いですよね。ガンバで育ってきて思うのは、習得しておかなければいけない技術を身につけた上で成長しないと、プロでは戦えないということ。僕はいい指導を受けてきたからそうなれたわけで、今後、ガンバの子たちにそれを伝えれば、プロになった時に長くプレーできると思う」

大黒がストライカーとしてのベースを培ったのは、ガンバ大阪ユース時代。当時の西村昭宏監督に、FWとしての動き方を徹底的に叩き込まれた。

「最初は嫌でしたよ(笑)。当時はドリブラーやったんで、ユースの試合だと、ドリブルで2、3人抜けたんです。トップに上がる選手って、だいたいそれぐらいできるじゃないですか。だから、動き出しやプルアウェイ、ウェーブの動きとかも、『なんでやらなあかんねん』と思ってたんですよ。こんなんせんでも、来たボールをトラップして、ドリブルして相手を抜いて、シュートを打ったらええやんって」

嫌々ながらも「人の話を聞く耳は持っているほうなんで」という柔軟さで、教わった内容を自分のものにしていった。その大切さに気づいたのは、プロになってからだった。

「プロのレベルになると、地域でいちばんうまいヤツらしかいないわけで、そのなかでドリブルで2、3人かわしてシュートなんて、メッシぐらいしかできない。じゃあどうするかってなって、ユース時代に教わったことを思い出したんです」

どうすればマークを外し、フリーでシュートを打てるか――。大黒はユース時代の教えをもとに、試行錯誤していった。そしてプロ3年目、それまで中盤の選手としての起用が多かったなか、西野朗監督に「FWをやらせてほしい」と直訴。そこからストライカー大黒の快進撃が始まった。

「ユース時代、西村さんに教わったことはめちゃめちゃ大きかったです。この前、電話して『西村さんに教えてもらったことで、22年間御飯が食べられました』ってお礼を言いました。もちろん、ほかの指導者にも感謝していますけど、現役をつづけられた最大の武器は、西村さんに教わった動き方。それがベースです。偶然じゃダメなんです。理屈でやるから、これだけゴールを決められたんやと思う」

プロで長く活躍するために何が必要かを、身を持って理解している。今後はユースを中心とした、アカデミーの子どもたちに”ストライカーコーチ”として指導していく。指導のイメージを尋ねると、こう返ってきた。

「まずはキックですね。左右両足で、正確に蹴ることを教えないといけない。僕はガンバで取り組んだおかげで、右のほうが若干コントロールがいいですけど、左も同じぐらい蹴れるんで。右足で打てる場面でも、あえて左足のアウトサイドでシュートしたりしますから。そうすると、GKはタイミングがずれるので取れない。GKのタイミングを外すために、蹴る足を変えるのはめっちゃ使いますね」

キックの次はヘディング、そしてGKとの駆け引きへと、指導は発展していく。

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「ヘディングも大事です。しっかり当てて、狙った場所に叩きつけるとか、どんなシュートだとGKは取りづらいかとかも教えたい。あとは、GKがどういう動きをするかを理解した上で、どんなフェイントをするか。それが頭に入っていれば、GKを見ずにシュートを打っても入るんです」

大黒はさらりと「GKとDFの動きには習性があって、こっちがこうしたら、相手はこうするというパターンがあるんです」と言ってのける。つまりセオリーの逆をとれば、ゴールを決められると言うのだ。大黒はその考えの正当性を、222ゴールという形で示してきた。

これまで、点を取るロジックについて話してきた大黒に「ゴールを決めるために、もっとも大事にしていたことはなんですか?」と聞くと、意外な答えが返ってきた。

「根性論で言うわけじゃないけど、点を取りたい気持ちはすごく大事。1点取ったら2点目、2点取ったら3点目を狙う。その気持ちがすべての始まり。気持ちがないと、人って動き出さないじゃないですか。常にゴールに飢えていること。その気持ちプラス、ボールを止めて、蹴る技術、動き方の技術、シュート技術、タイミング、そのへんですね」

大黒には現役時代、「チームの誰よりもシュート練習をしてきた」自負がある。理論と実践を繰り返してきたからこそ、ゴールという扉を開ける鍵を手に入れられたのだろう。

「シュート練習はめちゃめちゃ大事です。どのチームでも、僕がいちばんシュート練習していたんです。だからチームでいちばん点を取ることができたんだと思う。何個かあるんですよ、これをやっていればOKというシュート練習が。5、6種類のシュート練習をいろんなパターンでやると、試合中にどんなボールが来ても対応できる。それは、ガンバのアカデミーに来てもらえたら教えます(笑)」

ゴールに飢える若き才能が大黒と出会ったら、化学変化が起きそうである。ストライカーコーチ大黒の活躍に、期待は膨らむ。

(おわり)

大黒将志おおぐろ・まさし/1980年5月4日生まれ。大阪府出身。ガンバ大阪の育成組織で育ち、99年にトップチームに昇格。01年のコンサドーレ札幌時代を挟み、05年までG大阪でプレー。以降、グルノーブル(フランス)→トリノ(イタリア)→東京ヴェルディ→横浜FC→FC東京→横浜F・マリノス→杭州緑城(中国)→京都サンガF.C.→モンテディオ山形→栃木SCと、多数のクラブでストライカーとしてプレー。公式戦通算222ゴールを挙げた。日本代表では22試合出場5ゴール。2021年に現役引退を発表。2月から、G大阪の育成組織のコーチを務める。

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