引退してやりたいことは? ガンバ大阪“コーチ”就任、40歳大黒将志の答えは「モスバーガーをいっぱい食べたいけど…」#3

元日本代表FWの大黒将司(40歳)が、現役生活に別れを告げ、来季から古巣ガンバ大阪の下部組織のストライカーコーチに就任することになった。22年間で222ゴールを挙げてきた“流浪のストライカー”に聞いた「引退してやりたいことは?」そして「今日本で気になるストライカーは?」。

「フェラーリがなかなか売れなくて困っています(苦笑)」

現在所有しているフェラーリ(458 スペチアーレ)は3台目。日産のシルビアに始まり、これまでにBMW(528i、M3)、ポルシェ911、ランボルギーニ・ガヤルド、メルセデス・ベンツCクラスなど、サッカー選手のなかでも大の車好きと知られる大黒は様々な愛車を乗り継いできた。

「父親が車屋だったので、元々車は好きだったんです。若い頃はサッカーで頑張って稼ぎ、いい車に乗りたいという気持ちもありました。ただ、もう一通り乗らせてもらったので、最近はそんなに興味がなくなったというか。いま持っているフェラーリも売りたいのですが、なかなか売れなくて困ってます(苦笑)」

ガンバ大阪で育った大黒は、古巣で指導者としての第一歩を踏み出すにあたり、「少しでも力になれれば」と気持ちを新たにしている。ストライカー専任のコーチといえば、元オランダ代表FWのロビン・ファンペルシが昨年母国のフェイエノールトで就任した際に話題になったことはあったが、Jクラブではほとんど例がない。

対象はアカデミーだが、大黒は自身が身に付けてきたノウハウを惜しみなく注いでいくつもりだ。

「いまは車のことよりも、自分の後輩に当たる若い子たちに上手くなってもらい、1日でも長くプロで活躍する選手を育てたいという思いの方が強いですね。僕がプレーしてきたなかでも、僕より才能のある選手なんて本当にいっぱいいました。でも、その選手が僕より点を取ってきたかというと、取ってなかったりもする。そういうのを間近で見てきて、何が問題かといったら、やっぱり考え方とか判断、技術の部分だと思うんです。だから、指導することで変えられることはいっぱいあるかなって」

柴崎、工藤、岡崎……大黒のパサーはどんどん引き抜かれていった

選手時代は、同じFWの選手にアドバイスを求められることも、送ることもなかった。だが、自分がゴールするためにパサーにアドバイスを送り、そのパサーが成長し、ステップアップしていったことは1度や2度ではない。やはり、大黒は指導者向きかもしれない。

「現役時代は、同じポジションの選手に積極的に教えたりすることはないですからね。僕の決めたゴールのほとんどはパサーのおかげなので、パスを出してくれた選手には感謝しています。とくにヤットさん(遠藤保仁)や二川(孝広)は何も言わなくても自分の欲しいところにパスをくれましたし……でも、J2に行ったりするとそこまでのパスは来ないので、こっちがどのタイミングで、どういうパスが欲しいかということをパサーに教えていました。するとしっかり話を聞いた選手のアシストがどんどん増えて、引き抜かれて僕のところからいなくなっていくという悲しい現象が何度も起きました(苦笑)」

たとえば、09年に東京Vで一緒だった柴崎晃誠、14年に京都でチームメイトだった工藤浩平、18年に栃木SCでともにプレーした岡崎建哉……柴崎はその後、J1の川崎→広島とステップアップし、工藤も大黒のJ2得点王獲得に貢献したことが評価されJ1の広島に引き抜かれ、岡崎も栃木SCから山形へと活躍の場を移すことになった。

「岡崎なんてパスが上手かったから、『オレの言う通り、パスを出せば決めるから』と言っていたらホンマにそうなって(笑)。だからこれからはFWの選手にも教えていきたい。繰り返しになりますが、しっかり考えていればいつ、どこで、誰とやってもプレーできるはずですし、僕もそうだったから代表に(最終予選直前に)呼ばれても点が取れたと思うんです。北朝鮮戦での初ゴールはデビューから30分もかかってないですからね。

いちばん不幸なのは、能力があるのにそれを活かせずに戦力外になってサッカーを辞めていくことです。FWに限ってそういう選手が多い気がしますし、実際に目にするのは歯痒かった。だから、僕がコーチをやる以上は、そういう選手を1人でも減らしたいんです」

「モスバーガーをいっぱい食べたい(笑)」

長い現役生活を終えた選手が、それまで我慢していたことを引退と同時に解放する、そうした話はよく耳にするが、大黒にとって何か思い当たることはあるだろうか。

「モスバーガーですかね。フレッシュネスバーガーも大好きですが、僕のなかではモスがいちばん。それをいっぱい食べたい(笑)。ミスタードーナツとか、甘いものも好きなんですが、現役時代はやっぱり太ってしまうので、控えていましたから。ただ、食べ過ぎるとコーチ業に支障が出てしまうので、ほどほどにですね。選手やめたら好きなだけ食べられるなんて思ったこともありました。でもアカデミーのコーチですから口で言うだけじゃわかってもらえないでしょうし、一緒にトレーニングしてデモンストレーションをした方がいいじゃないですか。

自分もベストな状態で向き合ってこそ、選手もしっかり理解しようと思ってくれるでしょうし、僕がアカデミーの選手だったらそっちのがうれしいかなと。自分の体調も管理できないような人から誰も教わりたくないじゃないですか。コーチがぷよぷよした体形でもう動かれへんって滑って転んでしまったら、それこそ大変なことですから」

「鹿島は鈴木優磨をどうやって育成したんですかね?」

現役時代からセリエAを始め、サッカーを見る機会も多かったという大黒だが、現在の日本の選手で注目している選手はいるのだろうか。

「タイプ的に好きなのは鈴木優磨。ガッツがあって、点を取る感覚も優れている。そういう点ではJのユースっぽくない選手にも見えますが、鹿島はどうやって育成したんですかね。いまの自分にとってはすごく興味があります」

13年に中国の杭州緑城に移籍する前には、すでに指導者ライセンスをB級まで取得済みで、今後は現場で経験を積みながらS級まで取得し、将来的には監督として勝負する日を夢見ている。

「人の話を聞かないのは、いちばんあかんこと」。そんな機会損失はないと、現役時代から多くの人のアドバイスに耳を傾け、取捨選択を繰り返し、選手として成長を遂げてきた大黒の背景を知ると、どんな指導者になるかは楽しみで仕方ない。

「ガンバユースの頃から『何のために耳が二つあんねん? 人の話を聞くためや』って教わってきましたから。選手としてガンバでスタートし、指導者としてまたガンバで始められることには感謝しかないです。まずは1人でもトップで活躍できる選手を育てること。そして、いつか西野(朗)さんや岡田(武史)さんのような一流の監督になれるように勉強していきたいと思っています」

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